異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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越後屋が異世界のなんて国にあるか判明します。



第9話老人と牛鍋

 王城から1台の瀟洒な馬車がでる、中に乗っているのは一人の老翁だ。20年前長男に家督を譲り以降、家族の目を盗んでは街へ繰り出していたが今は専ら越後屋に通っている、この老人もまたあの店の料理のファンなのだ。

近くまで来ると馬車を帰して徒歩で店に向かう、この街では路地に馬車等を停めるのは禁止となっている、他の通行の邪魔になるからと越後屋のマスターが進言したらしい、実際彼の地元では路地を乗り物で塞ぐ愚か者のせいで死者がでる事がままあるそうだ、考えてみれば何時何処で病人がでたり捕らえた罪人が逃げ出さんとも限らん、そんな折路地が使えなければ大変な事になる、実に理にかなっておる。コルトン家の若造が奮闘した結果この街では違法となったが国全体としても倅に法の検討をさせねばと老翁は思った。

店の戸を開け、ウェートレスの案内も待たずいつも自分がつくカウンター席に座る。ここならマスターに直接注文できる、歳のせいかどうも若い女は苦手だ。

 「いらっしゃい!御隠居さん、ご注文はいつものでいいですか?」マスターの問いにウム、と短く返事をする。隣にはデカイなりのサイクロプスが陣取っていて、鶏料理とショーチューとかいう酒を食らいながら話し掛ける。

 「ヨォ、じいさん久し振りだな。しばらく見ないから死んじまったかと思ってたぜ(^o^)」

 「ナニを馬鹿な事を、わしゃ百以上はいきるわい( ̄^ ̄)」負けじと応戦する老人。ここでは身分を隠し一介の隠居爺いという事にしており、衣服も簡素な物を着ている。だから普段は絶対出来ないこんなふざけあいも越後屋での楽しみの1つだ。

 底が平らな小さな鍋(日本でいう一人用鍋)に牛脂を滑らせ肉を焼き、砂糖と割下を加え煮る。肉に火が通ればネギとキノコ、春菊に豆腐を足す。白滝は肉を固くするしこちらで受け入れられない可能性がある為、今は使わない。

 「お待たせしました、牛鍋とどぶろくです」カウンターへ料理がくる。たまらず肉から手をつける。「う~ん実に柔らかい、城の料理長でもここまで柔かく仕上げる事はできまい」鍋で煮られたポルムやフンガ、シュンギクという未知の野菜やスープを吸って色がついてるが元は真っ白なのであろうトーフとやらもいい、肉と共に味わえば衛兵隊の行進が足並みを揃えるような一体感に包まれる、スープは甘くもあり辛くもありこの店に来るまで体験したことのない味だ、越後屋の料理はどれも2つ以上の味を併せ持つ複雑な料理ばかりである、その中で老人が最も気に入ったのが牛鍋である。異世界で鍋といえば器具だけではなく中の料理も含まれるらしい、それに合わす酒はやはりどぶろくである。独特の酸味がありこってりした牛鍋にぴったりだ。やがて食べ終わり支払いを済ませ迎えの馬車がくるところへと急ぐ、内緒で抜け出した事がバレたらみんなに叱られる。妻や倅はともかく宰相に見つかりでもしたらやれ王たるものとはなんぞや、国のトップはどうたらと口うるさく説教されるハメになる、ワシは既に退位しとるというのに。あやつもトシなんだからいい加減隠居して後身に任せればいいのだ、その時は一緒に牛鍋で1杯やろうとひとりごちるラターナ王国先代国王アルバート ・メルクリウス・ラターナだった。




今回の異世界語
・ポルム→長ネギ
・フンガ→茸
春菊はネタが思い浮かばずそのまま

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