いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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新年明けまして1ヵ月経とうとしてます。

(更新)空けましてすみません。 


知波単書くって決めたはいいものの、話が思い浮かばすスランプでした。
知波単って「突撃ー!!好きだ!!」で終わっちゃう気がしたので話をひねりだして毎日少しずつ書いては消しの繰り返しでどうにか本日。


どうぞ今年もよろしくお願いいたします。





知波単学園
知波単魂を胸に


燃え盛るようなオレンジと黒のグラデーションが遠方の山を染め、だんだんと黒の割合が多くなる。グランドに備え付けられたベンチに座って水筒のお茶を一口含み、喉を鳴らす。どこにでもありがちな風景であるのに心を持っていかれる気がするから、夕方が「逢魔が時」と言われる所以だろうか。 

 

 

思わず息を吐き、頬杖をつきながら景色を眺めていると突如、薄い灰色の煙が視界に割り込んできた。

 

 

 

「全車両突撃ーーー!!」

 

 

勇ましい少女の咆哮、発砲音も割り込んでくる。今度はため息をつきながら「もう少し感傷に浸りたかった。」と心の中で言い、首を下げ、水筒をしまってその場を後にする。この後、自分の仕事が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様であります!!金田殿!!」

 

 

戦車格納庫で戦車道履修者の帰りを待っていると同級生の福田の姿が見え、敬礼しながらこちらに向かってきた。

 

 

 

「お疲れ、福田。自分相手に敬語と敬礼はしなくていいだろ。同級生なんだから。」

 

 

「何を言っているのでありますか!! 整備士の方々にはいつもお世話になっていますのでこれくらいは当たり前であります!!」

 

 

「福田がそれでいいならいいけど・・・。 にしても相変わらずボロボロだな、九七式中戦車。」

 

 

弾の擦れた装甲面をなぞるように触る。ザラザラした感触が伝わり、ずっと触っているとこちらの肌が傷つきそうだ。

 

 

「突撃は我が校の伝統でありますから!!」

 

 

小さい体で背筋を伸ばして堂々と答える福田。だが俺は前々からその伝統に疑問があった。

 

 

「伝統ねぇ・・・考えなしに突っ込んでいっているようにしか見えないが。」

 

 

「なっ!? 伝統を愚弄する気でありますか、金田殿!!」

 

 

「突撃自体が悪いと言っているんじゃない。猪突猛進、直情径行、蟷螂の斧。少しは状況を考えて、自分たちの実力に合った行動をしたらどうだと言っているんだ。」

 

 

 

「ですがこの突撃の知波単魂で我が校は上位までいったことが・・・」

 

 

「それずいぶん昔の話だよな? 最近はどうだよ?」

 

 

「・・・・・・。」

 

 

福田は黙ってしまった。だが俺はお構いなしに言葉を続けた。続けてしまった。

 

 

「伝統だってのもわかるが時代に合わせてそれも変化させなきゃ・・・」

 

 

「うう・・・我が校の伝統・・・我が校の伝統。」

 

 

福田が目頭いっぱいに涙を溜めていた。

 

 

 

「うわーー!!! 福田、自分が悪かった!! 泣くな!!頼む!!泣くな!!」

 

 

俯く福田に対してアワアワと両手を振るという意味のない行動をする自分。傍から見れば滑稽だが客観的に自分を見る余裕なんてなかった。とりあえず福田に落ち着いてもらおうと思ったが何をすればいいのかわからない。

 

 

 

「こんなところにいたのか!! 福田、アキラ!!」

 

 

何も良い案が浮かばず背中に嫌な汗が溜まっていたところ、後ろから自分の下の名を呼ばれた。振り返るとそこには黒髪長髪で麗しい、日本人の多くが理想とするような女性が立っていた。

 

 

 

「「お疲れ様です!! 西先輩!!」」

 

 

福田はヘルメット、俺は作業帽に手を当てて寸分違わず敬礼をする。知波単学園に通っていれば敬礼の動作を一致させることは容易い。

 

横目でチラリと福田を見る。どうやら西先輩の出現で福田の涙は引っ込んだようだ。助かった。女性を泣かせたとなれば日本男児失格。知波単学園での俺の扱いは虫けら同然になるであろう。

 

 

 

「なかなかアキラが現れないんでな。心配したぞ。」

 

 

「申し訳ありません!!西先輩。」

 

 

 

そう、俺は西先輩の戦車担当の整備士なのだ。本来であれば2年生の履修者には2年の整備士がつくのが普通なのであるが・・・

 

 

 

「で、何をしていたんだ?」

 

「ちょっと福田と雑談を・・・。」

 

「どんな話を?」

 

「戦車道についてですね。」

 

「具体的には?」

 

「我が校の伝統について・・・。」

 

 

 

聞くたびに目を少しずつ輝かせながら自分にズンズンと近づいてくる西先輩。

 

この西先輩の「私、気になります!!」と言わんばかりに事細かく聞いてくる性格が災いし、整備が終わる度に必要以上に聞かれるのが嫌になり、2年の先輩方が誰も担当をやりたがらず、1年の俺に押し付けられたのだ。

 

 

「伝統・・・ほう、興味深い!! で伝統のどんなことを話したんだ?」

 

 

「・・・・。」

 

 

先輩に言えるわけがない。「むやみに突撃してますけどちゃんと考えてます?」なんて。先ほど福田には偉そうに言ったが、あれはあくまで同級生だからこそ言えた自分の個人的な意見である。ましてや一整備士である自分が戦車道履修者の先輩に進言するなんて・・・そこまで肝は据わってない。

 

 

「あ、あの!!そろそろ整備しなくてもよろしいんでしょうか?」

 

 

答えに困っていると横から福田の助けが入った。福田も空気を読んで先ほどの俺との会話は無かったことにしてくれたようだ。圧倒的感謝!!

 

 

「おお!!そうだった、そうだった。ではアキラ、今日も頼むぞ!!」

 

 

「はい!!」

 

短く返事をし、西隊長の戦車のある場所へと向かう。途中後ろを振り返り、声は出さず口だけを動かして福田に「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日も無事に整備が終わり、水筒のお茶で一服しているとコツコツとブーツの足音が響いてくる。先ほど述べた理由からもう誰かおわかりだろう。

 

 

 

「いつもご苦労!! アキラ、整備はどうだ?」

 

 

「お疲れ様です。えっとですね・・・」

 

 

 

いつもの質問攻めが始まった。専門的な部分もあるので噛み砕いて説明などをすると「なるほど!!」とウンウンと頷く西先輩だが、恐らく話の半分以上わかってはいないだろう。そんな部分もあり、余計な時間も取られるので整備士の先輩方は嫌になってしまったに違いない。

 

 

 

 

「非常に為になった! ありがとうアキラ!」

 

「いえいえ。」

 

 

数十分して質問が終わり「ではこれで失礼する。」と手を挙げて格納庫を後にした西先輩。

 

 

 

「おまえ、よく耐えられるよな~。なんで?」

 

 

 

西先輩が過ぎ去ったのを見計らって戦車の影から整備士の先輩が出てきた。

 

 

 

「なんでと言われましても・・・自分は別に嫌ではないので。」

 

 

「嘘だろ!? 何十分も拘束された上に本人は理解をしてないんだぞ!!・・・もしかしておまえ、西の事が好きなのか?」

 

 

「えっ?」

 

 

「ほら、例えば玉田や細見に同じことをされたと想像してみろ。」

 

 

 

玉田先輩と細見先輩に? 顎に手を当てしばらく考え込む。・・・嫌になるな。恐らく面と向かって言えないから学校に行かなくなる。じゃあ西先輩が好きという結論になるかと言われればそれは待ってほしい。

 

確かに西先輩には他の女性には無い何か特別な感情を抱いている気はするがこれが「好き」や「恋」といった感情なのか答えを出すには早すぎる。そう、思春期ゆえの勘違いかもしれない。そうだった場合、西先輩に対して凄く失礼だ。ここは慎重に見極めなくては。

 

 

「おーい、ちょっと来てー。」

 

突然、他の整備士の先輩の声が聞こえてきた。

 

「んー?ちょっと待ってろー。 じゃあ呼ばれてるから行くなアキラ。お前も終わったなら早く帰れよ。」

 

 

「えっ? あっ、はい! お疲れ様です。」

 

 

先輩も何気なく聞いたことだったのだろう。自分の返答を待つことなくさっさと呼ばれた方へ行ってしまった。残された自分は先輩の質問によって意識してしまった西先輩に対する感情の答え探しに追われることとなった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

「今日もご苦労、アキラ!!」

 

 

「お、お疲れ様です。」

 

 

「どうした? なんだか元気がないな。」

 

 

「い、いえ。 そんなことは。」

 

 

(近い近い近い近い!!)

 

 

1つ質問するごとに近づいてくるのは西先輩の癖なのだろうか。真剣な眼差しで見つめてくるので視線を下に逸らすがそこには豊満な2つの膨らみが・・・いかんいかん!!

 

 

あの日以降、西先輩に対して前と同じような態度が取れなくなった。「すぐに答えを出す必要はない。」と自分に言い聞かせても西先輩を前にするとどうしても意識してしまい不思議な焦燥に駆られる。

 

 

 

「ふむ・・・そういえば最近アキラは単車の免許を取ったらしいな。」

 

 

「? ええ。」

 

 

 

急に話題が変わったのと何故それを知っているのかで疑問符を浮かべる。・・・ああ、前に福田との雑談の中で話した気がするな。だから西先輩も知ってるのか。

 

 

 

「実は私も単車に乗るんだが、ウラヌスという単車でな・・・・。」

 

 

そこから西先輩の愛車話が始まり、適度に相槌をうっていると

 

 

「というわけでアキラ、今週末私と遠乗りしてみないか。」

 

 

「・・・・え?」

 

 

「運転の慣らしも必要だろう? それにいい場所も知っている。どうだ?」

 

 

「あっ は、はい!!お供させていただきます!」

 

 

 

あれ? 思わず返事をしてしまったがこれは逢引きなのでは?

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

戦車とは違った駆動音を鳴らしながら父から借りた単車に乗り、待ち合わせ場所まで来た。 ちなみに言っておくが赤いビッグスクーターではないぞ。 西先輩の姿は見えない。どうやらまだ来ていないようだ。しかしすぐに自分のとは違う駆動音が聞こえてきた。振り返ると緑色で目玉のようなライトの単車がこちらに近づいてくる。

 

 

 

「おはようございます、西先輩。単車カッコいいですね。」

 

 

「おはよう。フフッ、そうか。ありがとう。じゃあいくぞ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

 

先に行く西先輩の案内で学園艦の様々なところに行き、おすすめの店、休憩場所、道筋等を教えてもらって気づけばもう夕刻だった。最後に紹介したい場所があると言うのでついていくとそこは海と夕日がよく見える場所だった。

 

 

 

「ありきたりだと思われるかもしれないが私はこういう場所が好きなんだ。」

 

 

恥ずかしそうに笑いながら答える西先輩。実にこの人らしいと思った。

 

 

「・・・で、アキラ。最近何か悩んでいることがあるんだろ?」

 

 

「!?」

 

 

いきなり核心を突かれ体がビクつく。回りくどく言わないところもこの人らしい。

 

 

「気づいていましたか。」

 

 

隠しても仕方ないので素直に認めることとする。

 

 

 

「ここ最近よそよそしい態度だったからな。できれば話してくれないか?」

 

 

お互いに顔は見ず、残りの数十分を照らしてくれる赤色を見つめながら話す。

 

 

「そうですねぇ。正直言うと自分でもよくわかっていないんですよ。自分の中でよくわからない感情が渦巻いていまして・・・これが何なのかよくわからなくてモヤモヤしてると言いますか。恐らくすぐに答えは出ないんだろうなとは思うものの焦燥感はあると言うか・・・・ああっ!!言葉に上手く表せない!!」

 

 

 

「ははっ、落ち着け。」

 

 

「す、すみません。意味不明ですよね?」

 

 

「いや、わかるぞ。・・・実は昨日な、次期隊長に任命されたんだ。」

 

 

「はっ? えっ? おめでとうございます!!凄いじゃないですか!!」

 

 

「ありがとう。でもなアキラと一緒で今、よくわからない感情というものが心にあるんだ。」

 

 

そこで初めて西先輩の顔を見た。いつもの凛々しい眼差しが少し弱々しく見えた気がする。

 

 

「これは任命された嬉しさなのかもしれない。またはこれから先、隊長としてやっていけるのかの不安かもしれない。はたまたその両方が入り混じった感情なのかもしれない。」

 

 

ただ淡々と言葉を述べ、西先輩がこちらを見た。いつもより少し細い瞳が映る。

 

 

 

「すぐに答えが出ないとわかっているならとりあえず保留でいいんじゃないか? まだ私達は若い。 ただ、答えがわかった後で後悔しないようにやるだけの事、行動はする。つまり我が校の伝統の突撃の精神、知波単魂を持って日々を過ごす!! これに限る!!」

 

 

 

(結局最後はそこに行きつくのかよ!!!!)

 

 

「クックッ・・・ハッハッハッ。」

 

 

心の中でツッコミをしながらも笑ってしまった。本当に。実に。実にこの人らしいと。

 

 

 

「む。ど、どこが可笑しいんだアキラ? 何か変だったか?」

 

 

「いや、悩んでる自分がバカらしくなりましてね。」

 

 

この感情が「好き」というものなのか、今はわからない。ただ今日わかったことがある。俺はこの人の生き方に魅せられたのだ。どこまでも真っ直ぐ突き抜けるその生き方に。

 

 

 

「アキラ。」

 

 

名前を呼ばれ、西先輩が右手を差し出す。

 

 

 

「これから先、隊長になってもよろしく頼むな。」

 

 

自分も手を差し出し、お互いに手を固く掴む。

 

 

「もちろんです。西隊長。」

 

 

「まだ早い。」

 

 

 

軽く笑い合う声が響く。

 

 

 

笑いながら思った。 正直、戦車道における伝統の突撃については色々と気に入らない部分はある。だがそれも自分の行動によって変えていくようにすればいいのだ。先輩方に伝統について意見をするのは気が引けるが仕方がない。自分だって知波単学園の生徒なのだ。だから

 

 

 

知波単魂を胸に突撃だ!

 

 

 

 

 





西さんのキャラこれでいいのか不安。


あと初めてオリ主をフルネームで作りました。福田には苗字呼びさせないとダメかなと思ってしまったので。元ネタは日本を代表するあの漫画。

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