異世界料理店越後屋   作:越後屋大輔

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今、私にはウスターソースに続いてさつまいもの呪いが…(笑)。


第91話再び冒険者とスイートポテト

 ラターナの隣国、ゴーライ公国に住む弓使いのアイシャと剣士のマリーと治癒魔術師のエレーナの3人はいずれもティーン女子ばかりの新人冒険者パーティーであるが冒険者ギルドもない田舎のアナカ村を拠点としているせいか、碌な仕事が回ってこない。

 そんな時、村長が仕事の依頼をしたいと3人が同居するアパートの一室を訪ねてきた。

 「ここから馬車で3、4日先のラターナ王国はエドウィンの街にある商業ギルドへ大量のバルタを輸送するので護衛をしてほしいんだが。引き受けんか?」

 「「「やります!」」」新人故に彼女達は何より経験がほしかった、それに報酬の割りに簡単な依頼なのも魅力的である。しかしギルドに無許可で仕事はできないのでまず一番近場のサガンの街の冒険者ギルドで手続きを済ませる、後はずっと街から街へ横断するだけである。

 

 旅は順調であった、街中なら魔物や盗賊などもそうそう現れないから護衛する側もされる側も気楽なモノだ。護衛対象である農夫達ともにこやかに談笑する、そして明日にはラターナに入れるという日の夜、適当な場所に馬車を停めて休む事になった。アイシャ達は交代で仮眠をとる、護衛の任を受けている以上誰かが起きていて見張りをしなければならない。

 

 月も真上に昇りこの時間帯の見張りを担当していたマリーがうつらうつらしかけているとボロボロの服をまとった薄汚い男達が十数人で近づいてきてあっという間に馬車を囲んでしまった、奴らは斧や棍棒を手に若い女だけの冒険者パーティーと農夫達を脅した。

 「馬車と積み荷を置いていけ」

 「さっさと降りろ!」心なしか焦っているようにも見えるがこの旅の一行にそこまで考える余裕はなかった、ふと強奪者の一人の肩に誰かの手が乗せられた。

 「アンタ達、こんな時間に脱獄なんて、いい根性しているじゃない?」そう女の声が聞こえた途端、強奪者の顔が一斉に青褪める。

 「ゲッ!看守長!」

 「何でバレたんだ?!」

 「とにかくこいつから殺っちまえ!」

 「いいわ。相手くらいしてあげるから、かかってらっしゃい!」

 =数分後=

 「ひぃー!」

 「た、頼む。命だけは…」

 「さあ、どうしようかしら?」強奪者達は抵抗も空しくたった一人の、今も指をポキポキ鳴らしている女にボコボコにされていた。何せその体に斧を当てれば刃こぼれするし棍棒が砕け散る、しまいには殆どの相手が殴られただけで気を失い、残った何人かも腰を抜かして動けなくなっている。そこにきっちりした詰襟姿の男性が数名駆け寄ってきた。

 「看守長、脱獄した連中はどうしましたか?」身長2メートルを越える(オウガ)が代表して女に話しかける、口調から彼女の部下らしい。

 「もう制圧したわ、とっとと刑場に連れ戻しといて。私はもう帰るわよ」

 「「「「お疲れ様でした!!」」」」助けられた農夫達は唖然としていたが冒険者3人はお礼を言おうと彼女を追いかけた。

 「「「お姉様ぁーっ‼」」」しかし女の姿は既に消えていた。

 

 3日後、エドウィンに着いた一行は届け先の商業ギルドに荷物を引き渡し、3人の少女達は冒険者ギルドで依頼遂行の印をもらい後はアナカ村に帰るだけとなった。

 

 「アラ、貴女達?」3日前に危ないところを助けてくれた女性に声をかけられた、あの時は暗がりで気付かなかったが同姓から見ても相当な美女である。

 「「「あ、お姉様!」」」笑顔で答える若い冒険者達。

 「私はビャクヤ・アカネ、あそこの近くにある犯罪者奴隷の刑場で看守長をしてるわ」

 「私達、ゴーライ公国の冒険者です、私がアイシャ」

 「マリーです」

 「エレーナです」互いに自己紹介をしてから白夜はあの夜の詳細を話して聞かせた。あの日は早番で一度帰宅したのだが夜になって奴隷達が脱獄したのに気づいて連中を制圧する為、急遽駆けつけてそこに彼女らが居合わせたのだと。

 「ホントにありがとうございました」頭を下げる3人。

 「無事だったならいいのよ、あれも仕事だしね。それよりお菓子でも食べに行かない?奢るわよ」

 

 白夜が3人を連れてきたのは越後屋であった。

 「いらっしゃいませ。あれ?くーちゃん」

 「エヘヘェ、大ちゃ~ん❤」さっきまで凛としていた白夜の様子が一転して恋する乙女に変わる。一瞬怪訝な顔になる3人だがそこは女子、すぐに恋愛トークで盛り上がる。

 

 「お待たせしました、スイートポテトとコーヒーです」この辺では見ない褐色の肌をしたウェートレスが白夜が注文した焼き菓子と黒いお茶を4つテーブルへ並べて奥に下がる。

 「ウフフ、やっぱり秋になったらこれを食べないとね」白夜は満面の笑みで、3人は恐る恐るこの焼き菓子にかぶりつく。

 「甘っ!これスッゴく美味しい」今まで味わった事がない上品な甘さが口いっぱいに広がっていく。

 「焼き菓子なのにパサつかなくてしっとり滑らかぁ」おそらく元は何かの果実であろう柔らかく仕上げられたモノの舌触りに顔が蕩けそうになる。

 「これ、何でできてるのかな?」

 「バルタよ」平然と答える白夜に驚いた3人だったが店主に確認すると間違いないらしい、更に後押ししたのは薬師のガーリンと弟子のリベリだ。

 「酒の原料だけじゃなくて菓子にしても美味しいね、家畜の餌にゃ勿体ないよ」

 「これ、持ち帰りにできますか?ブラウニーのみんなのお土産にしたいです」

 (((人間が食べてもいいんだ…)))しかしこのスイートポテトなる菓子は絶品であり色んな意味で今更食べにくいとは言えない3人だった。

 

 その後、この若い冒険者達はギルドを訪れてはラターナを経由するか目的地とする仕事を積極的に引き受けているそうだ。

 




唐変木な大輔ですが流石にロティスと白夜を対面させるのはマズイと思ったようです、とはいえ彼自身は何も悪くないんですけどね。
今回は締め方がイマイチでしたね、その内書き直すかもです

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