「寒くなってきたので体調には気を付けてください」と言う温かいコメント頂いたにも関わらずやらかしてしまいました。申し訳ありません。皆様もお気をつけて。
ノンナとミカは看病に来てくれませんでした(泣)
(やっちまった。)
青く綺麗な空気が漂ってそうな冬の早朝、俺は学校の机に突っ伏してその身を重力の奴隷としていた。木製の表面が全力疾走で駆け抜けて火照った体を冷ましてくれる。額を冷やしながら今朝の事を思い出す。まあよくある話だ、部屋にある時計を見て遅刻したと思ったら電池が切れてて止まっていただけだった。そしてそれに気づかず学校まで全力で来てしまった。教室に誰もいないことに違和感を覚え、ふと壁に設置してある時計を見たら時刻は8時前。惰眠を貪れなかった後悔の深いため息をつきながら自分の席に座り、ブレザーを脱いで椅子に掛け、今に至る。もう一度ここで眠ればいいと思うかもしれないが一度ハッキリと起きてしまうとなかなか眠れない性分なのである。じゃあ勉強でもするかと思うほど優等生でもない。結局、足をブラブラと動かし時間が過ぎるのを待つだけしか出来ないのである。
無心に足を動かしてどれくらい経っただろうか。コツコツと足音が廊下に響いてきた。誰かが来たようだ。
「あれ? 同志タクマ?」
教室の扉からひょっこりと金髪碧眼の美少女が現れた。突っ伏していた体を起こし、軽く手を挙げ返事をする。
「おはよう。クラーラ。」
「Доброе утро. 同志タクマ。ずいぶん早いですね。」
「ああ、それは・・・・」
俺は今朝の失敗談をクラーラに話しはじめた。
「・・・と言うわけ。」
「なるほど・・・だから制服のボタンが掛け間違っているのですね。」
「えっ?」
すぐに自分の体を見て制服の赤いシャツを確認する。上から1つ1つボタンを数えていくと確かに途中で相方のいないボタン穴があった。恥ずかしいという思いがこみ上げてくるかと思ったが今朝からの失敗続きで、もうどうでもいいという思いの方が勝ったようだ。全体重を椅子の背もたれに預け、脱力して天井を見つめて今日は厄日だなと考えているとシャツの胸辺りが少し引っ張られた。見るとクラーラが俺のシャツのボタンを下から全部外して掛け間違った所からもう一度正しくボタンを掛けていた。
「しょうがないですね~同志タクマは。」
頬を緩ませながら俺に顔を近づけてボタンを丁寧に掛けてくれるクラーラ。長い前髪が揺れて俺の鼻を掠る度、恐らく彼女の使用しているシャンプーの香りが鼻腔を突き抜けてくる。朝、全力疾走した時と同じ鼓動の早さになりながらその白い顔を見つめているとスッと手が離れた。
「出来ました!」
「あ、ありがとう。助かったよ。」
「いえいえ。それより同志タクマ、髪の毛がだいぶはねていますが。」
なんたる失態!! そういえば今朝は鏡なんて見ずに飛び出したんだった。もういっそ今日は帰って出直そうかな。うん、そうしよう。
「同志タクマ。」
席から立ち上がろうとしたところをクラーラに声を掛けられた。何やら自身の鞄に両手を入れてガサゴソとさせると櫛と霧吹きスプレー容器が出てきた。容器には寝癖直しウォーターとの文字が。櫛と容器を交互に見つめ、そしてクラーラと目が合う。ムフーと鼻息を飛ばしながらドヤ顔に近い表情で綺麗な碧眼をさらにキラキラさせている。・・・皆まで言うな、もうわかったから。女子力高いね。あと女子の持ち物は万国共通なのかね。
「・・・お願いします。」
「Да!!」
元気よく返事をすると俺の後ろに回り込んできた。流石にここまでしてもらうのは色々と恥ずかしいと思ったが、あんな目を見てしまったら断れない。もう彼女にすべてを任せよう。
「同志タクマ、頭をこっちに寄せてください。」
頭を掴まれてグイッと後ろに引っ張られる。するとプニュと非常に柔らかい感触が後頭部を伝う。これは・・・どう考えてもあの大きいお山2つのものだよな。一応確認しようと思い首を動かそうとするが
「動いちゃだめです。」
柔らかい声が聞こえたがそれとは正反対に固くガッチリと頭を両手でホールドされた。そのせいで確認は出来なかったが確証は得た。俺の後頭部に合わせて形を変えているコレはやっぱりアレだ。だがわかったところでどうすることも出来ない。
霧状になった水分が舞い、優しい手つきで髪が梳かされていく。後ろの方が整い、今度は前髪部分へ。すると必然的に密着率も高くなるわけで・・・座っているのだが別の部分がお座りしていられそうにないのでもうきつい。
「終わりました。」
耐えた。耐えたぞ俺は!!みんな褒めてくれ!!・・・思わず立ち上がってガッツポーズを決める俺。
「ありがとうクラーラ。助かったよ・・・色々と。」
「どういたしまして。では同志タクマ、次は私の番ですね。」
「へっ?」
櫛と霧吹きを手渡し、先程まで俺が座っていた椅子にちょこんと座るクラーラ。
「お願いしますね!」
お願いされてしまった。目の前を流れる綺麗な金色の髪を見つめる。俺に触れと言うのか、あの良い香りが駆け抜けてきた髪を。無理だ、こんなにサラサラと櫛が通る髪に・・・・って触ってたぁぁぁぁ!!!
「フフッ、くすぐったいです。」
どう反応していいかわからず無言のまま震える手でひたすらクラーラの髪を梳かすが、これどこでやめたらいいんだ? やめ時がわからない。いやそもそも俺の心臓が1分が限界と言ってきている。授業の終わりがなかなかこないような感覚で1分が過ぎ、俺は手を止めた。
「お、終わったぞ。」
「ありがとうございます。あの・・・同志タクマ?」
「ん? どうした?」
「頭、なでなでしてもらっていいですか?」
「え?」
霧吹きと櫛を落としそうになった。せっかく整えた髪をグシャグシャにする行為をなぜ求める。
「その・・・髪を梳かしてもらっていたら撫でても欲しくなってしまいました。」
ああそうなんだ。うん、でも君の綺麗な髪に俺の手が触れるというのがもう耐えられな・・・
「ダメですか?」
ぬおおおお。椅子に座りながらの上目遣いだとおぉぉぉ? それこそダメだろぉぉぉ! 反則もいいところだ。また断れないよ。
完全に逃げ道がなくなった俺はクラーラの頭に手を置き、ゆっくりと左右に動かす。
「フフフッ。」
どこかくすぐったそうに目を細め、俺を見つめ微笑んでくる。まるで等身大の人形を愛でている錯覚に陥るのは彼女の顔立ちと肌の透明度のせいだろう。背徳感がヤバいのでもう本当に勘弁してほしい。
「ありがとうございました。」
どうやら満足してくれたようでニコニコしながら自分の席に戻っていったクラーラ。ようやく心臓が平穏を取り戻し落ち着きはじめた。窓からグランドを見ると人の姿がポツリポツリとある。学校が日常を開始したんだなと思いながら俺も自分の日常を開始すべく1限の準備を始めた。
クラスでの日常が終わり、整備士の日常が始まって数時間。今日の戦車道の練習はなかなかの激戦だったらしい。至る所の損傷が激しく、こちらもなかなかの激務に追われている。修理車両が残すところ1台となったところで夜も遅いので他の奴らは全員帰らせて今は1人で作業中である。
「お疲れ様です。同志タクマ。」
「うおっ!?」
1人だと思っていたところに急に声を掛けられた。振り返るとノンナが缶コーヒーを持って微笑んでいた。あー尊い。
「お疲れ、ノンナ。」
胸元まで手を挙げ、軽く振って挨拶を交わす。すると彼女の表情が一変した。
「!! タクマ!! 手が・・・」
「え?」
いつもつける“同志”が無いことに違和感を覚えながら自分の手を見てみると白い手袋の人差し指部分の先端が、何回も赤色を重ね塗りしてドス黒くなったような色で滲んでいた。
「うわっ!!」
急いで手袋を外してみると指の先端からゆっくりと赤い小さな雫が出来てポツリと床に落ちた。恐らく整備中に切ったのだろう。だが冬の寒さもあって手がかじかみ、ほぼ感覚が無い状態に近かったので気がつかなかった。しかし出血は多いが傷は深くないようだ。
「あー、まあ大丈夫だ・・・・うえぇぇぇ!? ノ、ノンナ!?」
彼女を安心させようと大丈夫だよと言おうとしたがそれが出来なかった。何故なら彼女が俺の指を咥えたからだ。寒さで感覚を無くした手の一部分に突如加わる熱。チュ、チュという音と共に彼女の唾液が指先に絡みつく。
「ノンナ!!血で汚いから離せ!!汚いから!!」
俺の問いかけには一切答えず、指を離そうとはしない。やがて聞こえてきたのはゴクリという音。そして彼女の喉元が動くのが見えた。ようやく口を開けて離してくれた俺の指と彼女の舌には銀色の糸が細く結ばれていた。
彼女の行動に呆気にとられていると今度は反対の手を掴まれ、
「行きますよ。」
一言だけそう話すとズンズンと歩き出した。何も言えないまましばらく歩くと保健室に連れて行かれ、ベッドに座らせられた。
「手を出してください。」
消毒液や絆創膏を用意した彼女が優しく手当を始める。
「よくみるとあかぎれもひどいですね。」
自分の手を見ると赤い線がいくつか入っている。プラウダの学園艦の冬は寒く乾燥していることが多いのでどうしても整備士としてはパックリ切れてしまうことが多い。まあ、この程度は慣れっこだ。
少し悲しげな表情で俺の手を見ていた彼女だが、自分の鞄からハンドクリームを取り出してこれまた優しい手つきで俺の手に練り込みはじめた。
「悪いな、ノンナの私物使わせちゃって。」
「いえ・・・同志タクマ、前に『もう少し自身の体を大切にしてください』と言ったのを覚えていますか?」
前に風邪ひいて看病してもらって治った時に言われた言葉だな。・・・今の俺のこの状態じゃあ彼女との約束を守っているとは到底言えない。
「ああ。ごめんノンナ。また心配させちゃって。次こそは必ず。・・・それでなノンナ。ノンナも自分の体を大切にしてほしい。」
「私ですか?」
「ああ。大学選抜との戦いで結構無茶しただろ?」
カチューシャを逃がすために敵部隊に突っ込んでいったノンナ。いくら戦車道が安全だとはいえモニター越しに見ていて心臓が止まるかと思った。
「私はいいんです。」
「・・・わがままだな。」
「そうです。わがままなんです。」
自分が傷つくのはいいけど他人はダメ。優しい彼女故のわがままだろう。だからこそ整備という影の部分で少し無茶しても支えたいという俺のわがままもあるのだが・・・・難しいなぁ。
「同志タクマ・・・・今日の朝、クラーラの髪を梳かしていましたよね?」
何故突然その話題に? っていうか見られてたのか!!
「私はわがままですから・・・その姿を見て・・・その・・・私もあなたに触れて欲しいと思ってしまいました。」
俺の手を取り、自分の頬にくっつけてくるノンナ。彼女の柔肌が俺の手にピッタリと吸い付く。
「「・・・・」」
彼女の潤んだ目が俺を離さない。お互いに無言のまま、見つめ合っていた。しばらくしてノンナが動いた。
「唇も乾燥して切れていますね。」
そう言うと彼女の唾液交じりの舌が俺の唇に潤いを与え始めた。彼女のすべてを受け入れつつ、俺は彼女の髪へ手を伸ばし手櫛で黒く綺麗な髪を梳かしはじめた。んっ と声が漏れたがお互いに行為をやめる様子はない。どれぐらい貪っていただろうか。互いに息が上がり始めてようやく唇が離れた。両手で彼女の頬を掴みながら俺は最後の確認をする。
「ノンナ・・・俺・・・もう。」
「いいですよ・・・きて・・・ください。」
俺は彼女をベッドに押し倒した。
最近ガルパンの恋愛小説が増えてきて嬉しいです。もっと増えろ!!
そして現在書かれている方はもっとおかわりを!!(自分の事は棚に上げる)