異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

43 / 105
もっと感想が欲しい…


第39話吸血鬼とまぐろ丼

 衛兵隊の警ら部隊は8時間ごとに隊員が交代し、24時間街の治安を守っている、殆どの隊員は大体1ヶ月単位で早番と中番、遅番を繰り返すが例外もいる。吸血鬼にして衛兵隊員のテトラもその1人である。

 吸血鬼というと人間の血を吸い尽くして命を奪うか、相手も同じ吸血鬼に変えてしまうイメージがあるがこの世界ではそんな伝説も事例もない。単に獣肉や魚を生でしか食べる事ができず(逆に人間等は肉と魚を生で食べる習慣はない)同時に血も摂取する為そう呼ばれるだけである。但し陽の光が苦手なのは変わらない。その為彼女は警ら部隊でも専ら夜勤専門である。

 仕事を終えて真っ黒いフードつきのマントを被る、朝も早い今のうちなら陽の光を遮断すればなんとか我慢できる。この時代、仕事がなけりゃ生活もままならない。帰り際に同僚のコルルンに声をかけられる。

 「テ~ト~ラ~、今~夜は~非番~でしょ~?一緒~に呑み~に行~こう~」いつも無感情な態度で笑顔1つ見せない私は同僚達の間ではクールどころか冷徹なイメージを持たれている、本当は誰かと仲良くなるの昔から下手なだけなのよ、それでも彼女だけは普通に話しかけてくる。鬱陶しいけど嫌いにはなれない。

 「イヤよ、私が偏食なのは知っているでしょ?」

 「大~丈夫~エチゴヤのマスターな~ら~きっと~どうにか~して~く~れ~る~から~」その間延びした話し方どうにかならないの?伸びるのは首だけで沢山よ、まあお酒は好きだから付き合ってもいいけど。コルルンと待ち合わせの時間を決めて地下深く掘られた穴蔵に建てられた家に帰る。

 その晩2人は越後屋を訪れカウンター席につく、コルルンはいつものカプレーゼとビールを頼んだ。テトラはダメ元で生の魚を食べられるかウェートレスに聞いてみると彼女は下がり店の主が対応に出てきた、この人がコルルンのいうマスターらしい。

 「ああ、それならテュンのいいのがあるんでお出しできますよ」ヘッ?意外な返事につい変な声がでてしまった、何なの?この店。その場を慌てて誤魔化しおすすめのお酒も一緒に頼む。

 「お待たせしました、カプレーゼとビールにテュンのサシミとニホンシュです、マスター曰くショーユをつけて召し上がるのがお勧めだそうです、添えてある緑のハーブは付けすぎると鼻が痛くなるので注意なさって下さい」テトラの前にあるのは確かに生魚を切ったモノだがそれだけじゃない、丁寧にナイフが入った切り口は美しく信じられないくらい新鮮だ。なにより魚特有の生臭さが全くない、早速ショーユとかをつけて食べる。

 「美味ひいっ、普段食べてる魚と全然違う」試しにさっきのハーブをほんの少しのせてみる。

 「は、鼻がっ、ごほっごほごほ」

 「気~をつ~けて~って言われ~た~でしょ~」コルルンにお酒の入った小さいカップを手渡される。グッと呑みほすとその濃さにまたも驚く。

 「ふぅーっ、びっくりしたぁ」周りがキョトンとした顔で私をみつめる。

 「ふっふ~、今日は~テトラの~可愛~いとこ~ろ~いっぱ~いみ~ちゃった~」コルルンにからかわれた!

奥にいるウェートレスも笑いをこらえてる、は、は恥ずかしい(≧≦)マスターだけは何も見てないそぶりで厨房で仕事をしている。

 「なんか、お腹空いた!オリゼとかお腹にたまるもの食べたい」恥かきついでにヤケ食いしてやる!実際腹ペコだけど。まだ残っているサシミを使ってオリゼ料理ができないかマスターに相談する。

 

 「まぐろ丼です、味付けはしてあるのでそのままどうぞ」器に盛ったオリゼの上にショーユと例のハーブが絡んだサシミが2種類。さっきのより白っぽいサシミが一緒に乗ってて更に黒い紙が細切りにされて散りばめてある、これ何?

 「テュンの脂身で希少部位です、僕の故郷ではトロと呼ばれてます。黒い紙のようなものは海苔、海草を加工したものです」そのトロから口に入れる、今度はハーブで鼻が痛くなる事はなかった。それどころか爽やかな辛味で食欲が増してくる、あれ、まだ噛んでないのに消えた?まるで春の雪のように溶けてなくなったが舌に味が残っている。脂はすごく甘いけどしつこくはない、ノリとかいう海草も香りがよくてこの料理にすごく合う。オリゼで口直しして赤い方のサシミを食べてニホンシュを呑む、あとはそれをひたすら繰り返す。

 結局私たちは閉店するまで散々飲み食いした、食べ物屋でお金使ったのはお酒以外ホントに久しぶり。

 「あ~食べた×2、大満足」

 「テ~ト~ラ~」

 「な、何よ(//ε//)」

 「や~っぱり~テト~ラ~って可~愛い~な~」ちょっと今日のコイツ変!

 「グゥ(-.-)Zzz・・・・」寝ちゃったの?真夜中で人通りがないからってここ往来よ!仕方ない、今夜は私ん家に泊めるか。テトラは手のかかる同僚を担いでいく、エチゴヤを紹介してくれた事には感謝するけどね、マグロドン美味しかったな。今度家族も連れてこよう、父さんに母さん。兄貴に妹、5人か。給料日待ちね、夜空を見上げると満月も微笑んでくれているように見えた。

 

 




これで某大先生の作品に登場する子分トリオ揃い踏みです。(違う?)
 テュン→まぐろ
あと、お分かりでしょうがここにでてくるハーブとは山葵です。
 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。