お気付きでしょうがこのご隠居は勿論アルバートです
「エチゴヤの料理が食べたい」サガンという街に住むデティスは地元の酒場で固いパンと腐りかけを胡椒で誤魔化した燻製肉を肴に酒を呑みながら呟いた。このアンノウスに里帰りした時、妹2人が働くエチゴヤでご馳走になったゾーニを始めとする料理が忘れられなかった。あまり呑まずに帰宅すると妻のメリーにこう提案した。
「メリー、当面の仕事を片付けたらミミを連れてエドウィンに行かないか?」この前はメリーの都合が悪く1人で帰ったから両親に初孫の成長した様子も見せてやろうという意図もある。
家族でエドウィンにきたデティスは最初に実家を訪ねた、今日は両親がいるだけである。妹2人とラティファは越後屋で働いていてマティスの子供達は保育所に預けられている、メリーと両親に挨拶してミミを引き合わせる。
「お爺ちゃん、お婆ちゃんこんにちは」
「ミミ、大きくなったねぇ」目尻を下げてミミを抱きしめる夫婦、やはり孫はどの子も可愛いらしい。
昼食をエチゴヤで摂ろうと提案するデティスに母は
「少し早めに行こうかね、そうでないとごった返すよ」今日はエドウィンに来る為朝一番でサガンをでてきたのでちょうどいい、両親がミミを手離さないので妻と2人で並んで歩くがなんせ10年振りくらいなのでちょっと照れ臭い。途中立ち眩みを起こしかけたメリーを慌てて支える、この日も昼になるとかなり気温が高くなり非常に暑い。
「いらっしゃいませ、あっお兄ちゃん」
「今日は女房と子供を連れてきた、せっかくだからこの店ならではのモノを食わせてやりたいんだが」
「殆どがそうだけど」ロティスはミミに視線を移すと鼻がピクピクと動いている、その先は常連のドワーフトリオが食べているモノに釘付けになっている。ロティスはミミの頭を軽くポンポンする。
「あれがいいのね、じゃ5人分でいいかしら?ランクはどうする?AからFまであるけど」
「何が言いたいんだ、ロティス?冒険者じゃあるまいし」?顔のデティスに代わり女将さんが指定する。
「ミミはFでなきゃ食べられないさ、アタシらはBにしとくよ」
「あの、私はちょっと…」メリーが言い淀むと大輔は冷蔵庫を探して1人分だけ違うモノを用意する。その意図に女将さんだけが気付いたようだ。
「お待たせしました、カツカレーです」越後屋ではスッカリ定番になったカレーライス、だがこちらは衣をまとわせ油で揚げた猪肉が乗せられている。
「辛っ、けど旨いな。揚げた猪肉と褐色のソースがオリゼに合うしガッツリしてるのに食欲が進む、ダイスケもやるな。そういやお袋、ランクとか言ってたが」
「勿論、辛さの事だよ。カプシンの粉の量の違いでAからEまであってFはカプシン抜きさ。でも今日の辛さはCくらいだね」マスターが味付けを間違えたのかとも思ったがそうではなかった、顔馴染みのご隠居によると
「揚げ物を添えると辛さが和らぐんじゃよ、頼めば粉を足せるぞい」さっきのドワーフトリオは妙なお代わりの注文をする。
「すいませーん、オリゼなしで。あとビールとウィスキーを追加で」まだ陽は高いというのにオリゼ抜きカツカレーを肴に呑む気満々のようだ。
「メリー、ホントに食わんのか?まさか病気じゃないよな?」
「ええ、大丈夫よ」穏やかな笑みを夫に向けるメリーだが女将さんは深く息を吐くと息子をシバく。
「ったくこのバカ息子が!鈍いにも程があるよ、他人のマスターはすぐ察したってにさ」
「お
「甘いスープなんて初めてだわ、果物の柔らかい酸っぱさと相性がよくて。これなら食べられそう」
「マスター、気付いてたんだろ?」女将さんの問いから逃げようとした大輔は
「アタシら家族とアンタの仲じゃないか、遠慮はいらないよ」観念して大輔は
「確信はなかったんですけどね。スカートのベルトを外されてるし、暑い日の立ち眩み、食欲不振、もしかしてと思ったモノですから」コホンと咳払いしてメリーに話すよう促す女将さん。
「デティス、私デキたみたい」
「えっ?」
「ミミちゃんがお姉ちゃんになるって事ですよ」大輔がフォローする。
「やった!2人目か。よくやったぞ、メリー!」さっきから話を聞いていたご隠居とドワーフトリオは拍手喝采で祝福する、ミミは
「私、お姉ちゃんになるんだぁ。弟かなぁ、妹かなぁ」幸せに包まれる一家を微笑ましく見つめる大輔を横目に女将さんはロティスに詰め寄り
「アンタも早く子供産みなよ、マスターに頼んでさ」
「真っ昼間からナニ言ってんのヨ!」女将さんの頭にトレイが炸裂した。
このぜんざいには小豆とフルーツだけで白玉とかは入っていません
タイトル「妊婦と冷やしぜんざい」にした方がよかったでしょうか?もしご希望あれば変えます