久し振りのスィーツ話です
ルカ一行が港を去ってから人魚達は明日の準備とリヴァイアサン騒動の後始末を始める。魔物の遺体をバラバラにして遠くの沖に捨て海上に浮かんだ難破船の破片は燃料や道具等にする為、人魚の木工職人や希望者が各自で持ち帰った。
そして翌日恒例の交換会が始まる。
「ロボ君、すまねぇな。荷物運び手伝ってもらって」
「いやぁ。これも仕事っスから」今回は仕入れが大量になるので自分達だけじゃ運びきれない為ディーンとフンダーは冒険者ギルドに力仕事を依頼した、それをロボが請け負ったのだ。
いつも通りピスキーと取り引きの前に商業ギルドで発行された木型(パズルのピースを巨大化したようなモノ)を合わせる、これは契約書の代わりであり不正防止の為物々交換する際に必ず行う決まりになっている。
「ディーンさん、フンダーさん、今回も色々持ってきたぜ」ピスキーはいつもの海産物の他、難破船から持ち出して仲間達で分けあった金貨もだす。
「ラム金貨まであるだか?!」
「どのくらい価値がある?」
「エチゴヤならこれ一枚で8~10人前食えるだよ」
「どっちが買い手で売り手だか分かんねぇな、ウン?」ふと水面から上がった顔にロボが気付いた、うら若い人魚の美少女だ。
「アリス、こちらは俺の取り引き相手だ。お前には同情するが決まりは守ってもらわんとみんなが仕事にならん」
「スミません、ピスキーさん。でも母が亡くなって私が働かないと」
「ピスキーよ、この娘さん困ってるようだで」
「俺らは事情知らんで。話だけでも聞かせちゃくんねぇか」アリスによると前回まで地上との取り引きは彼女の母がやっていたそうだが急な病で看護も空しくあの世に行ってしまい、治療代を得る為木型も他の人魚に売ってしまった、しかし残されたまだ幼い妹3人を養わなければならずこうして品物を持って岸に上がってきたという。
「ディーンさん、その木型ってのは新しく作れないんスか?」ロボが尋ねる。
「商業ギルドで承認されりゃいいだが新規で相手を探すのは難しいだな」
「んじゃ、俺が取り引き相手になります。それなら誰も文句はないっスよね?」
「マスター、どれか買って貰えないっスか?」あれからロボとアリスと商業ギルドへ行って木型を作り越後屋にきていた、商売している人は他に知らなかったのだ。
「そういわれましてもディーンさん達の手前もあるし、アレ?」大輔は持ち込まれた品物から何かを見つける。
「これを1つ1アスで買いましょう」
「ペクチの殻じゃないっスか、食えないと思いますが」
「調理器具にするんです、実際作った方がわかりやすいですね。長持ちしないので多めに仕入れましょう」
「あ、ありがとうございます」アリスは2人に頭を下げる。大輔は貝殻を洗うと早速調理に取かかり始めた、小麦粉と卵、砂糖を混ぜ合わせる。
「お待たせしました、マドレーヌです」
出てきたのは貝で型どった甘い香りのかしであった。
「お菓子ですね、海では貴重で滅多に食べられません」
「俺ァ普段甘いモンはそんなに食わねーんだけど、これは旨そうっス」
「海中にお持ち帰りできますか?」
「えっ、頂いていいんですか?」
「はい。試作品ですから。取り引きとは関係なしにお持ち下さい、無理なら防水できる容器でも用意しますよ」
「ありがとうございます、運搬用のマジックボックスがあるので大丈夫です」
アリスは家に帰ると妹達と一緒にマドレーヌを頬張った。
「甘くて美味しいよ、お姉ちゃん」
「地上にはこんな美味しいモノがイッパイあるんだね」
「また、貰える?」
「今度はちゃんとしないと取り引きしないとダメよ、ペクチの殻と交換してくれるそうだからみんなお手伝いしてね」
「「「ハーイ!」」」
その頃地上では正式に商業ギルドに所属して商人の資格を得たロボが自分の将来を考えていた。
「海のない土地に品物を持っていけばそれなりに売れるかも知れん、冒険者兼行商人ってのもいいかもな。それともいっそ転職しちまうか」アリスに惚れてしまった事をロボが自覚するのはもう少し先になるだろう。
マドレーヌは貝殻を型にしたのがはじまりとの説を聞きますが実際貝殻ってケーキ型にできるのでしょうか?どなたかご存じなら教えて下さい。
・ペクチ→ホタテ