BC自由学園についても書きたいですがいつぐらいになったら投稿しても大丈夫なんでしょうかね?
「それでは皆さん、大洗女子学園の廃校撤回を祝して」
「「「カンパーイ!!!」」」
2学期が始まって最初の休日。 大洗の奇跡を起こした 猛者たちが 廃校撤回の祝勝会でアンツィオ高校に集まっていた。
この祝勝会はアンチョビ発案のもので、「こんなめでたいことを祭りにしないでどうする。祭りといえば アンツィオだ!!」とのこと。 本来であれば試合に勝った当日に行いたかったが、さすがに全員疲れていたので 後日開催ということになり現在に至る。
祭り好きなアンツィオの生徒がせわしなく動く屋台が何軒も並び、出来た品々を嬉々と来校者に運ぶ姿を見ていると廃校危機だったのはアンツィオでは? と錯覚するほどだ。運ばれた料理を見て黄色い女子の声があがる中、少し離れたところであるグループが形成されていた。
「 じゃあもう一度、大洗女子学園の廃校撤回を祝して~」
「「「カンパーイ。」」」
グラスを強くぶつけ合っているこの集団、 各高校の男整備士達である。実は大学選抜との試合で各校の垣根を超えて協力し合い、戦車を直し、その中で知り合ったのだ。別段珍しいことでもないようで、同じような男だけの整備士グループがチラホラと見える。
「ディアブロさん、何回言うんすか? それ?」
「こういうのは何回言ったっていいんだよ! ダウナー。」
ディアブロと呼ばれた青年に笑いながら肩を叩かれてグラスの飲み物をこぼしそうになるサンダース大学付属の整備士ダウナー。 彼の生まれつきの目の悪さから 「つまらない」と感じていると勘違いしたディアブロがさっきから放っておけずに隣に座って話しかけている。 彼も立派にアンツィオの生徒だったようだ。
対してダウナーは「目つきの悪さに触れないでくれるから、まあいい人なんだろう。」と「 少しノリがケイ隊長に似てるな。」と アンツィオ生徒のノリの良さに自身の高校の隊長を思い浮かべていた。
「まあでもこの中に大洗女子学園の関係者1人もいないしな? 女子高だから当たり前だけど。」
「強いて言えば俺達は中学の同級生がいるぐらいだよな?」
続いて言葉を発したのはプラウダ高校整備士のタクマと 聖グロの整備士ハルキ。彼らは 大洗女子自動車部メンバー、ホシノと同じ中学校の出身。 ゆえに今回の件は部外者でありながらも他人事ではなかった。
「そういうことで言えばウチは元生徒が現大洗女子の隊長ですよ。」
「そうだな。(そして将来的に義妹になる予定の子でもあるんだよな。)」
タクマとハルキの会話に参加する黒森峰整備班班長ツヴァイと元整備班班長リーダー。 彼らも同様に今回の事に関しては 他人事ではなかった。 特にリーダーは将来の家族となる人の妹の危機だったので整備にかける思いは人一倍強かった。
「それにしても継続高校の整備士さんは来なかったんですね。」
知波単学園の整備士、アキラがこの場にいない継続高校の整備士の欠席について疑問を投げかける。
「継続高校のやつらは途中で帰っちゃったからな。そもそも整備士が会場にいたのかも分からないし、 一応手紙は出してみたが来なかったか。」
「・・・(何故か知らないがややこしくなる気がするから来なくて良かったと思う。)」
「どうしたタクマ? 考え込んで。」
「ああ、何でもない。それよりもアキラ、皿運びしてないでお前も座って食ったらどうだ?」
「いえ、自分が一番年下なのでこれくらいは当然かと。」
先程からアンツィオの生徒達に混じってコチラのグループに料理を持ってくるアキラ。 普段から上下関係がはっきりしている校風のせいか自分が動いていることについて特に疑問を持っていないようだ。
「いやいやお前も座って食え。 お前も客人なんだから。」
ダウナーの相手をしていたディアブロが立ち上がり、アキラの両肩を掴んで強制的に座らせる。「すみません」と申し訳なさそうにしながらようやくご飯を食べ始めるアキラ、その横でこのグループで唯一アルコール分が入った飲料を持ってるを男が複雑な面持ちで口を開いた。
「なぁ? やっぱり俺、場違いじゃねえか?」
大学選抜の整備士、ヒロアキである。そう、この祝勝会には大学選抜チームも招待されている。何故なら試合後には敵味方関係なく、お互いの健闘を讃えあって労う。それがアンツィオ流だからだ。
「何言ってるんですか、ヒロアキさん!! 敵だったことなんて気にしなくていいっすよ。」
「そうですよ、悪いのは文部省なんですから。」
「今頃あのメガネの役人、どうしてるかな~。」
「そりゃあもう、こってり絞られているだろ。」
「「「「・・・・フッ、フハハハハハハハ!!!!!」」」」
「はい!!それでは皆さんもう一度、大洗女子学園の廃校撤回を祝して~」
「「「「カンパーイ!!! ハッハッハッハッ!!!」」」」
自虐するヒロアキに各校の整備士たちのフォローが入るがいつの間にか話は役人のことになり整備士たちの黒い笑いが周りを包み、祝勝会は続く。
・・・
・・
・
「ふうー。・・・ん?」
喧騒だった祝勝会がやや静穏になりはじめた頃、席を一時離脱し手洗い場所から出てきたリーダーはある人物達を目にする。
「あれは・・・みほちゃんとツヴァイか?」
宴会場から少し離れた静かな場所にみほとツヴァイがおり、何やら話し込んでいるが内容まではわからない。盗み聞きするのは気が引けたが興味という魔物に誘われて一歩一歩近づいていると
「何してるんですか?先輩。」
「うお!?・・・逸見か。」
後ろから声をかけられて『シェー!』に近い謎ポーズをとりながら振り向くと同校の逸見エリカがおり、見知った顔に安堵の息をもらした。その態度に訝るエリカだがリーダーが無言で指さす方向へ視線を向けると思わず目を見開いた。
「なっ!? なんであの二人が?」
「さあ? 俺も今来たばかりだからわからん。もう少し近づかないと会話も聞こえないしな。」
そう言ってもう一歩踏み出そうと足を上げたが
「何してるの? あなた達。」
今度は下の方から声が聞こえた。
「「?」」
その人物の声が大きかったのか、みほとツヴァイはリーダー達の方向を向く。しかしそこには誰もいなかった。いや、正確にはいるのだが脱兎の勢いでしゃがみこみ、茂みに隠れたのだ。
「あなた、声が大きいわよ!!」
「いや逸見、お前も声がデカい。」
エリカが声をかけてきた人物に注意をするが逆に声のボリュームについてリーダーから指摘を受ける。エリカが頬を少し赤らめて「うぐぐ」と唸るが
「・・・本当に何をしてるの?」
もう一人の注意された人物、カチューシャは状況が飲み込めずに首をかしげながら普通の声のトーンで話す。それに対して二人は人差し指を立てて必死に「しーっ!しーっ!」とジェスチャーをするがこれが逆効果だった。
「? この茂みの向こうに何かあるの?」
そう言うと茂みの向こう側に歩を進める。ちなみに今隠れている茂みはカチューシャより大きいので彼女はしゃがんでいない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。お願いだがらこの茂みから出ないで!! 肩車してあげるからここから見て!」
「きゃっ!!いきなりやらないでちょうだい!ビックリする・・・・あれはミホーシャ?」
リーダーの突然の肩車に文句を言っていたカチューシャだがみほの姿を見かけると態度が変わり、やや興奮気味に話しかけてくる。
「ねぇねぇ!あの二人何を話してるのかしら? 何か思い当たることないの?」
「思い当たること? いや全然・・・・あっ!!」
問われてすぐに否定しようとしたリーダーだったが何か心当たりがあるらしく、口を開けたまま動きが止まる。
「なになに? やっぱり告白とかなの?」
「こ、告白!?」
目を輝かせながらリーダーに問い詰めるカチューシャと『告白』という予想外の単語が出てきて戸惑いを見せるエリカ。
「そうよねぇ~、優勝したし今回の件もあったしカチューシャの次くらいに人気が出ても不思議じゃないわ。うんうん。」
「いや違「ごめん!!!」
自己完結するカチューシャにツッコミを入れようとするが突如として謝罪の声が遮った。見るとツヴァイがきれいに90度で頭を下げている。対面しているみほも突然のことで動転して両手をぶんぶんと振りながらどうしたらいいのかわからないというような顔をしている。
「・・・男の方が謝ったってことはまさか!! ミホーシャが告白して振られたってこと!?」
(そんなわけないじゃない。あの子がそんな大胆な・・・いや、戦車に乗ってるときは大胆な行動を起こすわね。でもまさか・・・いやそんなこと・・・・・・・・)
カチューシャの妄想が伝染したのかだんだんと自論に自信がなくなっていくエリカ。そこにリーダーの真剣な声が通る。
「アイツは今、自分の後悔にケリをつけてんのさ。」
その言葉に目を見開くエリカ。
(ああ。そうか、そうだった。嫌というほど私に似ているアイツがあの子に謝ること・・・そんなの決まっているじゃない。)
第62回戦車道高校生大会決勝で起きた事件。そこから起因して喫茶店で再会した時に口に出してしまった言葉。みほ本人はもう気にしていないだろうがエリカはずっと悔いていた。面と向かってみほに言葉を投げつけていないツヴァイが謝っている姿を見て、よりそれは強いものに変わり自己嫌悪に陥っていた。
「・・・もう離れましょう。」
「・・・そうだな。」
「えー!? これから面白そうなところじゃない!!」
三者三様の感情を頂きつつ、頭の上で暴れる文字通りの暴君を抑えつつこの場を離れようとしたその時
「何してんの? 3人で。」
本日3回目の問いに振り返る一行。そこにはタクマ、その後ろにはまほがいた。
「・・・珍しい組み合わせだな。」
「いやノンナがカチューシャがいなくなったって俺のところに来たんで、探しに来たら近くで西住さんと会って・・・」
「まほでいい。西住だとみほと混同することもある。それに同学年だろう?」
「・・・えーっと、近くでまほさんと会って、カチューシャを探すの手伝ってもらってたら3人の姿を見かけた・・・というわけです。」
まほの訂正が入りつつリーダーの問いにタクマが答え終わると今度はまほが質問をする。
「私も1つ問いたいんだが・・・それはどういう状況だ。」
そう言ってリーダーに肩車されているカチューシャを睨む。
「ヒッ!? タ、タクマ~!!」
「あ~、はいはい。すみませんねリーダー、うちの隊長が。」
そう言いながら涙目で手を伸ばしてくるカチューシャを抱き上げ、リーダーから自分の頭へと移動させるタクマ。
「ああ、全然大丈夫。・・・まほさん、眉間に皺寄ってる。」
「っ!! す、すまない。」
(・・・まるで親子と新婚夫婦の会話みたいね。)
タクマとカチューシャ、リーダーと顔を赤くするまほを見て心の中で率直な感想をエリカは述べていた時
「あれ? どうしたのお姉ちゃん、こんなところで。」
話し合いを終えたみほとツヴァイがこちらに来てしまった。素振りを見る限り、幸いにも覗いてたことはバレていないようで一安心する3人。
「あっ!!」
ところがみほが急にリーダーの顔を見ると声をあげたので固まる3人。
「えっと・・・お・・・」
顔を赤らめながらもじもじするみほの言葉を待つリーダー。大量の汗が彼の身を包む。そして発せられた言葉は
「お、お義兄ちゃんも一緒だったんだね!!・・・な、なんちゃって・・・えへへ。」
「グフッ!!!」
「「「リ、リーダー!?」」」
みほの言葉を聞いた瞬間、リーダーは吐血し膝から崩れ落ちた。
「しっかりしろ、リーダー!! ダメだ、安らかな顔をしてやがる。ツヴァイ!!運ぶからおまえ足を持て!!」
「了解っす!!」
カチューシャを肩車したままのタクマの呼びかけに走るツヴァイ。その時にエリカとすれ違う。
「俺はちゃんと謝ったぞ。」
彼女にだけわかる声で言うと勝ち誇ったように笑い、タクマと一緒にリーダーを運ぶツヴァイ。ツヴァイの態度に完全に頭に来たエリカは
「ちょっといいかしら! 元副隊長!」
「ひゃ、ひゃい!!」
リーダーの突然の卒倒にあたふたするみほ。さらにそこへエリカに強い口調で呼ばれ、声が裏返る。
「・・・・。」
「・・・・。」
勢いでみほのことを呼んだものの、いざ対面すると気まずく沈黙してしまう。だがツヴァイのあの勝ち誇った顔を浮かべると負けてはいられなかった。
「い、一度しか言わないからよく聞きなさい!!」
少女2人は話し合う。過去の事、今の事、そしてこれからのことを。
・・・
・・
・
「・・・というわけでリーダーが倒れました。」
リーダーを無事に先ほどの宴会会場まで運んだタクマは他の整備士たちに一部始終を話していた。ちなみにリーダーは今、まほの膝枕で眠っている。
「みほちゃんに『お義兄ちゃん』って呼ばれたらそりゃあ倒れるわな。」
妹を持つヒロアキは「よくわかる!!」といった眼差しでリーダーを見ている。他の整備士たちもウンウンと頷く。
「・・・ヒロアキ。」
「ん? おお!愛里寿、どうした?」
「私、そろそろ門限だから帰るね。3人に送ってもらうからヒロアキはまだ飲んでて大丈夫。」
「そうか、悪いな送ってやれなくて。気を付けて帰れよ。」
「うん。じゃあまたね・・・お・・・お兄ちゃん。」
先程の会話を聞いていたのだろう。悪戯っぽく笑うと愛里寿はそのまま振り返らず去って行った。
「? ヒロアキさん? ・・・し、死んでる!!」
「いや、気を失ってるだけですよディアブロさん。」
微動だにしないヒロアキを不審に思ったディアブロが肩を揺らしてみるが反応がなく、顔を見ると「燃え尽きたぜ、真っ白にな」状態だったので死亡判定を下すがダウナーに冷静にツッコまれる。
「西住流、島田流、共に恐るべしだな。」
「なにタクマ、あんたも「お兄ちゃん」って呼ばれたいの? しょうがないわね~、カチューシャが・・「あっ?」
「ヒッ!? ノ、ノンナ~。」
先刻と同様に今度はタクマがカチューシャを睨みつけると先程合流したノンナの方へ駆けて行きノンナの腰に抱きつくカチューシャ。腰を落とし優しくカチューシャの背中を叩くノンナ。そして何やらカチューシャに耳打ちをする。
「えっ? なんで私がそんなことを言わなくちゃならないのよ!!」
「このままやられっぱなしでもいいんですか?」
「ううう~、言うわよ!!」
ノンナと何回かやり取りをし、不服そうな顔をしながらタクマに近づくカチューシャ。そして
「パ・・・パパなんて大嫌い!!!」
「ドゥフ!!!!」
顔を真っ赤にしながら叫んだ言葉はタクマの胸を刺し、重力に逆らうことなく彼は前のめりに倒れた。
「タクマ!!おい、大丈夫か?」
「・・・ああ、大丈夫だハルキ。これぐらいでやられる俺じゃあ・・・」
ぷるぷると震えながら両手を地につけ上体を起こそうとした時、ノンナが近づいてきて彼の耳元で囁く。
「あんまりカチューシャをいじめちゃダメですよ、パ・パ。」
「ゴフッ!!!!」
「タクマーー!!」
語尾にハートマークが付きそうなノンナのウィスパーボイスを喰らい、タクマは完全ノックアウトし地面と一体化した。倒れた親友を揺さぶるハルキだが
「騒がしいこと、何事かしら?ハルキ。」
ティーカップとソーサーを持ったダージリンが現れる。その後ろにはオレンジペコの姿も見え、彼女たちがここに来た理由を彼は考え、答えをすぐに出した。そして立ち上がり聖グロリアーナの生徒としての顔を作る。
「これはこれはダージリン様。お騒がせして申し訳ありません。友人たちの一興に気品を顧みず逸楽の時を過ごしてしまいました。」
「こんな格言を知っていて?『喜怒哀楽の激しさは、その感情とともに実力までも滅ぼす。』」
「シェイクスピアですね。肝に銘じておきます。」
「ならいいわ。それよりも何か面白そうなお話が聞こえたのだけど、たしか・・・殿方が女性にどう呼ばれたいか、というものかしら。もし望みがあるなら、例えば「あ・な・た」と「いえ、結構です。」
察したハルキがダージリンにみなまで言わせず断る。
「・・・遠慮してるなら「お気持ちだけで充分でございます。」
片手を胸に置き、綺麗なお辞儀を笑顔で決めるハルキ。対してダージリンは表情は優雅であるものの手に持っているティーカップとソーサーがカタカタと揺れ、心なしか手に怒りマークが浮き上がっている気がする。
「でもハルキさんがお兄様やお父様だったら素敵でしょうねー。『朝ですよ、お兄様』とか『起きてください、お父様』なんて言ってみたいですもの。ふふふ。」
「・・・グハッ!!!」
伏兵はダージリンの後ろにいた。オレンジペコの特に計算していない言葉に意表を突かれたハルキは数秒耐えたもののその後、表情を崩さず笑顔のまま仰向けに倒れた。
「どういうことかしらハルキ? 私とオレンジペコで随分と態度が違うじゃない。」
先程の行動が不愉快だったダージリンは倒れたハルキの顔をつま先で踏みつけながら問う。
「ダージリン様は恥じらいといいますかそういったものが足りなアッチィィィ!!!!!」」
手に持っていたカップを逆さまにするダージリン。中身の透き通った茶色い液体はハルキの顔面にあますことなくかかり、彼を素の状態にした。
「お紅茶がなくなってしまいましたから私はこれにて失礼させていただきますわ。行きますわよオレンジペコ! それでは皆様ごきげんよう。・・・・ハルキのバカ。」
のたうちまわるハルキを見向きもせずにその場を後にするダージリン。
「何事ですか!!」
ハルキの悲鳴を聞きつけてどこからともなく西が輪の中へ吶喊してくる。
「あっ!隊長、まあ色々ありまして。」
「色々とは?」
自身の高校の隊長が突然現れたので対応するアキラであるが今まで起こったことを西相手に説明するとなると非常にややこしい。「えーと」という声を出していると去り際のオレンジペコが助け舟を出してくれた。
「殿方は女性にどう呼ばれると喜ぶか、ということを話していたんですよ。」
「なるほど!! つまり例えばこういうことでしょうか。」
アキラの肩を掴み、マッサージをし始める西。必然的に彼女の立派な胸の2つの山が彼の頭に当たり・・・
「お勤めご苦労様です!旦那様!」
「・・・・・」
頑張って耐えていた彼の意識が「旦那様」という単語で飛んだ。
「あ、あの西さん。それじゃあまるでメイドです。」
「めいど? 冥土!? まるで地獄のようだと? これは失礼しました!! 鍛錬しなおしてきます!!」
「い、いやそうじゃなくてまるで女中のようだと・・・・あ~走って行っちゃったよ。だいたい鍛錬って何の鍛錬だよ。アキラも座ったまま鼻と口から血出して固まったままだし。」
「ディアブロ! そろそろ料理がなくなった頃だろ? 追加の品を持って・・・ってなんだこれは?」
「おっ! 安斎!」
「ア・ン・チョ・ビ! どうしてほとんどの奴らが倒れているんだ?」
「ああ、実はな・・・・」
膝枕されている者、うつ伏せに倒れている者、のたうちまわっている者、座ったまま気を失っている者(2名)の各校の整備士たちを見て狼狽えるアンチョビ。そしてその経緯を淡々と説明するディアブロ。
「はぁ、そんなことが。」
「ああ、だから今無事なのは俺とダウナーとツヴァイだな。」
「ち、ちなみにディアブロはなんて呼ばれたいんだ。・・・参考!!あくまで参考までに聞いておきたい!」
「それは私も気になりますね~。」
「ウチも気になるッス~」
アンチョビの両脇からヒョコッと顔を出すカルパッチョとペパロニ。
「お、おまえらいつの間に!!」
すぐ後ろにいたのに全く気配に気づかなかったアンチョビは首を左右に振る。
「で? 兄さんは何て呼ばれたいんですか?」
「俺? そうだな。やっぱり名前かな?」
「え~、いつも『ディアブロさん』って呼んでるじゃないですか。」
「いや、そっちじゃなくて。本当の名前。安斎だったら千代美みたいな。」
「ち・・ちよ・・・ちよ・・み!? きゅ、急に名前で呼ぶなーー!!」
「うお!? いきなり鞭を振り回してくるな!! 痛っ!!! やめろ安斎!!」
不意に名前を呼ばれたことで茹でダコのように赤くなったアンチョビは冷静さを欠き、がむしゃらに鞭を振り回す。腕をクロスさせて鞭を防御するディアブロだが急に何者かに正面から両肩を抑え付けられる。
「ディアブロさ~ん、それじゃあ私はひなちゃんって呼んでもらえますか。」
「・・・とりあえず肩を離して貰えるかなカルパッ「ひ・な・ちゃ・ん です。」
(クッソ何て力だ。引き剥がせない。これが装填手の力なのか? あと何故息が荒い!?)
「兄さーん!!ウチも名前で呼んでほしいっす~!!」
「お前はもうちょい空気読めー!!出来るわけねえだろこの状況で!!」
「うわーー。」
3人の女性に襲われてるディアブロを見てダウナーは両手を合わせた。
(すみません、ディアブロさん。とてもじゃないですが自分はあそこに割って入っていく勇気はありません。)
数秒目を閉じてディアブロの無事を祈り、再び目を開けるダウナー。するとあることに気づく。
「あれ? ツヴァイさんがいない。どこ行ったんだろう?」
急に姿を消したツヴァイを探すため屍ばかりの周りを見回すダウナー。そこへ
「Hi!!ダーリン! 楽しんでる?」
ケイが後ろから抱きついてきた。先程のアキラのように彼女の豊満な双丘が背中に当たり、形を変えている。
「ケイ隊長。お疲れ様です。楽しんでますよ。皆さんいい人ばかりなので。」
彼女の行動に顔を赤くするダウナーではあるが受け答えはしっかり、そして冷静にこなす。
「Good!! それは何よりだわ。もっと一緒にいたいけど顔を出さなきゃいけないところが他にもあるのだから・・・」
ダウナーの頬にキスをするケイ。
「また後で会いましょう。」
そう言い残し彼女は手を振りながら去って行った。ケイの姿が見えなくなるまで手を振るダウナー。特に彼に異常は見られない。
「す、すげぇなダウナー。おまえ何ともないのか。」
ようやく紅茶の熱さが収まってきたハルキがダウナーに異常がないか確認をする。
「ああ、さっきの隊長のアレですか。まあ恥ずかしくないっていったら嘘になりますけど耐性はつきましたね。毎回あんな感じなんで。」
((((ダウナーすげぇ。))))
この発言によりのちに男整備士の中で「ダウナー最強説」が流れたという。
「みなさーん。」
他の整備士たちも少しずつ復活を果たした頃、先程まで姿を消していたツヴァイが肩に段ボール箱を抱えてこちらに向かってきた。
「よいしょっと。ウチのリーダーが原因で皆さんにはご迷惑をかけたと思うので黒森峰名物、ノンアルコールビール持ってきました!!」
「「「「「「「おおーーーー!!!!」」」」」」」
「これが噂の」や「一度飲んで見たかった」などなど一同から歓声があがり笑顔になるツヴァイ。「早速飲んでみてください」と各校の整備士たちに配る。乾杯の音頭はもちろんディアブロが仕切り。
「それでは皆さん、大洗女子(以下略)」
「「「カンパーイ!!!」」」
「ん?」
乾杯の音頭でようやくまほの膝枕から目覚めるリーダー。
「起きたか? リーダー。」
「えっ? まほさん!? なんで? この状況・・・えっ、えっ?」
「ふふ。落ち着くといい。みほに『お義兄ちゃん』と呼ばれて気絶したんだ。」
「ああ、思い出しました。お恥ずかしい。」
「あの子は結構大胆なところがあるからな。」
「そうなんですね。意外です。」
「リーダー!!目が覚めたんですね。」
「おおツヴァイ、みんなは?」
「ウチのノンアルコールビール飲んでもらってます。」
「そうか・・・・・・・なあツヴァイ。」
「なんですか?」
「そこに見えるビールのパッケージなんだが、”ノンアルコール”の文字が無いんだが。」
「・・・・・・えっ?」
黒森峰の名物のビールには普通のビールとノンアルコールのビール、2種類ある。普段ツヴァイたちが飲んでいるのはもちろんノンアルコールのビールである。ただこの2種類、外側のパッケージがほとんど同じで、ノンアルコールの文字が書かれているか書かれていないかの違いしかない。しかもその文字はお世辞にも大きいとは言えないサイズである。
少し沈黙が流れた後、まほ、リーダー、ツヴァイは同時に他の整備士たちの方を向く。缶を片手に顔を真っ赤にして倒れるアキラの姿が目に入った。
「うおおおおお!?アキラぁぁぁ!!!しっかりしろぉぉ!!!しっかりしてくれぇぇ!!!」
パニックになったツヴァイはアキラの胸ぐらを掴み、前後に揺らす。しかしアキラが目覚める様子はなくグッタリとしたままだ。
「落ち着けツヴァイ!!それじゃあ逆効果だ。」
「まずは彼を壁にもたれかけさせろ。そして次に水の確保だ。」
「!! は、はい!!!」
リーダーがなだめ、まほが的確な指示を出す。少し落ち着いたツヴァイは水を探しに行き、リーダーは他の奴らの様子を見に行くが
「お前ら盛り上がってんのー?」
「「「盛り上がってなーい!!!」」」
「じゃあどうするー? 俺たちで盛り上げるしかねぇだろー!!!」
「「「Yeahーーーーー!!!」」」
ディアブロを筆頭とした酔っぱらいの地獄絵図がそこにあった。唯一まともなヒロアキもこの異常事態に恐怖を感じたようで
「じゃあ俺はそろそろこの辺で。」
逃げようとしてみるが
ガシッ
「どこ行くんすかヒロアキさん~。」
「一緒に盛り上げましょうよ~。」
酔っぱらいどもに捕まった。
「よーしお前ら行くぞー!!」
「「「Yeahーーーーー!!!」」」
「待て!!離せ!!お前らこそどこへ行くんだ!? あーーーー!!!!」
引きずられるヒロアキ。そんな彼に向かって敬礼し事態を収拾することを諦めるリーダーであった。
・・・
・・
・
未成年酔っぱらい共(1人巻き込まれ成人)が向かったのはアンツィオの軽音楽部が演奏していたステージだった。ステージと言っても段があって少し他より高くなっている程度のものである。そこにディアブロが「ちょっと盛り上げたいから楽器とか色々貸してくれ」と無茶を言うが「いいよー」の一言で済んでしまう。さすがはノリと勢いのアンツィオといったところだろうか。ご丁寧にステージの準備やマイクテスト等々手伝ってくれた。
「じゃあ誰がどの楽器やる? ちなみに俺はドラムしかできん。」
ディアブロがスティックをペン回しの要領で回しながら聞いてくる。
「俺、ギター。」
「俺はベース。」
「・・・・ギターで。」
タクマ、ハルキ、ヒロアキの順で答え、楽器が手渡される。
「あれ? ダウナーがいねぇ。」
「お待たせしました!!」
「おお? ダウナーどうしたその機材?」
「ウチのギャラクシーに積んであったんで持ってきちゃいました。へっへっ。」
ダウナーが手にしていたのはパソコンとPCDJコントローラーであった。酔っているせいか終始笑顔である。
「いいじゃん!! おーい、コレもセットおねがーい!!」
楽器の配置が終わり、ステージに上がる5人。
「ツェ~ツェ~ マイクテスッ、ワンツー、ワンツー。」
センターに立ち、マイクテストをするハルキ。周囲の生徒たちは「何か始まるのか?」とチラリそちらを見るが
ドンッ!!!
直後にディアブロがバスドラムを叩き、心臓に直接響いてくる音に大半の生徒がビクつく。その後も各々音を軽く鳴らしコンディションを確認するが
「あっ!!!」
急にディアブロが大きい声を出し、手招きをする。メンバーが不思議に思いながら中央に集まり
「何の曲やるか決めてないじゃん!!」
全員「ああー。」と納得。その後、「この曲は?」「それ俺知らない。」等々のやり取りが何回か繰り返され、演奏する曲が決まり各自ポジションに戻る。
最初に音合わせをしたせいである程度ステージ前に人が集まっている。普通の学生なら緊張で震えるかもしれないが彼らは1名を除き、今日は普通の状態ではない。故に何でもきやがれといった状態だ。それにここはアンツィオ高校。ノリと勢いが大切なのだ。だから演奏が上手かろうが下手だろうがそれさえ出来ていれば皆温かく迎えてくれる。彼らが大人数に緊張する理由が逆になかった。
「~♪」
最初に動いたのはギターのタクマだ。1フレーズを弾くと「あっ、この曲か。」といった声が観客からちらほら聞こえ出す。そして3フレーズ目に入るとディアブロがスネアを叩いて参加してくる。すかさずハルキが観客に手拍子を促し、ダウナーが軽くスクラッチし炭酸が弾けるような効果音を出す。
手拍子がそろってきたころ、段々とドラムを強く叩き始めるのを合図にハルキがベースを弾き、ヒロアキもタクマの音にかぶせ始める。5つの音が融合して会場の空気を作り上げた瞬間、ほんの一瞬、全員音を消した。 そして
「Baby!!!!」
その叫び声と共に再び演奏をはじめる。叫び声の主はダウナーだった。観客はセンターにいるハルキが歌うものだと思っていたので度肝を抜かれ、少しだけ放心状態になったが爆発的に音楽が鳴り始めたので全員ノリはじめた。さらに
「Hey Yo!~~」
ダウナーによるラップが始まりすぐにそれは大きな歓声へと変わった。リズムに合わせながらタクマとハルキは左右に移動し、客を煽る。ラップ部分が終わるころハルキはセンターに戻り、マイクの前に立ち
「Get on Get on~~」
サビの部分を歌いだす。ここまでくると観客の心は完全に掴めたようでハルキの歌に合わせて教えてもいないのに全員手を上げ下げする。
再びラップ部分が始まりダウナーが歌う。ボルテージは上がる一方、そしてまたハルキのサビの部分が始まる。歌いながら彼はタクマにアイコンタクトを送る。それを見逃さなかったタクマはハルキに近づいてゆき、彼のマイクギリギリまで来て
「「渇きを癒す~~」」
2人の突然のデュオに会場は最高潮となった。気が付くと観客は超満員で遠くから双眼鏡で見てる者もいる。そして最後のサビ前の間奏部分に入るとディアブロが口を開いた。
「なあ集まってくれたみんな!! お前らの盛り上がりはそんなもんか?」
ディアブロの煽りに「Yeahー!!」や「なんだとー!」「こんなもんじゃねーぞ!!」といった声が響く。後半の大半は煽り耐性が低いアンツィオ生が多かったが。
「まだまだこんなもんじゃねーってなら見せてみろよ!!」
ドラムスティックを1本、宙に投げる。激しく動き、一つの円に見えるそれは高く狭いアーチを描いてディアブロのもとへ帰ってくる。そして彼は再びそのスティックを取った瞬間、叫ぶ。
「かかってこいや!!!!!」
限界まで高まった観客の理性を破壊するには充分な一言だった。直後にハルキが最後のサビ部分を歌い始めるとステージに登りはじめるもの、ダイブを決め込むもの、踊りだすもの、肩を組んでヘドバンするもの、とほとんどの客が狂乱状態に陥った。
奏者以外の人々がステージ上で踊っていても彼らは気にすることなくその後も最後まで曲をやり切り、音が途絶えるとすぐに歓呼の声が上がった。
やれやれようやく終わったとヒロアキが思い、ギターを置こうとした瞬間、
「もう一曲やってもいい?」
ディアブロによるまさに悪魔の一声がかかった。すぐに「Yeahーーー!」というレスポンスが返ってきてヒロアキはガックリとしながら再びギターを手に取る。
そしてすぐに2曲目がはじまるのだった。
「・・・どうしましょうこの事態。」
「どうすることも出来ねえだろ。」
「Zzzz」
ツヴァイ、リーダー、アキラを置いて男たちの宴はまだまだ続くのであった。
・・・
・・
・
~おまけ~
とある船の上
「なんで祝勝会参加しないんだよ~。」
「いつもの『それは意味があることなのかい?』だって。」
「なんだよそれ~、ごちそういっぱい出るかもしれないのに~。タクマもミカを説得させてよ!!」
「夏の風~町に~」
「♪~」
「無駄だよ。タクマは鼻歌歌いながら釣りしてるし、ミカはそれに合わせてカンテレ弾いてるし。」
「あーーーもう!! 話聞いてよ!! お父さん!お母さん!」
「ブフッ。」
ヤケクソになったミッコが訳のわからない叫びをし、思わず笑うアキだが
「何?」
「何かな?」
「「・・・・・アリなんだ。」」
アリだった。
どうでもいい裏設定。(名前の由来とか色々)
タクマ
10-FEETのボーカル・ギター TAKUMAさんから名前を頂きました。
ギターが弾けるのはカチューシャが寝る時の子守唄の伴奏として無理やり覚えさせられたため。
ハルキ
The Birthdayのベース ヒライハルキさんから名前を頂きました。
ベースが弾けるのは聖グロで音楽祭があるため必死に覚えたから。
ディアブロ
本名が 阿久 真(あく まこと)
Dragon Ashのドラム 桜井誠さんから名前(まことの部分だけ)を頂きました。(そもそも漢字が違いますが桜井食堂という出店をフェス等で出したりしてるので(笑))
ドラムが出来るのはノリと勢いのアンツィオ高校でバンドがやりたい先輩に無理やり教えられたため。
ヒロアキ
BUMP OF CHICKENのギター 増川弘明さんから名前を頂きました。
ギターが弾けるのは妹にボコのテーマを聞かせるために必死で練習したから。