いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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筆者にツンデレ属性が無いのでエリカのキャラもこれでいいのかよくわからない。(泣)












新隊長と新リーダー

 

 

 

 

 

 

「だから私の言った通りに整備しなさいよ!! 」

 

 

 

「さっきから言ってんだろ!!出来なくはねぇけど時間かかるから合理的じゃねえって!!」

 

 

 

私とコイツの大きな声が戦車格納庫に響く。周りの生徒たちは「また今日も始まった。」そんな顔をしながらせっせと他の戦車の整備に勤しみ、こちらを見ようとはしない。

 

3年生が引退し新体制になった黒森峰。副隊長だった私、逸見エリカは新隊長に任命され、私と整備のことで口論してるコイツは整備班、新班長になった。

 

 

 

 

「また逸見さんとツヴァイさん言い合ってるよ。」

 

 

 

周りからヒソヒソと小さな声であるが聞こえてきてしまった。ああ、そうだった。コイツはそんなあだ名だった。確か前班長が『リーダー』ってあだ名で、そのまま受け継ぐ流れだったけど『リーダー』って聞くとどうしても前班長の顔が浮かんでしまうから「2代目」という意味でドイツ語の2を意味する『ツヴァイ』になったんだったかしら。・・・どうでもいいことだわ。とにかく私の望む整備をしてもらうわ。

 

 

 

「あらそう。前班長ならきっとやってくれたけどね、時間がどうとか言い訳せずに。ああ、ごめんなさい。私があなたの力量を見誤っていたわ。」

 

 

「あ? 上等だ!!やってやらぁ!!」

 

 

眉をひそめて私に食って掛かってくる。のせやすい奴で助かるわ。

 

 

 

 

「ただしこの整備したら西住元隊長と同じ動きが出来ると捉えていいんだよな? 新隊長さん。」

 

 

口角をあげてニヤリとして私を見下ろしてきた。前言撤回。コイツ、ちゃっかりしてるわ。西住隊長と同じ動き? そんなのすぐにできるわけないじゃない。だけどあそこまで言ったのだから退くことはできないわ。

 

 

そう、退くことはできない。ここでできないと言ってしまったらあの隊長の背中に一生追いつけない気がする。例えこんな小さな1つの事でも。だから私は答える。

 

 

 

「い、いいわよ。新班長さん。やってあげる。」

 

 

たとえこの後アイツの要求ができなくて笑われたとしてもやるしかない。進むしかない。進む先が崖だと言うのなら飛び降りて地まで落ちてそこから這い上がってやるわ。こんな事屁でもないわ・・・あの子がこの学園に居て受けた傷に比べれば、これくらい・・・。

 

 

 

「よし!!じゃあ明日の朝までには仕上げる。そこでお前の力量も見せてもらうからな!!」

 

 

「整備が終わってなくてノーコンテストじゃないかしら?」

 

 

「・・・お前がハンバーグしか友達いないのがよくわかった。」

 

 

「意味が分からないわよ!!」

 

 

「あっ、でもそのお友達も食べてるから結局は1人か。うっうっ。」

 

 

「うるさい!!!」

 

 

手を目に当てて泣く真似をする。本当に憎たらしいわ。こんなわかりきった挑発なのに。何故かコイツの言動すべてが気に入らない。整備の腕は良いと言うのが余計にこの負の感情を燃やす。私は早いリズムで格納庫内に足音を響かせてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

「ハアーー。」

 

 

 

目を通していたファイルを閉じて思わずため息をつく。今日の戦車道の訓練はとっくに終わったが新隊長になったばかりの私には隊長としての引き継ぎ業務がある。普段使っていない教室を一部屋借りて西住隊長が残してくれた資料に目を通していたが、その膨大な量に少し打ちのめされそうになっていた。だが逆を言えば隊長もこれだけの量の資料を私の為に作成し、残してくれたのだ。その労力を思えば、私もその期待に応えなくてはならない。いや、応えたい。

 

 

 

もう一度気合を入れ直そう。 そう決意したものの、分厚いファイルの山に読み終えたファイルを積み重ねたところで目に疲れを感じた。少しリフレッシュをしよう。そう思って自販機の商品を頭に思い浮かべながら教室を出た。

 

 

 

 

足音がよく響く薄暗い廊下を歩く。残っている生徒は少ないが全くいないというわけでもないようで何人かの生徒とすれ違ったがいずれも顔見知りではない。戦車道の訓練は終わったから当然ね。気づけば自販機の場所の近くまで来ていた。さて何を飲もうかしら? そう思っていた時、

 

 

 

 

「ウチの戦車道も落ちたよな~。」

 

 

「天下の西住流が居て優勝1回だけだもんな~。」

 

 

「でも今回の優勝校の大洗、西住流の妹いるとこらしいよ。しかも元ウチの生徒。」

 

 

「は? 何それ? どういうこと? ひどくね?」

 

 

 

突如聞こえてきた男子生徒の声に思わず身を隠し、顔を少しだけ覗かせる。見たところ整備班の男達ではないようだ。つまり戦車道について細かくは詳しくないものの、ビッグネームだけは知っている。そんなところだろうか。名門と言われてる黒森峰にも、こういった生徒はいるものなのね。いや、恐らく誰にも聞かれていないと思っているから話しているのだろう。多分、普段の外面はいいのね。

 

 

 

「えっ? 妹に負けたの? ダメじゃんお姉ちゃ~ん。しっかりしてよ~。」

 

 

「「はっはっはっ。」」

 

 

 

隊長の事が話題に上がった刹那、身体の全身が熱くなる。鼓動も早い。先ほどまで正常だった脳の電気信号は異常のスイッチを押したようで気がついたら握り拳を作っていた。だがここでスイッチはまた元に戻り、彼らの前に出て拳を振ることはなかった。

 

 

悔しい。

 

あいつ等に何がわかるの? 10連覇を逃して、周りから陰口を言われ、妹とも疎遠になって、それでも腐ることなく黒森峰の隊長として立派に務め上げたあの人の何がわかる!! 大声で叫んでやりたい。でもここで問題を起こしたらそれこそあの人の顔に泥を塗ることになる。 こんな時に妙に冷静で何もできない自分も憎らしい。自己嫌悪に陥り、私はその場にしゃがみこんでしまった。その時、

 

 

 

 

「何くだらねえ事言ってんだよ、お前ら。」

 

 

 

新班長のアイツの声が響いてきた。でもその声はいつもと違う。いつも私と言い合う時のボリュームのある声ではなく、静かに低く、怒りに満ちた声。

 

 

 

嘲笑っていた男子生徒たちは一瞬で表情をなくす。直接心臓を掴まれて握りつぶされる寸前といったところだろうか、彼らの冷や汗が流れるのを遠くからでもわかった。

 

 

 

「お前ら、何かで1回でも優勝した経験あんのかよ?」

 

 

 

アイツの問いに対して男子生徒たちは答えない。所詮、陰口を叩く暇のある奴らだ。何かに対して本気で打ち込んでいないのだろう。

 

 

これで話は終わるかと思ったのだが私の予想に反して男子生徒の1人がアイツに近づいていった。

 

 

 

「うるせえよ!!この女の使いっぱしりが!!」

 

 

どうして男ってこんなにも煽り耐性がないのかしら? 女の使いっぱしり・・・戦車道は乙女の嗜み。故に整備をしている男性は一般人にはそう見えてしまうのだろうか?

 

 

 

男子生徒はわざとらしく大きく振りかぶってテレフォンパンチの姿勢を取る。あれは本当に殴る気はないわね。あくまで威嚇のための動作。簡単に避けれるようにスピードを落としたパンチを打つ気ね。まあアイツなら余裕で避けれるでしょう。

 

 

 

 

ゴスッ。

 

 

 

 

(えっ?)

 

 

 

 

 

目を酷使したせいで私の視力が本当におかしくなったのかと思った。だって鈍い音と共にアイツの唇に薄い赤色が伝っているから。

 

 

大振りのパンチは見事に頬に決まっていた。そのパンチを放った本人も避けなかったことに驚いている。・・・いや違う!アイツは腕を組んで表情変えずに仁王立ちしてる。避けなかったんじゃなくて避ける気がなかった。

 

 

 

「どうする? このまま先生に報告するか、黙ってお前らが去るか。どっちがいい?」

 

 

淡々と述べられた言葉に冷静になり、今さら恐怖心が襲ってきたのか、逃げるように男子生徒たちは去っていった。それに対してアイツは何事も無かったように自販機に向かい、小銭を入れはじめた。その態度に何故か腹が立った。

 

 

 

「ちょっとアンタ!!」

 

 

「ん? なんだハンバーグ、お前も休憩か・・・って何で腕を引っ張るんだよ!!」

 

 

「うるさい!! 保健室行くわよ!!」

 

 

「見てたのか!!・・・どうせもう閉まってるだろ、別にたいしたことないから大丈夫だよ!」

 

 

「でも!!」

 

 

「落ち着けよ、ホラ。」

 

 

自販機の取り出し口から缶を取り出して私に投げる。突然の事だったので手がもたついたが何とかキャッチできた。見ると白と茶色の液体が渦巻いているパッケージのホットココアだった。 アイツに視線を移すとまた自販機に小銭を入れていた。ガコンと音がして出てきたのは缶ではなくペットボトルのミネラルウォーターだった。取り出してすぐさま開けて口に含むと頬を左右に動かして近くのシンクの流しに吐き捨てた。ほぼほぼ無色透明だがわずかに残った赤色が排水溝へ引き込まれていく。

 

 

「な、もう血もほとんど出てないから大丈夫だよ。あと120円よこせ。」

 

 

「・・・奢る甲斐性くらい見せなさいよ。」

 

 

保健室に連れて行くのは諦めた。こうなったら意地でも行かない奴なのよねコイツ。

 

 

ホットココアのプルタブを開けて口をつける。ドロッとした熱い液体が喉を通って糖分が体に行き渡っていくのがわかる。疲れたときは甘いものがいいって言うが実感できた気がする。

 

 

しばらくお互い無言のまま隣に並んで水分を補給していた。そしてアイツのペットボトルの中身が半分くらいになったところで話しかけた。

 

 

 

「何で避けなかったのよ。」

 

 

しばらく間があった。何か考えてる様子はなく、ただ一点を見つめていた。

 

 

「避ける資格がないから。」

 

 

「は?」

 

 

「・・・黒森峰が10連覇逃しただろ? あの時応援席に居てな・・・負けが確定した時思わず言っちまったんだ。『フラッグ車を放っておいて味方を助けるとかバカなのか!!』って・・・そしたらさ、『くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ!!』って横から怒号と鉄拳が飛んできたんだよ。殴り飛ばされて、誰だ?って相手みたらリーダーだった。 そこから俺とリーダーの殴り合いの喧嘩。当時の整備班の班長に止められるまでお互い本気で殴ってたな。」

 

 

 

「・・・初耳だわ。」

 

 

 

「まあ目撃者が整備班だけだったからどうにかもみ消したしな。んで、そこからしばらくリーダーとは口を聞かなくなった。・・・当時の俺はさ、『何故俺が殴られなきゃいけない!自分は間違っていない!!悪いのは副隊長だ! 制裁を受けるなら副隊長のアイツだろ!』って考えだったんだよ。そしてアイツは転校した。・・・そこで初めてわかったんだ。心が全然晴れなくてさ、自分が間違っていて自分がどんだけのクズだったかって事が。すぐにリーダーに土下座しに行ったね。そしたらリーダーが『謝るべき相手は俺じゃないだろ。いつか絶対・・・どんだけ時間がかかってもいい。ちゃんと謝れよ。』

それだけ。自分が殴られたことに関しては何とも思ってないんだよなぁ~あの人。技術面でも凄いし。勝てる気がしない。いや、絶対に追いついてやるけど!!」

 

 

 

長々と話を終えると喉が渇いたのだろう、一気に残り半分の水を飲み干してペットボトルを空にしてゴミ箱に入れた。そして結論を言う。

 

 

 

 

「まっ、そんなわけでさっきのあいつらは昔の俺と一緒なんだよ。だから俺には避ける権利がない。それだけの話さ。」

 

 

 

 

そう言って少し自嘲気味に笑った。白い歯が見えて血がついてないことを確認できて少し安心する。

 

 

コイツの事が気に入らない理由がわかった。嫌というほど私に似ているんだ。あの子を嫌っていた時期があったこと。未だに謝れていないこと。自分のことがあまり好きではないところ。そして・・・追いつけそうもない背中を、「憧れ」を追いかけているところが。

 

 

 

「ねぇ。」

 

 

「ん?」

 

 

「今度、ちゃんと大洗に行きなさいよ。」

 

 

「・・・・おう。」

 

 

「来年、絶対に優勝するわよ。」

 

 

「当たり前だ。」

 

 

 

お互い、拳を軽くぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは過去にケジメをつけて全力で前に進む。

 

 

進む先が崖だと言うのなら共に飛び降りて、共に地まで落ちて、そこから共に這い上がって、どちらかが倒れたのなら起こして支える。誰に笑われたとしても。

 

 

 

すべては「憧れ」に追いつく為・・・いや、「憧れ」を追い越す為に。

 

 










とりあえず初エリカでした。結構リクエストが多かったのでやっぱり人気キャラなんですね。さすがハンバーグさん!!

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