多次元世界広しと言えど、テラ次元ほど特異な次元は無いだろうと私は常々思っている。
生命と魔法の源である五色のマナがある意味バランスが取れているといえるほど均等に枯渇寸前で、かつてのファイレクシア次元の如く環境が汚染されている。それだけならば探せば見つかる程度の珍しさでしかないのだが、面白いのは知的生物が人間しかおらず、その人間が魔法に全く依存しない高度な文明を築いているという点である。
私の故郷、ラクシア次元にも昔高度な機械文明が存在したが、テラ次元のそれは更にその上を行く。なんと、機械によって仮想人工次元の創造に成功したのだ。
物見遊山でテラ次元を訪れ、その仮想人工次元の存在を知った時の衝撃はここ数百年で五指に入るほどだった。人工的に次元―――世界を作る事は不可能ではない。大修復以前、プレインズウォーカーが神の如き力を持っていた頃は、時折人工次元を創造する者がいたものだ。
しかし例え仮想であっても、魔力を全く使わず次元を創造するとなると話は違う。あのウルザでさえ不可能だっただろう。
厳密には次元を創造した訳ではないが、仮想とはいえ一つの世界を創造したその技術には心からの敬意を示したい。
DMMO―RPG、YGGDRASIL。
私は他の誰が忘れても、その特別な仮想次元の名を覚えているだろう。
ところで、ユグドラシル次元――私はあえてYGGDRASILをこう呼ぶ――には一つ奇妙な点があった。
妙に灯を持つ者が多いのだ。
ある程度以上の知性を持つ生命体は、大体1万から100万個体に1個体程度の確率で「プレインズウォーカーの灯」を持つ。生命の危機、死への直面、強いショックや精神的重圧などによってこの灯が点火し、プレインズウォーカーの力、つまり次元(世界)を渡り鳥のように渡り、土地からマナ(魔力)を引き出す力に目覚める。
灯を持っていても点火する事なく一生を終える事はザラであり、そういう意味では灯を持つものが幾らいたところで何という訳でもないのだが。
それでも、ユグドラシル次元の灯を持つ者の多さは異常だった。
いや、むしろ灯を持たない者が振い落されていった結果、灯を持つ者だけが残った、という印象を受ける。
サービス開始当初、YGGDRASILはテラ次元全域で熱狂をもって迎えられた。全盛期には数千万人とも言われた莫大なプレイヤー達。そこから多くが引退し、YGGDRASILは寂れていったのだが、灯を持つ者だけは不思議な事に尽くゲームを続けていた。
私もこの奇跡の産物ともいえるユグドラシル次元を楽しむため、最初期から長らくプレイを続けていたのだが、この奇妙な現象には作為的な物を感じざるを得なかった。
ツテを使ってそれとなく調べてみたところ、どうも灯を持つ者の職場や交友関係などが巧妙に操作され、YGGDRASILを続けるように誘導されている傾向にあるようだった。
灯はプレインズウォーカー特有の概念だ。プレインズウォーカーでない者がそれに気付く事は極めて難しい。であるなら、YGGDRASILには私以外のプレインズウォーカーが何かの策謀を巡らしている事になる。
ぞっとする話だった。私はプレインズウォーカーの中でも古株で、それなりの強さを持っていると自負しているが、敵対したくないプレインズウォーカーは存在する。
この巧妙な手口。ほのかに漂う何か大掛かりな悪意。古い強大な悪竜のプレインズウォーカーを想起させてならない。
私は調査の途中でその魔手が私にも及びつつある気配を感じ、急いで別の次元へプレインズウォークして渡り、逃走した。
私もユグドラシル次元には愛着がある。そこに住む住人、おそらく策謀の犠牲者となるであろうプレイヤー達を助けてやりたいのは山々だったが、やはり自分の命が惜しい。
恐らく、ユグドラシル次元の崩壊、即ちYGGDRASILのサービス終了と共に何かしらの事件が起こるだろうという事は予測できた。去り際に私が所属していたギルド「ワールドサーチャーズ」を通して警告を発しておいたが、効果のほどは怪しいものだ。十中八九は妨害され、握りつぶされるだろう。
YGGDRASILサービス終了まであと半年。
私はほとぼりが冷めるまでテラ次元を訪れない事を決め、ほとんど千年ぶりにロード次元へ行く事にした。
ロード次元。竜王(ドラゴンロード)達が世界を支配する、ドラゴンの次元である――――