異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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いよいよあと1話で当初の目的達成です
\(^^)/


第49話兎と筑前煮

 ガーリンはリベリと数人のブラウニーを伴って一緒にある植物を探していた。

 「エチゴヤの店主さんはやっぱり凄いですね、先生」

 「そうさね、あんなモノまで料理にしてしまうんだから」2人が探しているのはグリューの木の新芽である、エチゴヤの店主曰く夜明けを向かえる日が登らない内にしかも土から頭をだしてないのが食べ頃との事だ。とは言っても探すのはブラウニー達に任せっきりにしている、小さい体の彼らなら探すのも簡単だ。見つけてもらえば2人はそれを掘るだけでいい。

 

 同じ日の昼過ぎ、船宿で渡し守として働く河童のトゥーンはお見合いをする事になった、今日が相手との初顔合わせの日。いつにない緊張感に包まれる。仲介の雇い主夫婦がその彼女を連れてきた。長い耳を持つ兎の獣人女性だ。

 「彼がうちで働いているトゥーン君です」主から紹介される。相手をみて鼓動が高鳴る、自分には勿体ないほどの美少女である。

 「こちらはムッサンの街で領主様のメイドをされているパーラさん、以前お泊まり頂いたお客様の娘さんよ、ご両親から私達に嫁の貰い手がないかと相談されていてね…」最近同族同士の結婚が相次ぐ中、パーラはどうしても兎獣人の男性を恋愛対象としてみる事ができない、ならば異種族でいいから彼氏くらい作れと両親に責っ付かれているのだった。今日も船宿の主夫婦の顔をたてる為に仕方なくきた、相手に申し訳ない気持ちになる。

 「おい母さん、そのくらいで」

 「あらご免なさい、じゃ後は若い人同士でね」席を離れる主夫婦。向こうも緊張しているのか互いに言葉がでてこない。するとパーラのお腹が鳴った。

 「ご、ご免なさい。こんな時に」

 「イヤその、アッシは全然構いません。そうだ、せっかくですから一緒にお食事に行きませんか?」

 「え、でも私好き嫌い多いし。特にお肉や魚が苦手で」兎獣人は植物性のモノしか食べられない、だからパーラは回りの人達に焼いた肉や魚のスープを薦められても断るしかない。そのせいか仕事や同僚との付き合いもうまくいかずいつも苦労しがちなのである、ところが意外な答えが返ってきた。

 「アッシもです、ちょうどいい店があるんです。夕食はそこでどうでしょう?」

 トゥーンとパーラがエチゴヤにくると相変わらずの賑わいだった、今日は連れがいるのでテーブル席へつく。ウェートレスにお薦めの料理を聞いてみる。

 「こちらもアッシと同じで肉や魚が苦手でして、何かいいのはありやすかね?」話を耳にしたガーリンがトゥーン達に

 「それなら私らが今朝、いいモノを収穫したよ、アンタ達にはうってつけじゃないかねぇ。酒にもよく合うよ」

 「じゃ、ガーリンさんのお薦めを、あといつものを2人分」トゥーンが注文すると早速オリゼとケンチンスープの器にピクルスを乗せた皿と温めた酒の容器と小さい取っ手のないカップが2つ並べられた。しばらくすると

 「お待たせしました、チクゼンニです」こちらはケパにカリュート、チューバとは違う芋の類いに見覚えない野菜の煮物だ。

 「まだ小さいグリューの木の新芽です、きちんと下処理すれば立派な食材になりますよ」マスターの説明を聞いてただ感心するばかりの2人だったがちょこまかと何かを食べているブラウニー達が気になる。

 「ブラウニーの皆さんは甘いモノがお好きみたいなのでさっきの新芽で作ったコンポートをお出しました」

 「それって確か果物の砂糖煮ですよね、あれでも作れるんですか?」リベリが珍しく前のめりになり大輔に問う、すぐにガーリンが嗜めたが。ブラウニー達は甘くてさっぱりした味がするお菓子に群がって食べている、マスターは同じ材料でも時に全然違う料理を作ってしまう。オリゼの粉でパンを焼いたり花の根っこを茶にしたりなんてのもあるし、普段なら食えそうにない草木までご馳走にしてしまう事もあるほどだ。パーラは勿論、常連であるトゥーンもこれには驚いた。

 帰り道、意を決してパーラにトゥーンは告げる。

 「これからもアッシと食事とかしてもらえますか?できれば、その…け、けけ」肝心なところで言葉につまる。しかしパーラは

 「私でよければ結婚を前提におつきあいして下さい」自分から告白した、この街ならエチゴヤで誰にも遠慮しないでご飯を食べられる。勿論あのお店の料理だけが理由じゃない。同族以外で自分と同じ嗜好の相手がいるのは素直に嬉しい、この人となら上手くやっていけそうな気がする、何より彼女はトゥーンに心引かれ始めていた。

 

 「ところで店主さんは身を固める気はないのかい?」大輔はガーリンに問われたが

 「今のところ、その気になれませんね。まあ僕も色々ありまして」言葉を濁して誤魔化した。異世界に骨を埋めるには戸籍やら税金やら地球で片付ける問題が山ほど残っている、大輔には身寄りもないので失踪届も出せない。

 (今度ルカさんに相談しよう)話を聞いていたロティスの切なげな表情に大輔は気付かなかった。

 

 




恋人同士の話を続けて投稿しましたが単なる偶然です
・グリューの木→竹、新芽は筍。

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