異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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遂に従業員が入ってきました


第6話従業員とハムエッグランチ

 昨日の捕物騒動から一晩明けた定休日の朝、大輔は異世界側の御近所の金物屋のご亭主と女将さんに挨拶し、とあるお願いをする、快く引き受けてもらい、金物屋の娘二人と店に戻ってきた、娘と言っても長女は大輔より少し年上で次女もほぼ同じ年である、そこにゴッシュが例の少女を連れて店にやってきた。

 「では、私めはこれにて」ゴッシュが帰り大輔と3人の女性が残る、今日初めて会う人もいるので互いに自己紹介することにした。

 「僕はダイスケ、ここのマスターです」

 「金物屋の長女マティスよ、去年夫が病死して子供と実家に出戻ってきたの」

 「同じく次女のロティスです、引きこもってたら親に家を追い出すっていわれました」

 「ラティファです、よろしくお願いいたします」最後は元奴隷少女だ。明日からはこのメンバーで店を切り盛りする、このところ忙しいので従業員を雇うことにしたのだ。前の定休日にそれとなく相談したら金物屋の女将さんが出戻りの長女と成人しても働こうとしない穀潰しの次女(地球でいうニート)を雇って欲しいと頼まれたのだ。もう一人くらい必要かと考えてるとあの騒ぎが起きて、ゴッシュと話をして今日連れて来てもらった。

 まずは掃除から始めることに決めていた、今まで一人で店をやっていたため厨房とカウンター、床、テーブルが精一杯だった。3人に蛍光灯やガラス窓の拭きかた、掃除機とBGM用のラジカセの使い方を教える、いずれも見た事のない魔法のアイテム(と3人は思っていた)に驚きながらも彼女達は掃除の仕方を身に付けていく。その間大輔は裏口から日本に行き、店の制服にする為女性物の襟シャツと黒いジーンズを3点ずつ購入した、スカートにしても良いのだがパンツスタイルの方がより業務をこなすのが楽なはずである。掃除が終わる頃を見計らい昼の賄いを準備する。

 冷蔵庫には卵とハム、牛乳がある、ご飯を炊くのは時間がかかりそうなので制服のついでに買ってきた食パンと今日偶々商店街で行っていた福引きで当たったコーン缶を使うことにする、コーンスープができるとハムエッグを作っている間にサラダを盛りパンをトースターで焼く。

 昼食ができたのでテーブルにつくよう促す、3人も適当な席に座る。

 「今は有り合わせのものしかなくて、夕食はなんとかするから」とだされたのはこの辺りじゃそのままだすのが当たり前な肉の燻製をわざわざ丁寧に焼いて上には卵が乗せられたメイン、珍しい四角いパンの切り口を網焼きにしたものにサラダと甘い香りのスープ 、どう見ても有り合わせとは思えない豪華さ。ナイフをいれると卵の黄身が外へ溶け出してくるが生焼けではなくしっかり火が通っていて、白身や燻製に絡まり味のアクセントになる。サラダに使われたラトゥールやルシコン、プラッカも酸味のあるソースの為か青臭さが全くない、パンといえばまるいのが一般的だがこれはマスター曰く四角く焼いたのを切ってあるそうで異世界ではごく普通に売られてるらしい。ゼアのスープは優しい甘さとコクがあり滑らかな中にも時折粒が残っていて食感が面白い、この店が評判を呼ぶ理由がわかる。しかも働いてる限りタダときている。ラティファが突然泣き出した、慌てる一同。

 「ど、どうしたの、スープが熱すぎた?」

 「ちがうんです、私こんなに美味しいもの食べたの生まれて初めてなんです」聞けば昨日捕まった奴の奴隷になる前、物心ついた頃から碌な目にあってないそうだ。

 「大丈夫、これからは運が向いてくるわ」

 「私なんてずっとノホホンと生きてきて…反省です」

大輔は特に何も言わず、パンをもう一枚彼女の皿に乗せると、優しくこう告げた。

 「さ、午後からも仕事を覚えてもらうよ、まずはしっかり食べておかないと」ラティファは涙を拭い笑顔を浮かべ 

 「はい、頑張ります!」元気に返事をした。そして午後からは接客と会計、調理補助等を大輔から教わった。

 




 今回の異世界語
 ・ラトゥール→レタス
 ・ルシコン→トマト
 ・プラッカ→キャベツ
 ・ゼア→とうもろこし

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