彫刻家のリージンが自分のアトリエで頭を抱えている、彼女は3ヶ月後王都にて行われる芸術祭で新作を発表する事が決まっているがその作品が上手く作れずにいた。何度作っても納得のいく形に仕上がらずに作っては破壊しまた作っては破壊を繰り返しとうとう精根尽きてへたり込んでしまった。
その彼女を労おうと1人の男が陣中見舞いに訪れた、実の兄で人気小説家のマージンである。
「どうだリージン、製作は順調か?」
「イマイチよ。碌なモノがつくれないわ、私才能ないのかしら?」
「そう悲観的になるなよ。気分転換をしよう、エドウィンまで付き合え」
一方の越後屋では従業員4名が大輔が下拵えした材料を手に四苦八苦していた。
「やっぱり難しいわね」
「マスターみたいに綺麗に作れない」
「また、失敗しました、熱っ!」
「おいら、細かい仕事、苦手」彼らの様子を見守りながらも作業を続けていた大輔は氷水の入ったボウルを差し出して
「今日はこの辺にしておこう、まだ練習だから失敗したのは気にしなくていいよ」
話は1週間(地球的には5日)前に遡る、大輔は常連客の1人であり街の商業ギルド長のヴァルガスからある頼み事をされた。
「もうすぐ夏祭りが行われるんだがその一環としてこの街では昔から子供が各商家を訪ねて菓子を貰って回る[メンセ・マーレ]って習慣があるんだ、元は神事だったんだがそれが今の形に変化してな。今年はこの店にも協力してほしいんだが、どうだねマスター?」
(季節は違うけどハロウィンに近いな)向こうでは例のヤミ金の奴らがアーケード街全体に圧力をかけていてハロウィンどころではなかったのだ。
「お引き受けします、何か作っておきましょう」
「ありがてえ、今日の仕事の話はこれで終わりだ。じゃ酒とフライドチキンを骨付きでな(笑)」
妹を連れて越後屋に訪れたマージンは以前食べて気に入ったラタトゥイユをリージンにも勧め、それを肴にブランデーをチビチビ呑る。
2人が食事中に店に子供が4、5人入ってきた、彼らは一斉にこう叫ぶ
「メンセ・マーレ!」この世界の古い言葉で
『何かくれないと酷い目に合わすぞ』という意味だ。このメンセ・マーレのお祭りはエドウィンだけではなくマージン、リージンの故郷でも昔からやっている。
「懐かしいなぁ」自分の子供の頃を思いだし目を細めるリージン、ところが次の瞬間その目を大きく見開いた。
「何あれ?!」店の主人が子供達に配っているのはリージンが見た事すらない精巧な細工物だ、口に入れようとした子供から思わず取り上げてしまった、この時はまさか食べ物だとは思わなかったのだ。
「ビエ~ン」子供を泣かせてしまい困惑するリージン、駆けつけた子供の母親に怒鳴り付けられる、店の主人が子供に新しい細工物を手渡すとあっという間に泣き止んだ。何と細工物は木でも石でもなく飴で作られているらしい。
リージンは大輔に頼んで作業をみせてもらった。
「削るんじゃないの?」
「溶かしたものが冷えて固まる段階で成型していきます」鍋に溶かした液体を2本の棒を使って器用に練り上げて子熊の姿にしていく、傍らには花や鳥を作ろうとして明らかに失敗したモノがチラホラしていた。
「それは私達が挑戦したやつです」眼鏡の店員が白状した。ふとリージンは美しい芸術を見た、赤い色に染まった何かを象徴する建物を模ったそれを自分の彫刻の参考にしたいから大輔の作った飴を売って欲しいと頼んだが断られた。
「僕は料理人であって芸術家ではありません、だから食べるつもりのない人にはお渡しできかねます」
「食べたらそれで終わりよ、あれだけの芸術品が簡単に消え失せてもいいの?」リージンは食い下がるが大輔の返事は変わらない。
「だったら飴細工は作らないし、そもそも料理人にもなっていません。お引き取り下さい」そういうと飴細工を躊躇いなく砕いて店員や常連客に振る舞った。2重の意味でガックリして宿場に向かう途中、兄のマージンは肩に手を乗せ励ました。
「そうショゲるなよ、マスターにだって彼なりのこだわりはあるさ。お前だって同じだろ?」兄の言葉を受けてしばし物思いにふけるリージン。
100年後のラターナ王国国立学院の歴史の教科書、そこにはこう記されている。
『世界で最初の飴細工職人、リージン。その原点と人生』
因みに大輔が作ったのは東京タワーです。