国立ラターナ学園エドウィン校は一般市民向けの学校である、この学校で教鞭を執るベテラン教師のジャップ先生は毎日やんちゃな生徒達に悩まされていた。
授業など碌に聞きはしない、それでいて教師のプライバシーは気になるのかやたら問い詰めてくる。入口の戸にバケツを挟んだり教壇に蛙を忍ばせるとかは日常茶飯事、この有り様を殆どの教師が放っておく始末。これは教育庁に取りあってもらうしかない。学長にも相談しなければ。
就業後その日の仕事を片付けて帰り仕度の最中、新米女性教師ルーシー先生と共に学長に呼ばれた、生徒達の件で相談があるという。
「学長から切り出して頂くとは話が早いですな、私もホトホト手を焼いておりまして」
「その件ですが、ジャップ先生。生徒達が授業に興味を示さないのは我々教師にも責任の一端があると思いましてな」
「ではどうしろとおっしゃるのです?」
「何も読み書き、計算、歴史といった座学ばかりが勉強とは限りません。実質的なモノを学ぶのも良いのではないかと」
「つまり生徒達に大人の仕事を体験させようとおっしゃるのですわね」若いだけにルーシー先生は理解が早い、その後3人は具体的な打ち合わせを始めるが学長とルーシーの熱の入れようにジャップは1人置き去りにされた気になった。
翌日ジャップとルーシーは生徒達を引率してエチゴヤにきた、彼らに飲食店の仕事を体験させるよう学長から指示されたのだ、ようするに社会科見学である。
「一同、店主さんの言う事をよく聞くように」
「今日の授業は必ず将来役にたつわ、みんなしっかり学びなさい」
いつになく緊張する大輔、社会科見学
「それじゃ男子班と女子班に分かれてもらいます、女子はルーシー先生と、パン屋のバズさん夫婦の元へ移動してもらいます。男子はジャップ先生と残って下さい」
半々に分かれた彼らが近くのパン屋へ行くと顔に大きな傷のある男と美しい女がエプロン姿で出迎える。2人は大輔から学んだパン作りを今度は学生達に教える、元は傭兵だったこの2人だが今は店をやりつつエチゴヤにもパンを卸している。窯の様子を見るとちょうど食パンが焼けていた。
「それじゃあら熱がとれたらパンを切ってサンドイッチを作ります、主人が揚げ物やオムレツなどを作ってるので各自好きなモノを挟んで下さいね」マデリーンが説明している間バズはサンドイッチの具を仕上げていく。
サンドイッチは今、この街ではメジャーな料理として広まりつつある。パンに惣菜を挟むだけの手軽さが人気でここにも買いに来る人が多い、またパンだけ買って自宅で作る人もいる。女子学生はキャーキャー言いながらサンドイッチ作りに挑戦する。
「パンが上手に切れなーい」
「ヤダ、中身がはみでちゃった」
「今作って貰っているのがそのまま皆さんのお昼ご飯になりますから頑張って下さいね」マデリーンの言葉を聞いた途端に真剣になる女子学生達、ルーシーも一緒に作っているが1人暮らしが長いせいか生徒達よりは幾らか上手にできている、それでもバズとマデリーンには遠く及ばない。
「やっぱりお2人とも手際がいいですね」感心するルーシーだが、
「私達も最初は下手でした、最近になってどうにか売り物にできるのがやっと作れるようになったんです」普段は穏やかでお人好しなエチゴヤのマスターだが料理の事になると一転して厳しくなり2人は相当な猛特訓を受けたという。
「ここは大人数で食事するには不向きですからエチゴヤに戻ってお昼にしましょう」サンドイッチをのせた皿を持ってエチゴヤへ移動した。
バズとマデリーン、結構パン屋の才能ありましたね、
(^o^)後編へ続きます。