異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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第1話のお客がまたしても登場します。今度は意外な形です


第61話元冒険者達とサラスパ

 アラン、ルビィ、リャフカ、オィンクは冒険者をやめる事にした、以前より考えてはいたのだが資金力不足で今日まで踏ん切りがつかなかったのだ。

 切っ掛けは拠点のカカンザにある酒場『龍の水晶亭』で4人で呑んでいた時だった、そこの親爺が高齢の為に近々店を畳むと聞いたのだ。

 「親爺さん、店を閉めてからどうするんだい?」

 「息子んトコで世話になるさ、孫の相手と家政夫の代わりぐらいにはなるじゃろう。この店も大した値は付かんとは思うが売るつもりじゃよ」

 「それなら私達に買わせて、料金次第だけど幾らで売るの?」親爺が提示した値段は思った程大した金額じゃなかった、これなら彼らの蓄えから充分払える。4人はこの店を買い取る事にした。

 まずは店舗の修理だ、屋根やら床やらあちこち傷んでいたが金がないので自分達で修理を施す。

 

 ここで説明しておくと、この世界の1週間は5日であり火、土、金、水、木曜日の順に回っている。ついでに1年間が12ヶ月なのは地球(こっち)と同じだが一ヶ月は6週間でどの月もきっちり30日である為、1年は360日である。

 

 話は戻り2週間かけてようやく修理が終わった、他にも問題は山積みだったが彼らには秘策がある、その為にエドウィンの街へ出掛けていく。

 街に入ると早速エチゴヤを訪ねる。マスターに相談事があるのだ。

 「それで僕に料理を教えてほしいというんですね、いいですよ」拍子抜けする程アッサリ承諾してもらえたがテーブルにいた夫婦らしき2人は苦笑いしている。その理由を4人は翌日知る事になった。

 

 翌日から大輔は鬼教官と化した。

 「チューバの芽が取れてない!ケパは厚く切りすぎ!そこ!小麦粉はもっと手早く混ぜる!」4人は大輔を今まで出会ったどんな魔物よりも怖いと思った。

 「「「「ハ、ハイ!」」」」

 エチゴヤマスターに弟子入りした連中がいると噂を聞きつけた常連達がわざわざからかいに店を訪れた。

 「お前さんらが修業中の料理人か。まあ一ヶ月も特訓すりゃあ、そこそこできるだろうよ」ヴァルガスが冷やかす。

 「エチゴヤを模倣するなら制服とやらも用意するんでしょ?ウチで作らない?」べポラはしっかり商売しようとしている。

 

 こうして一ヶ月半の修行を重ねようやくその日の晩、大輔からお墨付きをもらえた4人はすっかり気力も何も抜けきっていた。

 「皆さん、お疲れ様でした。とはいえ大変なのはこれからになると思います、夕食を作りましたから食べて下さい」

 「せっかくだけど食欲がない」アランがテーブルに突っ伏したままいう。

 「料理人がこんな大変だったとは」リャフカは椅子にもたれて呟く。

 「マスターはスゴいニャ~」

 「よく毎日やってられるだ」他に誰もいないのをいい事に座敷に寝転がるルビィとオィンク。

 「今から諦めてどうするんです?ちゃんと食べないと持ちませんよ」そう言って大輔がテーブルに並べたのは湯気の立っていないパスタ料理だった、この人に限って冷めた料理などだすはずはない。思いきって尋ねると

 「これはサラスパ、冷やして食べるんです。暑い日や食欲がない時はこれがいいですよ」普通のパスタと同じくフォークで巻くと

 「なんでだ、冷たくなっているのに麺が固まってない!」

 「スープがほんのり甘酸っぱいニャー、疲れててもスルスルお腹に入るニャ」

 「上さ乗ってるルシコンやグルミス、焼いた卵と細かく解れた魚の油漬けが麺と相性いいだ」

 「まさか冷やして食べるパスタがあるなんて、それにしても美味しいわね」食べ終えた4人はアレだけ疲れていたのが嘘みたいに元気になり大輔にお礼を言ってカカンザの街に戻っていった。

 

 それからしばらくして越後屋に例の4人が店を開いたと手紙がきた。名前は先代店主が使っていたのを受け継いだらしい。こうして4人の元冒険者達の新たな人生がスタートしたのだった。

  

 

 




冷やし中華にしようとしましたが2回続けて中華は違う気がして変えました。まあ冷やし中華って日本独自のモノなんですけどね。

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