明人がS組に編入してくる噂は月曜日には他のクラスの耳にも届いていた。
「失礼しました」
そんなことは知らずに明人はS組への編入の最終手続きをして、学園長室を後にする。
「よし、終わったな」
明人の出てくるのを待っていたS組の担任の宇佐美巨人が頭をかきながら明人に言う。
「はい、わざわざすいません。宇佐美先生」
「これも仕事だからな。終わったならとっとと行くぞ」
そう言って、S組へと歩き出す巨人。明人もその後ろを付いて歩き出す。すると、巨人は間が悪そうに口を開く。
「まぁ、Sの奴は歓迎する奴もいるだけど。中にはお前を目の敵にする奴もいるぞ」
明人はS組のリーダー的存在の九鬼英雄とも親しいので葵冬馬や井上純などとも顔が効くがもちろん全員がそうとは限らない。Sは闘争意識が高いからだ。
「まぁ、そこはなんとかしますよ」
「てきとうだね」
明人の返答に巨人も少し呆れる。
「それに」
「ん?」
明人の言葉に巨人は後ろを振り向く、そして明人は少し悪い顔を巨人に向け
「Sは実力主義ですよね?」
その笑顔を見て、巨人はため息の後に
「悪い顔しやがる」
と言って、再び二人はS組の教室への道筋を歩き出した。
☆
巨人に連れられSクラスへとやって来た明人だったが生徒の反応は予想通りだった。歓迎している人もいれば嫌な空気を漂わせている人もいた。歓迎してくれている人は明人の予想した通りの人物だった。
「フハハハハ!よくぞSに来たな。我が友、明人!お前を歓迎するぞ」
まずは金色のスーツに身を包んだ。額にバツの傷がある九鬼英雄。
「ご学友の編入をも全力で歓迎する。流石でございます!英雄様っー☆」
その一歩で後ろで英雄の事をいつも通りに褒めちぎる忍足あずみ。そして、明人のことをみて「来たか」と目配せする。明人もそれに答え「来ましたよ」と目配せで返す。
そんな中でも明人が来たことをよく思わない者もチラホラと見られた。
「ふん、どうせすぐにS落ちするさ」
「本当だな、F上がりの奴なんか底がしれてる」
そんな声が明人の耳に入ってくる。
「(まぁ、次のテストであいつらよりも点を取れば収まるだろ…)」
明人は、無理なS組への転入を認めてもらう条件として試験の順位を10位以上をキープする条件を鉄心から出されている。その順位を見せ付ければ今色々と言っている人たちも納得すると。
そんなことを考えている明人のことなどお構いなしにその声の主へと、声を掛ける人が一人。
「他人のことを気にする余裕があるなら少しは自分磨きに時間を掛けなさい」
その強い言葉に生徒はあっという間に縮こまってしまった。その言葉を放ったのは燃えるように真紅の長い髪を持ち、目に眼帯をしている女性。
「マルさん、別にそんなこと言わなくてもよかったのに」
「私が言いたかったまでのことです。それとマルさんはやめなさい。私の名前はマルギッテです」
マルギッテ・エーベルバッハ。クリスと同時期に学園に転入してきたドイツ軍人。クリスの父親が娘を思うあまりにマルギッテを学園に派遣し、様子を見張らせている。
明人とマルギッテが初めて会ったのはファミリーの皆と箱根の旅行に言った時だ。同時に明人がクリスの父親にも会った日でもある。
マルギッテは明人を見た瞬間に明人が只者ではないことを察し、戦いを挑んだのがその時は相手にされなかった。それからマルギッテは明人に戦士としての興味が湧き、それ以来明人はマルギッテに目を掛けられている。
「え〜、いいと思うけどなマルさんって呼び名。可愛いし」
「可愛いからいけないのです。私は軍人です、可愛いとは無縁の立場なんですから」
当の明人はマルギッテのことをマルさんと呼び、少しからかうことしばしばでよくマルギッテの手を煩わせているが、マルギッテも満更でもなさそうな態度を取っている。
「軍人である前にマルさんは一人の女の子だ」
「あなたはそうやって、私をからかう」
「いやいや、本当にそう思ってるって嘘なんかつかないよ」
その言葉にマルギッテも少し、嬉しそうな表情をとるがすぐにいつものクールな表情に戻る。
「んん、とにかく歓迎します。ようこそSクラスへ」
「どうも、とりあえずはのんびりやらせてもらいますよ」
マルギッテが咳払いをして明人には歓迎の言葉を送る。それに明人も友好的に答えた。
「そろそろ授業が始まります。席に着きましょう」
「了解」
そうして明人は自分の席に着き、一日の授業を消化していっていった。
☆
「ん〜、流石にSクラスとなるとも授業の内容がより一層濃いものになるな」
午前の授業が終わり、明人は一人で屋上に訪れ、背伸びをしていた。
「やっぱり、ここは落ち着くな」
と言ってベンチに横になる明人。そこにとある来客が一人。
「お、いたいた」
その来客の声を聞き、目を開ける明人。
「ん、キャップか。どうしたんだ?」
明人の昔からの幼馴染であり、風間ファミリーのキャップである。風間翔一がそこにいた。
そう言ってベンチから体を起こす明人、そして、空いたスペースに座る翔一。
「お前を探してたんだよ。Sクラスへの転入祝いを渡そうと思ってな」
「わざわざそんなことしなくてもいいのに。ちなみにお祝いの品とは?」
明人がらそう聞くと翔一は誇らしげに制服のポッケから二枚の紙を勢い良く取り出し、明人に見せた。
「じゃーん!七浜の遊園地のチケットだぜ!商店街の福引で当たったからな。これやるよ」
そう言って、チケットを明人に渡す翔一。それを明人は素直に受け取り、翔一に感謝の言葉を言う。
「ありがとう。キャップ。それにしても二枚か....誰と行くかが問題だな」
「んー、そんなもん岳人とかモロとかでよくね?」
「何が悲しくて野郎と二人で遊園地行かなきゃならんのだ。まぁ、しばらく考えてみるわ。恩に着るよキャップ」
「おう!じゃあ、俺は今から名古屋の手羽先を食いに行ってくるぜ!」
と言ってキャップは風の様に去っていった。
「相変わらずだなキャップは」
再びベンチに横になり、貰ったチケットを眺める明人。最初はファミリーの中で選ぼうと思っていたが、この数週間の間に明人は様々な人と知り合った。
「一緒に行きたい人か....」
その言葉を発した明人の頭の中には一人の人物が浮かんでいた。いや、本当は最初から浮かんでいた。自分の最も憧れであり、そして最も好意を寄せている女性。
「思い立ったが吉日ってな」
明人はベンチから立ち上がり、屋上を後にし、自分の教室に戻った。ある決意を胸にして。
☆
放課後になり、生徒がそれぞれ部活をしたり、帰宅する時間帯になっても明人はまだ学園の中にいた。それはある計画を実行するためだった。その計画の実行場所はというと
「そろそろかな....」
とある教室の前だった。ここで誰を待っているかというと
「議長、お疲れ様でした」
ふいに教室の扉が開き、そこから出てきたのは黒い腰まである長い髪に雪の様に白い肌の持ち、まさに絶世の美女という言葉が似合う女性。学園議長の最上旭。
「先輩、議会お疲れ様でした」
「あら、明人。どうしたの?こんな時間まで」
今日から出てきた旭に声をかける明人。
「先輩にお話がありまして、時間大丈夫ですか?」
「ええ、後は帰るだけだから大丈夫よ」
明人の問に旭は笑顔で答える。その笑顔に少し、ドキッとした明人だったがすぐに心を平静に戻す。
「え〜とですね、俺がSクラスに行ったのは知ってますよね?」
「ええ、知ってるわ。おめでとう明人」
「あ、ありがとうございます。で、ですね。そのお祝いでこういうものを貰いまして」
と言いながら明人は翔一から貰った七浜遊園地のチケットを旭に見せる。
「七浜遊園地のチケット?」
「そうなんですけど、二人分ありまして....その先輩、今週の休み空いてますか?良かったら一緒に行きませんか?」
その言葉を聞いて、旭は明人からも分かるような嬉しそうな表情を浮かべた。
「いいの?私で?」
そんなことを言った、旭に明人は微笑みながら旭に言う。
「もちろん!先輩がいいんです!」
思わず声を大きくする明人、それにふと我に帰り咳払いをする。その様子を見て旭クスクスと笑いをこぼす。
「そんなに言われた行くしかないわね。じゃあ、土曜日に行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
そう言って明人と旭は別れた。帰り道、明人がいつもよりも上機嫌で帰って行ったのは誰も知らない話。
現実が作業時間をくれない....
どうもお久しぶりです。皆様には作品をお待たせしすぎてしまって。本当に申し訳ない気持ちです。なかなか書く時間が取れずに気付いたらこんな時期になってしまいましたm(*_ _)m
さて、今回は主人公がデートに誘うと言うことでしがいかがだったでしょうか?次回はデート回にするつもりですのでろくろ首もびっくりするほど首を長くしてお待ちください。
それではまた次回!さよならm(*_ _)m