異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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炭焼き一家久し振りの登場です


第57話失恋とハンバーグ

 ルブルック王国の衛兵隊剣士レナード・ドレクは仲間内でも食通で知られていた、同僚達もデートや接待等食で誰かをもてなす時は彼にアドバイスを求めるほどだ。また当人も休日を利用しては国内の美味を満喫していた。

 「既にこの国の料理は食べ尽くしたな、今度は外国に旨いモノを探しにいくか」そんなある日ラターナに政治的な秘密文書を届けるよう命じられた彼は無事に任務を遂行した後、山を越えルブルックへの帰途に就く。もう夜になっていた。

 行きにも同じ道を通ってきたが何せ暗いから視界が悪い、魔物にでも遭遇したら大変だ、レナードは先を急ごうとするが巨木の根に蹴躓き足を痛めた。助けを呼ぼうにもこんな山奥に住んでいる人など居るまい。

 

 朝になってレナードは簡素ではあるがキチンと屋根のある家で目を覚ます、体には毛布が掛けられていた。5才ほどの女の子が彼の顔を見下ろしている。

 「じいちゃん、リッキー母ちゃん、このおじちゃん起きたよ~」声を聞いてハゲ頭の老人と30がらみの女が姿を見せる、

 「あんたどこからきたんだ?見たところ衛兵隊員のようだが」イアンと名乗る老爺に問われる。

 「俺はレナード・ドレク、ルブルック王国の衛兵隊剣士だ、あなた方が助けてくれたのだな、礼を言う」イアンの隣にいたリッキーという女が笑いながらレナードの肩に手を乗せる。体格はややガッシリしてるが美人だし女らしい色気は充分にある。

 「気にすんな、それよか足を治療した方がいいぜ、ここじゃ無理だな。街で医者に診てもらわねえと、あたいらも街に用があるから連れてくよ」今日はイアンも一緒に山を降りて3人に体を支えてもらいながら医者のいる診療所に向かう。

 リッキーとチルはいつも通り薪と炭を売りにいく、その間にレナードはイアンに付き添われ治療を済ます。仕事を終えた2人に連れられて一軒の料理店にやってきた。時刻は昼より少し前だが結構混雑している。3人は常連でウェートレスとも顔馴染みらしく案内されたテーブルにつくと人心地つけていた。

 「なあ、ここは何が食えるんだ?」レナードの問いにイアンは薄い書物を手渡してこう言った。

 「何ってここから好きなモノを自分で選ぶのさ、アンタは衛兵さんだから字ぐらい読めんだろ?」メニューとかいうその書物を開くと沢山のしかも彼が見聞きした事もない料理の名が目白押しだ、その隣には神業としか思えないほど緻密に描かれた絵が載っていた。

 「故郷では食通で知られた俺だが、世間は広いんだな。俺の好きな肉料理も随分ある」幸い懐は無事なので支払いは全額負担すると自ら申し出た、助けてもらったのだからこのくらい当然だ。

 

 「お待たせしました、ハンバーグです」出てきたのは焼かれて褐色のソースをかけられた肉の塊である、真ん中にナイフを入れると中から脂が溶け出してきた。食べると更に口いっぱいに肉の旨さが広がる、これは一度細かくした肉を再びまとめて焼いてあるのか。こんな料理は初めてだ、少なくともルブルックにはなかった料理ではある、国中食べ歩いた彼がそう思うなら間違いない。

 「なるほど、手間をかけているがその分旨い料理を出す、という訳か」レナードは食べる勢いが止まらない、ふとチルに目を移すと付け合わせのパンにこのハンバーグとやらを挟んで口を大きく開けてかぶりついてる。

 「おじちゃん、こーすると美味ひいよ」早速真似をしてみる、その甘さと柔らかさに驚く。このパンを開発したのもここの主人で、街のパン屋に作り方を指導したらしい。

 「食べながら喋るんじゃない」リッキーがチルを嗜める、この3人は血の繋がりはないと山小屋を出る前に聞いていたがまるでホントの家族にみえる。また料金が安い、普通あれだけの料理なら一人前ラム単位の金を取られそうなモンだが4人分5アルで釣り銭がでた。

 

 「怪我が治り次第俺はルブルックに帰りたいと思うがその間どこか治療に専念できる安宿は知らないか?」店を出た後レナードはリッキーに聞いてみる。するとリッキーは

 「なんだよ、治るまで(うち)にいりゃいいじゃんか」ドキッ!

 「し、しかし妙齢の女性と一つ屋根の下というのは、その…」戸惑うレナードにイアンが口を挟む、

 「気になさるな。怪我人相手じゃ返り討ちにされるだけだし、こいつはあの店の旦那に恋しとるから」刹那リッキーの平手がイアンの禿げ頭を打つ。

 「この爺ぃ!余計な事抜かすんじゃねぇ!」2人のやり取りをみてチルは笑っている。

 「ようするに俺には脈がない、という訳か」溜め息を一つ吐くと苦笑しながらこの一家と山道を進み山小屋へと向かって行った。




イヤぁー、大輔モテてますね、25話のマージンが羨ましがりそう(笑)

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