見習いとして海賊に加わったガトーとジムだがすぐに一味が解散して、その後は日雇いの仕事でなんとか生計を立てていた。ある日エドウィンの建築現場で土木工事の仕事をしていると昔の知り合いを見かけた、しかも子連れだった。
「オイ、ガトー見ろ!あっあっ、アレ」
「何を慌ててんだ、ジム。ってオー」2人に気付いた相手も声をかけてきた。
「おメーらぁ、久し振りだな。元気だったか?」ここに居着く前は海賊団の船長だったリッキーはかつての手下達と再会した。現場監督が2人を怒鳴る声が聞こえたので夕方に改めて会う事に決め、リッキーは会う場所を指定して一度別れる。
「リッキー母ちゃん、今の誰?」この2人は実の親子じゃないしチルもそれは知っているがリッキーをこう呼んでいる。彼女にとってはリッキーは実の母同然だし、リッキーも我が子として育てている。さっきの2人もおそらくリッキーの子供と思ってるに違いない。
「昔のてし…友達だよ、仕事終わったらエチゴヤで会おうって約束したんだ。チルも行こうな」
「うん」
夕方になりガトーとジムはエチゴヤなる料理店にやってきた、これまで行った事のない店で詳しい道筋は知らなかったが現場には地元民で作業員の常連客も多いので迷わずたどりついた。
「おーい、こっちだ」2人を見つけたリッキーがテーブルから声をかける、ガトーとジムは向かい側の席についた。
「そんで船長…」切り出すガトーにリッキーはピシャリという。
「船長はよせ、もう一味は解散したんだぜ。それよかメシにしよう、お前ら字は読めるか?」メニューを手に聞いてみるが
「「無理ッス」」
「やっぱりな、絵で決めるか」チルがテーブルの脇を通りがかったウェートレスのラティファのシャツを掴んで言った。
「おねーちゃん、よんで」
「お、おいチル。迷惑だぞ」
「いえ、いいですよ」満面の笑顔で答えるラティファ
「こちらからヤキニク、テンプラ、コロッケの定食になります、料金はこんな風に…」ウェートレスの丁寧な説明を受けて全員同じモノを注文する事に決まった。
「コロッケ定食を4人分頼むよ、付け合わせはオリゼで。あともう1人分持ち帰りはできるか?」家で留守番しているイアンの分も注文する。
「はい、しばらくお待ち下さい」すぐに料理が運ばれてきた。
「これ、ウスターソースってやつだよな。俺達が建設してるのがその工場なんだが」ウェートレスからおすすめだと聞かされたテーブルに備え付けの調味料を手にしたジムの言葉にガトーが頷く。
「ああ、なんでこの店にあるんだろな」リッキーがその疑問を明かす。
「ここがそのウスターソース発祥の店なんだよ」驚く2人をよそにチルはコロッケにフォークを突き刺す。マスターがチルの分だけ食べやすいように一口大に作ってくれていた。
「ほら、口の周りベトベトだぞ」リッキーがソースまみれの顔を拭く。ジムとガトーも初体験の料理を夢中になって食べている。
「丸い方の中はチューバにゼアか、あと細かくした肉も入ってる、旨ぇなこれ」
「こっちの筒みたいなのはラクか?少し魚っぽい味もするぞ」
「な、なあガトーよ」
「なんだよジム」
「これ、どうやって衣の中に入れたんだろうな?」
「そりゃ、魔法とかじゃないか?」筒型のコロッケのなかは液体だ、普通に考えたら衣に包めるはずがない。だとしたら魔法しか方法はない、2人は途端に恐くなった。
「エチゴヤに魔法を使える人はいねぇよ、まあ店にはけったいな魔道具が沢山あるがな」リッキーからそう聞かされて2人は納得した。
食事を終えて4人は2人ずつになってそれぞれの家へと帰る。
「それじゃ、せ…リッキーさん。俺達はここで。エドウィンにはしばらくいるんでまた機会があれば。チルちゃんもお休み」
「オウ、じゃまたな」
「おあすみぃ」チルはもう眠そうだった。リッキーはお土産だけはしっかり握ったまま寝入る娘をおぶって帰る。
「ふぃ~久し振りに腹いっぱい食ったな」
「旨くて安い、しかも店内は清潔。地元の連中が通いつめるはずだぜ」
「しかし、あの
「そんだけ時が流れたって事さ、俺達も今の仕事が終わったら新しい生活を始めてみるか、自分達で商売をするのもいいかもしれん」
「俺やお前ぇにそんな才能ある訳ねぇだろ」
「違えねぇ!」高らかに大笑いする2人、まだ二十歳にも満たない彼ら。可能性は無限に広がっている、その未来はきっと輝いているだろう。
同時進行で3作書いてるのでペースが遅いですがご容赦をm(>_<)m