継続編
「ポロローン・・・ポリポリポリ・・・ポロローン・・・ポリポリポリ。」
「・・・なぁ、さっきからその音気になるんだけど。」
「おや? おかしいね。いつも君の後ろで弾いていたと思うんだけど。」
「いやカンテレじゃなくて食う音。」
放課後、今日は戦車道の練習が無いのでいつも通りBT-42の整備に取り掛かっているとこれまたいつも通りミカが俺の後方でカンテレを弾き始めた。そう、ポリッツを食べながら以外はいつも通りだ。
「ポリポリポリ」
もうカンテレの音は完全に聞こえなくなった。食うのに専念しているようだ。振り返り、怪訝な顔で見ているとポリッツを1本取り出し軽く左右に振ってくる。
「そんなに欲情的に見つめてくると私も1本ぐらい君にあげなくては「いや、いらない。」
お菓子が嫌いなわけじゃないが今は特に欲しい気分でもない。あとミカに乗せられるのが癪だった。
お得意の涼しい顔は変わらず左右に振っていた手が止まった。いつも人のことをおちょくってくるくせにカウンターには弱いんだよな。しかしだからこそ、その時の反応が面白い。さてどう返してくるかな。
内心ワクワクしながらミカに向けていた視線を戦車に戻し整備を続ける。しかしいくら待っても反応が無い。そしてポリッツを食べる音も聞こえてこない。
ぷにっ。
不意に右頬の1ヶ所に力が集められる。少し下を見るとミカが眉をしかめながらポリッツで俺の頬を刺している。
「食べ物で遊ぶんじゃない。」
「君が素直に人の厚意を受け取らないからだろう。」
「へー、ミカから『素直』なんて言葉が出るとは思わなかった。」
「どういう意味だい。」
「アキも言ってたように捻くれて・・むっ!!!」
途中でポリッツを口の中に突っ込まれた。
「人に食べ物を恵んでもらった時は何て言うんだい?」
目が笑っていないミカが睨んでいる。少し言い過ぎたか。このままでは俺のお口がトゥータされてしまいそうだ。
「・・・ありがとう。悪かったよ。」
謝罪し、ポリポリとポリッツを食べ始めた。唾液が先端のチョコを溶かし、甘塩っぱい味が広がってくる。
「うん、・・・まあ美味いn・・!!」
ポリッツが全て俺の口の中に消えようかとした時、ミカが首に抱き着き勢いよく跳んだ。俺の口からわずかに飛び出していたポリッツをミカの口が飲み込み、俺とミカの唇の距離は0になった。
「んっ・・・・はぁ。・・・彼女にキスしてもらった時は何て言うんだい?」
頬を紅潮させながらしてやったりと言った顔をする。ここでさっきと同じようにカウンターをかましたら今度は口を聞いてくれなくなりそうだ。悔しいが折れてやろう。
「愛してるよ、ミカ。」
俺はもう一度彼女との距離を詰めた。
黒森峰編
「西住流に逃げるという道は無い。」
「・・・ええ、知ってますよ。」
「ならあまり待たせるな。」
「いや・・・それとこれとは意味が違うような・・・。」
「違くない。リーダーもいずれ西住家の一員となる。今のうちに西住流に慣れてもらわないとな。ほら、早く。」
何度目かの西住家の訪問。本日は初めてまほさんの部屋に入った。用意された座布団に何となく正座で座り、周りを少し見渡していると正面にまほさんも正座で座る。口にポリッツを咥えながら。・・・まほさん、それは何? と聞くと冒頭の言葉が返ってきた。うん、よく意味が分からない。(棒読み)
だが眼前に目を瞑ってポリッツを咥えながら上下に動かしている西住まほを見て我慢できる男はいるだろうか。いや、いない。できるって言うやつは男じゃない。
ゆっくりとポリッツの端に近づき、歯と歯で押さえる。少しずつ、少しずつポリッツを噛み進め、まほさんの唇までもう少しというところ。
「まほ? 誰か来ているの?」
しほさんが扉を開けた。
「バキッ!!」
神がかり的速さでポリッツを噛み砕き、元の位置に正座する。俺とまほさんはお互いに顔を赤くしながらも違う方向を向いていた。
「・・・何故あなたたちは正座して向き合っているのに顔だけは向き合っていないの?」
「・・・・彼とあっちむいてホイをしていまして。」
「だとしても2人とも正面向いてないのはおかしいわよね?」
「彼がルールをよくわかっていないもので。」
「えっ!? あっ、はい!!そうです!!」
「・・・そう。来ているのが彼ならいいわ。」
言い終わると扉を閉めて去っていくしほさん。扉が閉まる音と同時に緊張の糸が切れて胡坐をかく。生きた心地がしない。
「はぁー。びっくりしたね、まほさ・・んっっ!!!」
ため息をつき、俯いていた顔を上げるとまほさんの唇が当たった。柔らかい感触と共にさっき砕いたポリッツの破片が俺の口に入ってくる。
「ん・・・では次はリーダーの番だな。」
間髪入れずに次の要求をしてくる。これが西住流なのか? そうとなれば俺も動かなければいけない。撃てば必中の西住家、その一員になるのだから。
「・・・まほ。」
彼女の両肩を掴み、名前を呼ぶ。彼女もそれに応えゆっくりと目を閉じる。
西住流に逃げるという道は無い。だがこの唇から逃げる馬鹿はいないだろう。
俺は彼女の唇に自分の唇をそっと当てた。