いろんなところの整備士さん   作:ターボー001

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Happy Birthday to You どっかの誰かさんに♪


Baby You Can

「えーーーーっ!!!!」

 

 

冬の気温がリハーサルを終え、本番に差し掛かろうかという今日この頃。無限軌道杯も無事に終わり、あとは卒業を待つだけとなったいつもの継続女子3人と焚き火に当たりつつ俺が釣った焼き魚を食っているとアキが近所迷惑になるくらいの音量で叫ぶ。本当に近隣に民家がなくてよかったと思うくらい声がデカイ。

 

 

「タクマって卒業したら旅に出るのーー!?」

 

 

先程と変わらない音量だったので耳を塞ぎながら無表情で焼き魚を咀嚼。だってお腹空いてるんだもん。すると俺の行動が気に入らなかったようでアキが「ちょっと聞いてるのー?」と胸ぐらを掴んできたので人差し指の耳栓を外して答えることにする。

 

 

「聞いてるよ。そうだよ、旅に出ようと思ってる。」

 

 

事の発端はアキが「そういえばタクマって卒業したらどうするの? 進学?就職?」と目線を焼き魚から離さず、自分から質問したもののそれほど興味がないのか普通のトーンで聞いてきたことだ。「旅に出るよー」と俺も普通に返したら「ふーん。」という言葉の数秒後に小さく「えっ?・・・・」と続き、冒頭のシーンに戻る。

 

 

「何で言わないの!? そういう大事なこと!!」

 

「き、聞かれなかったから?」

 

揺らすのやめて、お魚が出ちゃう。口からキラキラ処理したものが出ちゃう。

 

「聞いてなくても普通言うでしょ? ほら、ミカを見てみなよ! 表情は変わらないけどカンテレ弾く手が止まって震えだしたよ!!これ絶対ミカにも言ってなかったでしょ!!」

 

横目でチラリとミカを見る。あっ、本当だ。これは相当ショックを受けているな。まずいな、別に隠してたわけでもないけど後々面倒くさそうだから出来るだけ穏便にすませるように何か言い訳を・・・・

 

「あたしは結構前から知ってたけどね。」

 

ちょっとミッコさーん!!! 空気読んで!!このタイミング出来るそんなこと言ったらさ。

 

「・・・へぇ。」

 

ほらぁ、怒っちゃったじゃない、ウチのカンテレ隊長。ハイライトのない目で近づいてこないで!!焚き火が近くにあるのにハイライトがないってどうなってるの!? ブホッ!!!

片手で俺の両頬を掴まれた。必然的にアヒル口になる。

 

「ミッコには伝えていて彼女である私には伝えていないのはどういう意味かな?」

 

あっ、俺の彼女っていう自覚あったんだ。いやあ嬉し・・・痛い痛い痛い痛い!!!! 手に力こめないで!!

 

「ニヤける必要はないと思うんだが?」

 

ふふっと笑う彼女のバックに般若が見える!ヤバイヤバイ、この後「答えは風に聞いてみるといいさ」とかふざけようと思ってたがちゃんと答えないと鈍器カンテレでトゥータされそうだ!

 

「ミッコには随分前に聞かれてたから答えました。はい。」

 

背筋を伸ばし姿勢を正して丁寧に答えることで精一杯真面目さをアピールしてみるが俺の両頬の長期的な痛みは変わらない。たまらずアイコンタクトでミッコに「何か言ってくれ!!」と必死に訴えると「ニシシッ。」と歯を見せて笑い、仕方ないなぁといった感じの咳払いをして話しだす。

 

「そうそう。あたしから聞いたんだよ。さっきのアキみたいになんとなく聞いてみたら『旅に出る』って言うからちょっと驚いたね。」

 

「私はだいぶ驚いたんだけど・・・っていうかミッコも知ってたんなら教えてくれればいいじゃん!何で黙ってるの?」

 

「・・・聞かれなかったから?」

 

「もー!!2人ともそんな答えばっかり!!何で疑問系なの? えっ?これ私が聞くの? タクマが旅に出るの知らないのに突然『タクマ、卒業したら旅に出ようとしてるでしょ!』って言うんだ? それで当たるんだ!?」

 

今度はアキがプンスカ怒りはじめて一人ツッコミをしだした。我が道を行くメンバーが多い継続連中で比較的良識人で振り回されてる(俺も振り回してるけど)からストレス溜まってるんだな、ごめんよ。

 

「落ち着いて、アキ。」

 

「そもそも!! 何で旅に出るの!? 」

 

なだめようとするがビシッと人差し指で俺を指しながら睨みながら旅の理由を聞いてきた。それに気圧されたのかミカがようやく俺の頬から手を離してくれた。ふうー、助かったぜ。でなんだっけ? ああ理由か。

 

「みんなとさ、いろんな学園艦に忍びこん・・・観光して、物資を盗ん・・・調達したりして思ったことがあるんだ。」

 

「タクマ、隠せてないよ。」

 

うるせえ、共犯者が。黙って聞いてろ。

 

「学園艦って海外の国をモチーフにしてることが多いだろ? だから、じゃあ本物はどんな感じなんだろうって思ってね。言ってしまえばただの好奇心。色々な国を周ろうと思ってる。」

 

 

言い終えると軽く火の爆ぜるパチンパチンという音だけが聞こえてきた。みんな真剣な表情で炎を見つめている。なんて答えていいのかわからないのだろう。俺もなんて言って欲しいのかわからない。しばらくそのままの状態が続く。もう一度火が軽くパチンと音をたてた。それが合図だったかのようにアキが口を開いた。

 

「でも、やっぱりミカには言うべきだったんじゃない? 彼女なんだし。」

 

アキの言葉に勝ち誇ったように口角をあげて頷くミカ。アキの言ってることは正しい。が、ミカが何かムカつくなぁ。よしっ!!

 

「いやアキ、よく考えてみろ。事前に『ただの好奇心で旅に出ます。』ってミカに言ったら何て返ってくるか想像つくだろ?」

 

「「ああー。」」

 

「なんだい? 2人とも?」

 

アキとミッコがハモる。よしもういっちょう!!せーの!

 

 

「「「旅に出る。それは必要なことなのかな?・・・・・ハッハッハッ!!!!!」」」

 

 

なんの合図もなしに今度は俺も含め、3人がハモり大爆笑。腹を押さえながら転がる操縦手と装填手と整備士。しかし

 

ガシッ!!!

 

「旅に出る必要性は今はわからないが・・・今、お仕置きの必要性はあるのはわかるようだ。」

 

「あだだだだだ!!!!」

 

今度はこめかみを掴まれた。彼女の顔は見えない。だがバック映る焚き火の炎が彼女の怒りを表してるように見える。だって何故か火の勢いが強くなったもん。いだだだ、シャレにならない。アキ、ミッコ助けて!!

 

「あっ!! お、お魚なくなっちゃったから取ってくるねー、行こうミッコ!!」

 

「う、うん。そうだね〜!!」

 

 

薄情者ーーーーー!!!!!

 

 

森の奥へと消えていく2人。ああ、俺の救いの希望はなくなった。旅に出る前に違う所へ旅立つのか俺。目を閉じてその時を静かに待とうとしたが

 

 

「・・・?」

 

 

俺を押さえつけていた力がいきなり0になった。と思ったら肩にポスンという音と共に少しの重みが・・・ミカだ。彼女が頭を預けてきた。いつものチューリップハットは外して手に持っている。だからだろうか、彼女の髪の良い匂いが鼻孔を突く。横目でチラリとミカを見る。視線が合った。上目遣いの彼女は俺の腕を強く抱きつき、こう言う。

 

「いくら何でもいきなりすぎるんじゃないかな?」

 

「ごめん。でも何か、心に風穴を開けたくなったんだ。」

 

「風穴?」

 

「うん、みんなでこうやってバカ騒ぎするのも好きなんだけど、何か新しいこともしたくなって・・・多分全部説明してもわかってもらえないと思うけど。」

 

 

「心の全てを理解するのは不可能だ。でも理解しようとすることは大事だ。」

 

ポロローンとカンテレの音が響く。今日はじめていつもミカ節が聞けた気がする。

 

「ついてくるか?」

 

カンテレをつま弾くミカの姿を見て思わず聞いてしまった。答えなどわかっているのに。

 

「風は・・・そっちには吹いていないかな。」

 

ほらね。

 

「・・・待っててくれるか?」

 

返ってきたのはカンテレの音だった。

 

「んっ。」

 

 

静かに佇む森の中、美しい名前をつけられた星たちが俺とミカのキスを見守っていた。

 

・・・・

・・・

・・

 

「じゃ、行ってくる。送ってありがとう、ミッコ。アキも元気でな。」

 

無事に継続高校を卒業した俺をBT-42で空港まで送ってくれたミッコとアキ。手を挙げると2人ともパチンと手を叩いてくれる。ミカは

 

「ミカどこに行っちゃったんだろうね。せっかくの見送りなのに。」

 

「まあいいさ、アイツにさよならの挨拶は似合わないし。」

 

「タクマ、今まで継続の整備お疲れ様。」

 

「おかげでいい走りをした楽しい戦車道だったよ!」

 

「・・・最後に泣かせにかかるなよ2人とも。・・・またな。」

 

「「うん、またね!」」

 

こぼれそうな涙を上を向きながら歩いて2人背を向けて歩き出した。振り返ることはしなかったがいつまでも2人は手を降ってくれていた気がする。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

「あーやっと着いたかー。」

 

数時間座りっぱなしの地獄を耐え抜き、空港に着いた。時刻は夕暮れ時、ここから先は確か電車が出ていたな。おっ、時刻表があった。どれどれ・・・

 

「嘘だろ!!最終列車もうないじゃん!!」

 

国が違うと今までの当たり前は通じないってことか。どうしよう。空港に泊まるか?いやもともとノープランの旅だし歩くか。

 

空港から少し歩くだけで周りに建物もない畑だけしか見えない田舎道になった。ヤバイな今日最悪野宿かもしれない。まあ慣れてるからいいか。んっ?

 

何やら後ろからカツカツと音が聞こえる?

 

振り向いてみると後ろがリアカーになっているタイプの馬車がきた。リアカーには藁がいっぱいに積んである。思わず見ていると馬車を操っている老人と目が合う。首から下げた携帯用ラジカセで何か聞いてるようだ。その老人が親指をあげて後ろを指す。「乗ってきな坊主」って言われてる気がした。俺は何か嬉しくなって荷台に乗り込んだ。

 

 

「ハハッ、まるで映画みたいだ。」

 

藁の上で大の字になって寝る。気持ちいい。

 

ポロロ〜ン

 

「ハ?」

 

 

聞き覚えのありすぎる音。ゆっくりと音がする方へ振り向く。いた。チューリップハット被ったヤツが、俺の彼女が。

 

「ミカ!? どうして?」

 

「風向きが急に変わってね。」

 

「お金はどうしたんだよ!? チケット代バカにならないだろ?」

 

「ココにあるさ。」

 

そう言うとシャツをめくる。すると出てくる出てくるサイフの数々。・・・見覚えがあるぞ。ミッコとアキのサイフ!!!そして他の継続生徒達のものまで!!! やらかしやがった。

 

「はあ〜。」

 

「彼女に会ったのにため息とはひどいね。」

 

もう何も言う気になれない。今頃ミッコやアキ達怒ってるだろうなぁ。

 

「これから何をするんだい?」

 

俺の心配を他所にミカが話しかけてくる。

 

「・・・そうだな。まだこの国で何もしてないから・・・」

 

「んっ!?」

 

 

今度は青空の下でまずは彼女の唇を奪うことにした。

 

 

 

 




The birthday さんのBaby you canという曲からイメージで勝手ながら書かせていただきました。 ミカENDっぽいお話ですが多分今後もミカの話は書くと思います。

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