この日の川神院はいつもと違い殺伐とした雰囲気に包まれていた。百人にのぼる修行僧達がたった一人の少年の前に立ちはだかっていた。その双方の中間に入る一人の老人がいた。名は川神鉄心。前世には最強の武神と呼ばれていた人物だ。今はその称号は孫の川神百代に与え本人は学園長をして、隠居生活をしている。そして、鉄心は長い髭を撫でながら双方に説明する。
「組み手のルールを説明するぞ。とは言っても大きなルールは無いが明人よ、あまり派手な技を使わんでくれると助かる。修復が大変じゃからの」
そう腰に手を当てて、修行僧の前に立つ明人に伝える鉄心。明人はこの人数を前にしてもまったく動かずにいた。それどころか余裕すらその表情からは感じ取れた。それの表情を見た一人の修行僧が明人に話しかける。
「明人よ、我らが昔と同じと思わないことだ。我らは成長しているのだ!」
その言葉を聞き、後ろにいた修行僧達が一斉に声を「そうだ!」「行くぞ!」などの言葉を上げる。その言葉に気圧されること無く、明人は余裕そうな表情を崩さずにあっけらかんと返す。
「別に昔と同じとは思ってませんよ。ただ....」
そう言って、明人は少し俯むく。そして、再び明人が顔を上げた時には明人の目は怪しく赤に輝く写輪眼になっていた。
「どれだけ、あなた達が強くなろうと俺に勝てると思うのは....大きな自惚れだと思いませんか?」
そう言った、明人の口は少し笑っていた。その言葉を聞いた修行僧達は見事に明人の挑発を受け、何人かは怒りを表していた。
「では、そろそろ始めるぞ。双方準備は良いな」
その鉄心の呼び掛けに
「いつでも」
明人から
「押忍!」
修行僧が応える。
それを確認し、鉄心は大きく息を吸いこみ。
「それでは、はじめぇぇぇ!!!」
その掛け声と同時に修行僧達は明人目掛けて突っ込んで行った。
「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」
何人にもの雄叫びが川神院内に響き渡る。その声はその空間そのものを震えていると錯覚させる程だった。
明人は向かって来る修行僧を一人一人を的確に行動不能にしていく。
一人目は腹に蹴りを入れ、そのまま、顎を蹴り付け吹き飛ばし、二人目は腕を掴み、そのまま何回か体ごと回し、修行僧が密集しているところに投げつけ一網打尽にしていく。
この現状を一言で表すなら『無双』と言う言葉が一番近い。
それからも明人の猛攻は止まることなく人数はたったの数十秒で20人はやれていた。
「おらぁ!」
一人の修行僧が明人の後ろから殴りかかる。明人は少しチラッと後ろを見て、その腕を掴み背負い投げの容量で地面に叩きつける。
「ぐぁ!」
そして、叩きつけた修行僧の顔面を容赦なく、踏みつける。修行僧は数秒ピクピクと痙攣し、やがて気絶した。明人は掴んでいた修行僧の手を離す。すると、その手はまるでゼンマイが切れた人形の様に力なく地面に落ちていく。その様子を見た、修行僧達はたじろいでいた。
その様子を見た明人は少し口角を上げ
「修業の成果とはこの程度のものですか?ほら、どんどん来てください」
と言って、明人はかかってこいと言わんばかりに手招きをする。それを見た修行僧は明人に向かって走って行くが、その努力も虚しく修行僧達の方向へ吹き飛ばされ、転がっていく。
「さて、そろそろ本格的に数を減らすか」
と言って明人は印を結び始める。それを見た修行僧達は
「来るぞ!隊列を組め!」
横に並び明人の技に対抗する準備をする。それを前に明人は印を結び終わり、大きく息を吸いこみ
「
明人が息を吐き出せば、修行僧達に火の壁が向かって行く。通常の人間などはこれに対処できず、火だるまになるが修行僧達は己の拳を地面に突き立てる。
「「「「「
すると、地面の板が起き上がり、火の壁を修行僧に向かうのを見事防いだ。火の壁を止めた板は熱でボロボロになり、地面へと倒れる。その後ろにいた修行僧は明人に向かい
「我々もその技には対策済みだ」
この技を一度、百代との戦いで使用しているので対策が練られていてもなんら不思議ではない。明人は対策されていたことが少し嬉しくなる。
「いやぁ、さすがは川神院の名を背負うだけはありますね。じゃあ、今度は少し....本気でいきますよ」
この言葉を口にした明人の目は薄紫に輝いていた。そして、この場にいた数人はその言葉に自然と込められている殺気に気付いてた。明人が印を結び始めると修行僧達もすぐに体制を整え始める。それを少し離れた所で鉄心と川神院の師範代のルー・イーは見ていた。
「やはり、明人は戦っている最中にスイッチが入ると人が変わるのぉ」
髭を撫でながら鉄心はルーに言う。ルーは独特のポーズを取りながら鉄心に返す。
「自分の力ニ絶対的な自信を持っていますよネ。明人ハ。それでいて、自惚れている様子も無イ。とても、素晴らしい人物ですヨ。彼ハ」
明人は子供の時から川神院に入った時から他者を寄せ付けない力と才能を表していた。それでいて、百代ように力に溺れることも無く、ただただ力を求めていた。自分の限界を決めつけることなく、だからこそ今の明人があると鉄心とルーは思っている。
「あれは、モモでも勝てんわけだのぉ」
と鉄心の声は晴れている空に消えていった。
そんな話を鉄心がしている最中、状況は大きく動こうとしていた。
「なんだ!?あれは?!」
修行僧達が見つめる先には無数の黒い獣が現れていた。現れた獣はそれぞれが意思を持っているかの様に動いている。そして、何よりビリビリと雷の様に帯電しているのだ。
「さてと、行きますよっと」
そして、明人は印を結び直し、獣達を修行僧へと向ける。
「
『グオォォォォ!!!』
無数の雄叫びをあげながら獣達は修行僧に突進していく。
「はやいっ!?ぐわぁ!!」
修行僧達が何かをする前に獣達は修行僧に襲いかかっていく。全てが電撃で形成されているためカスっただけで感電する。そんな物が高速で自分達に向かって来るとなると対処できる者は少ない。
そして、獣達は修行僧達の後ろまで走り抜け、そこで獣達は一つに融合していき、やがて巨大な豹の様な姿になる。
『グオオォォォォォォオオ!!』
耳をつんざくような雄叫びと共に巨大な豹はその姿を黒い雷光に変え、トドメと言わんばかりに無慈悲に修行僧達に襲い掛かった。院内に修行僧達の悲鳴が響いた。黒い豹が消えた時には既に立っているものはいなく皆地面に伏していた。
「やりすぎたかな?」
そう言って、頭をかく明人に後ろから迫る一人の少女がいた。
「せやぁぁぁ!」
「一子か....」
明人は振り下ろされた薙刀を掴み前方に投げ飛ばすが、一子を上手く受け身を取り、ダメージを逃がす。
「飛び入り参加か?一子」
「ええ、じいちゃんからも許可は貰ったわ」
そう言い、薙刀を回して再び構える一子の後ろで何人かの修行僧が立ち上がるの見えた。その光景を見た明人は少し驚いていた。
「これは驚いた。あれをくらって立てるとはなかなかのタフさですね。皆さん」
修行僧達の足元はおぼついてはいないがその目には確かな闘志が宿っていた。
「一子殿ばかりにいいとこは持っていかせませんぞ!」
「そうだ!何のこれしき!!」
「まだ、我らは戦えるぞ!明人!」
そう言って、倒れていた修行僧のほとんどが立ち直ってきた。その光景に明人は歓喜していた。
「ハハハ、いいですね。なら、もっと踊ってみせてくださいよ」
そう言って、明人は
「なに?」
その不自然な光景に一子は声を上げた。特に変化が無いと思っていたが、徐々に明人の周りに黒い粉が集まってきた。それは院の下に敷いてある大理石の間から流れる様に明人の方向へと集まっていく。
「何かしてくるぞ!体制を」
その言葉の先が発せられることはなかった。
「遅いな、
集まっていた黒い粉が突如として、小石くらいの小さな大きさになり、一子達の方へ弾丸の如き速さで飛んで行く。それをいち早く察知した一子は修行僧達の前に出る。
「下がって!
薙刀を高速で回して、砂鉄を弾いていくが弾き漏らした砂鉄の弾丸が数人の修行僧を襲う。
「っ!みんな!」
薙刀を回しながら一子が後ろの状況を確認する。
「よそ見なんかしていいのか?一子」
「くっ!」
一子が明人の方向へと向き直ると黒い巨大な鉄球が空に浮かんでいた。
「そら、これもやろう!
「うそ!?」
大玉が迫ってくる瞬間に一子は薙刀の回転をやめて横に飛び込む様に退避する。そして、一子の後ろにいた修行僧達は回避できずに大玉の餌食となった。
そして、とうとう立っているのは明人と一子だけになる。倒れた修行僧達はすぐに医療班が運び出し、手当を受けている。
「さて、残りは俺達だけだな。一子」
「えぇ、そうね明人」
辺りに砂鉄が散らばっている中で一子と明人対峙している。一子は薙刀を地面に下ろし、そのまま明人に走り出す。
「全力で行くわ!明人!!」
「あぁ!来い!」
一子は薙刀を引き釣りながら明人に向かって行く。明人はただ、その場に立っているだけだった。
「
一子の渾身の一撃を明人は
「まだ、遅いな....」
左手で受け止めた。その瞬間に一子は薙刀を捨て、明人のふところに飛び込む。
「
一子の拳は明人の腹部に直撃した。その光景を見た修行僧達は驚きの声を上げていた。だが、この場で一番驚いていたのは
「明人....どうして?」
技を放った一子自身だった。その問いに明人は少しだけ口角を上げ、答えた。
「お前の....成長を見るためには技を食らうのが一番だと思ってな」
そう言って明人は後ろにおぼつかない足取りで後ずさる。さすがの明人でも一子の渾身の技を直に受ければタダでは済まない。
「最初の頃と踏み込みが深くなったな一子。お前は強くなってるよ自信を持っていいぞ」
「明人....」
「でも、勝負は勝負。勝たせてもらうぞ!」
そう言って、明人は一子と目を合わせた。明人の目はいつの間にか写輪眼になっており、その目を見た一子は力なくその場に倒れ込んだ。それを近づき優しく支えて地面に下ろす明人。そして、そのまま明人も地面に膝を着いた。そこで鉄心の組み手終了の声が院内に鳴り響いた。
「ハーイ、組み手ハここまで。怪我人はすぐに手当てするようニ」
鉄心の声の後にこの場の指揮を取り始めた。ルーが明人の近くに倒れていた一子を運んで行く。その様子を眺めている明人に鉄心が近付いていく。
「鉄心さん。条件は完遂しましたよこれでいいですか?」
「うむ、明日Sへの編入試験を行うので学園に来なさい。お主なら余裕じゃろ?」
「はい、では明日伺います」
そう言い、明人は立ち上がり鉄心に一礼してその場から立ち去る。
その後日に行われたテストで明人は満点叩き出し、月曜日から正式にS組へと編入を許されたのであった。
戦闘描写なのでノリノリで書きました。
皆さんもノリノリでどうぞ。