異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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短い作品ばかりとはいえ、三作連続投稿。我ながら何やってんだ…


第59話ドリアードと牡蠣鍋

 人間と樹木が一体化したような姿をしている種族、ドリアード。彼らは昔から山や森などの木が生い茂る場所を好むが最近は都会暮らしに憧れて街に出る若い連中も多い、年配のドリアード達はこれも時代の流れだと半ば諦めている。とはいえ街で挫折して戻ってくるドリアードもまた大勢いる。

 さて、幼い為にまだ森から出るのを許されないドリアードの子供ピーポは時たま里帰りしたり、再び森暮らしの道を選んだ近所の兄さん姉さんから話を聞かされる度に都会の生活に憧れていた。そしてとうとう我慢できなくなり両親に相談する事にした。

 話し合った結果、保護者付きならいいだろうという事になるがピーポの両親は森を出た事がない、そこで数少ない知り合いの人間、ガーリンに我が子を街に連れていってくれるように頼んだ。ガーリンもこれを引き受けた、自分1人より同年代の子供が一緒にいた方がいいだろうと判断し弟子のリベリもお供する。

 

 エドウィンの街に訪れたピーポは見るモノ聞くモノ、何もかも初めての都会に大はしゃぎだ、リベリと一緒にあちこち見物している、そうこうしていたら夕食の時間になっていた。

 「散策はまた明日にして、食事にしようじゃないか。いいメシ屋があるから」ピーポは都会の食事にワクワクしながらガーリン達の後ろをついていくとイメージとは違う小さな店にやってきた。

 「いらっしゃいませ。ガーリンさんすみません、カウンターが埋まってるのでテーブルでよろしいですか?」他の客の対応にてんてこ舞いしながらもロティスが問う。

 「今日はそっちの方がありがたいよ、リベリ以外にも連れがいるしね」ピーポはその様子にますます気分が高揚した。

 「やっぱり都会は慌ただしいな、でも楽しい」

 

 「絵を見ながら好きなのを選びな」ピーポはメニューをみながら字はガーリンに読んでもらい自分が食べたいモノを決める事にした。

 「できれば海の食べ物がいい、森だと絶対食べられないもん」時折噂になる海にいるという魚とか貝とやらの美味しさ、森を離れないドリアードには一生縁がない食べ物、今回ピーポがどうしても果たしたい目的が海産物を食べる事だった。ガーリンはピーポからそれだけ聞くと店内を駆け回る女性を呼ぶ。

 「女給さん、このカキナベってのはどんな料理だい?」

 「夏避け貝と野菜を煮たモノになります、ポトフに近いですね」

 「そいつを3人分頼むよ、後私にはニホンシュを一杯だけおくれ」お酒好きの先生が一杯しか頼まないなんて珍しい、リべリが?な顔をしているのに気付くと

 「今日はよその子供さんを預かってる身だからね、酔ってなんていられないよ」いいたい事がバレた。思いの外早く料理がきた、持ってきたのは店主、小さな竃をテーブルにおいてその上に鍋その物を乗せる。

 「お待たせしました、牡蠣鍋です」

 「おや、今日は店主さんが来てくれたのかい?」

 「ええ、カセットコンロ、この小さな竃は扱いに慣れが必要ですから。熱い内に召し上がれるように今から火を付けますね」薪もない竃にいきなり火が付いた、料理を客の目の前で完成させるなんて兄さん姉さんからも聞いた事がない、ピーポの高揚は最高点に達した。

 「こんなもてなしは他の店じゃまずないよ、街にきて最初にこの店で食事できるアンタは幸運さ」ガーリンから聞いてピーポは森に帰ってみんなに自慢してやるつもりになっていた。

 「後は一煮立ちすれば完成です、取り分け用のリーポをお使い頂きます、スープは薄味なのでお好みで酢や醤油を足して下さい。火傷にはご注意を」店主はそれだけ伝えて厨房へ戻る、教わった通りに自分の器に中身をよそりショーユというくろいのをかけて食べ始める。

 「これが夏避け貝か、プニプニしててちょっぴり苦くて大人の味って感じ。スープもそのままで充分美味しい、ショーユとかにもスッゴく合う」

 「お野菜がトロトロ~、なのに歯応えはちゃんとある。不思議です」

 「こいつはイカン、酒が進んじまうよ」酒のグラスを持ってきた大男の従業員が、

 「おいらがお客さん送ってく、担いでいける、大丈夫」話し方は拙いが気の回る店員だ、店主の教育がいいのだろう。

 「それじゃお言葉に甘えようかね、同じのをもう2、3杯おくれ」

 2日後、街に滞在中はガーリンの家に泊まっていたピーポは森に帰っていった。その手にはエチゴヤの店主がお土産にとくれた夏避け貝のツクダニというのを持っている、日持ちはするが早めに食べるように言われたがその心配はないとピーポは思っている、きっと美味しいに違いないこの料理は森のみんなはこぞって食べるだろう。

 「奪い合いになる方が心配だな」その時は改めて買いに行こう、それよりドリアードみんなであのお店にいこうか。森の入り口が見える、両親がそこまで迎えに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 




しばらく投稿休みます…
・リーポ→お玉
食材以外の異世界語が初登場です

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