いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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今回、ちょっとおふざけ回的な感じです。




2016/10/08 追記 誤字報告してくれた方、ありがとうございます。修正致しました。






番外編
男整備士2人と昔話


 

 

 

太陽が海に飲まれつつある黄昏時。1人の青年は湯に浸かり、その様子を眺めていた。

 

 

 

 

プラウダ高校の整備士であるタクマはここ、大洗にある温泉施設にいた。

 

プラウダ高校の彼が大洗にいる理由は大洗・知波単連合と聖グロリアーナ・プラウダ連合のエキシビジョンマッチがこの場所で開催されたからである。

試合結果は聖グロリアーナ・プラウダ連合が勝利、そして今は互いの健闘を讃えあって各校の生徒がこの温泉施設に激戦の疲れを取りに来ているというわけだ。

 

 

 

 

「いや~、海が見える温泉ってのはいいなー。・・・にしてもやっぱり男子は少ないな。」

 

 

 

彼があたりを見回しても人は疎らで、視界に映る人数を足しても10人いるかいないかぐらいである。戦車道は乙女の嗜みであるため、男がいるのは整備班としてくらいである。その整備班も女性が多数を占めているため男性は本当に少ない。さらに本日は施設のご厚意によって貸切にしてもらっているのも原因だろう。

 

 

 

 

(まあ、どこの高校も同じか。)

 

 

 

そんなことを思いながら手でお湯を掬い、顔を洗っていると横から声が入る。

 

 

 

「はぁ~、やっぱりバスタブじゃなくて風呂だよな~。」

 

 

 

(バスタブ? 聖グロの生徒なのかな?)

 

 

 

顔についた水滴を拭いながら、まるで魂が抜けるようなため息の声の主を見る。

その声の主も彼の視線に気づいたようでそちらを向く。

 

 

 

 

「「あっ。」」

 

 

 

互いの顔を見て固まる2人。しかしすぐに表情は緩くなった。

 

 

 

「タクマ?タクマじゃないか!!」

 

 

「ハルキ!!こんなところで会うとは!!」

 

 

 

ハルキと呼ばれた彼は聖グロリアーナの整備士であり、そこの隊長であるダージリンの戦車、チャーチルを主に担当している人物である。

 

 

 

「ここにいるってことは、まさか聖グロの整備士とか?」

 

 

「おお!よくわかったな!じゃあ、タクマは知波単かプラウダ?」

 

 

「プラウダ。」

 

 

「プラウダの整備士やってんだな!何で教えてくれないんだよ~。」

 

 

 

「ごめん、ごめん。本当は入学してすぐ報告しようと思ったんだけど整備が忙しくて時間もずいぶん経っちゃったからいいかな~って。そういうハルキも聖グロの整備士だって知らなかったぞ!!」

 

 

「いやー、ごめん。俺もお前と同じ理由だわ!」

 

 

 

ハルキが言い終えると2人とも大声で笑い、しばらく談笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日の再会と」

 

 

 

「勝利を祝して」

 

 

 

「「カンパーイ!!」」

 

 

 

風呂から出た2人は共用の休憩スペースで祝杯をあげていた。牛乳で。

 

 

 

すぐに互いに牛乳瓶を空にして一息ついた頃、ハルキが口を開ける。

 

 

 

「タクマ。・・・○○トーーク!!」

 

 

 

「!! バインバインバインバインバインフーー!!!」

 

 

 

某バラエティ番組のオープニングをやり始める2人。どうやら彼ら2人のお決まりのノリであるようだ。

 

 

 

「久しぶりにやったけどちゃんと覚えてたな!」

 

 

 

「懐かしいな!ひたすら繰り返しやってたからなあの頃。」

 

 

 

「・・・相変わらずバカやってんのね。あんたら2人。」

 

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

 

談笑しているところに突如後ろから声をかけられる2人。振り返ると褐色のショートヘアの女性が立っていた。

 

 

 

「「ホ、ホシノ!!??」」

 

 

 

 

「久しぶりね。中学卒業以来かしら。」

 

 

 

大洗女子学園、自動車部のホシノが2人に軽く挨拶をする。彼女は大洗女子学園の戦車の整備を行っており、言うなれば整備士兼戦車道履修者なのだ。

 

 

 

「えっ?何でいるの?」

 

 

驚きがおさまらないままハルキが問う。

 

 

 

「何でって私、大洗女子学園だからよ。」

 

 

「いや、ウチとの練習試合の時いなかったじゃん。」

 

 

「ウチとの準決勝の時もいなかったな。」

 

 

「ああ、私は決勝戦から参加したから。」

 

 

 

「「ええ~~。」」

 

 

 

何ともいえない顔をする2人。しかしあることが気になったタクマがすぐに表情を変えホシノに聞く。

 

 

 

「じゃあ戦車、何乗ってるの?」

 

 

 

「ん? ポルシェティーガー。」

 

 

 

「ポルシェ!!」

 

 

「ティーガー!!」

 

 

 

 

言葉を分割してまたもや驚く2人。だが

 

 

 

 

「お願い!!見せて!!」

 

 

 

「エキシビションの映像だけじゃなくて生で見たいんです!!見せて!!」

 

 

 

すぐ表情を変え、手を合わせながらホシノに迫る2人。彼らは重度の戦車整備士なのでポルシェティーガーのような珍しい戦車はどうしても見ておきたいのだ。

 

 

 

「い、いや私に頼まれても。」

 

 

 

「お願いちょっとだけでいいから見せて!!ちょっとだけでいいから。」

 

 

「生で!!生で!!お願いします!!」

 

 

 

 

「何がちょっとだけなのかしら? ハルキ。」

 

 

「何が生なのでしょうか? 同志タクマ。」

 

 

 

 

「「は?」」

 

 

 

 

彼らが振り向くと同時に乾いた音が数発、あたりに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し場所を移して、休憩スペースにあるお座敷。座布団の上に男整備士2人が正座している。彼らの両頬には綺麗な紅葉が咲いていた。その対面には聖グロリアーナの隊長であるダージリンとプラウダの副隊長のノンナが座っている。そしてその中間、いわゆるお誕生日席にはホシノと、いつの間にか集まった大洗女子学園の自動車部メンバー、ナカジマ、スズキ、ツチヤがいた。

 

 

 

「じゃあ2人はホシノと同じ中学校出身で、久しぶりに今日再会して、ホシノが乗ってるポルシェティーガーを見せてもらおうと頼んでいたところだったんだね?」

 

 

 

状況を整理して1から丁寧に説明してくれるスズキ。男整備士たちは両頬を押さえながら無言で頷く。

 

 

「こ、こんな場所で大声を出すなんて聖グロリアーナの生徒としてはしたないと思ったから制裁を加えたのよ。ハルキ」

 

 

「そ、そうですよ。公共の場と言うことを考えてください。同志タクマ。」

 

 

ばつが悪そうに答えるダージリンとノンナ。

 

 

 

((・・・・納得いかない。絶対何か勘違いしてただろ。))

 

 

 

そうは思いつつも2人が怖いので謝ることにする整備士2人。

 

 

 

「ごめん、ノンナ。次からは気をつける。」

 

 

 

「申し訳ありませんでした。ダージリン様」

 

 

 

「・・・様? え? ハルキ、何その喋り方?」

 

 

「聖グロだとこうなんだよ!! あと一人称『俺』も禁止なんだよ。」

 

 

 

「ブフッ。何それ?」

 

 

 

「笑うなよ。・・・というかお前もなんだよ、同志って。」

 

 

 

「いやプラウダだとこうで・・・変に拒むとシベリア送り25ルーブルだから。」

 

 

 

「・・・何それ?」

 

 

 

「日の当たらない教室で25日間の補習授業。」

 

 

 

「ブハッ。変なの。」

 

 

 

「いやいやそっちほどでは。」

 

 

「いやいやいや。」

 

 

 

 

「「・・・・・・・ハッハッハッハッ!!!!」」

 

 

 

突然笑い出す2人に目を丸くして驚くダージリンとノンナ。

 

 

 

「こんなハルキの姿、はじめて見ましたわ。」

 

 

 

「私もです。同志タクマがあんな風に笑うとは。」

 

 

 

「そう? 中学の時からあんな感じでバカだったわよ、2人とも。」

 

 

 

ホシノが呆れ気味に言う。

 

 

 

「普通にひどいなホシノ。」

 

 

 

「相変わらず容赦ないね~ホシノは。」

 

 

 

 

「イヤイヤ、だってあんたら昔、用務員さんの芝刈り機の調子が悪いって聞きつけて、勝手にモーター部分パワーアップさせすぎて暴走殺人マシーン生んだことあったじゃない。」

 

 

 

「あ~、あったあった。暴走させたらタクマが『キ○ーマシンがあらわれた!!』って言った時には笑ったな。」

 

 

 

「懐かしいなぁ。その後、ハルキが『ハルキたちは逃げ出した!しかしまわりをかこまれたぁぁ!?』って言ってキ○ーマシンから2人で必死に逃げたなぁ。」

 

 

 

「そんで2人とも先生にこっぴどく叱られて今みたいに正座させられてたわよね。ほら、今と変わりないじゃない。」

 

 

 

「「いや~、アッハッハッハ。」」

 

 

 

手を頭の後ろに当て、笑う二人に対してため息をつくホシノ。

 

 

 

そこで先程まで黙って話を聞いていたナカジマが口を開く。

 

 

 

「ねぇねぇ、中学時代のホシノはどんな感じだったの?」

 

 

 

「あっ、気になる~。」

 

 

 

「聞きたい聞きたい~。」

 

 

 

「ちょ!!」

 

 

 

加勢するスズキ、ツチヤに焦るホシノ。

 

 

 

 

「そうだな~、昔っから女っ気が無かったかな~。」

 

 

 

「「「あ~。」」」

 

 

ハルキの答えに、いつものホシノのツナギとタンクトップ姿を想像する自動車部3人。

 

 

 

「あ~って何よ、みんな!!」

 

 

 

「でもその割には結構告白されてたよね?」

 

 

 

「なっ!? 何で知ってんのよ!!タクマ!!」

 

 

 

「いや、皆だいたい校舎裏で告白すんじゃん? 俺とハルキ、そこらへんで機械イジリすること多かったから自然と耳に入っちゃって。」

 

 

 

「『わたし今、自動車にしか興味ないから』ってバッサリ。トボトボ帰っていく同級生を何人見たことか。中にはイケメンもいたのに。」

 

 

 

 

「うるさい!!黙りなさいハルキ!!」

 

 

もう顔が真っ赤になってしまっているホシノ。それを興味深そうに聞いてる自動車部の面々。

 

 

 

 

「しかしもったいないなー。1人くらいOKしとけば良かったのに。」

 

 

 

「・・・あんたら2人以外に言われても興味ないわよ。」

 

 

 

「「えっ? なんか言った?」」

 

 

「!!!!・・・何も!!」

 

 

 

タクマの何気ない一言に対して、ものすごく小さな声で答えてしまったホシノ。

普通であれば聞こえない大きさであり、男2人が聞き返したのが当たり前なのだが、恋愛話をしてる時の女子の耳は時に地獄耳も超えるのである。

 

 

 

ホシノの返答を聞いてしまったダージリンとノンナの眉はピクピクと動いており、自動車部3人は満面の笑み。

 

 

 

 

「しかしそんなホシノが乙女の嗜みと言われてる戦車道をやってるとは・・・」

 

 

 

「お父さんたち感激!!」

 

 

 

 

「誰がお父さんたちよ!!」

 

 

 

 

 

3人のやり取りについていけないダージリンとノンナ。先ほど、自分たちが言った言葉を思い出す。

 

 

 

 

(こんなハルキの姿、はじめて見ましたわ。)

 

(私もです。同志タクマがあんな風に笑うとは。)

 

 

 

 

 

「「・・・・(あんな顔、今まで見たことなかった。)」」

 

 

 

目を伏せ、テーブルだけを見つめる二人。自分たちは彼らの何を知っているのだろうと考え込んでしまった。

 

 

 

 

「あっ、もうこんな時間か。ダージリン様、そろそろ帰りましょう。」

 

 

 

「え? ええ、そうね。」

 

 

 

「どうしました? ああ、今日はお疲れなんですね。無理もありません。激戦でしたからね。良ければ部屋まで紅茶をお持ちいたしますよ。」

 

 

 

 

 

「!! ええ!!お願いするわ! それでは皆様、ごきげんよう。」

 

 

 

 

「皆様、ごきげんよう。」

 

 

 

「ブフッ。 じゃあな、ハルキ! ちゃんと連絡よこせよ。」

 

 

上機嫌で去っていくダージリン。そして「笑うんじゃねえ、おまえもな!」と手を挙げて出ていくハルキ。

 

 

 

「じゃあ俺達もそろそろ帰るかノンナ。」

 

 

ハルキを見送ったタクマがノンナに言う。

 

 

 

「・・・・ええ、そうですね。今日は良かったですね。同志タクマ。」

 

 

「そうだな!!試合に勝ったし、旧友には会えたし・・・あっ、そうだ、ノンナ!!帰ったらボルシチ作ってくれない?」

 

 

 

「? 何故ですか?」

 

 

 

「いやだってこんなに良い日だから、あとはノンナの作ったボルシチがあれば俺にとって最高の日になるよ。お願い!!・・・ダメかな?」

 

 

 

「!! いいですよ!!同志タクマ。では早く帰りましょう。」

 

 

「おわっ!! じゃあなーホシノ。」

 

 

 

上機嫌のノンナに手をひかれてバランスを崩しながら帰っていくタクマ。

 

 

 

ホシノはただ2人を無言で手を振って見送った。残されたのは自動車部だけとなった。

 

 

 

 

「「「まだチャンスあるって!!」」」

 

 

 

「? みんな何のこと言ってるの?」

 

 

 

 

「「「何でもなーい。」」」

 

 

 

 

ケラケラと笑う3人に対して?マークを浮かべるホシノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付が変わろうかという刻。1台のスマホの真っ暗な画面が突然明るくなり震えだす。

 

持ち主は慣れた手つきで受話器のアイコンを押しスライドさせ、機器を耳に当てる。

 

 

 

 

「もしもし?」

 

 

「ハルキか?俺だ。」

 

 

「タクマか。」

 

 

「大洗の件、聞いたか?」

 

 

「廃校らしいな。」

 

 

「まったく、せっかく俺たちが再会できた日になんてことしてくれんだよ文部科学省は。」

 

 

「やり方が横暴すぎる。今、ウチのGI6が色々と情報を集めている最中だ。いずれそっちにも通信文を送る。」

 

 

 

「さすが。」

 

 

 

「それに・・・ホシノや大洗の連中が倒れたままでいるわけないからな。」

 

 

 

「それはウチの高校も聖グロも同じことが言えるんじゃないか?」

 

 

「ああ、だからやれることはすべてやるつもりだ。」

 

 

「・・・ハルキ、おまえ今、戦車の前にいるだろ?」

 

 

「タクマ、おまえだってそうなんだろう?」

 

 

「男の整備士がやれることって言ったら1つだけじゃねぇか。」

 

 

「だからこそ全身全霊かけてやるんだろ?」

 

 

「違いない。」

 

 

「ああ、じゃあ」

 

 

 

「「健闘を祈る、友よ。」」

 

 

 

 

 

 

月明かりの下、各々の戦車に向かう男整備士の背中をただ星だけが見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








色々な設定にまだ悩み中です。なので途中で色々変えるかもしれません。


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