あまり投稿できなかったですが今年1年お世話になりました。来年もマイペースですが、よろしくお願いいたします。
「贅沢をする」と聞いてどんなことを思い浮かべる? 高級なものを食べる、旅行へ行く、自分の欲しいものを沢山買うetc・・・人によってそれらは違うが大半のものが対価としてかなり散財してしまうことが多いというイメージがある。贅沢というのは言い換えれば普段とは違うことをするではないだろうか。だから少し工夫をすれば贅沢なんてものはあまりお金をかけずに作れる。・・・・と偉そう語ったがココ、聖グロリアーナでは定期的にお茶会などを開いて高級な紅茶とお茶菓子を嗜んで結構な贅沢ぶりを発揮している。しかしだからこそそれが日常化してしまい、最近では贅沢をしているという認識がなくなっている気がする。なので俺は贅沢なお悩みを持つお嬢様達にいつもとは少し変わったお茶会を開くことにした。今回はそんな話だ。
秋も深まってきて学校の木々が模様替えをはじめ、色合いが落ち着いて来たそんな季節、俺はいつものお茶会の部屋に1人佇んでいた。今日は戦車道の練習はないのだが今度の試合の作戦会議があるらしく、紅茶の名を持ったお嬢様方は今は別室にいる。練習がないのであれば整備もやることが少ない。故にやることをさっさと終わらせた俺は1人待ちぼうけ状態というわけだ。
椅子の背もたれに全体重を預け、そのままズリズリと下がっていき足を投げ出す。聖グロの生徒としてはあるまじき行為だが、他に誰もいないのならそれはそんな行為がなかったことと同じだ。
(部屋の天井を見るのも飽きたな。)
「よっと!」と勢いをつけて立ち上がり、視線を天井から窓の外の中庭ヘ移す。女心と秋の空とはいうが今日は快晴で風も少なくTVのアナウンサーも降水確率0%と伝えていた。えっ?本当は男心と秋の空? 別にどっちでもいいよ。とにかくいい天気だってことを伝えたかっただけなんだから。そういうツッコミは野暮ってもんだぜ。ウチの隊長だったら確実に格言で返してるな。恐らく「こんな格言を知ってる?4本足の馬でさえ躓く。」あたりかな? いや違うか?・・・ ってこれもどっちでもいいよ!! 話を戻すぞ!
窓の外を見た俺は空の青から葉っぱの赤へと目線を変えた。
(そういえばタクマからおすそ分けしてもらったりんごが余ってたよな。)
見慣れてしまった風景の色から旧友にもらった果物を連想した俺はある考えが浮かび、早速実行することにした。
・・・
・・
・
「アッサムのデータもたまには役に立つのね。熱く語ったせいで長引いたけど。」
「たまにはとはなんですか! まったく。」
「まぁまぁお二人共、ハルキさんが紅茶を入れて待ってるでしょうからそれを飲んで落ち着きましょう。」
「そうね。ハルキ、準備はできてい・・・居ないわね。」
「何やら置手紙がありますわ。『窓の外をご覧ください』?」
「!! ダージリン様、アッサム様! 見てください!!」
置き手紙に気づいたようだ。窓からオレンジペコちゃん(普段はちゃんと『オレンジペコさん』って呼んでるぜ。)が外でお茶会の用意をしている俺に軽く手を振ってくれる。うん、かわいいね。後に続いてアッサムさん、ダージリンの姿が見えて「あら?」といった表情を確認できた。
俺が何をしたかだって? 特別なことはしてないさ。ただ、紅葉が彩る中庭の中央にお茶会の席を設けただけさ。おっと、お嬢様たちが来たようだ。お出迎えしなくては。
「『これは、これは、紅茶の名を持つお嬢様方、ようこそ、ようこそ。』」
「あら? 別に今日はかかとの高い靴は履いていませんわよ。」
「ふふふ。ハムレットですね。」
わざととぼけた顔をしてノッてくれるアッサムさんに、そんな俺達のやり取りを見てクスクスと笑うオレンジペコちゃん。ああ、頑張って柄にもないシェイクスピアを読んでいて良かったと思える。
「『森の中に阿呆がおりますわね。』」
前言撤回だ。この紅茶のシャンパン女め、普通にシェイクスピアを混ぜて必死に俺が用意した席をディスってきやがった。まあいいだろう、こんなことで腹を立てていては紳士の名折れ。それに彼女との付き合いも長い、これもちょっとしたお戯れにすぎないのさ。
「『お気に召すまま。』」
だから作品のタイトルを返す程度でやり取りを止め、勝ち誇った顔をする彼女の為に椅子を引く。さあ、楽しいお茶会をとっととはじめよう。
用意しておいたティーポットを傾け、カップにゆっくりと注いでいく。 茶色い水面はお嬢様方の優雅な顔を映しその唇を潤す。
「!! 今日のお茶はダージリンティーのようですけどいつもとは違う気がしますね。」
「さすがです、オレンジペコさん。本日はせっかくですので秘蔵の・・・私の一生もののダージリンを入れさせていただきました。」
この茶葉は俺の誕生日にダージリンから貰ったものだ。結構高価なものらしく、恐れ多くて常用なんて出来なかったがずっと置いていて浪費するのも茶葉も本望じゃないだろう。だから今日の『贅沢』に使わせてもらった。
「~♪」
目に見えてご機嫌になるダージリン。 勝ち誇った顔に拍車がかかる。単純だね。 あっ! アッサムさん、ため息つくのやめてください!! なんか今更になって恥ずかしくなってくるから!!
恥ずかしさを抑え一息ついた頃、本日のお茶菓子をテーブル中央に差し出す。
「アップルパイを試作してみましたのでよかったらどうぞ。」
「わぁ~、すごい!! ハルキさんがつくったんですか?」
「食堂の厨房でも借りたの? よく作れたわね。」
「ははは・・・いや~、まあ、その、色々頑張りました。」
言えない。ホットケーキミックスを混ぜ林檎を入れて寮に隠してある炊飯器で炊き上げて作ったアップルパイだなんて言えない。とてもお嬢様には思いつかない一般家庭の知恵の味だ。さてお口に合・・・
「まるで庶民の味ね。」
いつの間にか食べていたダージリンが口元を少し汚しながら言う。ダージリン、おまえ全部見抜いてるな。貴方みたいな勘のいいお嬢様はお嫌いですわまったく。ってか結構食ってるじゃねえか!!
「これは失礼いたしました。すぐにお下げ「誰が食べないと言ったかしら?」
「いえいえ聖グロリアーナの隊長ともあろうお方が『庶民の味』のするアップルパイを食するなどいけません。」
皿を取り上げようとしたが両手で掴んできて離さない。優雅とはかけ離れた行動ではあるが器用に顔だけはそれを保っている。
「こ、こんな格言を知って「申し訳ございません。庶民の育ちなので自得しておりません。」
「まだ何も言ってないわよ!!」
当然、力では俺に敵わないようで余裕がなくなってきた。さてどうやってもっと余裕をなくしてやろうかと思っていたがアッサムさんの「やめなさい!!」の一言で強制的にケリがついてしまった。少しお戯れが過ぎたようだ。俺としては消化不良な部分もあったがアッサムさん、オレンジペコちゃんが食べて「おいしい」と言ってくれたので良しとすることにした。
陽が紅葉とおそろいの色になりはじめた頃、少し風が吹き、続くように葉が校舎へ駆けていく。思わず目で追いかけてしまった。だってそれは
「ダージリン様と初めて出会った時もこんな風でしたね。」
俺とダージリンが出会いは1年生の時、ココの中庭だった。 きっかけは彼女が風に飛ばしてしまったハンカチを拾ったこと。えっ?ちょっと出来過ぎてるって? そう、実は裏があるんだ。もうちょっと後で話すよ。
「そうね。あの時、舞っていたのは桜とハンカチだったけど・・・季節を使い捨てて生きてるのね、私達。」
「? どなたかの格言ですか?」
「ハルキに教えてもらった歌の一部よ。」
「私は旧友から教わったんですけどね。」
「貴方に教わったということに意味があるのよ。」
だいぶ感傷に浸っているようだ。無理もないか、俺だって最初の出会いを思い出してしまったのだから。季節を使い捨てて生きてる・・・か。
ダージリンと出会った春はもう味わうことは出来ない。彼女をはじめて視界に入れた時の胸の鼓動、空気の匂い、ハンカチを拾って手渡した時の感触、すべてが使い捨て。なんと贅沢な話だろうか。季節が巡ってまた春が来たとしてもそれは同じ春ではない。こんな言葉を知っているか? 『今日という日は、残りの人生の最初の日である』・・・・っと、俺もずいぶんと彼女に毒されたもんだ。
紅茶のおかわりを注ぎながらテーブルを回っているとオレンジペコちゃんが「素敵な出会いですね」と言ってくれた。だが現実はそうドラマティックに出来ていない。裏を話すとしよう。
「実は私も後からとある筋から聞いたのですが・・・その時ダージリン様はわざとハンカチを落として私に拾わせたのですよ。」
「!!!」
今日初めてダージリンの表情が崩れた。目を見開いてこちらを見てくる。「何故そのことを!?」という心の声がよくわかる。逆にその言葉以外に適切なセリフが入らない。そんな表情だ。
「・・・・ふっ。」
肩を揺らして必死に笑いを堪えるアッサムさん。いや震えすぎですよ、教えてくれたのあなたじゃないですか。
カンッ!!!!!
突如、カップをソーサーに強く置く音が響く。
「失礼しますわ!!!!!」
俺を睨みつけ、立ち上がって早足で去っていく。あーあ、拗ねてしまわれた。
「データによりますと恐らく・・・」
素早く、かじりかけの林檎がロゴマークのタブレットを取り出してダージリンの行き先を伝えようとしてくれるアッサムさんを手を突きだして制止する。
「そうね。あなたには必要なかったわね。じゃあ後の事はよろしく。」
「はい、おまかせください。」
一礼して俺は歩き出す。拗ねたお嬢様の元へ。
・・・
・・
・
閑静な戦車倉庫内に入り、電気をつける。よく見慣れ一番整備したであろう戦車、チャーチルに向かって迷うことなく歩を進め、登り、キューポラに近づく。
「ご一緒してもよろしいですか? お嬢様。」
「・・・なんで場所がわかるのよ。妬ましいわ。」
「芳しい林檎の香りがしたものですから。」
「嘘よ。」
「本当ですよ。ほら、ここから。」
「んっ!!」
疑う彼女に証拠を突きつける為、唇を落とす。少しジタバタしたが、すぐに大人しくなって唇を離すと体を俺に預けてきた。そして今日の不満をぶつけてくる。
「わざとだと気づいていても皆の前で言うことないじゃない。」
「『庶民』は口が軽いもので。」
「そう。じゃあ塞がなくちゃいけないわね。」
首に手を回され、ゆっくりと近づいてくるそれを受け入れる。ああ、贅沢すぎる。
どう表現したらいいかわからない喜びの感情が溢れ出しそうになり、それを必死に体現しようとして思わず彼女を思いっきり抱きしめる。
「ん・・はぁ。 少し痛いわ。もうちょっと丁重に扱ってくださる? だって・・・」
お互いの汗が、鼓動の音が、息づかいが漏れる車内で彼女は俺の耳元で囁き詠う。
「私は貴方の一生ものですもの。」
ああ、本当に贅沢すぎる。今この瞬間も、誰も保存しておくことが出来ない使い捨てだというのだから。
最終章の新キャラたちの恋愛も書きたい~。そして読みたい~。