モモンガ様プレインズウォーカー説   作:クロル

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帝都冒険者組合不況説

(なかなかしっかりした警備じゃないか)

 

 大通りを中心街へ向けて歩きつつ、私はアーウィンタールの警備に感心していた。

 千年前は、人間はここまで大きな勢力を持っていなかった。せいぜいが小さな村程度で、常に獣人やモンスターの脅威、竜王の気まぐれに怯え暮らしていたと記憶している。

 それがこれほど立派な街を作るまでになるとは、時が経てば変わるものだ。

 

 検問の手際も人間種の発展を伺わせるものだ。特に目視や問答だけでなく、魔法的検査も行う警戒心は素晴らしい。あらかじめ【シール・エンチャントメント】をかけて魔力を隠していなければ、身につけている物品全てが派手に反応していた事だろう。私のような存在が相手でなければ、充分危険物の持ち込み阻止やテロ対策として機能するはずである。

 雑踏を行く人々の顔は明るく、軽食を売る出店の主人の客引きの声は威勢が良い。散見される兵士の素行も悪くないものだった。

 歩道と馬車道を分ける柵。【ライト】系と思しき魔法の力を感じる街灯。この手の新しい大都市にありがちな、急成長に伴う歪みや配慮の不足が見られない。

 地に足のついた活気と治安。この国はまだまだ伸びそうである。何事もなければ、だが。

 

 ところで、私は訪れた次元に冒険者という職業があった時、それに就く事にしている。無ければそれに類似した職。それもなければその次元を去る。この次元でもその方針を貫くつもりだった。不測の事態でこそいつも通りに。

 故郷のラクシア次元では冒険者という職業が隆盛を誇っていて、かくいう私も灯が点火しプレインズウォーカーに目覚めたのは冒険中の一幕が原因だった。冒険はいつでも心と体を強くしてくれる。冒険はいいぞ。

 

 しかし冒険者になる前に、まず酒場に寄る事にした。

 次元が違えば常識も違う。最低限の常識を覚えておかなければ簡単に躓いてしまう。そして酒場ならば、下世話な、言い換えれば日常的な噂話が飛び交い基礎情報収集に最適で、うっかり多少常識外れの言動をとっても酔っ払いだからと気にもとめられない。大抵の次元に酒場かそれに類する場所があるのは好都合だった。

 

 中央広場は人でごった返していた。私は【トランスレイト】を唱えて建物の一つに下げられた看板に「冒険者組合」の文字を確認し、場所を覚えてから横道に逸れた。

 何気ない風を装ってゆっくりぶらぶら歩き、人の波を読んで中心街から外れる。四方の門と中心街を結ぶ線上近辺で、それなりに道幅が広く、中流から下流程度の建物が並ぶ区画を探して見つけると、案の定そこには道の端にちょっとした露店が出ていた。地面に広げた風呂に商品を並べ、あるいはリヤカーのようなものに果物を積み上げ、商売に精を出している。

 

 こういった雑多な品が並ぶ露天の良いところは、歩きながら客と店主の値引き交渉や、金銭のやり取りを観察できるところだ。しっかりした建物内の店でまさか「物価を学ぶので観察させて下さい」とは言えない。その点、露店は目の前をゆっくり通り過ぎても、少し冷やかしても気にかけられず、悪評が立つ事もない。

 それから区画を変えながらゆっくり半日帝都を歩き回り、私は大凡の物価と流通状況を理解した。

 

 軽食が銅貨1枚。それなりのものが食べたいなら2枚といったところらしい。察するに、下級の宿は相部屋素泊まりで一泊銅貨5枚。個室で7枚といったところか。それ以下のランクの宿はこの都市には無いだろう。治安がよく、景気が良い故にあまりに安い宿は淘汰される。

 食料品、工芸品、日用雑貨は質・量・値段ともに特筆すべきところはない。軽食が銅貨1枚と考えればその程度だろう、という値段だ。

 

 一方、露店に普通にマジックアイテムが並んでいたのは興味深かった。品質はお察しレベルではあるが、市井にそれなりに魔法という存在が浸透しているようだ。

 怪我人が神殿に入っていき、包帯を取り晴れ晴れとした表情で出てきたのは目撃した。

 魔術師と思しき、魔力を持った人間も兵士と同程度の頻度でみかける。マジックアイテムの名称や効果、推定魔術師の装備いそこはかとなくユグドラシル次元のそれと似た臭いを感じるのは悪い意味で気になるが……そこも追々調べていこうと頭の隅に刻んでおく。

 

 日没に合わせて酒場に入り、その一画で安酒をひっかけつつ、ひと仕事終えて上機嫌な男達に声をかける。

 そこから親からもらった整った外面に笑みを浮かべリップサービスでおだて、話を合わせて盛り上げ、ちょっとした賭けを持ちかけた。

 そして私が出した宝石(新しい次元を訪ねた際の換金用にいつも持ち歩いている)に目の色を変えた男達をほどよく負かし、小金を巻き上げるまでがいつもの手口である。

 まあ、相手が悪かった。まさか私が未来予知まがいの魔術、【占瞳】でイカサマをしていたとは夢にも思うまい。

 

 打ちひしがれる男達を軽くあしらい、自分の分だけ勘定を済ませていよいよ冒険者組合へ向かった。ちなみに諸事情から毒無効体質であるため、酔いはない。

 酒場で収集した情報を頭の中で整理している内に、あっさり到着。結局、半日街をうろついて一度もスリに遭わなかった。ちょっとした驚きである。

 冒険者組合は三階建てで、高さは隣接する建物よりも一回り低い代わりに、横に広かった。こういった地価の高い都心で土地を贅沢に使えるというのは確かな権勢を示す。構えは立派で、窓にも汚れがなく、この世界における冒険者組合の立ち位置を教えてくれる。付近の建物よりもいくらか古いような気もするが、都市計画初期に建てられた重要施設であるという証左だろう。

 さて、この世界の冒険者はどのようなものだろうか。

 私は期待しながら、冒険者組合のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば、帝国の冒険者は斜陽傾向にあるらしい。私は最下級冒険者の位を示す真新しい銅プレートを首から下げ、もやっとした気持ちを抱えながら組合を後にした。

 この世界の冒険者のスタンダードなスタイルは対モンスター用の傭兵といったところ。驚くべき事にあれだけ確固たる地位を確立し次元全域に君臨していた竜王(ドラゴンロード)は見る影もなく勢力を落とし、そのせいで竜王(ドラゴンロード)に抑圧されていた中小種族が好き勝手に版図を広げ衝突を繰り返す群雄割拠時代になっているようなのだ。

 人間も例外ではなく、国家を維持し広げていく上で実効戦力は引く手数多。

 

 その理屈ならば冒険者は大盛況になりそうなものだが、この帝国においてはこのところ国の騎士が冒険者の代わりにモンスターの間引きを積極的に行っているという。

 個の力は上位の冒険者ほどではないが、均質な実力と装備を持ち、統率が取れ、計画的に間引きを繰り返す騎士達に、冒険者は仕事を奪われ気味らしい。

 もちろん帝国を脅かす全てのモンスターを騎士が狩れる訳ではないし、モンスターが狩れずとも、商隊の護衛や配達、探し物などの仕事はあるのだが、中堅以上の冒険者には騎士団から誘いがかけられるらしく、そちらに流れてしまう事もあるのだとか。

 

 そんな訳で、帝都の冒険者の人口構造は駆け出しが多く、中堅が少なめ、ベテランとトップが少数、という少々歪な構造になっている。

 斜陽傾向の割に駆け出しが多いのは、夢を持って上京(上都?)した若者が食い詰めて腕っ節と秘めた才能を頼りに冒険者登録をする事が多いからである。もっとも、本当に腕っ節か才能があれば従騎士として給金を貰いながら正騎士訓練を受ける事ができるというから、従騎士としても認められない者が冒険者になったところで、言い方は悪いがたかが知れている。

 私は魔力を隠しても中堅かベテランクラスには見えるような装備をしているし、他の次元の冒険者の酒場の認定書や冒険の功績を称えて下賜された勲章を他国の冒険者である証明として提示したため、そういった十把一絡げとは違う事は組合に認識してもらえたと思う。かといって特例で突然銀や金ランクから始めさせて貰えるほどでもないし、私もそこまでは望んでいない。ソロで活動する事を理解してもらえればそれで充分である。

 

 どこに例の悪徳プレインズウォーカーの目が光っているか分からないため、パーティを組みうっかりスパイを胸元に引き込む危険は犯せない。

 それにスパイでなくとも最低英雄クラスでなければ足でまとい以外の何者でもない。ソロで活動する冒険者は悪目立ちするかも知れないが、ソロの身軽さはデメリットを補って余りある。

 

「さて」

 

 冒険者組合を出てしばらく歩いたが、尾行はない。流石にピンポイントで敵の網に飛び込んだ、という事はないようだ。ロード次元に捕まって神経過敏になりすぎていたらしい。

 私は安心して民家の屋根の上に一跳びで飛び乗り、時間拡大【コンシール・セルフ】で12時間の透明状態を確保。そのままマントにくるまって朝まで眠る事にした。

 本当は宿に泊まりたかったが、冒険者登録料が思ったよりも高かったので金が足りない。換金用の宝石はまだあるが、短期間に宝石をバラ撒くのは目立つので避けたい。

 明日は朝一で依頼を受ける事にしよう……

 




 ラクシア次元……TRPG「ソードワールド2.0」の舞台の世界。様々な種族が剣と魔法で冒険している。

 シール・エンチャントメント……対象の魔力を隠蔽するラクシア次元の魔法。

 ライト……灯りを灯すラクシア次元の魔法。

 トランスレイト……どんな文字でも解読できるラクシア次元の魔法。ただし意味を理解できるだけで、音読はできず、話したり書いたりもできない。

 占瞳……ラクシア次元の魔法系統の一つ。未来の一場面を幻視できる。あまりピンポントな幻視はできない。

 時間拡大【コンシール・セルフ】……五感、機械的感知、魔法感知から隠れるラクシア次元の魔法。簡単に言えば透明化。本来の効果持続時間は1時間だが、時間拡大という特殊技能で12倍に延長した。
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