短編×4 的なやつです。
『スポーツ』
長い夏の延長戦が終わり、少し肌寒くなってきた今日この頃。
俺は次の授業の体育に向かうべくジャージに着替え、グランドへ向かうため教室を出た。
少し廊下を歩いていると別室で着替えを終えたであろうミカとすれ違った。
「・・・ミカ、いつものジャージは?」
見ると戦車道で見慣れている学校指定のジャージを着ておらず、白い体操服と紺のパンツと言った姿だった。
「ジャージ、それは体育にとって必要なことかな?」
「必要でしょう。特に今日みたいに少し寒い日には。」
素直に忘れたと言えないのだろうか、この捻くれ娘は。確か女子は体育館で授業だったはず。ウチの体育館は空調設備なんてものはついていないから秋でも結構冷える。それにミカは体育の授業とはいえ極力動かないだろう。激しく体を動かすミカの姿が想像できない。
「ほら、貸すから着とけ。」
ジャージを脱いでミカに渡す。
「ではありがたく君の厚意に甘えるとしようかな。」
「はいはい、そうしてください。」
ミカが俺のジャージを着たが袖口から手が出ずに力なくうなだれている。そのせいでおばけみたいな状態になっている。
「やっぱり大きいね。」
「そりゃあ、体格の違いとか男女の差があるからな。」
「でも丈はちょうどいいみたいだ。」
「・・・・・・。」
(それは多分、その立派な胸のおかげだと思う。)
「・・・どこを見ているのかな?」
「!! わ、悪い。」
すぐに視線を逸らすが顔が少し赤くなったのは隠せなかったようでミカは悪戯っぽく笑う。そして・・・
「!! こら! ジャージのにおいを嗅ぐんじゃない!!」
余った袖部分に鼻をつけてスンスンとにおいを嗅ぎはじめた。
「大丈夫、臭くないさ。ただ、鉄とオイルの香りがするだけさ。」
「・・・やっぱり返せ。」
「それには賛同できないな。」
そう言ってスタスタと体育館へ向かってしまった。ミカに遊ばれた俺は深くため息をつきながらグランドへ向かうのだった。
授業が終わり、教室へと戻るべく廊下を歩いていた。今日の授業はサッカーだったおかげで汗だくになった。ミカにジャージを貸してちょうどよかったと思っていた頃、ミカと会った。
「おう、ミカ。やっぱりジャージあってよかっただろ?」
「さあ、どうだろうね。」
相変わらずのミカ節は無視して続ける。
「じゃあ、ジャージ返してくれ。」
「・・・・・今日はこのまま戦車道で使うから「今日は戦車道の練習ないだろ。」
何故かジャージを返すのを拒んでくるミカ。言葉で言っても無駄だとわかっているので実力行使に出る。
「いいから返しなさい。」
そう言って片手でミカの肩を掴み、もう一方の手でジャージのジッパーを下げる。
「・・・・・・・・・。」
下げたジッパーをもう一度上げた。両手で顔を隠しながら俺はミカに言う。
「・・・何で下に何も着ていないんだよ。」
そう、下に何も着ていなかった。体操服もブラも。おかげで立派な胸を思いっきり見てしまった。胸を見られたにも関わらず涼しげな顔でミカは言う。
「体育の授業で汗をかいたからね。脱いだだけさ。」
嘘だ。コイツが汗をかくほど動くわけがない。サボってカンテレ弾いているに決まっている。だいたい何でブラと体操服は脱いでジャージは着てるんだよ!
「もういい。今日は貸す、それ。」
「フフッ。」
げんなりしている俺を見てミカは笑うのだった。
翌日、ミカからジャージを返してもらい体育の授業前に着て廊下を歩いているとアキとすれ違い様に言われる。
「なんかタクマ、ミカと同じにおいがする。」
その問いに俺は無言のままグランドへと逃げ去るのだった。
『読書』
優しい日差し、そして優しい風が金木犀の香りを運んでくる。今日は整備の仕事もない。こんな日にはずっと外にいたいと思う。だが体を動かしたい気分でもない。なので俺は学校のベンチに座って小説を読むことにした。中身はとある西口公園付近で起きる事件などをまとめたもの。
しばらく読んでいると声が降ってきた。
「タクマくん、何読んでるの?」
視線を本から正面に変えるとクラスの女子が立っていた。
「好きな作家のシリーズものの本読んでるんだ。」
「へえー。」
聞いてきた割には興味なさそうな返事である。
「って言うかメガネ姿はじめて見た~。」
そう、俺はいま黒縁のメガネをかけている。視力は悪くないのだが本を読んだり、テスト勉強など集中したいときには結構メガネをかけていたりする。そのことを女子に伝える。
「そうなんだ。結構カッコいいよ。」
お世辞でも言われるとかなり嬉しいものである。男って単純なんだよ。
「そうだ。今日みんなで食べてたクッキー、余ったからあげる。」
そう言って鞄からビニールの包みに入ったクッキーをくれる。
「ありがとう。後で食べるね。」
思わず笑顔になってしまった。現金だな俺。
「う、うん。じゃあまたね。」
そう言ってそそくさと帰ってしまった。何だろう、顔が赤かったから風邪でもひいていたのかな? お大事に。
貰ったクッキーをポケットにしまい、再び本の世界に飛ぶ。
物語が佳境に入ったころ、聞き覚えのあるカンテレの音が聞こえてきた。
たぶんミカが近くにいるのだろう、そう思いつつ視線は本から外さずにいた。
カンテレをBGM代わり小説の中の時間を進めていく。静寂も集中できるが何か音楽が鳴っているのもいいものだ、優雅な気分になれる。かなり良い集中力を保ったまま本を読み終えた。本をパタンと閉じると同時に声が聞こえてくる。
「ずいぶんと集中していたようだね。」
顔をあげるともう少しで顔と顔が触れるくらいの至近距離でミカが俺のことを覗き込んでいた。
「うわ!!ミカ!?」
驚く俺を余所にミカは隣に座る。
「今日はずいぶんと珍しい姿じゃないか。」
メガネのことか。
「ああ、これは・・「集中したいときにかけているんだろう?」
・・・何故知ってる?
「良かったね『結構カッコいい』タクマくん。」
そう言って俺のポケットに手を入れクッキーを取り出し、ビニールを開け、ムシャムシャと食べ始める。
「それ俺が貰ったクッ「女の子からカッコいいって言われて胸はいっぱいだろう?」
俺の言葉を遮り、クッキーを急いで食べるミカ。よくわからんが怒っている。
クッキーを全部食べ終わると少し満足げになりカンテレを弾きはじめる。
「・・・あっ、頬にクッキーついてるぞ。」
ミカの頬についていたクッキーの欠片を取り、口の中に入れる。
わずかではあるが甘みが広がる。うん、おいしい。
すると突然カンテレが止んだ。
ミカの方を見ると視線がぶつかる。そして顔が赤くなりワナワナと震えだし超速弾きでカンテレを弾き始めた。
突然のことで言葉も出ず、ただミカを見ているしかできなかった俺。しばらくすると落ち着いたのか演奏を止め、俺のことを睨み、メガネを奪われた。
「痛っ!! 何?」
奪われた際にアーム部分が鼻に当たった。鼻を押さえながらミカを見ると俺のメガネをかけていた。
「君がどういった世界を見ているのか気になってね。」
誇らしげにメガネをクイッっとあげて答える。意味が分からないがこちらもやられてばかりではいられない。素早く腕を伸ばし、ミカのチューリップハットを外して自分の頭に被せる。
「っ・・・何をするんだい?」
「ミカが何を考えているのか気になってね。」
腕を組んで得意げに答えるとクスクスとミカが笑い出した。
「君について真剣に考えるのがなんかバカらしくなってしまったよ。」
だいぶ貶された気がするがミカの機嫌は直ったようである。気づくとさっきよりも距離を詰めて座ってきていた。
「俺の見てる世界、わかった?」
「全然。そっちこそ私の考えてること、わかったのかい?」
「いや、まったくわからん。」
そう言うとお互いに笑っていた。チューリップハットをミカに返しながら言う。
「これからゆっくり理解していくよ。」
「そうかい。」
ポロローンとカンテレを弾くミカ。そして
「あっ、そういえばメガネ姿。結構じゃなくて、かなりカッコよかったよタクマ君。」
そう答えるミカに対して、何で機嫌が悪かったのかわかって今、ミカのことを少し理解できた。
『食欲』
「日替わり1つ。」
継続高校の食堂にて覇気無く言う俺に対して食堂のおばちゃんの真逆の威勢のいい答えが返ってきた。
「はい!日替わりね! ・・・ってタクマちゃんじゃない。少しやつれてるけど大丈夫?」
「絶賛2徹目っす。」
指を2本あげてVサインを作る。Vサインとは程遠い心境だがな。
「まあ!じゃあ、しっかり食べなきゃだめよ。コロッケ1個おまけしといておげるから。」
「あざっす。」
以前食堂の調理器具を直した関係でおばちゃんとは仲がいい。体調を心配してくれたり、こうやってたまにおかずをおまけしてくれる。ありがたい。
今日の日替わり定食、コロッケ定食を受け取って席につき、食べ始めているとよく聞き覚えの入る声が耳に入る。
「日替わり定食、大盛りで。」
「あら~ミカちゃん。今日も可愛いわね。」
「ふふっ。ありがとう。」
ミカが食堂に来た。そういえば理由はわからないがミカもおばちゃんと仲がいいらしい。会うたびに可愛い可愛いと賛辞を送っている。それに対してミカがいつもの涼しい顔で答えるのがお決まりみたいになっている。だが今日は少し違った。
「あれ? でもミカちゃん少し太った? ダメよ、食欲の秋だからって食べ過ぎちゃ。」
おばちゃんは良く言えば表裏のない人、悪く言えば正直すぎる人なので平気でこういうことを言う。表裏のない言葉なのでその一言は非常に重い。
少しビクつき目を閉じたまま動かなくなったミカを気にせずおばちゃんは続ける。
「あっ、聞いて聞いて。逆にタクマちゃんったら少しやつれてたのよ~。思わずコロッケおまけしちゃったわ。」
「へぇ~。」
目を細くしながら俺を見てくるミカ。気づかないふりをして白飯を掻き込む。
おばちゃんの「はい。日替わり定食大盛りお待たせ。」の声と同時にコロッケ定食が出されるが今となっては皮肉にしか聞こえない。ミカはおばちゃんにありがとうと言い、受け取ると俺の方へカツカツと歩いてくる。そしてガシャンと強くおぼんをテーブルに置き、俺の横に座った。
「・・・・・。」
(き、気まずい。そもそも何故、俺の隣に来たんだミカよ。用があるなら喋れ。ご飯の味がだんだんわからなくなるから!!)
とにかく早く食べてしまおうと、咀嚼しながらもう一口白飯を頬張ろうとしたところで異変に気付いた。白飯が減っていない。むしろ増えた気がする。見るとミカが箸を使って自身の茶碗から俺の茶碗へ白飯を移していた。
「・・・何してんの?」
「なに、やつれた整備士君へお腹いっぱい食べさせてあげようとしているだけさ。」
「この行為に意味があるとは思えない。そもそも自分が食いたいから大盛りにしたんだろ?」
ミカ風に返してみる。
「違う、風と一緒に流れてきたのさ。」
「大盛りの日替わり定食は自分で頼まないと流れてこない。自分で全部食えよ。」
「やだ。」
こんなやり取りが数回続いたが結局ミカは俺の茶碗へ移した分を食べなかったので全部俺が食うことになった。
放課後になり、今日は整備も早く終わったので久しぶりに家に帰れるとウキウキしながら自転車を校門へ向かって押していると、ハンドルを握っている手に柔らかな温度が重なる。見るとミカが俺の手を握っている。
「・・・何してんの?」
本日2回目の言葉を言う。
「なに、やつれた整備士君を運んであげようとしているだけさ。」
そう言うとサドルに座ってハンドルを握り、荷台をパンパンと叩く。・・・後ろに乗れってか。
荷台部分に座るとミカが漕ぎ始めたがフラフラして非常に危ない。さすがに女の子が男1人を荷台に乗せて漕ぐのは厳しいようだ。しかし代われと言ってもミカの奴は意地になっているから聞かないだろう。おばちゃんの一言はとても怖いなぁ。
「痩せればいいってもんじゃないんじゃないかな。というか今も見た目細いじゃんミカ。」
ある程度漕いだところで声をかける。表情は涼しい顔を保っているように見えるがミカは汗だくだ。息を切らしながら俺の問いに答える。
「ハァハァ、痩せているように見えても・・・意外にも人間の体には・・・脂肪が詰まってる・・・でも多くの人が・・・それに気付かないんだ。」
「ふーん。」
気の抜ける返事をしながらミカの腰に両腕を回し抱き寄せる。
「ッ!! 何をしてるんだい?」
「いや、どれくらい脂肪ついてるのかなぁと思って。」
短く声を漏らすミカを余所に服を少し捲り、お腹の肉をプニプニと指でつまんでみる。
「ンッ!!・・・脂肪って言うなら・・・こっちの方が・・・あるんじゃないかな?」
「!! おい!! ミカ!!」
やけくそ状態になったのか、ミカは俺の腕を取り自分の胸へ押し当ててきた。その豊満な胸に沈み込む指の感覚に俺はパニック状態になり、思わず強く胸を握ってしまった。
「アッ!!・・・ンンッ!!」
予想外の俺の行動に先程よりも大きな声を漏らし、足が止まってしまったミカ。原動力を失った自転車は少しずつタイヤの回転が遅くなり、やがて道の真ん中で完全に停止した。
「ミカ!大丈夫か?」
荷台から降りてミカに声をかける。見ると顔も耳も真っ赤にして息を切らしていた。
背中をさすってやると、ゆっくりサドルから降りて俺の胸に顔を埋めてきた。
「疲れた。お腹すいた。」
なんとも気の抜ける答えである。てっきり泣き出すものかと思っていたからな。だがそんな彼女も可愛いと思ってしまうあたり、俺も随分と毒されてしまったものだ。
「あーはいはい。じゃあ近くのラーメン屋でも行くか?」
俺の問いに黙って頷き、荷台にちょこんと座るミカ。
「一朝一夕で痩せるもんじゃないからな。ゆっくりな。明日からゆっくり運動していけばいいと思うぞ。だから今日は食うぞ?」
また黙って頷いたのを確認し、俺はペダルに力を入れ自転車を漕ぎはじめた。
ちなみに彼女はラーメン屋でチャーハン餃子付きラーメンセットを頼んだ。大盛りで。
『芸術』
「・・・こうか?」
「そうそう。そして次はこっちを弾く。」
ポロンポロンと短い音が響く。俺は今、ミカにカンテレの弾き方を教わっている。
普段からミカが弾いていて興味はあり、その姿を見ていたら「弾いてみるかい?」と声をかけられた。
「えっと・・・次は・・・?」
「次はこっちだよ。」
だがどうも俺には音楽の才能は皆無のようである。すぐに次に弾く場所を忘れてしまう。なので後ろにいるミカに手を重ねてもらって誘導してもらって弾いている状態だ。・・・うん、俺には無理!!
あとさっきから気になっていることがある。後ろにいるミカから・・・その・・・立派な双丘が背中や腕に当たっているのである。このおかげでさっきからなかなか集中できない。
「ふむ。もしかしたらやり方を変えた方がいいのかもしれないね。」
そう言ってカンテレを取り上げられる。愛想を尽かされてしまったのだろうか。
すこし落ち込んでいると
「よいしょと。」
掛け声と一緒に胡坐をかいていた俺の上にミカが座ってきた。ミカの髪の毛の香りが突如、俺を襲う。
「あの・・・ミカさん? これは?」
「ん? この方が教えやすいかなと思ってね。」
そう言ってミカの膝の上にあるカンテレまで手を強制的に運ばれる。色々と刺激がヤバいのですが・・・。
「やっぱり君の手は大きいね。」
運ばれた俺の手のひらとミカの手のひらを重ねているようだった。俺とは違う柔らかな感触が手のひら全体をなぞっていく。
「・・・・・・・。」
俺の手をなぞっていたミカの手が途中で止まり、急に黙りだしたミカ。
「どうした?ミカ。」
「・・・君の手、随分と傷が多いんだな。」
整備士をやっていると手袋をしているとはいえ、どうしてもこういった傷はつくものだ。古傷の上に新しい傷を重ねるというのも珍しくない。整備士の運命なのだ。
「あまり見ていて面白いもんじゃないだろう?」
手を引っ込めようとするとミカの手が俺の手を握る。いわゆる恋人繋ぎと呼ばれる握り方で。
「そんなことはないさ。これは君が私たちを守ってきてくれた証だ。誇るべきものだよ。」
そう言ってミカは俺の右の手の甲にキスを落とす。柔らかな温度と感触が伝わってくる。
ミカの行為に俺はたまらなくなりミカの首にキスをする。
「アッ・・・・ンッ・・・・はぁ。」
我慢できずに声を漏らすミカ。キスをやめると俺の方を向き、お互いに見つめ合う。
そして今度は目を閉じて唇同士を重ね合う。
脳内がとろけ落ちそうな感覚になりながら俺は誓う。
この両手がどれだけ醜くなろうとも構わない。ミカのことを守れるのであればそれでいい。
一生、ミカの整備士で在り続けようと。
皆様お気づきかと思いますが、筆者はノンナ、ミカ推しです。
あとおっぱいネタ大好きです。