いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

26 / 39

ガルパン劇場版公開1周年おめでとうございます!!



タイトルは某漫画です。

















ヨコハマ買い出しホニャララ

 

 

 

 

 

ハァと、息を吐くと白い霧が出るそんな季節になった。あと1ヵ月以上は先だというのに街並みはイエス・キリストの生誕祭の飾りつけで染まっている。イギリスではどんな風にクリスマスを過ごすのだろう?昔習った気がしたが忘れた。帰ったら調べておこう。

 

例年通りの寒い気温の嫌気を体で表すように猫背になりながらコートのポケットに手を突っ込み、俺はある店を目指していた。学園艦が横浜へ帰港した本日、どうしても仕入れておきたいブツがある。細い路地をいくつか抜け、姿を現す木製の看板。擦れていて見にくいがそこには紅茶専門店と書かれている。

 

 

少し立てつけの悪い木のドアを開けるとギィと重苦しい音が鳴る。中に入ると様々な茶葉の香りが鼻腔をついてくるが不思議なことにこんなに色々混ざっているのに嫌にならない。むしろ心地よい。

 

香りを数秒堪能し、カウンターに目を向けるとつまらなそうな顔をした初老のメガネの男性と目が合った。ここの店主だ。俺を見るなり先ほどの顔とは打って変わって、年の割には綺麗な歯を見せて笑ってきた。

 

 

「久しぶり。そうか、学園艦来るの今日だったか。」

 

 

「お久しぶりです。ええ、なのでいつもの貰いに来ました。」

 

 

「はいよ。いつものダージリンの茶葉多めのセットね。あと飲んでいきなよ。」

 

 

「ありがとうございます。いただきます。」

 

 

そう言い、俺がカウンターに座ると店主は慣れた手つきで棚に置いてある茶葉の入った銀色の缶を開けて持ち帰り用の小さな缶に移しはじめた。作業をしている店主に俺は学園艦であった他愛もない話を始める。これが俺たちのいつものやりとり。店主はとにかく人の話を聞くのが好きな素敵な紳士なのだ。俺は愚痴も吐けるしギブ&テイク。ちなみにお互いに名前は知らない。今更聞くのも野暮ってものだ。

 

 

そして1時間ほど雑談と名も知らない店主の紅茶を愉しんだ俺は缶の入った紙袋を受け取り、会計を済ませる。

 

 

 

「ありがとうございます。また来ますね。」

 

 

「ああ、楽しみに待ってるよ。」

 

 

店主の笑顔を背に、立てつけの悪いドアを開けると今度は冬の空気の匂いがした。紅茶で体が温まったおかげで帰りの足がすごく重くなる。まだ16時過ぎだというのにあたりはもう暗闇が迫っていた。紙袋を片手に持ち、もう片方をコートのポッケに入れて来た道をトボトボと歩く。狭い路地から大通りに出ると早くもチラホラと街灯がつきはじめていた。少し眺めていると何となく感傷的になる。冬の空気のせいだろうか。不意についたため息で白い息が見えてしまってさらにそれを助長させる。そして早く帰りたいという気持ちも強くなった。

 

 

早く帰って暖を取ろうと思い、早足でいくつもの街灯を過ぎ去っていると大きな本を持った金髪の女性が目に入った。何やら大きな本を広げて不安な眼差しであたりをキョロキョロと見渡している。恐らく外国人の観光客だろう。

 

 

 

「What’s the matter?(どうしましたか?)」

 

 

「oh・・・I lost myself.(迷子になってしまいまして。)」

 

 

「Where do you want to go?(どこへ行きたいんですか?)」

 

 

「Here.」

 

 

 

声を掛けていくつか質問してみるとガイドブックのあるページを指差した。見ると Yokohama Station と書かれていた。

 

 

「If you go straight down this road, you will see that station.(この道を真っ直ぐ行くとその駅が見えてきますよ。)」

 

 

「Wow! Thank you!!」

 

 

 

そう言うと急に抱きしめられた。ずいぶんと情熱的な人のようだ。なんだかサンダースの隊長さんを思い出すな。長い髪が揺れて鼻を突いてくる。体は寒いが顔だけは少し熱くなってしまった。

 

 

 

ブンブンと手を振ってくる彼女を見送り、再び街灯沿いを歩く。火照った顔を冷ます為にそそくさと歩みを進める。すると気づいたことがある。・・・・尾けられている。だが何となく人物は予想できた。それを確認するため、わざと路地に入りそこで息を潜めその人物を待つ。

 

カツカツと間を置かずに聞こえてくる音でその人物が急いでこっちに向かってきていることが伺える。そして路地に入るため曲がったところで鉢合わせた。驚き、身を少し引きそうなところを突いてそいつの身に着けていたニット帽とサングラスを外す。

 

 

 

 

「何してんだ?ダージリン。」

 

 

 

そう、ダージリンが俺を尾行していた。ご丁寧に尾行の3種の神器、帽子、サングラス、マスクをして。そのうちの2つは奪い、残った1つのマスクで彼女の口元は見えないが恐らく今は口をあわあわとさせているだろう。

 

 

顔が温度計のように下から上に赤くなっていき、顔を両手で隠し彼女は言う。

 

 

 

「・・・人違いじゃございませんこと?」

 

 

 

この淑女はどこまでも強情のようだ。しかたない、淑女に対しては紳士の対応でいかないとな。

 

 

 

「これは失礼いたしました。私の彼女に似ていたものでつい・・・その彼女っていうのがですね、事ある毎に格言を使ってきましてもう正直うんざ「何ですって!!ハル・・・・・・。」

 

 

 

かかった。

 

 

 

「なんだい?ダージリン。」

 

 

 

顔を覗き込んで聞くと耳まで真っ赤にしてポカポカと胸を叩いてきた。あー、いたいいたい。

 

 

「・・・・バカ。」

 

 

 

普段は皆の前では上品に振舞っているのに虚を突かれるとすぐさま崩れてしまう。そこのギャップがたまらなく愛おしい。こんな反応をされたらもう紳士の振る舞いは出来ない。俺は3種の神器の残りの1つと、それによって隠されていたものを奪った。

 

 

「んっ!!!・・・・・」

 

 

 

突然のことでダージリンが声を発したがそれもコンマ数秒のこと。人気のない路地裏で良かったと頭で思いながらしばらく沈黙を続けた。

 

 

 

 

「ハァー。・・・機嫌直ったか?」

 

 

 

 

本日何度目かわからない白い息を吐きながら潤んだ瞳の彼女に聞いてみる。

 

 

 

「・・・・・。」

 

 

返事の代わりに俺の手を握ってきた。ポケットに突っ込んでいた方の手なので温かい。対照的に彼女の手はとても冷たかった。彼女の体が少し心配になりながらもいつまでもここにいるわけにもいかないと思い、手を握ったまま大通りの方へ戻る。

 

 

 

「・・・で、何で尾行してたんだ?」

 

 

手を繋ぎながらしばらく歩いたところで一番の疑問を聞いてみる。

 

 

 

「・・・あなたが横浜に帰港するなりすぐに出掛けたから気になったのよ。」

 

 

 

 

ここまでくるともう素直に答えてくれる。うむ、いいことだ。・・・ってことは最初から尾けてきてたのか!? そんなに気になることかね? ん? あっ、そういうことか。

 

 

 

「もしかして浮気してると思った?」

 

 

繋いでいた手が僅かに強くなった。肯定と見ていいだろう。

 

 

 

「ははっ、信用ないなー俺。」

 

 

冗談っぽく言ってみる。

 

 

 

「・・・あなた今日、外国人に抱き着かれていたじゃない。」

 

 

 

ぐはっ!! わ、忘れていた!!思わぬところでカウンターがきた。

 

 

「こ、困っている人を見たら助けるのが紳士の役目じゃないかなぁ?」

 

 

「ふ~ん。」

 

 

ジト目で見てくるのやめて、お願い、やめて。

 

 

顔を合わせないままでいると軽くため息をつかれ、そして繋いでた手が離れた。

 

 

 

「ハルキ。」

 

 

 

真剣な彼女の声。その声の方を見ると彼女は俺の持っていた紙袋を指差していた。

 

 

 

「そっちの手も繋ぎたいわ。」

 

 

 

「かしこまりました。ダージリン様。」

 

 

紙袋を持つ手を変え、フリーになった手を見せてニヤリと笑う。すると彼女がその手の方へ回り込んでくる。そしてお互いにまた指を絡め合う。

 

 

 

「・・・冷たいわね。」

 

 

「お互いにな。・・・すぐに温かくなるさ。」

 

 

「帰ったら今日は私が紅茶を入れてあげるわ。」

 

 

「それは光栄だな。」

 

 

 

 

 

 

お互いに悴んだ手を握りながら学園艦へと歩く。彼女の入れてくれた紅茶が飲めると思うと嬉しくなってつい早足になり、彼女に怒られた。それも一興。

 

 

 

 

今日買った茶葉はどれを使うかなんて聞くのは俺達には野暮ってものだ。

 

 

 

 



















文中の英語は適当なんで「筆者は英語を勉強した方がいい」とかいうコメント等はやめてください。

もちろん間違っていたらご報告くれると嬉しいです。





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。