異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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神々のフルコース編最終回です、通常の連載はまだ続きます。


第90話最高神とスタッフドチキン

 この日の天界はいつにない緊張感に包まれていた、彼らが神様として君臨するそれぞれの世界の全てを創った最高神様が他の神々がおわす天界にお越しなさったのだ。彼らは大慌てで整列して最高神様をお出迎えする、下手に機嫌を損なえばその強い法力でこの物語の舞台である世界を担当していた先代の女神のように消滅させられかねない。

 「お主達、元気でやっておるか?」見た目は人の良さそうな好々爺だがその実禍々しいまでのオーラを放っている、そしてゆっくりではあるがしっかりした足取りでエルフ女神の前に立つと隣に居合わせた虎神に目を向ける。冷や汗が止まらない2柱にとりとめのない話をして傍を離れた、今度はチラ見されたインテリメガネ神と侍神が震え出すが最高神様の態度は変わらない。最後に幼女神とオカマ神に向き合い

 「お主達、互いの世界の次元を繋げたようじゃな」恐怖でビクッとなるが最高神から意外な話を振られる。

 「実はワシも前々からお主達の会合に参加したいと思っていてな、皆例の店に付き合わんかの?」

 

 その日の学校から帰り越後屋での仕事も終わったラティファは下宿している金物屋の部屋でこの世界の文字に訳された『赤毛のアン』を読み耽っていた、以前大輔と知り合いの冒険者が紙芝居を作った時に副産物となったモノを貰っていたのだ。しかし彼女の目が奪われたのはヒロイン、アンの成長や恋愛ではない。

 

 「マスター、これ作れますか?」翌日出勤したラティファから例の訳本を見せられた大輔は聞き返す。

 「うん?ラティファそれ食べたいの?」声には出さずコクッと頷くラティファ、そこにオカマ神が来店した。

 「予約をお願いしたいのだけど、ご主人はいらっしゃるかしら?」呼ばれた大輔が対応に向かう。

 「9名さまですね、承りました。ご来店お待ちいたします」

 「お願いね、それじゃ今日は失礼するわ」今回は予約を入れたので記憶をいじらず天界へ戻るオカマ神、帰ってから大輔以外が首を捻る。

 「どうしたの?」

 「さっきのお客さん、男性よね?」

 「それで?」

 「話し方とか仕草が女性っぽかったんですけど…」どうもこの世界で所謂LGBTというのはよく知られていないらしい、対して育ての親がその1人だった大輔には身近な存在である。その辺りに認識の違いがあるようだ、ここは話題をすげ替えてしまおうと適当に言葉を濁す。

 「世の中には色んな人がいるモンだよ。それよりラティファ、今話していた料理をせっかくだから一緒に作らないか?」

 「はい、やってみたいです、教えて下さい!」

 「えっと、私もいい?」

 「私もキッチンの仕事を覚えたいです」

 「おいらも」パックスだけでなくロティスとニドも珍しく参加を表明してきた。

 「コース料理の予約だし、マティスと2人じゃキツいかもな。みんなで作るか」こうして当日は大輔指導の元、越後屋総出で料理製作に取りかかる事になった。

 

 そして予約の入った日、最高神様を含めた神様オールスターズが来店してきた。座敷に席を取った一行に給仕していく従業員達、前菜から肉料理まではこれまで各々が注文したのと同じモノである。今回は鰹のタタキににんにくチップはつかなかったがインテリメガネも含め不満はない、そして店主の大輔がこの日のメインディッシュを運んできた。

 「お待たせしました、スタッフドチキンと付け合わせのパンです。取り分けはいかがなさいますか?」

 「ウム、そのままでよい。後はワシらでやるからの」最高神様は大輔を下がらせた。焼いた丸鶏の中には数種のハーブを効かせたタップリの挽き肉と細かく刻まれた野菜が彩りもよく詰まっている、それを手ずから切り分けると部下達の皿に盛り付ける。

 「最高神様?」

 「そんな事は我々がやります」

 「構わん、全員で下界に来るなぞ滅多にないんじゃ。今日くらい無礼講でよかろう、さあ早く食わんとせっかくの焼きたてが冷めてしまうぞ」この後のサラダとデザートも楽しんだ神々一行、さっきまで食べられるモノがなかった四腕女神もようやく手を付ける事ができた。使い終えた皿を片付けにきたロティスにこんな注文をする最高神様。

 「最後に酒を貰えぬか?確か爆弾酒(ボンバー)とかいうのがあったはずじゃ、8人分頼むぞい」ここでウェートレスを始めて結構経つロティスも聞いた事がないが店主に確認しますと伝えて座敷を後にする。

 

 程なくして再び大輔が座敷を訪れた。

 「ご注文の爆弾酒をお持ちしました、酒精(アルコール)が強いのでお気をつけてお飲み下さい」爆弾酒とはビールをジョッキに注ぎその中にウィスキーをグラスごと沈めたカクテルである、地球ではソコソコ知られているが大輔もこちらの酒場ではお目にかかった事はない。ナゼ注文されたか疑問に思う大輔だったがそこは割り切る事にした。

 「それでは締めの乾杯といこうか」9柱全員がジョッキを掲げる、因みに幼女神だけはアイスココアを小さなジョッキで頼んでいた。

 「ほな、わっちが音頭を取りもうすえ。乾杯!」花魁風女神に合わせ互いのグラスを打ち鳴らす、その後もかなり強い爆弾酒のお代わりを繰り返した8柱は会合という名のこの宴会がお開きになる頃にはぐでんぐでんに酔っぱらい天界に帰るのも難しくなっていた。ただ一柱酒を呑まなかった幼女神も小さいだけに眠気に勝てない、やっと店からでると天使が迎えに来ていた。

 「皆様、お迎えに参りました。さあ雲にお乗り下さいませ」9柱を乗せた雲は天界に昇っていった。

 

 「そうだ、今日のメインで出したヤツはラティファが食べたがってたよね」そういって大輔は念のために用意したもう一羽のスタッフドチキンをテーブルに出す。

 「本を読んで食べ物に目がいくなんて」

 「ラティファもまだまだ子供ね」マティス、ロティス姉妹が苦笑いしていると

 「あ、2人はいらないんだ。じゃ僕とラティファ、パックス、ニドで全部食べちゃおうか」

 「「マスター!それはないわよ‼」」

 「冗談だよ、4人じゃ食べきれないし」今日も忙しかった越後屋、従業員達の遅い夕食がようやく始まった。

 

 

 

 

 

 




※神々のフルコース
・前 菜→和洋中の盛り合わせ3品
・スープ→豚汁
・魚料理→鰹のタタキ
・肉料理→牛タンねぎ塩焼き
・ソルベ→苺シャーベット
・メイン→スタッフドチキン
・サラダ→健康ネバネバサラダ
・デザート→大学芋
・ドリンク →爆弾酒

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