大輔とパックスはいつも食材を仕入れている邑楽食品にきていた、あれから分かったのだがパックスも店の裏口から異世界と日本を自由に行き来できるのだ。正体がバレないように念のためパックスにはサングラスとマスクを着けさせる。
「生きたままだと移動できるのかな、でも借金取りは無理だったし、ルカさんもどっからか行き来できるって言ってたな」この件について彼に相談したら何の問題はないとサラリと返された。
「万が一戻れなくなりゃ俺が責任もってこっちへ送り届けるからさ」そこまで言われると信じるしかないがあの自信はどこからくるのか、気にはなるが考えてどうにかなる訳でもないし、一旦忘れる事にした。
いつものように大量の食材を購入していく、パックスに運んでもらえば配送手数料の分安くなる。2人は荷物を抱え越後屋に帰ってきた。
「じゃ少し休んだら、始めようか」
「ウン、おいら、頑張る」
山奥で暮らし炭焼きと薪売りで生計をたてる家族がいる、だが彼らは夫婦でも親子でも兄弟姉妹でもない。頭の禿げ上がった老爺と女性にしては筋肉質な30くらいの元海賊と5年前、赤ん坊の時に山へ置き去りにされた幼子の3人が身寄りのない者同士粗末な家に一緒に住んでいた。老人が炭を焼き女が薪を割り幼子と売りに行く、家の留守を守るのは老人の役目だ。
「爺ちゃん、いってきます。お土産買ってくるね」老人は幼子を実の孫を見るように目を細める、この穢れのない笑顔を守れただけで5年前保護して本当によかったと思う。
「んじゃ、いってくるぜ爺さん。無理すんなよ」元海賊だけに口調の荒い女は老人に留守を任せ幼子と出かける準備をする、
「オウ、俺ァ家ん中で一眠りしてっからよ」炭焼きは1度始めると2晩は寝ずの仕事になる、さっきまで働いていた老人は無責任な一言を返すがホントは2人が戻るまで心配で寝るどころじゃない、そんな事決して口にはださないが。女の方もこの老人の性格は長い同居生活をする内に心得ている、いつの頃からかお互い黙ってても通じ合う関係になっていた。
いつものように商業ギルド本部に寄り挨拶する、街で商売するにはギルドの許可がいるし印象を良くしておけば仕事もし易い。この2人は各家庭や店や施設に薪と炭を訪問販売しているのだ、担いできた品物を売りアル硬貨を50枚ばかり手に入れる、山には野草があるし魚も捕れるから食うにはあまり困らない。稼いだ金で2人は山では手に入らないパンやオリゼや酒、日用品を購入していく。
「よっしゃ、チル。後はエチゴヤさんに炭を届ければ今日の仕事は終わりだぜ」チルと呼ばれた幼子の顔がパアッと明るくなる。本来薪と炭は併用するモノだがなぜかあの店は薪は不要だからといって断られた、でもその分炭をどこよりも大量に買ってくれるので不満はない、それにいつも美味いメシを安く食わせて貰える。
今日のエチゴヤは店を休んでいたが戸は開いていたので中へ入る、時間はそろそろ夕方になる。
「毎度~、炭のお届けっス」女が声をかけると主人でない図体のデカい男がいた、ギョっとする女。
「い、いらっしゃいませ」男は震えていた、ガタイのわりに小心者のようだ、チルは幼いからか怖いもの知らずで男に近づき握手しようとその大きな手をとる。店の奥から主人がでてきた。
「リッキーさんにチルちゃん、いつもご苦労様です。あれパックス、早速仲良くなったの?」
「あたしチルってゆーの、今日から友達」
「おいら、パックス。おいら友達できた嬉しい」リッキーは多少不安だったがここの主人が雇う者なら大丈夫だろうと思い直した、炭を納めると相場の代金を貰う、主人は受け取った炭を奥の部屋へしまいにいく。
「じゃあ、椅子にかけて待ってて下さい。夕食を用意しますから」チルは待ちきれないのか足をブラブラさせている、リッキーは彼女の手をおしぼりで優しく拭いている。こうして見ると本当の親子のようだ。
昼間、日本から帰ってきた後パックスは小麦粉を練っていた、大輔の指導のもと初めての仕込みに挑戦したのだ。大輔はそれを茹でながら油揚を煮て卵を2つフライパンに落とし目玉焼きを作る、この世界では生卵を食べる習慣がないので一工夫した。
「お待たせしました、きつね月見うどんです」スープに浸かった真っ白なパスタに焼いた卵と土色の肉っぽいのが乗っている、チルには取り分け用の小さな器がそえてある。ヒスピでできているという土色の塊は肉と比べても遜色ない美味さで甘くて仄かにしょっぱい、卵は下味もなく焼いただけだがスープの味が濃いめな分釣り合いがとれている。この日は定休日だったので大輔達も一緒に食事を摂っていた、こちらは目玉焼きではなく生卵を使っていたが。パックスは初めて自分で作ったうどんが料理されてとても嬉しそうだ、大輔はリッキーとチルが料理を平らげると再び厨房へ入り何やら作業を始めた。帰り際にリッキーが代金を払おうとしたら
「今日は定休日だしお客様用の料理じゃないので結構です」と断られ、なぜか小さな鍋を渡される。
「イアンさんの分です、少し煮ればすぐ食べられます、鍋は次いらっしゃる頃返して下さい」
リッキーは家に帰ってエチゴヤの主人に教わった通り鍋を火にかけ中身を器に移し老人に振る舞う。
「美味いな、俺の分までわざわざ作ってくれるとは、エチゴヤの旦那ってのは性分のいい人だな、今度は3人で街へ降りてあの店で外食するのもいいだろう」リッキーはイアンと一杯
「ああ。それにチルはともかくあたいや爺さんの名前までちゃんと覚えてんのはあの旦那ぐれぇだぜ」街へ行けば誰からも(炭屋さん)、(薪売りさん)と呼ばれているリッキーだがあそこの主人だけは決してそう呼ばない、それは本人が目の前にいなくても同じだ。
「まさか、惚れたか?」イアンはちょっとからかってみる。
「馬鹿言うな、爺ぃ!」酒のカップを思わずイアンめがけて投げつけてしまうリッキー、外れたが。その顔は真っ赤になっている。
「チキショー、酔いが回った、あたいもう寝るぞ!」既に寝息をたてているチルの隣で床につく。イアンは一頻り笑っていたが
「俺も長くはねぇし、責めてこの2人にはもっと楽な生活させてやりてえな」リッキーが寝付くと軽く溜め息をつきイアンは彼女達の幸せを祈りつつチルを挟んでリッキーの反対側の毛布に踞った。
ニューヒロイン登場?しかもコブ付きって親子じゃなかったですね(^_^ゞ
「コブ付きじゃダメなの?それじゃ私の立場はどうなるのよ!?」BYベポラ
大輔は冷蔵室や冷蔵庫の消臭の為に炭を購入しています
'しょっぱい'の異世界語も当初考えましたが調べたら元々塩(サウル)からきた言葉ではないのでボツにしました