異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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何をだそうか鯛やケーキも候補にありましたがお祝いならばこれだと思います


第74話合格祝いとちらし寿司

 このところ常連になっているジャップが越後屋にきた、今日は客としてではなく児童教育ギルドの用事である。金物屋夫婦も呼ばれた、ラティファの事で話があるらしい。

 「今の時代最低限の教育を受けさせた方が将来に役立つと思われます、無理のない範囲で働きながら通学させては如何でしょう?」現代日本と違いこちらには義務教育制度はないがギルドとしては教育水準を上げる目的もあり十代の子供を持つ家や彼らの雇い主に声をかけている。

 「しかし、アタシらも勉強なんてした事ないけど何とか生きてるし。ねぇ」女将さんは大輔に救いを求めるが

 「分かりました、本人の意志を尊重した上でお返事をします。その時詳細をお聞かせ下さい」

 「店主さんはお話の分かるお人ですな」ジャップは大輔の手を取り固い握手を交わし去っていった。

 「マスター、いいのかい?店も人手が足りなくなるし学校に通うのだってタダじゃないんだろ?」そうは言われても育ての親でもある先代店主に大学まで出してもらった大輔としては将来のあるラティファには可能性を示してやりたいと思う、勿論クビにするつもりは微塵もないが出きるだけの事はしてあげたい。

  

 ここまで黙って話を聞いていたラティファは縮こまって大人達に尋ねる。

 「あの、いいんですか?」

 「いいか悪いかじゃなくて君がどうしたいかだよ」大輔がそういうと

 「行きたいです、学校に行かせて下さい!」

 「勿論!」

 

 翌日からラティファは編入試験の為にしばらく店を休む事になった、大輔は新しく店員を雇おうと考える。学校へ通うようになれば朝から働くのはムリだろう、その穴を埋める人材が必要になるので商業ギルドへ行き募集をかけるとその日の内に候補者がギルド職員に連れられてやってきた。

 「この世界にもアフリカンっぽいひとがいるんだなぁ。ウン、採用するか」呆気にとられる2人をみてキョトンとする。しかしこのニドという女性、よほど貧しい暮らしをしてきたと見えてあまり清潔とは言いがたい。早速お風呂を勧めて予備の制服に着替えさせる事にした。

 昼食を食べさせた後ニドに給料の事などを説明していると、

 「ただ今帰りましたぁ」試験を終えたラティファが店に顔を出した。下宿先に1度帰ってからきたそうだ、律儀な娘である。

 「お帰りラティファ、試験はどうだった?」

 「合格しました!来月から学校で勉強できます、皆さんのおかげです。ありがとうございます」全員に深々と頭を下げる、ニドはラティファに引き合わされた後大輔にこう言われる。

 「ニド、仕事を教えるのは明後日からでいいかな?明日は女将さん達も呼んでラティファのお祝いをするから一緒にお出でよ」

 

 「さて、どんなご馳走をだそうか」

 「おいらスシがいい」

 「君の食べたいモノを言われても…でもいい案だね」この前の定休日に日本へ戻り回転寿司を食べさせてからパックスは寿司にはまっている、体の大きさにしては少食、人並み程度で満足するので大輔の財布にも優しい。

 「にぎり寿司だと生魚は僕ら以外食べられないから違うのを作ろうか、パックス手伝って」

 「分かった」

 

 夜になり金物屋一家が店に集まる、みんなしっかりお腹を空かせてきた。

 「それじゃ、ラティファの試験合格を祝って」ラティファとパックス、子供達はジュース、他は全員がビールのグラスを手に

 「乾杯!」テーブルに目一杯並んだ料理を食べながらパーティーは進む、そこにパックスが大皿を運んできた、見た目は大きな卵焼きのようだがその中には違う料理がはいっているようだ。

 「合格祝いの定番、ちらし寿司です。僕が取り分けましょう、この高菜の葉は辛いので子供達の分は弾いておきますね」何の迷いもなく崩しては銘々の小皿に取り分けていく、卵焼きは上に被せてありその下からカリュートやポルムを混ぜたオリゼと色鮮やかな何かの肉と知らない葉野菜が何層にも重ねられていた。

 「せっかく綺麗に盛られているのに何だか勿体ないです」

 「気にする事ないよ、それより君が一番に食べないと誰も手を伸ばせないよ」そう言われてラティファは自分の小皿に移されたちらし寿司を食べる。

 「オリゼが甘酸っぱくて美味しい、それと混ぜてあるアブラゲ…でしたっけ?これ好きなんです」

 「これは肉、いや北魚の燻製だね。ここの海じゃ捕れないハズ、ああ、そういう事かい」

 「そういう事です」

 「卵焼きが紙みたく薄いのね、しかも崩さずに綺麗に焼き上げてる、私には真似できないわ」

 「辛っ!葉っぱが辛い」ユティスが騒ぎだした。

 「アレ?おかしいな、大人用と間違えたかな?」

 「父さんでしょ?勝手に自分の小皿から食べさせたのは!」

 「マスターの話を聞いてなかったのかい?この宿六が!」妻と長女に怒られ普段に輪をかけて大人しくなるご亭主、いつの間にか店内は笑いで包まれていた。

 

 月が変わりラティファは学校に通い授業が終わってからニドと入れ替わりに越後屋で働くのが基本シフトになった、そしてニドは越後屋でホールの仕事をこなしつつ昼過ぎから家賃代わりに金物屋を手伝う事になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ラティファは辞めてません(よかった、よかった)
・北魚→鮭
この大陸近海では捕れないので日本で購入した大輔、女将さんだけがきづいたようです
文中にはないですがニドも大輔が異世界人だと既に聞かされてます

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