異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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お待たせしました、5人目の神様登場です
(まあまあ、誰も待ってないとかはナシで)


第75話インテリ男と鰹のたたき

 インテリ風な『彼』は天界から自らの『世界』を見下ろすと深くため息を吐いた。

 「どうやっても僕の『世界』は発展しませんね」僅かにずれたアンダーリムの眼鏡を直しながらその端正な顔を歪ませる、他の連中の『世界』は既に知的生命体がヒエラルキーのトップにたち各自の文化も生まれているのに彼の『世界』の生物達は未だ地に足を踏み入れてもいない。

 「アタシんとこでいうと3億年前くらいかしら、テロも戦争もなくていいじゃない?」同僚がさりげなく皮肉を言ってくる。実際生物も微生物が殆どの中、ようやく甲殻類の始祖になりうるのが誕生したばかりである。

 「ま、気を取り直しましょう。こんな時は美味しいお酒と料理を食べるに限ります」あの人の『世界』にいいお店がありましたね、そう呟くと下界の1つに降りていった。

 

 さて、こちらは越後屋。夕食時も過ぎて店には大輔とロティスの他、シャツの胸ポケットに[研修中]の札を付けたニドがいる。暇な時間に仕事を覚えさせる為にしばらくこの時間も店にいてもらおうと大輔が呼んだ、勿論給料も出す。今はヴァルガスとコルトン公爵が浅漬けや茹でたウィンナーといった簡単なツマミを肴に日本酒を、後は常連のテトラが鮪の刺し身で一杯呑っているだけである。

 「このニホンシュというのも酒精は濃いがアッサリした口当たりで中々にいい酒だな」

 「全くですな。現在は当ギルドで異世界の酒を試作してますが」

 「今はまだこの店でしか呑めないのか。しかしそちらが成功すればこのエドウィンも王都並の大都市に、イヤ欲はかくまい。そうやって失脚した政治家は有史以来大勢いる」

 

 「いらっしゃいませ」店の戸が開かれて1人の男性が入ってきた。新規のお客のようだ、女性的な顔立ちのいい男である。ロティスにカウンターへ案内されると彼はテトラをチラッと見て

 「僕も彼女と同じモノをお願いします」ニドは驚いて転びそうになりロティスが受けとめる。公爵とヴァルガスも身構え、テトラも訝しむが大輔だけは冷蔵庫を確認すると

 「すみません、テュンは品切れでして。生魚の料理自体はお出しできますが」

 「ではそちらを頂きます」

 「はい、しばらくお待ち下さい」早速調理を始める。

 「ゾーン大陸では魚を生で食べる風習はありません」

 「こっちだって同じよ、頼むのはあの吸血鬼のお客さんぐらいだわ」見えないところで囁き合うウェートレス2人。

 「彼も吸血鬼だろうか?そこの君、どうみるかね?」コルトンはテトラに話を振ると

 「同族なら私達は一目で分かるんですが彼はどうも違うようですね」という返事だった。

 

 「お待たせしました、ボニトンのたたき、カルパッチョ仕立てです」ジベリとポルム等数種類のハーブを乗せた鰹のたたきと日本酒が彼の目の前に現れた。

 「想像より生臭くないですね、生魚特有のコクと合わせられたハーブの辛味もこのお酒と相性がバツグンです。酸味と塩気のある味付けも中々、しかし今一つ足りない気がしますが…」

 「お嫌いでなければそちらの小鉢の中身も一緒に召し上がって下さい、アリュームチップスです」紙ほどの厚さまで薄切りにして油で揚げた根菜の類いをまずは1枚魚にのせて口へ運ぶ。

 (これだ!僕が待ち望んでいたのはこの味だったんです!)芳醇な香ばしさと根菜が持つ独特の甘味、カリッとした歯ごたえ、今度は小鉢の中身を全部魚の上に移し替えてまとめて頬張る。

 「魚のコク、ハーブの辛味、揚げた根菜の歯ごたえ、この全てが融合してこそ1つの料理が完成します。ああ僕は今、奇跡に包まれている!」

 「オイ(あん)ちゃん、どうしちまったんだい?」感動のあまり1人ミュージカル状態になっていた彼はヴァルガスに声をかけられようやく我に返った。

 (漫画みたいなお客さんだな…)心中で唖然としながら作り笑顔で誤魔化す大輔。

 

 「アンタ、にんにく食べたわね。息臭いわよ!」

 「神が精つけてどうすんだ?!うわっ臭ぇ!こっち来んなよ!」

 「その匂いがとれるまでわっちの前に現れんでおくんなんし!」天界に戻ってきた途端彼は他の神々から遠ざけられた。

 「そんなぁ、僕が何をしたっていうんですかあ?」半泣きで地にひれ伏す彼に

 「大丈夫でちゅか?これ飲むと(くちゃ)いのなくなるちょうでちゅよ」幼女神様だけが牛乳を持ってきて優しく頭を撫でてくれた。




こちらの吸血鬼は特ににんにくが苦手ではありませんが乙女なテトラは口臭が気になるので食べません。
※神々のフルコース
・前 菜→未定
・スープ→豚汁
・魚料理→鰹のたたき
・肉料理→未定
・ソルベ→未定
・メイン→未定
・サラダ→未定
・デザート→大学芋
・ドリンク →未定

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