異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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シリーズ過去最高の長文になりました( ̄▽ ̄;)
9月21日過去の投稿話を改稿したため前言撤回します。


第8話双子と合格祈願料理

 「はぁ~」ルーカスは深くため息をついた。今日だけで何回目かわからない、というのも下士官への昇格試験が間近に迫っているからだ、3年前15歳で王室付き武官の下っ端になり日々の雑務と訓練に励みながらようやくここまできたのだ、合格する自信はあるが同時にえもいわれぬ不安がある。

 パシッと背中を叩かれる、双子の妹(本人は姉と主張)ルーリィだ。彼女も文官の下っ端で同じ日に昇格試験を受ける、双子の所以か二人は幼い頃から現在まで行動が一緒になる、風邪をひくのも初恋もその終わりも、必ず3分とずれたことがない。今度の試験もいつもならそれぞれ別の日に行われるのに今回に限って試験日が一緒になってしまった、こいつとは色んな意味で生涯離れられないとルーカスは思う、相方とて考えてる事は同じだろう。

 「ルーカス、なにシケた面してんのよ、アンタ試験受かる自信ないわけ?」

 「ちっげーよ!お前こそ大丈夫なのかよ?つーかあの店行って最後の悪あがきするんだろ」自分もそのつもりだからわかる、それが妙に悔しい。

 「まぁ単なる噂だとは思うけどさ、どっちにしろご飯は食べるんだし少なくても損にはならないわよ」二人は越後屋に向かっていた、このところ越後屋で食事をすると奇跡が起こり悪人には天罰がそれ以外の人間には幸せが訪れるという噂が囁かれていた。二人もそれにすがる気でいたのだ。

 ウェートレスにテーブルへ案内され品書きを見るが特に試験に合格するメニューなんてあるはずもない、ルーカスは些か落胆したが性別とポジティブさだけは彼と正反対なルーリィは一番若い12、3歳くらいのウェートレスに声をかける。

 「すいませ~ん、試験に効果のある料理ってありませんか?」突如意味不明なオーダーをされたラティファはマスターへ問い合わす旨を二人に伝え頭を下げて厨房へ向かう、入れ替わりに若い男性店員がきた、彼がこの店のマスターらしい。再び同じ事を聞くと、

 「そうですね、実質的な効果を望めるものはないと思います、只僕の故郷では験担ぎといって試験等の際気持ちだけでも盛り上げようという料理がありまして、まぁ大抵の場合駄洒落ですがね、それでもよろしければつくれます、後はお好みの材料をおっしゃって下さい、可能な限りお答えします」

 「じゃあ俺はガッツリした肉料理が食べたい、付け合わせはパンがいいな」

 「私は野菜中心に卵焼きを、オリゼと一緒に」

 「はい、しばらくお待ちください」マスターは厨房へ戻る、程なくマスターとメガネをかけたウェートレスが料理を運んできた。

 「お待たせしました、トンカツ定食と、モロヘイヤオムレツに蓮根のきんぴら、ラパーを使ったケラス漬けのセットです」何とも目を丸くさせる料理が並んだ。

 「肉に衣を付けて揚げたのはカツすなわち勝利を連想させます、こちらのモロヘイヤという野菜は粘り気が特長で粘る、つまり諦めない、蓮根は始めから中に穴が開いてまして先を見通せるという意味が込められてます、ケラスは僕の故郷で合格の象徴とされる花でラパーと一緒に酢で漬けました、あ、カツは熱くなってるので気をつけて下さい」マスターはさっと説明するとごゆっくりと一言告げてテーブルを去る。

 ルーカスはカツを頬張る

 「熱っ、けどウメェ」サクサクした心地よい噛み答えと肉の旨味、脂身の甘さが三位一体となり押し寄せる、

添えてある黒いソースは甘さ、辛さ、酸味、塩加減全てが同居しているのに見事に調和していてつけて食べるとまた味わいが違う。プラッカとの相性も抜群である。

一方ラパー以外見た事ない野菜ばかり並んだプレートに戸惑うルーリィは恐る恐るレンコンとやらに手を伸ばす。しゃきしゃきの食感が新しい、オリゼにもよく合う、オムレツに入れられたモロヘイヤとかも喉越しがよくいつの間にか食べきっていた、ラパーとケラスの酢漬けは味も香りもいい。双子は笑顔で食事を終えた。

 後日、この双子は昇格試験にそれぞれ合格し、噂に尾ひれがついて越後屋は神社か教会のような扱いを受けるがそれは別の話。




この双子どっちが上か、実は2人の母も知りません。出産した際、助産師さんから聞かされなかったのでしょう。その方が高齢で天に召され永遠の謎となりました。


今回の異世界語
・ラパー→大根または、かぶ
・ケラス→桜の花

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