異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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知り合いのアイディアをヒントに書きました。遂に40話です


第40話鬼一家とバームクーヘン

 新たにエドウィンの街の冒険者ギルド長に就任した(オウガ)のゴドノフは多忙な日々を過ごしていた、何せならず者ばかりが集う場所だ。喧嘩や揉め事は日常茶飯事だし、酷い場合はそれが決闘にまで発展する事もよくある。そして今日も…

 「オイ、()ろうってのか!」

 「上等だ、表出ろやっゴルゥァ!」2人の冒険者が大喧嘩をおっ始めやがった、ゴドノフは溜め息をつくと仲裁に向かう。冒険者ギルドは曲がりなりにも公共の施設である、万が一ここで人が死ねば大問題であり、何よりゴドノフも罪に問われるのだ。

 ゴドノフも若い頃は冒険者であり、2本の斧を振り回すその戦闘スタイルから〈双刀鬼のゴドノフ〉とパーティーメンバーや同業者からも恐れられ、多くの伝説を残している、子供が生まれたのを機に冒険者を辞めてギルドで働くようになり、早くはないが着実に出世してギルド長にまでなった。最近の若い連中でもこの街の生まれなら勿論、拠点にしている奴らはゴドノフの伝説を知っている。ここまで大きな騒ぎを起こすのは余所からきた流れ者ぐらいだ、彼等の間に入ると両者の胸ぐらを掴んで声を張り上げて叫ぶ。

 「手前ぇら!喧嘩ならよそで殺れ!さもなきゃ2人共この場でぶっ殺すぞ!」両者を張り倒し怒号を浴びせるゴドノフ、その剛腕と何より迫力ある強面にシュンとなり矛を収める冒険者達。怒りが収まらないといった様子で傍観していた他の冒険者達を地獄の番犬のような形相で睨みつける、これで当分は牽制になるだろう。

 ようやく1日の仕事を終えて家に帰る、その前にエチゴヤに寄り、昨日予約しておいた最近お気に入りのモノのお持ち帰りを受け取りにいく。

 自宅では妻のルイサと娘のフロワが待っていた、風呂に入りその日の汗を流して家族で夕食を食べる。その後はお楽しみがある、さっき買ってきたお菓子だ。箱を開けて3等分にして家族で仲良く食べる。今日張り倒された2人の冒険者がこの姿をみたらどう思うだろうか?

 「美味ぇな、バームクーヘンって。こんな柔らかくてフワフワな菓子は他じゃ食った事ねえよ」ゴドノフは顔に似合わず甘いモノ好きである、独り身の頃から仕事で大陸中を渡り歩きそこで名の売れた菓子屋を訪れては色々な菓子を食べてはみたがどれも今一つなモノばかりであった、齧れば石か木のように固かったりただ砂糖の甘さが強過ぎて舌が疲れたり逆に全然味がしなかったりと'ハズレ'も多かった。そこへいくとエチゴヤの菓子はどれも'アタリ'だ、マスターの故郷で[木の年輪]を意味するらしい名が付くこのお菓子を家族はそれぞれの形で楽しむ、ゴドノフは大きな塊を手掴みでかぶり付き、ルイサは年輪を模した線に沿って割りフォークで少しずつ食べる、フロワは敢えて線の垂直に手でちぎって親指と人差し指で摘まんで口に放り込む。

 「そういや、マスターが味付けにもバリエーションがあるって言っていたな」

 「えっホント?私今度はトレベ味がいい」これはフロワの意見。

 「私は、マッチャ味とかいうのが美味しいと思うわ」ルイサがいう、ゴドノフも黙ってない。

 「俺ならチョコレート味にしてもらうな、よし1度3つ共作ってもらい買ってきて食べ比べてみるか」

 「「賛成!」」家族一同仲良く食べながら笑い合う。こうしてゴドノフ一家の楽しい夜は更けていくのだった。

 




ゴドノフは間違って覚えてるので訂正します、バームクーヘンはバームが木、クーヘンがお菓子の事で〈木のお菓子〉という意味が正しいです、詳しくはwikiなどを参照して下さい
越後屋のバームクーヘンはフライパンで作られるハーフサイズのものです
この一家と15話及びスピンオフ「転生したら女獄卒になってしまった」に登場するカラバとは血縁関係などは特にありません

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