異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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前から書きたかった餃子の話がやっと思い付いて書けました


第80話仲良しトリオと餃子

 「「「腹減った…」」」以前はとある国の衛兵隊に所属していたがポカをやらかしクビになった騎士崩れのカミーユ、追い剥ぎに荷物を奪われ一文無しになった行商人のコリン、経営不振からサーカス団を追われたピエロのマシュー。よりによってそんな最悪なタイミングで幼馴染みの3人はエドウィンの街外れで再会した、普通なら会えて喜ばしいハズなのだが今は懐かしむ気にはなれない。

 「「「どうみてもこいつらも金持ってないな」」」古くからの付き合いだから一瞥すればそのくらい分かる、こいつらといたって腹の足しにはならないが1人でいても進展がある訳でもなし、連れだってエドウィンの街に入った。

 

 街には活気がありとても賑わっていたが文無しの3人は座り込み空きっ腹を抱えて眺めているだけである。

 「アンタ達、こんなトコでなにしてんだい?」この街で農家を営むカリーナに声をかけられた、事情を知るとカリーナは自分の農地に3人を連れていった。

 「ちょうど人手がもっとほしいと思ってたのさ、今男手が1人しかいなくてね」そこにはケパの畑が広がり荷車を通す道を挟んでスターキーの木が生い茂っている、3人はとにかく食う為にここで働かせてもらう事に決めた。

 何ヵ月かして随分百姓が板についてきた3人はカリーナに誘われてある料理店に連れられてきた。

 「いらっしゃいませ、カリーナさん。今日はお連れ様が多いですね」

 「ああ、ちょっと前から雇っててね」空いていたテーブルにつくとカリーナからメニューというのを渡される、4人の中ではカミーユだけが文字を学んでいたので読んで聞かせたが結局カリーナのお薦めに決めた。

 

 「お待たせしました、ヤキギョーザです」パッと見はドラゴンが丸まったような姿だが小麦を練った生地に何かを包んだ料理らしい。

 「そこのショーユってやつを小さい皿に注ぎな、それから赤カプシンと酢を混ぜてそいつを浸けるんだ、熱いから気を付けんだよ」鱗を剥がすようにフォークを入れると一切れがすんなり外れた、中を割って見るとまるで砂のように細かくされた肉と野菜が生地の中にギッシリ詰まっている。

 「熱っつ!でも旨え」慌てて口を押さえるマシュー。

 「皮がパリパリでいい食感だ、この香ばしさも食が進む」対称的に落ち着き払って食事をするカミーユ。

 「このサラサラしたソース、自分で混ぜるのって楽しいな」思わず口角が緩むコリン、リアクションも三者三様である。あっと言う間に大皿が空になる、カリーナはもとより3人も数ヵ月の重労働の日々ですっかり食欲が増していた。

 「ロティスちゃん、お代わり持ってきとくれ。あとビールも4つねー」

 

 腹の膨れた4人は店を出て帰宅する、カリーナは彼らに1つ提案する。

 「アンタら、ウチで一生働く気はないかい?もしそうしてくれるなら娘のリルルと夫婦になってほしいんだけど」

 「「「えっ?」」」一斉に驚く3人、確かにリルルは美人だし農家の仕事にも不満はない。むしろありがたい話だ、これが自分1人だけならすぐにでも飛び付いただろう。だが親友2人の事を思うと躊躇ってしまう、だいいち本人の気持ちを無視する訳にいかない。

 「リルルさんは何て?」

 「あの娘なら後を継いでくれるなら誰でもいいってさ、だから早い者勝ちだよ」顔を付き合わせ相談した結果

 「返事は少し待って下さい」代表してコリンが答える、他の2人も深く頷く。結婚と友情、どちらかを選べなかった。いつかは答えを出す時がくるにしても今はもう少しこの充実しながらも穏やかな時間をみんなで過ごしていたい、それが3人共通の思いだ。

 

 その頃リルルは母に雇われている狸獣人一家の子供達と風呂に入っていた、その時不意に頭に手を当てると今日まで何をしても外れなかった頭の輪っかがカランと音を立てて足下に落ちるのを見て子供達と一緒に大喜びしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リルルの輪っかの事、ずっと忘れてて書きながら思い出しました(笑)。

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