プロローグ
「やあやあ皆さん、今日はわざわざ集まってくれてありがとうね~。」
軽快な口調で話しかけるのは大洗女子学園会長、角谷杏。干し芋を咥えながら回転式の椅子に腰かけクルクルと回っている。いつもの事なのか、行儀の悪さに左右にいる副会長の小山柚子と広報の河嶋桃も特にツッコむ様子もない。
「・・・んで用件は何ですか? 急にホシノから俺とハルキに連絡来たと思ったら各校の整備士集めてくれって。しかも名指しで。」
一番最初に口を開いたのはプラウダの整備士、タクマであった。彼は聖グロの整備士ハルキ、そして此処、大洗女子学園の自動車部のホシノと同じ中学出身である。彼女からタクマとハルキ経由で各校の整備士に連絡が行き、突如休日に大洗女子学園、生徒会室へ集められた。集まったのは
・プラウダからタクマ
・聖グロからハルキ
・黒森峰からリーダー、ツヴァイ
・サンダースからダウナー
・大学選抜からヒロアキ
・アンツィオからディアブロ
・知波単からアキラ
以上の整備士である。
「いや~実はね~、ウチって戦車の整備士がいなくてさ、代わりに自動車部にやってもらってるんだけどさ4人中3人が3年生で卒業しちゃうんだよね~。そうすると来年が不安でね~。まあ早い話、みんなの整備技術を自動車部残りの1人とか1、2年生の戦車道履修者に教えてもらおうって話!!」
タクマの問いに答える杏だが、その答えに整備士たちはポカン顔。しかしそんなことは気にせず杏は言葉を続ける。
「後これは自動車部からのお願いでもあるんだよね。『本業の整備士の技術が見たい!!』っていう。それに3年生たちに教えておけばOBとして顔を出して手伝ってくれるかもしれないし!」
「いや、彼女たちはもう戦車整備士の腕前ですよ。本業は本当に自動車整備ですか? 知識に貪欲なのは素晴らしいことですが。」
聖グロ生らしく背筋を伸ばして丁寧に応対するハルキ
「俺はあんまり気乗りしませんね。ライバルに技術を教えるってのは。あとここまでヘリ飛ばしてくるのも少し面倒です。」
対照的に少し悪態をついたのはツヴァイ。決勝戦で敗けた黒森峰の整備士としては少し複雑な思いなのだろう。軽く杏を睨むが
「おや~、そんなこと言っていいのかな~。黒森峰の整備士新班長、ツヴァイく~ん。」
「あ?」
2枚めに突入した干し芋をひらひらとさせながら相変わらずの軽妙な語りに少しイラつくツヴァイだが
「君、ここにいる整備士みんなにビール提供したでしょ? もちろんノンアルコールじゃなくてちゃんと入ってるやつ。」
【何故それを知っている!?】
言葉ではなく顔がそれを語っていた。ツヴァイだけではなく他の整備士も一気に杏に視線がいく。
「かぁ~しま~例の物。」と杏が言うと「はい。」と答えてノートPCをこちらに向けて見せてきた。どうやら動画を再生しているようだがそこから流れ出したのは・・・
「Baby!!!!」
「「「渇きを癒す~~」」
「Get on Get on~~」
「「「「「「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!! やめてえええええええええ!!!!!」」」」」」
それはアンツィオ高校で行った大洗女子学園の廃校阻止の祝勝会であった。そこでツヴァイは黒森峰名物ノンアルコールビールを間違えて本物のビールを整備士たちに配ってしまい、酔っぱらった勢いで彼らがステージで演奏している動画だった。そう、はじめから彼女たちはこれを見せて脅すために彼らを呼んだのだ。
「未成年の飲酒、まずいよね~。同席してた大学生。これもまずいよね~!!」
大洗女子女子学園の地に足を踏み入れた時点で彼らに拒否権などなかった。用意周到な彼女たちの事だ。恐らく彼らが口をつけた空き缶すら証拠として持っていそうだ。そのことを先程までと変わらない杏の笑顔が悪魔の笑みに見えるまでになったことで悟る整備士たちであった。
「まっ、でも脅しばっかじゃかわいそうだからね~。小山~例の物、みんなに見せてあげて~。」
そう言うと今度は柚子が手に持っていたものを扇形にひらいた。
「各校の生徒さんたちがウチの制服着た写真、引き受けてくれたらあげるよ~。激レアだよ。」
「「「「「「「「喜んでやらさせて頂きます!!!!!」」」」」」」」
「いや~男子は素直でいいね~。実は戦車道履修者全員、グランドに呼んでいるから今日は全員で教えてあげてね~。 次回以降は月1回のペースくらいで1人誰か来てくれればいいから~。ローテーションはそっちにお任せするよ~。」
こうして各校の整備士たちによる大洗女子学園での整備講座が始まるのであった。