異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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「スーパー~」「ひだ3」「PS」もドン亀状態です


第58話吸血鬼一家とカルパッチョ

 衛兵隊員の夜間警ら担当のテトラはいつになくウキウキしていた、今日は給料日である、今月は夜盗数組を捕まえたのでその褒美をと上官が取り計らってくれた。だから給料袋がいつもより重い、その夜の勤務を終えてホクホク気分で帰宅した。

 テトラの家には夜間運行馬車の馭者をしている父と芸術家の母と時計職人の兄貴とその手伝いをしている妹がいる。太陽が苦手な吸血鬼一家なので仕事と言えば在宅で勤まるか夜にできるモノしかない。自宅近くで父に出くわした。娘と同じタイミングで仕事が終ったようだ、不定期だがこういう事はたまにある。家に着くまで軽く会話をする。

 「そっちの仕事はどうだ?」年頃の娘に話しかけるのは難しい、慎重に選ぶが他に言葉が思い付かない。

 「順調よ、父さんはどう?」夜間運行の馬車の利用客は余りいないはず。それ程儲かる仕事ではないだろう。

 「ボチボチだな、お前よりは稼げないがな」後はお互い無言になり何となく気まずいまま家に入ると母が寝ずに待っていた。

 「何か軽く食べる?それともお酒?」マトモな収入がある2人を気遣ってくれているのだろう、父は一杯だけ呑むといい、テトラは母の申し出を断って告げる。

 「今夜は私も父さんも仕事が休みでしょ?皆で外で食事しよう」

 

 夕方になり一家は起き出してくる、まだ幼い妹は生まれて初めての外食と聞いて大喜びしている。

 「俺達がまともに外食できるのか?」兄は怪訝な顔をする、穀物や野菜はともかく肉や魚となると吸血鬼は火の通ったモノは食べられない。

 「テトラ、ホントにご馳走になっていいの?そのお金を結婚資金にすれば?」母が心配そうに言う、別に相手もいないのにそんな事言われても困る。

 「大丈夫。今から行くお店はちゃんと吸血鬼向きの料理を作ってくれるから(正確には違うのだがテトラはそう思っている)。さあ早く行こう、もうお店には予約入れてあるからさ」

 

 一家が店についた頃には月が空に浮かんでいた、中に入るとウェートレスがテーブルに案内してくれる。戸惑う家族に対し、すっかり常連のテトラはロティスと笑顔で挨拶を交わす。

 「こんばんは、ロティスさん」

 「いらっしゃいませ、テトラさん。5名様ですよね、ザシキへご案内します」テーブル席は4人がけなので床に腰を下ろしたまま食事ができるという個室に入る、テトラ本人以外は他の客からの目を気にしていたのでこれなら心置きなく一家団欒で食事を楽しめるというモノだ。

 「お待たせしました、テュンとハゲル、ボニトンのカルパッチョにプレーンスコーンです。それと今日のお酒は白ワインです」新鮮な魚が薄切りにされた彩りも美しい皿がテトラ一家の目の前に現れる。

 

 「う~ん、旨い魚だ。この酸味のあるソースがまた格別だな。ワインに合う」父は早くも呑み始めている。

 「この緑の固まりは何だろう?」

 「それは加減が難しいから。あっ」止める間もなくワサビを口に入れて悶絶する兄の姿に思わず大笑いする。

 「このスコーンとかいうパンもほんのり甘味があって美味しいね、魚と一緒だと食が進むよ」母が料理を絶賛する、それは自分でも作るのに挑戦しようと目論む時である。マスターはレシピを教えてくれるだろうか?

 「テトラ、お前も一杯呑りなさい。ああボトルが空だな」殆ど1人で空けてしまったのを申し訳なさそうにする父だったが

 「すいません、アツカンを下さい。後妹にアルムジュースを」私は個室からでて追加注文する。

 「熱燗お待たせしました」大柄なウェイターがトレイにアツカンのボトルと取っ手のない小さなカップを4つとまだお酒の呑めない妹のアルムジュースを乗せて持ってきてくれた。

 「ワインもいいけど魚にはこのお酒が合うの。ホラ、父さんも母さんも兄貴も呑んで×2」テトラ一家の楽しい宴は越後屋の閉店まで続いた。

 

 「お魚が半端に残ってますね」ロティスが大輔にさりげなく言うと

 「僕が食べるよ、ワサビと一緒に」

 「えっ?生のまま?」

 「向こうじゃ人間だって当たり前に生魚を食べるけど」異世界って奥深いとロティスは改めて感じていた。

 




テトラ初の親孝行です。ロティスはこちらの食習慣にビックリしてました。

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