いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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ケイ隊長は恋するところを想像するのが難しいですね。

















サンダース大学付属高校
ダウナー系


 

 

無駄に広い格納庫の中で1台の戦車と向き合う。後ろを振り返れば同じ戦車が何台もあり、各台戦車を整備する人間がいる。俺もそのうちの1人。今日のノルマは終わった。

 

 

 

「班長、ノルマ分終わったんで帰りますね。」

 

 

 

「ああ、お疲れー・・・ってダウナー、あんた大丈夫? また、目の隈ひどいわよ。」

 

 

 

「ああ、いつものことなんで大丈夫っす。じゃ、お先に。」

 

 

 

3年の女班長に挨拶して荷物をまとめて作業着のまま格納庫を出る。

 

 

 

 

ダウナーってのは俺のあだ名だ。つけられた理由はいくつかある。

 

まず班長が言ってた通り、俺は目の隈がひどい。隈ができやすく、1回できてしまうとなかなか取れないのだ。

 

このサンダース大学付属高校ではどこの科も生徒が多いので、徹夜で整備をするということは少ないのだが、珍しく数日前にあった。その隈がまだ取れないでいる。

 

次に生まれつき、目つきが悪い。常に睨んでいるように見えるそうだ。なので第一印象は最悪。おかげでマンモス校であるこの高校で、友人は少ない方だろう。

 

 

そして俺の性格がここの校風と合っていないのが最大の理由だ。明るくフランクな

アメリカ気風の奴らが多い中、俺は感情をあまりおおっぴらにしない・・・というか出来ない性格なのだ。学校生活が楽しくないわけではないのだが、どうも周りからはそのせいでテンションの低い奴と思われがちのようだ。

 

 

以上の理由からダウナー系男子の称号を欲しいままにした俺は、何のひねりもなくダウナーと呼ばれることになった。もう否定するのもめんどくさいので好きなように呼ばせている。

 

 

そして2年生になった今ではもう皆ダウナーでしか呼ばなくなった。別にいいけど。

 

 

 

 

寄り道せずにまっすぐ帰るべく中庭を通って校門を目指していると男女の姿が目に入った。何やら軽く言い合っているようであるが・・・

 

 

 

「いいじゃん。付き合おうぜ~。」

 

 

「NO!!何回も付き合わないって言ってるじゃない。しつこい男は嫌いよ。」

 

 

 

 

どうやら男が告白したようだが振られたらしい。しかしそれを認めず女の子に何度も迫っているようだ。生徒数が多いだけにこういう輩も少なからずいるようだ。

 

 

 

男女がしばらく言い合っていると女性の方と目が合い、俺の方に駆け寄ってきた。

 

 

「ハァーイ、ダーリン。遅いわよ。」

 

そう言って俺の腕に抱き着く。突然のことで固まる俺氏。

 

 

 

「私のボーイフレンドよ!!だからあなたとは付き合えない。諦めてちょうだい。」

 

 

ふと俺が男の方を見ると一瞬たじろいでそのまま背中を向けて帰って行った。恐らく睨んでいると思われたのだろう。この目つきで得をしたのは初めてだ。

 

 

 

 

「ふぅ~。」

 

 

「はぁ、モテモテっすね。ケイ隊長。」

 

 

「えっ?なんで名前・・・あっ、うちの整備班の作業着。」

 

 

 

よほど必死だったようで俺の格好に今気づいたようだ。

 

生徒数が多いとはいえさすがに整備班なので隊長の顔と名前くらいはわかる。

 

 

 

「あの・・・そろそろ腕いいっすか。」

 

 

先程から腕に隊長のナイスバディを押し付けられて色々と沸騰しそうなのだ。

 

 

「oh,sorry。・・・あなた隈がすごいわよ!!大丈夫?」

 

両手で顔を掴まれ、隈がある部分に親指を当てられる。・・・色々と大丈夫じゃない。特に顔が近くてウェーブのかかった髪が頬に当たっていい匂いがしてくるのが大丈夫じゃない。

 

 

理性が危うかったので近くにあったベンチに座って話すことを提案した。そこで自己紹介も含めてこの隈の件も説明、あとダウナーのあだ名についても。

 

 

 

「アハハ、だからダウナーって言うの?面白いわね。」

 

 

 

「おかげで本名覚えてるやつほとんどいないっすけどね。」

 

 

 

「あっ!! ねぇねぇ、ダウナー系。ダウナーケイ。ダウナーとケイ。なんちゃてアハハハハハ。」

 

 

自分の放ったギャグで笑いながら俺の肩をバシバシ叩いてくる隊長。他の生徒だったら一緒にガハハと笑っていそうだが生憎、俺はそうじゃない。ケイ隊長、ただただ面白くないっす。

 

 

 

無言の俺に対して特に気にせず話を続ける隊長。

 

 

「そうだ。連絡先教えてよ。明日お礼をするわ。」

 

 

「いや、いいっすよ。特に俺何もしてないし。」

 

 実際ただ突っ立ていただけだし。

 

 

「NO!!それじゃあアンフェアよ。何であれ私は助かったの。お礼をさせてちょうだい。」

 

 

「はぁ、わかりました。」

 

 

隊長の押しに負けて携帯を取り出し連絡先を交換する。交換が終わると満足した顔でウンウンと頷く。大人の明るいお姉さんってイメージなのにたまに見せてくる子供っぽい表情がかわいい人だなと思う。

 

 

「OK。じゃあダウナー、明日連絡をいれるわ。」

 

 

「ああ、はい。わかりまし「今日はありがとう。おやすみなさい。」

 

 

 

俺の返事を待たずして耳元で囁かれて頬にキスをされた。

 

 

「じゃあ。」

 

 

そう言って鞄を持って振り返らずに帰っていく。非常にサバサバしている。

だがそれがウチの校風なのだ。頬にキスされたことにあまり驚きはしなかったが、もうお礼はこれでいいんじゃないか?と思った。だってお釣りがくるよ。

 

 

思いつつも言葉には出せず、キスされた頬を押さえて去っていく隊長の背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の昼、隊長からメールが入った。食堂の指定した席に来て!!とのこと。

 

 

向かうとテーブルにステーキ皿が2つ並んで油が踊り跳ねながらジュウジュウと音を奏でている。その皿の前に笑顔の隊長。俺を見つけると大げさに手招きをする。

 

 

「ダウナー!!こっちこっち!!」

 

 

「・・・隊長、これは?」

 

 

「んー?昨日のお礼。」

 

 

「いや、コレ食堂で一番高いヤツっすよね?」

 

 

そう。ウチの高校の食堂も例に漏れずアメリカ気風でハンバーガー、ステーキ、バーベキューが主流ときたものだ。しかもどれもアメリカサイズ。そしていま俺の目の前にある肉だが普通に学生身分が昼に食っていいものではないものだ。たぶん数千円くらいはするだろう。お口に入れた途端溶けるヤツじゃなかろうか。 そもそもなんでこんなものが学食にあるのだろうか。

 

 

「・・・・払います。」

 

 

ポケットから財布を取り出そうとしたが素早く腕を掴まれた。

 

 

「NO!!ダメよ。お礼って言ったでしょ?」

 

 

「いや、これお礼の範疇超えてますよ。」

 

 

「そうだとしてもよ!!・・・よし、隊長命令よ。黙って食べなさい。」

 

 

 

 ああ!!それはずるい!!そんなん言われたら断れない!!

 

 

グヌヌと言った感じで黙っていたが諦めてハァとため息をついた。

 

 

「・・・イエス、マム」

 

 

「よろしい!! じゃあ食べましょう。」

 

 

 

 

隊長と一緒にステーキを食べ始めた。口に入れた途端に溶けてなくなることはなかったが非常に柔らかかった。美味である。故に複雑であった。ただ突っ立ていただけでこんなおいしいご飯をごちそうになっているのだから。

 

 

 

 

「ご馳走様でした、隊長。」

 

 

 

「どういたしまして!!」

 

 

 

 

隊長に手を合わせて頭を下げるとニコニコと返事をしてくる。食後の水を飲んでいると隊長が話しかけてくる。

 

 

 

「ダウナーってさ、どういう女の子好きになるの?」

 

 

 

「ブフッ!!・・・・何ですか急に?」

 

 

 

「sorry。いや~実はね・・・」

 

 

 

 

困り顔で隊長はさっきの質問の意図を語ってくれた。

 

実は昨日、隊長に告った男(以下チャラ男先輩)にすぐ俺と隊長が付き合っていることが嘘だとバレて、また朝にしつこく言い寄られたらしい。そこで隊長が「あたしのどこがいいの?」と聞くと「顔と体」と返ってきたとのこと。いやダメだろチャラ男先輩、正直すぎるよ。もう完全に目的がハッキリしてるよ。なんでもオープンにすればいいってもんじゃないよ。

 

 

そんな返答が返ってきたものだから「男ってみんなそうなのかしら?」と思った隊長は身近男子かつ聞きやすい後輩の俺に先ほどの質問を投げたのだろう。

 

 

いや、しかし困った。チャラ男先輩の回答も真理といえば真理であるからなぁ。あと俺、恋愛経験あんまりないし。

 

 

「で?どうなの?ダウナー?」

 

 

ニヤニヤしながら聞いてくる隊長。後輩からかって楽しんでいるな。・・・正直に答えるか。

 

 

 

「まあ、顔と体が良いって回答もありなんじゃないですか? 短い付き合いならば。ただ、俺は付き合うなら長く付き合いたいんで顔と体だけが全てじゃないですね。だってその2点は衰えていく一方ですし。」

 

 

 

隊長が真顔になる。変なこといったか?まあ、いいや続けよう。

 

 

 

「趣味が合うとか、一緒にいて安心するとか、何でもいいんですけど、何か1つ『ああ、この子のこういった部分、一生好きでいられるなー』って思わしてくれたらその子のこと好きになりますかね?・・・答えになってますかね?」

 

 

ちゃんと伝わったか不安になったので確認してみる。

 

 

「Great!! you're nice guy !!!」

 

 

全部英語で返ってきた。たぶんかなり喜んでもらえたのだろう。サムズアップしてるし隊長。

 

 

 

 

「じゃあ次、隊長の番ですね?」

 

 

 

「えっ?私?」

 

 

 

「隊長はどういう男、好きになるんですか? 俺だけ答えるのはフェアじゃないですよね?」

 

 

 

あんだけ恥ずかしいことを言ったのだ。隊長にも是非、答えてもらおう。

 

 

 

 

「え、えーと。わ、わたしはね~。」

 

 

 

はじめてみる隊長の焦り顔。顔も徐々に赤くなってゆく。新鮮だ。

じーっと隊長の顔を見ていた。すると

 

 

 

「あっ、授業始まるから私もう行くね!!」

 

 

逃げられた。気づくともう豆粒くらいの大きさになる距離にいた。速い。そしてずるい。

 

 

 

しかし肝心のチャラ男先輩の件が何一つ片付いてはいない。先輩故に俺が注意することも難しい。隊長は大丈夫だろうか? そんなことをぐるぐる頭の中で何回も考えても解決策は出ず、時間だけが過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、何かいい方法はないかと考えながらいつもの整備を行っていると遠くから声が泳いでくる。

 

 

「ダウナー、ちょっといい?」

 

 

見ると班長が手招きして呼んでいる。

 

 

 

「なんですかー?」

 

 

 

そう返して近づいていく。すると周りを整備班の女子たちに囲まれた。

 

 

 

「ダウナー。お昼ご飯、隊長と食べていたよね?・・・どういうこと?」

 

 

 

忘れていた。隊長は男子にモテモテなのだが女子にはもっとモテモテなのだ!!

食堂で2人きりで隊長と後輩男子整備士が仲良さそうにご飯食べている。

これは事情聴取案件だ!!と、目撃者たちは整備班ガールズにチクったのだろう。

 

もう笑顔で聞いてくる班長の後ろに嫉妬の炎が見える。周りの女子たちも同様。

なんだよ、もう!! 俺は何も悪いことしていないのに!! 悪いのはあのチャラ男・・・あっ、そうか。

 

 

 

 

「実はですね・・・・」

 

 

 

俺は昨日の出来事をすべて話した。そしてチャラ男先輩の特徴も。

 

 

 

 

「・・・なるほどね。そいつに心当たりのあるやついる?」

 

 

 班長が言うと数名が手を挙げる。きっと悪い意味で有名なのだろう。

 

 

「よし、じゃあ今からシメに行くよ!!」

 

 

「「「イエス、マム!!!」」」

 

 

言い終わるとぞろぞろと格納庫を出て行こうとする。最後に出ていく班長に問われる。

 

 

「ダウナー、あんた」

 

 

 

「俺は何も聞いてません!!!!」

 

 

 

「よし!!じゃあ、整備してなさい!!」

 

 

 

「イエス!!マム!!」

 

 

 

 

そう、俺は何も聞いていない。女の恐ろしさなんて知らない。今日もいつも通り、ただ黙々と整備をしていただけだ。

 

 

 

 

 

後日聞いた話だが、チャラ男先輩はしばらく学校を休んだ後に登校してきたらしい。ただ、丸坊主になっていたとのこと。何かやらかしたのかね?俺の知ったこっちゃないがね。

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて整備の仕事はある。

 

 

 

 

「ダウナー、あんたが最後よ。」

 

 

 

「班長。戸締りしとくんで先に帰っても大丈夫っすよ。」

 

 

 

「お願いねー。・・・あんた隈、良くなってきたわね。」

 

 

 

「ええ、ようやく直ってきましたよ。お疲れ様です。」

 

 

 

手を挙げて班長を見送る。俺の整備が終わったのはそれから1時間後くらいだった。

 

 

 

 

戸締りを終え、中庭を歩いていると後ろから声をかけられた。

 

 

 

「ダウナー。」

 

 

 

「隊長。どうしたんですか?こんな遅くに。」

 

 

 

「あなたを待ってたのよ。また助けてもらったお礼を言ってなかったし。」

 

 

「俺は何もしてませんよ。お礼なら整備班の女子たちに。」

 

 

そう。何もしていない。1回目は突っ立ってただけ。2回目は目撃したことを女子たちに話しただけ。俺自身が自ら動いたことは何もないのだ。

 

 

 

 

「またそういうこと言う。」

 

 

近づいてくる隊長。

 

 

「そういえば言っていなかったアレ、今言うわね。」

 

 

 

「アレ?」

 

 

 

「私が好きになる男はね、年下ダウナー系でね、助けてくれたことを全然認めなくて、でも女の子との付き合いは真剣に考えていて、付き合ったらずーっと、ずーっと幸せにしてくれそうな人よ。」

 

 

 

隊長が真剣な眼差しで俺を見つめてくる。いつもの柔らかい雰囲気はそこにはない。

 

 

 

目を逸らせずにいると隊長がさらに近づいてきた。両手を俺の首の後ろに回して抱きつき、唇を重ねる。

 

 

「・・・・・・あなたのダウナー系なところ一生好きでいられるわ。・・・私の一生好きでいられる部分、これから探してくれる?」

 

 

 

軽く首をかしげながら笑顔で聞いてくる彼女に対する返答は決まっている。

 

 

 

「イエス、マム。」

 

 

言い終えると今度は俺の方から長いキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく直ってきた俺の隅だが、またしばらくはひどいままのようである。

もしくはずっとこのままなのかもしれない。だって彼女が一生好きでいてくれる部分なのだから。

 

 

 

 

 











やっぱりケイはキャラが掴みにくいっすw

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