異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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久し振りに大輔のセリフが一言もありません、(主人公なのに…)
ジャップ先生再登場です


第66話教師と焼き鳥

 ~ルカ視点~

 「フハハ、地獄へ送ってやる!」そこまで読んで俺は本を閉じた。やっぱりパターンがテンプレすぎるよな、この世界の人気小説家マージンの新作が出たというので購入してみたが地球のモノに慣れてしまっている俺には面白みに欠ける。大体相手は善人なんだから殺せたとしても行くのは天国だろ、なんて小説に突っ込みを入れていると

 「なあルカ、呑みに行かんか」ドワーフだけに酒好きのゴノーのオッサンが話しかける、まだ陽が落ちるには早いが俺も嫌いではないので付き合う事にした。

 

 今、俺達一行は珍しくムッサンの街の宿屋にいる。たまたま盗賊に襲われていた男に出くわし助けたら宿屋の主人だった、お礼に是非泊まってほしいといわれて好意に甘える。俺とオッサン、トロワちゃんとディーネで2部屋使う。アルブスは宿屋の厩で休ませてある。

 

 主人から酒場の場所を聞いてしばし留守にすると伝えて街へくり出す。途中の裏通りで壮年の夫婦とガラの悪そうな男が10才くらいのケットシーの少女を挟んで激しく口論しているのを目撃した。

 「だから、金さえ出せばこのガキはくれてやるっつってんだよ!」

 「黙れ!子供にだって人権はある、それを貴様は物や道具のような言い種をしおって!」始めは無視しようかとしたけど男は仲間を呼び寄せて斧を振り上げ夫婦に切りかかってきた。しょうがねぇ、助けよう。

 「手前ぇらみたいなお人好しがバカを見ンダョ、地獄へ落ちな!」俺は不細工なニヤケ顔の男の前に立つと斧を拳で粉砕して他の連中を如意棒で凪ぎ払う。そもそも閻魔大王じゃあるまいし地獄へ行けだの天国行きだのお前ぇらに決める権限無ぇだろ、こっちの地獄には閻魔大王自体いないが。1人になった男は恐怖のあまり泣きながら失禁していた。

 

 話を聞くと少女はみなし子でさっきの男に拾われて奴隷奉公を強いられていたが、金遣いの荒い男は今夜から少女に売春までさせようとしたのを通りかがりのこの夫婦が見つけ咎められた事から口論になり衛兵隊を呼ばれる前に夫婦を片付けるつもりだったようだ。夫婦と少女をオッサンに任せて駐屯所へ出向きこのクズ共を連行してもらう。

 

 ~ジャップ視点~

 ムッサンでの仕事を終えて妻と宿屋に戻る途中、幼い少女を痛めつける男にでくわした。妻は少女を庇い私は男を怒鳴り付ける、相手は反省するどころか大金を要求してきた。これは歴とした犯罪だ、衛兵を呼ぼうとしたらいつの間にか男は仲間を集めて私達を囲っていた。万事休すか?その時1人の冒険者らしき獣人が立ちはだかり男共を棍棒で全員伸してしまった、彼はすぐに衛兵隊を連れて男共を引き渡し仲間のドワーフと夜の繁華街へ消えて行った。

 

 翌日私達夫婦は少女を連れて自分達の住むエドウィンに帰ってきた、実子は既に独立しているので身寄りのないこの娘を里子にしようと昨夜妻と話し合って決めた、少女にその事を伝えると大層喜んでくれた。

 役所で手続きをする際、彼女は自分の名前すらないと知って私達はマチルダと名付けた。申請が受理されてから食事をしようと3人でエチゴヤにやってくると昨日私達を助けてくれた冒険者が仲間と一杯呑っていた、彼らもここの常連で特にリーダー、昨日の彼は店主さんと旧知の仲らしい。隣のテーブルにかけて昨日の礼を述べ雑談を交わしていると彼らの注文した料理が運ばれてきた、見ると串焼きのようだ、匂いに誘われ同じモノを3人前頼む。

 

 「お待たせしました、ヤキトリ盛り合わせです。ごゆっくりどうぞ」褐色のソースを纏わせたのとサウルのみで味付けされた鶏肉が串に刺され大皿に形よく並べられている、ポルムを交互に刺したのも混ざっていた。この店の鶏肉は臭みが全くなく柔らかいのが特徴だ、串も鉄製ではなくグリューの木を加工したのを使っている、これなら火傷の心配もない。店主さんならではの気遣いであろう。

 

 私は串のままかぶりつく。少々品がないがこうして食べる方が断然旨い、甘さとしょっぱさを併せ持つソースと鶏肉本来の味が三位一体となる。添えられた酸味の強いキルトスの汁を絞って食べるサウル焼きもシンプルながら味わい深い、また普段は不味くて口になぞしない内蔵もここで調理されると忽ちご馳走に化ける。ポルムの甘味もまた食が進む。妻とマチルダも私の真似をして串ごと手掴みで食べていた、しばし3人で食事に夢中になる。

 旨い料理にすっかり満足して私は帰り道でマチルダの左手をとる、妻も彼女の右手を軽く握り3人手を繋いで家へ帰る。今日から新しい家族との生活が始まる、実の子達にも妹が出来たと言ってその内会わせるとしよう。きっと驚くであろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想欄でちょっとした焼き鳥談義があったのを思い出したので書きました、アレ私がきっかけ?

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