咲-Saki- episode of side S   作:Sirone

3 / 10
こんにちは。
今回は麻雀します。
しますが、多分文章が滅茶苦茶です。ごめんなさい。

では、どうぞ。


第3話 二度目の麻雀部

「ねー今日は来てよー」

 

「…………分かった」

 

 

こんな事になってしまった理由は、俺が家を出る数分前に遡る。

 

 

今回も例に漏れず、二日酔いでギブアップした二人を介抱する朝。

もう何度目になるかも分からないが、いい加減に学習して欲しい。まぁ、この風景を楽しく思い始めている俺も大概だが。

 

 

「ほら、二人とも水飲め水。俺は味噌汁作ってくるけど、吐くなよ?」

 

「うーん……ちょっと無理かも……」

 

「…………なるべく早く作ってくる」

 

 

二日酔いには味噌汁が効果的。

以前ネットで調べた情報を参考に、和を基調とした朝食を作っていく。

白米、味噌汁に焼き鮭といったごく普通の朝食だが、俺にとっては贅沢でしかない。

ちなみに、いつもの俺の朝食は白米とふりかけのみだ。ひもじくて死にたくなってきた。

 

 

多分二人は食欲ないだろうし、俺の朝食と二人分の味噌汁を机に運ぶ。

 

 

「食欲なくても味噌汁ぐらいは飲んどけよ? 二日酔いに効くらしいからさ」

 

「さくえくん……ありがとうね……」

 

「そう思うなら、体調が戻ってからでいいから部屋を片付けてくれると助かる。俺は飯食ったら学校行くから」

 

「うん……出来る限りやっとくよ……」

 

「任せたぞ。……ふぅ、ご馳走様。さて、俺はもう行くからな。鍵は……すこやん持ってるよな? 行く時に閉めといてくれ。んじゃあ」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 

準備は昨日の内に終えてあり、後は学校に向かうだけの俺をすこやんが呼び止める。

立ち止まってすこやんの方を見ると、その表情は至って真面目なものだ。やがて口を開く。

 

 

「――――今日も麻雀部には行かないの?」

 

「あー……行かねぇよ。というか、俺は麻雀部員じゃないし」

 

「でも勧誘はされてるんでしょ? ……そうだ、私と一つ賭けようよ。今日一番最初に話しかけられた時に勧誘されたら、素直に麻雀部に行ってみる。どう? さくえくんが勝ったら、何でも一つ買ってあげるから」

 

「…………米」

 

「了解。でも、嘘はついちゃダメだからね? 私が勝ったら絶対に麻雀部に行く、いい?」

 

「OK分かった。米買う約束忘れるなよ?」

 

 

 

 

その結果、今俺は麻雀部の前に立っている。

今にして思えば、すこやんは俺がまだ麻雀を好いていると思っていて、俺が麻雀部に行く体のいい口実を作ろうとしたのではないか。

……考えすぎだな。どうせまた、いつもの気まぐれだろう。

 

 

「…………さて、行くか」

 

 

軽くノックをしてドアを開ける。

以前来た時の風景と最も異なっていたのは、その部屋にいるメンバー。

生徒会長に須賀京太郎は同じなのだが、初めて会った四人が増えている。それと、俺をしつこく勧誘した大星淡がいなかった。

 

 

「お、今日は来たわね。さ、座って座って」

 

 

生徒会長の開けてくれた席に座ると、同じ卓を囲んでいた三人からの視線が集中する。

知らない人だからって、そんなにまじまじと見る事はないと思うんですけど? 萎縮するから止めてくれません?

 

 

「部長、この人が前言っていたダブル役満を上がった人ですか?」

 

「えぇ、そうよ。そして、清澄高校男女混合の部五人目のメンバー」

 

「まだそうと決まったわけじゃないじぇ!」

 

 

本当にその通りだ。

 

 

「でも、彼なら全国でも通用する気がするの。なら、逃す手はないでしょ? で、どうなの? 麻雀部に入ってくれる気にはなった?」

 

「あ、えーっと……まだよく分かんないんで、もう一度打たせて欲しいなって」

 

「そう、分かった。今日は淡はいないけど、代わりにうちの最強が相手するわ。宮永さん、和、まこ、卓についてくれる?」

 

「……俺、大星淡に呼ばれたんですけど」

 

「あぁ、何だか急用が出来たそうよ」

 

 

……運悪いなぁ。

 

 

 

今回の相手は全員初見。

場決めにより、俺が北家。

 

 

「……朔上知生です。よろしくお願いします」

 

「み、宮永咲です。よろしく」

 

「原村和です。よろしくお願いします」

 

「染谷まこじゃ。よろしゅうなぁ」

 

東家 宮永咲

南家 原村和

西家 染谷まこ

北家 朔上知生

 

 

 

東一局

ドラ表示牌は{6}

 

 

さて、第一局だがどう動こうか……。

今回は役満を上がる気はあまりなく、あの打ち方で行くつもりだ。ならば。

 

 

「…………まぁ、これだな。ダブルリーチ」

 

{7}切りリーチ

 

 

(お、早速来たわね。どれどれ、待ちは……えっ!?)

 

 

朔上知生 手牌

{一五六八④⑦⑦⑧⑧⑨222}

 

 

(初手でノーテンダブリー!? 以前にはなかった打ち方ね……何が目的かしら)

 

(淡さんと同じタイプの打ち手でしょうか? 振り込まないように気を付けながらテンパイを目指しましょう)

 

(この人、お姉ちゃんみたいな雰囲気だ……きっと強いんだろうなぁ……)

 

(この半荘は様子見じゃけん。ダブル役満君の打ち方を見るためにも、振り込みだけは避けようかのぉ)

 

 

俺のダブルリーチに対して。

宮永咲{西}切り

原村和{7}切り

染谷まこ{西}切り

 

当然俺はツモ切りしか出来ず、打{6}。

 

「ポン」

 

原村和から声がかかる。

そして打{7}

 

原村和 手牌

{二三四②③④2358 6横66}

 

 

しかし、原村和及び全員上がらずに流局。

 

宮永咲 ノーテン

 

原村和 テンパイ

{二三四②③④2388 6横66}

 

染谷まこ ノーテン

 

そして俺。

 

「ノーテンだ」

 

「何を言っているんですか? あなたはダブルリーチを……」

 

「ノーテンリーチだって。あ、罰符な」

 

 

ノーテンリーチという意味不明な手に驚く面々を横目に、ノーテン罰符と一緒に罰符を場に置く。

 

 

宮永咲 25000→28000

原村和 25000→30000

染谷まこ 25000→26000

朔上知生 25000→16000

 

 

 

東二局

ドラ表示牌は{⑨}

 

 

初っ端からトップとの14000点差か。

別に驚きもしないし、むしろこうなる事を前提にリーチしたんだけどさ。

 

 

{五七八九①①②②③④789}

 

 

しかし、ここまでのいい手はいらないんだけどなぁ……しかも、ツモ{②}と来た。

ここで{五}を切ればテンパイ。だが……。

 

 

「……ダブルリーチ」

 

「またダブルリーチか。今回もノーテンリーチだったりしてのぉ」

 

…………大正解。

朔上知生の手牌

{五七八九①②②②③④789}

 

 

テンパイ放棄してのノーテンダブルリーチ。

しかも、ドラを手出ししての。

普通なら、というか当の俺すらもどうかと思うレベルの最悪手。ルールを理解しているかも疑わしい程だ。

でも、これは後の布石になる。

 

 

(またノーテンリーチでしょうか? しかし部長は、彼がダブルリーチでダブル役満を上がったと言っていました……今回も様子を見つつテンパイを目指しましょうか)

 

(さっき感じた雰囲気は気のせいだったのかな……今回は手もいいし、攻めようかな)

 

(今回も振り込み回避に専念、じゃな……)

 

 

その後、誰も動く事なく流局。

 

宮永咲 テンパイ

{①①①②②②5678西西西}

 

原村和 テンパイ

{五六七③④⑤1156789}

 

染谷まこ ノーテン

 

そして、当然俺も。

 

「……またノーテンだ。ほい、罰符」

 

 

罰符を支払う俺。

あまりにおかしい俺の打ち方に腹を立てたのか、原村和が音を立てて立ち上がった。

 

 

「……いい加減にちゃんと打ってください! ふざけているのなら帰ってくれませんか!」

 

「……あぁ、悪い。別にふざけてるわけじゃないんだよ。思いっ切り大真面目だ」

 

 

原村和がそれ以上何かを言う事はなかったが、顔には隠しきれない不満と怒りが現れていた。

 

 

宮永咲 28000→31500

原村和 30000→35500

染谷まこ 26000→26500

朔上知生 16000→6500

 

 

 

東二局 一本場

ドラ表示牌は{五}

 

原村和 打{西}

宮永咲 打{北}

染谷まこ 打{南}

 

 

……さて、そろそろ動くとするか。

何度もノーテンダブリーという意味不明な手を打たれた人間は、大抵俺のリーチを無視するだろう。そこに隙が生じる。

後は、そのわずかな隙を突くだけ。

 

 

「……ダブルリーチ」

 

朔上知生 打{①}

 

朔上知生の手牌

{一一一①③⑨⑨⑨11199} {②}単騎待ち

 

 

(あら、今回はテンパイみたいね。でも、何故{①}切りなのかしら? それを取っておけば清老頭だったのに……)

 

(またノーテンダブルリーチ……! 今度は攻めて上がり切ります!)

 

(この気配、最初に感じたのと同じだ……多分、高い手をテンパイしてる……)

 

(またダブルリーチとは……何を考えとるんじゃろうか?)

 

 

宮永咲 {①}ツモ切り

手牌

{③③③⑦⑧⑧13568西西}

 

原村和 {⑨}ツモ

手牌

{七八八九②⑦⑧6788東東}

 

 

(ここで絶好のツモ……{②}を切れば純全三色を狙えますね。それに彼はノーテンのはずですし、{②}は通る!)

 

原村和 打{②}

 

 

……やっぱり、出すなら原村和だったか。

宮永咲は表情を見る限り、俺のテンパイを察していたようだし、染谷まこは振り込まない事だけに専念してるし。

 

 

原村和の視線は手牌の中央辺りに向かっており、その顔にはわずかな逡巡が見られた。

恐らくではあるが、筒子に切りたい牌があったという事だ。

あくまで多分、だが。

 

 

原村和が{九 ⑨ 東 東}を持っている上、その近くもかなり有していると感じている。

それに加えて、他の幺九牌とその近くは持っていない事も感じ取れた。

 

 

ならば、{②}は不要牌でしかない。

 

 

「……ロンだ、倍満。途中で出るとは思っていたが、まさか最初に出るとはな」

 

「……えっ!?」

 

朔上知生 ロン

{一一一①③⑨⑨⑨11199 ②}

ダブルリーチ 一発 三暗刻 純全

裏ドラ表示牌 {⑤}

60符8翻の一本場 16300点

 

原村和 31500→15200

朔上知生 6500→22800

 

 

俺の最初の捨て牌が{①}であるため、本来ならば清老頭を張っている手。誰がどう見ても気がつく異常性だ。無論、それに原村和も気が付いているはず。

顔に隠しきれていない驚きが現れているし、手がわずかに震えている。瞳孔も開き、驚愕している人間の典型的な反応だ。

 

 

(何故!? あの{①}を取っておけば清老頭テンパイ! なのに何故{③}を残して{②}単騎待ち!? それに、今回はノーテンリーチじゃない!)

 

(まさかあのノーテンリーチは、そう和が考える事自体が目的!? ……まさかね)

 

 

先程の二連続ノーテンリーチを見た後の俺のリーチ、原村和はこう考えただろう。

今度は絶対ノーテンリーチだ、と。

しかし、麻雀ではその『絶対』が命取りだ。

その『絶対』が考えを硬化させ、原村和を攻めに固執させる。

 

 

さらに今回は、俺が以前来た時の話が伝わっている。俺がダブルリーチでダブル役満を上がったという事実を。

人は、自分が本心で偶然だと思っている事を行動で否定したがる。それは今回の振り込みにも如実に現れている。

 

 

俺が来た時、原村和が生徒会長に俺の話を聞いた瞬間、少しだけ表情が淀んだ。その理由は、それはその事実を偶然だと信じたかったからだ。

だが、生徒会長は本当だと言い続けた。

つまり今回の振り込みは、俺のダブルリーチ上がりを偶然だと証明したかった心理の現れでもある。

 

 

相手がプロや裏の打ち手ならともかく、原村和はただの高校生。その心理に身を任せるまでは早い。

 

 

それに加えて、この振り込みは点数以上の意味を持つ。

原村和が持つ俺のイメージ。

今までもはっきりしなかったイメージが、この上がりで完全にぼやけた。

 

 

二度ノーテンダブリーをしたかと思えば、東三局で倍満を直取りされる。

これが勢い重視の打ち手ならどうなったか分からないが、この打ち方はデジタル打ち手にとっては理解不能。そもそも、ノーテンリーチという発想自体が存在しない。

 

 

理解不能を抱き続ける原村和はデジタルを信用出来なくなり、自分の打ち方を見失う。

 

 

要するに、後一押しだ。

後一押しするだけで原村和は自分を見失い、自ら敗北に飛び込んでいく。

その一押しは、本当に軽い一撃だけでいい。

それは、原村和にとって致命傷となる。

 

 

 

東三局

ドラ表示牌は{東}

 

宮永咲 打{發}

原村和 打{發}

染谷まこ 打{南}

 

 

朔上知生の手牌

{三四四五③④⑤⑥⑦34西北}

 

 

タンピン三色を狙える手牌。

しかし、それでは足りない。それでは、最後の一押しになりえない。

そう思いながらツモった牌は{⑧}。

 

 

朔上知生 打{北}

 

 

(タンピン三色……一盃口はないわね。{四}を引いてリーチ、{2 5}の両面待ちが理想かしら)

 

 

そして、八巡後。

俺の手牌に{5}が訪れる。

今まで全てツモ切りだったため、手牌は変わっていない。つまり、ここで{西}を切れば{四}単騎待ちだ。

 

 

(リーチするかどうか……まぁ、私ならリーチするけどね…………えぇ!?)

 

「……リーチ」

 

朔上知生 打{四}

{三四五③④⑤⑥⑦⑧345西} {西}単騎待ち

 

 

(ここで{西}単騎待ち!? 流石の私もそこで待つ事はないわ。……でも、彼にはそこに理を見出した)

 

 

原村和の手牌

{五六七②②②⑧⑧4567西} ツモ{9}

 

(九巡目でリーチですか……)

 

朔上知生の捨て牌

{北東東發北北}

{南南横四}

 

(この捨て牌を見ると、彼は断幺九狙いが濃厚でしょう。つまり……この{西}は通るはずです)

 

原村和 打{西}

 

 

「リーチ!」

 

「通らないな。ロン、裏ドラが二つ乗ってハネ満だ。12000点」

 

 

朔上知生 ロン

{三四五③④⑤⑥⑦⑧345西 西}

裏ドラ表示牌 {南} 加算ドラ2

リーチ 一発 三色同順 ドラ2

40符6翻 12000点

 

原村和 15200→3200

朔上知生 22800→34800

 

 

これで俺は一位に浮上。原村和と三位との点差は20000点近くになる。

 

 

(もうわけが分かりません……{四}を残せば断幺九が付いて満貫確定だったのに……何故{西}を切ったんでしょうか……?)

 

(この人、すごい……! 原村さんが{西}を持っている事を察して……)

 

(トリプル役満君、とんでもない子じゃのう。今の和じゃ太刀打ちできん。後は咲がどこまでやるか、か)

 

 

この一撃で、原村和は沈んだろう。

この場にいても、同じ土俵に立って打ってはいない。恐らく、俺がリーチをすればベタオリ。鳴く事もしない。手を短くすれば、振り込みのリスクが高まるからだ。

 

 

こうやって、相手を破壊していくのだ。

 

 

麻雀を打つ人は、大まかにいくつかのタイプに分けられる。

一つ目、『能力』に近いもので戦う者。

二つ目、流れを重視する者。

三つ目、効率を重視する者。

四つ目、場の状況を見切る者。

五つ目、敵の心を操る者。

そして六つ目、そのいくつかを併せ持つ者。

俺はその六つ目の打ち手だ。

 

 

『能力』を使って大まかな場の状況を見切りつつ、後は観察力と読みで場を裸にする。

そして再び『能力』によって手を作り、相手が振り込むであろう牌で待つ。

だが、そうするには敵の癖や傾向を知る必要がある。なら、ノーテンダブルリーチ一本。

 

 

それが以前言っていた『あれ』だ。

俺の『能力』は単体でも使えるのだが、ノーテンダブリーと組み合わせる事で真価を発揮すると個人的には思っている。

 

 

ノーテンダブルリーチは、敵のオリ方や微妙な攻め方を知る絶好の手段。

最初の二連続ノーテンダブルリーチで三人の打ち筋をほぼ把握した俺は、東二局の一本場で勝負に出た。

 

 

{① 九}のシャボ待ちならば清老頭確定、ツモなら四暗刻のダブル役満まで手でわざわざ{②}単騎待ちの倍満。

視点移動から、筒子に不要牌があると見ていた俺からすればただの直撃狙い。しかし、他家からはそうは見えない。

 

 

未来予知や透視かと見まごう狙い撃ち。

さらに、それを直接受けた原村和にしてみれば、最早冗談の世界だろう。

それら全てを考慮した上での{②}単騎待ち。

 

 

当然、その賭けが失敗する可能性もあった。

だが、その可能性に臆して動けなければ勝負はありえない。むしろ、その道を通ってこそ勝負は訪れる。

 

 

原村和はもう敵じゃないが、問題は宮永咲。

時々感じたあの雰囲気は、このまま終わるとはとても思わせてくれなかった。

東四局、気を付けた方がいいかも知れない。

 

 

 

東四局

ドラ表示牌は{四}

 

 

前局の最後、気を付けた方がいいと言ったものの、特にこれといった動きはなく。

十二巡目で俺がテンパイ。

 

 

朔上知生の手牌

{三五五六七八九九九③③③南} ツモ{四}

 

 

「……リーチ」

 

 

朔上知生 打{八}

{三四五五六七九九九③③③南} {南}単騎待ち

 

 

先制親リーチで他家の動きを制限しつつ、オリるであろう原村和からの直撃を狙い撃つ。

それで終わりだ。

 

 

しかし、そんな状況に声がかかった。

 

 

「あ、カンです! ……ツモ、嶺上開花! 2600点の責任払い!」

 

 

宮永咲 ツモ

{二三四⑤⑤⑤2333 2 横八八八八}

断幺九 嶺上開花

カンドラは{⑥}

40符2翻 2600点の責任払い

 

朔上知生 34800→32200

宮永咲 31500→34100

 

 

嶺上開花って……0.28%だぞ。

しかも周りの反応を見るに、宮永咲が嶺上開花を上がる事はよくある事らしい。

……何だよそれ、宮永咲も『能力』持ちか?

まぁ、これではっきりした。

この卓で、宮永咲が一番ヤバイ。

 

 

 

南一局

ドラ表示牌は{東}

 

 

朔上知生の手牌

{③④④⑤⑥⑦25東東東南南}

 

 

かなりいい配牌だ。

リーチ場風牌混一ドラ3の倍満、裏が乗れば三倍満まで伸びうる手。

俺とトップは5900点差。

満貫もいらないような局面で入ったこの手、鳴いて早上がりを目指すか……。

 

 

そんな事より、宮永咲の手牌。

配牌で{一}四枚。また嶺上開花されるのではないかという妄想に囚われそうになるが、そんな事はそうそう起こる事ではない。

仮に起こったとしても、どうにでもなるし。

 

 

朔上知生 ツモ{南} 打{2}

宮永咲 打{北}

原村和 打{北}

染谷まこ 打{北}

 

 

その後数回ムダヅモをするも、{③}ツモ。

{5}切りでリーチをする前に、他家の捨て牌を確認する。

 

 

宮永咲の捨て牌

{北發西8四⑦}

{8二③}

 

原村和の捨て牌

{北北發西西8}

{2發中}

 

染谷まこの捨て牌

{北白白中九九}

{228}

 

 

{5}が一枚も出ていない事に一縷の不安を感じるが、筋を見るとかなりの安牌。

ここは攻めるべき……!

 

 

「リーチ……!」

 

 

「その{5}、カンです!」

 

 

また大明槓かよ……さらに暗槓を加えて嶺上開花上がったし。俺は確率信じてないけど、これはいくら何でも酷すぎる。

 

 

宮永咲 ツモ

{五六七七八九中 中 裏一一裏 横5555}

カンドラは{白}

今回は暗槓があったため、責任払いはなし

70符1翻 1200オール

 

宮永咲 32100→37700

原村和 3200→2000

染谷まこ 26500→25300

朔上知生 32200→31000

 

 

70符について突っ込みたくなるが、これが宮永咲にとっては普通なのだろう。

これに対して『ありえない』という感情を抱く事自体が負けへのタイトロープだ。そこを突かれると、人間どうしても壊れてしまう。

柔軟に、臨機応変に対応する事。基本的な事ではあるが、かなり重要な事だ。

 

 

 

南一局 一本場

ドラ表示牌は{白}

 

 

朔上知生の手牌

{一一一九九①①①111南南} ツモ{發}

 

 

これ以上宮永咲に上がらせるわけには行かない。だから、この局で仕留める。

 

 

「ダブルリーチ!」

 

 

朔上知生 打{發}リーチ

 

 

(またダブルリーチ……! 今回は現物があったから助かりましたが……次は何を……?)

 

(和が震えてる……まさか、こうなる事まで計算していたとでも言うの!?)

 

(勝てなかったなぁ……今度は勝てるかな?)

 

(淡も、えげつない新人を連れてきたもんじゃのぉ……)

 

 

宮永咲 打{西}

原村和 打{發}

染谷まこ 打{西}

 

 

幺九牌は全て俺の支配の中。

今は東場で一回ずつ、南場で一回ずつしか支配出来ないものの、それだけで充分。

文句なく敵を蹂躙する。

それが、俺の麻雀。

 

 

{一}ツモ

 

「カン」

 

{①}ツモ

 

「カン!」

 

{1}ツモ

 

「カンッ!」

 

最終形

{九九南南 裏一一裏 裏①①裏 裏11裏}

{九 南}待ち

 

{⑦}ツモ切り

 

 

(な、何ですかこれは!? 宮永さんじゃあるまいし、そんなオカルトありえません!)

 

(少し運の強い子だと思ってたけど、こりゃあ相当な化け物ね……)

 

 

そして、原村和のツモ牌は当然{南}。

 

原村和の手牌

{二三七八赤⑤⑥⑧23456南} ツモ{南}

 

 

(もう現物がない……彼の手は恐らく純全が絡んでいる。かと言って、他のどれを切っても確実性があるわけじゃない。なら、いっそ……)

 

 

原村和の表情に、何かを希う様子が強く現れている。つまり、今のツモは現物ではなく、手中にも現物がないという事だ。

 

 

俺なら迷わず中張牌の不要牌を切るが、現在の原村和の精神状態では不可能。

何故なら、原村和は俺が見えていない。

『もしかしたら』という言葉に縛られ、いつも通りの麻雀が打てなくなっている。

万が一、俺が一枚中張牌を抱えていたら……と思うだけでもう切れない。かと言って、幺九牌も危険すぎる。

 

 

こうなり、自身すら信じられなくなったデジタル打ちが進む道は一つだけ。

自分の手牌の中から、出来るだけ安全を買える牌を選ぶ事。つまり。

 

 

(……お願いします、これが通れば!)

 

原村和 打{南}

 

 

被った牌を切る事だけだ。

 

 

「……通らねぇよ。ロン。32000の一本場は、32300」

 

 

朔上知生 ロン

{九九南南 南 裏一一裏 裏①①裏 裏11裏}

カンドラは{五 ⑦ 7}で乗らず。

ダブルリーチ 場風牌 対々和 三暗刻 三色同刻 三槓子 混老頭

130符13翻の一本場 32300

 

朔上知生 31000→63300

原村和 2000→マイナス30300

 

 

 

 

対局終了。

最終結果はこんな感じ。

 

宮永咲 37700点

原村和 マイナス30300点

染谷まこ 25300点

朔上知生 59300点

 

 

終わってみれば俺の圧勝だが、途中ヒヤッとさせられる場面はあった。次は注意……って、何で俺は次の事を考えてるんだよ。

今になって思い返してみれば、対局中の俺、声が時々弾んでたよな。って事は、俺は内心麻雀を楽しんでいた?

 

 

……麻雀部、か。

 

 

「……あ、そういえば須賀。お前、俺に卵の代金払ってねぇよな? それ保留でいいぞ」

 

 

「え、どうしてだ? せっかく今日は払えるように持ってきたのに……」

 

 

「……そういう事、ね。じゃあ朔上君、どうしても来れない日は連絡してちょうだい。連絡先渡しておくから」

 

 

「え、じゃあ朔上……」

 

 

「改めて言います。生徒会……部長、俺を麻雀部に入れてください。バイトがどうしても忙しくて、たまに来れない日はありますけど」

 

 

何故かは分からない。

でも、ここにいればいつか、あの時みたいに麻雀を楽しめる時が来る気がするのだ。

根拠のない待ちはあまりしない主義だが、それも悪くない。

 

 

全く、ここまで計算した上であの賭けを持ち出したのなら恐ろしいぜ、すこやんよ。何年かかっても勝てる気がしねぇ。

まぁ今回は、体のいい口実を使うとしよう。

 

 

部屋を静寂が包む中、部長がゆっくりと窓際に歩いていき、こちらへ振り返ると。

 

 

「ようこそ麻雀部へ! 目標は全国優勝、これ一本よ!」




閲覧ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。