異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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今回の神様は出で立ちから話し方まで侍です、とは言っても昔の日本の生まれではありません。探せばきっとそれっぽいトコがあります、続きは本編で。


第79話侍と牛タン

 その侍が寿命の尽きかけたあの時何かしらからの啓示を受けて神となり何もなかった世界を与えられてから幾歳月の時が流れたであろうか、生物達も始めの頃は小指の爪程の大きさもなかった虫くらいしかいなかったのが今や種類も数も増え続け中には意志と知性を持ち出し者か増えそれなりに活性化している。

 

 世界もそれなりに落ち着いてきたある日、腹をくちくした同僚2柱が話しかけてきた。聞けば彼が人間であった頃所属していた世界に行き旨い飯を心行くまで堪能したらしい。

 「アラ、里心がついちゃった?」

 「何を抜かすか、拙者はアズル大陸はジャマト帝国出身。生前ラターナとやらには訪れた事すらない、それに今の拙者は元の名も忘れた身。そんな事あるハズもなかろう」とは言ってみたものの結局元いた世界を訪ねる事にした。単に食事をしに行くだけで断じて里心がついた訳ではないと自らに言い訳する。

 

 2柱に聞いて降り立った場所は侍の出身大陸でも目的の店がある大陸でもなかった。どうやら索敵を誤ったらしい、たどり着くには海を渡り幾つか国境を越え関所を通らなければならない。面倒な手続きも侍はキチンと済ます、そもそも神であるから適当に誤魔化すのも簡単なのだがそこは己の矜持が許さないのだろう。生前の身分証は役に立たぬから下界用の新たなモノを提示して通行税を払い入国を繰り返し都や集落を幾つか隔てて夕刻になりようやくその店、エチゴヤがある街へついた。

 

 「いらっしゃいませ、お席はどうなさいますか?」女給に案内され椅子が横一列に並ぶカウンターとやらに腰を下ろす。回りを見渡すと客達は各自が好物をさも旨そうに食している、侍がメニューを見ていると実に旨そうな料理の絵が、イヤこれは確かこの世界には存在しない写真というモノ。だが今はそんな事どうでもいい、腹ペコの侍はこれを酒と一緒に注文しようと決めた。

 

 「お待たせしました、ギュータンシオヤキとウメシュです」焼いたハーブを付け合わせている以外はシンプルな焼肉料理である、

 「噛み締めるとコリコリした食感から口の中いっぱいに旨みが広がっていくようだ、味付けが単純なだけに肉自体を楽しめるな」ハーブがまた肉を引き立て役でありながらこれ単品でも充分にいける、ウメシュとかいう果実酒の甘酸っぱさも実に合う。それにこいつは酒もいいが

 「アレを所望する、えっとこの辺りでオリゼというのを一皿な。あとギュータンもお代わりを頂きたい」

 

 「ふぅ、ちと食い過ぎたようだの」久し振りの下界で気が高揚していたせいもあって、あの後もお代わりを重ね最後は普段の3倍くらいの食事を平らげてしまい酒もしこたま呑んだ。ややふらついた足取りで店を出る、そういえば同僚の誰かがあの店で会合を開くとか言っていたのを思い出す。久し振りに全員が揃うのも悪くないな、そう考えると侍は珍しく笑みを浮かべ天界へ帰っていった。

 

 閉店間際にヨセフは今抱いた疑問を大輔に投げ掛けた。

 「あのお客さんに出したのって何の肉っすか?今まで見た事ないっすけど」

 「牛の舌の肉ですよ、加工次第で美味しく食べられます」牛は農作業に使う家畜で少なくともこの国では食用にならない、意外すぎる話を聞いて固まるヨセフとは対照的にパックスは

 「これ、旨い、おいら、好きだ」残り物となった牛タンで遅めの晩ごはんを幸せそうに食べていた。

 




※神々のフルコース
・前 菜→和洋中の盛り合わせ3品
・スープ→豚汁
・魚料理→鰹のたたき
・肉料理→牛タンねぎ塩焼き
・ソルベ→未定
・メイン→未定
・デザート→大学芋
・ドリンク →未定

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