「お邪魔します....」
明人は玄関をくぐる時から挙動不審だった。憧れの先輩に家で食事に誘われたら当然なのかもしれない。
「ふふ、お邪魔されます」
そんな明人を見て少し笑いながら旭が明人を家に案内する。
「随分と大きな家ですね」
「そうでもないと思うけど。とにかく上がってちょうだい」
「あ、はい」
旭の買い物袋を持ったまま、明人はリビングに案内される。
「おぉー」
明人が案内されたリビングはどこかのホテルのような気品さが出ていた。
「(いや、これはいわゆる豪邸ってやつだな。うん)」
そんなことを思っている明人。
「結局最後まで袋持っていてもらってごめんなさい」
「あぁ、大丈夫ですよ。これくらい」
そう言って明人は買い物袋を旭に手渡す。それを受け取った旭は台所へと向かい料理の下準備に取り掛かった。
「すぐ、作るから明人は座って待っていて」
「俺も何か手伝いますよ」
「いいのよ。お客様はどっしりと構えていてちょうだい」
そう笑顔で言われた明人は渋々椅子に腰を下ろした。
「そういえば、先輩のお父さんは何をしてる人なんですか?」
椅子に座りながら台所で作業を続けている旭に問いかける。
「九鬼で働いているわ。詳しいことは私にも分からないわ」
「九鬼ですか....あそこは本当に広いですよね」
九鬼は世界に展開している大企業だ。様々な分野で民の生活を支えている。九鬼は民の幸せを第一に考えている理想の企業だ。明人自身も九鬼英雄からスカウトを受けている。
そんなことを思う明人の視界にテーブルの端に置いてあった一冊の目に留まった。明人はそれを手に取り表紙を眺める。題名は一文字で『恋』と書かれていた。そして、表紙の下には作者であろう名前貴羅光と書いてあった。
「(恋愛小説かな?先輩もこういうの読むんだな)」
そう思いながら少しページめくる明人。そして、ペラペラとページをめくっていく。すると、徐々に異変に気付いく明人。ページを読み進めて行くうちにだんだんと本の内容が官能的になっていく。
「(これは....官能小説だ!!)」
思わず額に手を当てる明人。明人自身、旭がこのような性格だということを忘れていたのだ。
「(これはそっとしていた方がいいな....)」
「あら、それ見つけたのね」
「!」
明人が本を元の場所に戻そうとした時に丁度振り返った旭と目が合う明人。
「あ、えっと先輩この本は....」
「?私の私物だけど?」
まるで、持っているのが当たり前な口調で言う旭。
「そうなんですね。意外です」
「あら、女の子だって、性に興味無いわけじょないのよ。むしろ、男の子より興味ある子だっているわ」
「確かに女性は性欲強いって良く聞きますね」
「そうよ、私は処女だけど、そういうのにかなり知識はあるわ。明人は童貞?」
そう聞かれて素直に答えると負けた気がするが素直に答える明人。
「まぁ、はい。そうですけど。それとあまり処女なんて言葉を口にしないで下さい先輩は年頃の淑女なんですから」
「ええ、ありがとう明人」
そう言って旭は明人に微笑みを向ける。そして、少しモジモジしながら旭は明人に聞く。
「明人はこういう本読んでいる女の子は嫌い?」
その表情はとても可愛く、ドキッとする明人。あくまでも平然を装って答える明人。
「いえ、大変結構だと思いますよ。女の子だって人間なんですから、それに生と性は切り離せませんから」
「そう、ご飯すぐに用意するわね」
それを聞いた旭はとても上機嫌に夕食の支度に取り掛かった。
「はい、楽しみに待ってます」
そう言って、戻そうとした本を結局気になって夕食が出来るまで読んでいた明人だった。
☆
「美味すぎた....」
「お粗末様でした」
夕食を食べ終わり、旭が入れてくれたお茶を飲みながら二人はゆっくりしていた。
「先輩の料理、美味しすぎました」
「明人、途中から黙って食べてたものね」
「あまりの美味しさに言葉をなくしました。何かお礼をしたいんですけど」
そう言われた旭は少し考えて躊躇いながら明人に言う。
「じゃあ、携帯の使い方を教えてもらえるかしら?」
「携帯ですか?」
「そうなの。どうもメカは苦手で」
「メカ....」
旭の口からメカと言う言葉が出て来てたまらずそれを復唱する明人。その言葉には少し笑いも混じっていた。
「今馬鹿にしなかった?」
そんな明人に感づいたのか旭は明人をジト目で見つめる。
「いえいえ、可愛らしい所があるんだなと思いまして」
「可愛い....。そう、それならいいわ」
明人の可愛らしいと言う言葉を聞いて少し嬉しそうな旭。そんな旭の様子を見ながら旭の隣に席を移す明人。
「で、何を教えればいいんですか?」
「メールとか連絡先の確認とか諸々と分からないからお願いね明人」
「はい。承りました」
そう言って、明人は旭に携帯の使い方をレクチャーし始めた。
☆
「で、ここを押すとメールが送信されます」
明人が旭に携帯の使い方をレクチャーし始めてからかれこれ数十分が経過し、明人は旭にメールの仕方を懇切丁寧に教えていた。最初は不慣れだった旭も今ではぎこちないが少しづつ使える様になってきていた。
「ここを....押す。あ、できたわ」
画面に表情された『送信しました』の文字を見て嬉しそうに明人の方を見る旭。
「明人は魔法使いだったのね」
「これくらいで大袈裟ですよ。先輩も慣れれば使いこなせます」
「そうなりたいものね。あ、もうこんな時間」
「あ、本当だ」
明人と旭が時計を見ると時刻は八時を回っていた。
「だめね。明人といると楽しくて時間を忘れちゃうわ」
「俺もですよ」
旭は嬉しそうに明人に言う。明人もそれに答えるように微笑む。
「じゃあ、俺はそろそろ帰ります」
「玄関まで送るわ」
二人で玄関まで行き、明人が靴を履いたところで旭が口を開いた。
「ねぇ、明人」
いつもは堂々話す旭だが、その時の声は少し不安に包まれたものだった。
「もし、もしよ。私が最上旭が違う人物だったらあなたは私から離れてしまう?」
その質問は普通の人間なら、意味が分からない質問なはずだが明人は自然とその質問の意味が理解できた。最上旭は木曾義仲のクローンなのだ。それが明人にバレた時の事を旭は気にしていた。
旭は明人が口を開く前にこの言葉を訂正した。
「ごめんなさい。いきなりこんな質問して、じゃあ、気お付けて帰ってね」
そう言って、明人の方に背を向けた旭に明人は優しく声を掛けた。
「変わりませんよ」
「え?」
明人のその言葉を聞いて振り返った旭。
「先輩が例え誰であっても、それで俺が離れるなんてありえません。先輩は俺の憧れですから」
そう言って、明人は旭に優しく微笑んだ。
「そう....ありがとう明人」
「先輩?」
すると、旭は明人の胸に飛び込んだ。
「せ、先輩!?」
あまりの突然の出来事に処理が追いつかない明人だが、そんなことはお構い無しに旭は話し始める。
「あなたの事がもっと知りたくなったわ。これからもよろしくね明人。これはお礼よ」
そう言って、旭は明人の頬に軽くキスをした。そして、明人から離れ優しく微笑むながら
「バイバイ」
と手を振った。
帰り道、ようやく頭の処理が追い付いた明人はさっきの事を思い出して家へと帰って行った。
戦闘シーンを書きながらワクワクして、恋愛シーンを書きながらニヤニヤしている....
変態かよ....俺(´△`)↓