咲-Saki- episode of side S   作:Sirone

4 / 10
今回は試験的に地の文が三人称となっています。
正直難しかった(小並感)。遅くなったのはそれが理由です。

では、どぞ。



第4話 合宿

 

 

窮屈なバスで眠っていたからか、朔上の体の動きがいつも以上に鈍い。

睡眠欲から欠伸と伸びを何度も繰り返す。

その睡眠欲は某二人の襲来から来るものなのだが、それを知らない部員は朔上に怪訝な視線を向けていた。

 

今日、朔上が麻雀部に入部してから数日。

 

朔上を含む麻雀部一行は、合宿に来ていた。

 

 

全員は部屋に荷物を置き、一つの部屋に集まっていた。

殺風景な部屋に二つの麻雀卓。明らかに狭い部屋に部員八人が集っている。

 

ついさっきまで皆温泉に入っていた事もあってか、部屋の湿度が高い。

浴衣姿の六人に、私服が一人。

そして、制服が一人。

それに気が付いた染谷は二人に問う。

 

 

「お? 朔上と和は浴衣じゃないんか?」

 

「浴衣じゃ食堂やロビーに行けませんし、散歩にも出れませんから……」

 

「俺、あんまり浴衣好きじゃないんですよ。着心地が肌に合わなくて」

 

「いいとこ育ちの和は兎も角、朔上は何で制服なんじゃ? 私服持って来とらんのか?」

 

「持ってないんです、私服。金がないから買えなくて……は、ははっ……」

 

 

私服を購入する金すら持たない朔上は、平日休日問わず制服を着ている事が多い。

家では稀に、学校指定のジャージや体操服を着ている姿も見られるが。

自嘲気味に笑う朔上に向かう視線が、だんだんと同情混じりの視線へと変わっていく。朔上としては、場をなんとか和ませようとした笑いだが、それがさらに場を沈ませた。

 

 

「……つーか、俺の事はいいでしょ。早く練習始めましょうよ」

 

「そ、そうよね! じゃあ、早速特打ちだけど、最初のメンバーは私が決めるわ」

 

 

第一卓は、宮永咲、原村和、朔上知生、須賀京太郎。第二卓は、大星淡、竹井久、染谷まこ、片岡優希。

三位と四位が卓を入れ替わり、半荘を何度も打つという取り決め。

 

 

「さて、始めましょう。どんどん打つのよ!」

 

 

 

 

「――――ロン、12000の七本場は14100だ」

 

「だぁーっ! また飛んじまった!」

 

「須賀……お前弱すぎるだろ……」

 

「朔上が強すぎるんだよ! 最初っから一度も負けてねぇじゃねぇか!」

 

 

何度も人が入れ替わる中、朔上、大星、宮永だけは一度も入れ替わっていない。しかも、朔上と大星は毎回一位を守っていた。

麻雀という偶発性の高い種目での、この勝率は明らかに異常。

 

それに反して、須賀京太郎。

一度も例に漏れる事なく最下位をキープしている。意図的になら兎も角、大真面目に打ってこの成績もある意味異常。

 

朔上が、実は須賀京太郎も『能力』持ちなのでは? と思い始めた時、部長から。

 

 

「さて、今日はここまで! ご飯にしましょう」

 

「やたー! 私もうおなかペコペコだよ!」

 

(め……し……? …………はっ! まさか食費まで部費から出るのか!? 何だただの天国か)

 

 

食事が支給される事に涙を浮かべた朔上は欠伸でそれを誤魔化すと、食卓につく。

近所の飲食店でバイトをし、月六万ほどの給与で何とか口に糊をしている状況だ。そんな朔上にとって、ただ飯とはまさに僥倖。

 

実際問題、朔上以上に食事への感謝をしている男子高校生は存在しないだろう。

こんな事で、朔上はこの合宿に来た甲斐を感じていた。

 

 

 

 

食事や風呂を終え、男子部屋。

二人は既に布団を敷き終え、外をのんびりと眺めていた。

 

 

「……なぁ須賀、麻雀強くなりたいか?」

 

「どうしたんだよ急に? そりゃあ、強くなれるならなりたいけどさ」

 

「だってさ、お前雑用ばっかしてるじゃん。でも、強くなればそれも変わるだろ」

 

「……確かに、俺は雑用係だけどさ。別にそれが嫌なわけじゃないんだよ」

 

 

そう言う須賀の表情に一切の嘘はない。

言葉の意を汲み取れない朔上は首を傾げるばかりだが、須賀は当然のように続ける。

その口から出る言葉は、朔上には考えられない言葉ばかり。

 

 

「皆は俺よりもずっと強い。だからさ、出来るだけ多く練習してほしいんだよ」

 

「いや、お前メンバーだろ」

 

「大丈夫だって。俺も家ではネット麻雀で練習してるから」

 

「そういう問題じゃ」

 

「それにさ、俺は皆が麻雀してるのを見るのが好きなんだよ。だからここでは雑用してたいんだ」

 

「…………お前、馬鹿じゃねーの?」

 

「は!? 馬鹿ってどういう意味だよ!?」

 

 

呆れた朔上に、驚きながら問い返す須賀。

朔上は一つため息を吐き、淡々と須賀に対して言葉を紡いでいった。

 

 

「あのな、お前は一応選手なんだぞ? お前が大量失点して飛んだらどうするんだ?」

 

「あ……それは……」

 

「話はまだ途中だ。お前が雑用したがる理由は分かった。だからといって、お前が強くならなくていい理由にはならない」

 

「……そりゃあ、俺だって強くなりたいよ! でも、それ以上に皆に強くなってほしいんだ!」

 

「それはもう聞いた。だからさ、この一晩だ」

 

「一晩?」

 

 

須賀の言葉に、自信満々の笑みを浮かべた朔上は大きく頷いた。

 

 

「流石に宮永や大星、部長には勝てないと思う。でも、今の原村レベルなら多分勝てる。正直、あいつはあんまし強くないしな」

 

「和に……俺が勝てるのか?」

 

「余裕だ、俺が保証してやる。というか、前に俺が原村に圧勝してたの見ただろ?」

 

「まぁ、確かに見てたけどさ……あんなのが俺にも出来るか不安だな……」

 

「いや、あれじゃなくって。もう少し簡単に上がる方法があるんだよ。それを使いこなせれば、個人戦で県予選突破も不可能じゃない」

 

 

朔上の『県予選突破』の言葉を受けて、須賀に見て取れる表情の変化。

周りには強い打ち手ばかり。

そんな環境で一人取り残された須賀からすれば、その言葉は希望そのものだった。

 

 

「だから、この一晩。この一晩だけ本気を出せ。さっき部長から借りてきた雀卓もあるし、今日はみっちり練習しようぜ」

 

「お、おう! ……あれ? でも何でわざわざ俺のために?」

 

「さぁ?」

 

「さぁ? って……まぁいいか。じゃあ朔上、いや師匠! 特訓お願いします!」

 

「その師匠っての止めてくれね? ……さて、まずはだな――――――」

 

 

二人の部屋の光は、結局夜が明けるまで消える事はなかった。

 

 

 

 

朝。

部長の呼びかけによって目を覚ました女子一同だが、未だに男子二人が現れない。

時刻は既に十時を回っている。

痺れを切らした部長が部屋の扉をノックしても、一切の反応はない。

 

 

「ちょっと二人ともー? 開けるわよ? ……ってどうしたの!?」

 

 

部長が見た先はまさに死屍累々。

うつ伏せに倒れたままぴくりとも動かない朔上と、麻雀卓に伏せたまま動かない須賀。

部屋には何本かのペットボトルと、須賀がぶちまけたであろう麻雀牌が散乱している。

 

しばらく部長が狼狽えていると、須賀と朔上が体を揺らして目を覚ました。

 

 

「……あれ、いつの間にか寝てたのか……?」

 

「……寝てたっていうか……一瞬気を失ってたんだろ。俺ここでぶっ倒れたみたいだし……」

 

「それは朔上だけだろ! 俺はそこまで寝不足じゃねぇよ! ……って部長? 何でここにいるんすか?」

 

「……部長? あ、ホントだ」

 

 

わずかに顔を上げた朔上の目元には大きなくまが出来ており、明らかに睡眠不足であると部長は察す。

 

 

「何でって、もう朝の十時よ? いつまで寝てるつもり?」

 

「……いや、ね? 須賀の特訓してたせいで全く寝てないんですよ。今だって集合しようとして気絶してましたからね?」

 

「俺のせいかよ!? まぁ、確かに俺の特訓が理由なんだけどさ……」

 

「え? え? どういう事?」

 

「要するに、俺、寝不足、です。というわけでおやすみなさい……」

 

「おい朔上もう起きろよ! 早くお前に教わった打ち方試したいんだよ!」

 

 

興奮しながら朔上を揺らす須賀と、何とか起きまいと伏せ続ける朔上。そして状況に付いていけずに呆然とする部長。

その状況は、朔上が観念して起きる十五分後まで続いた。

 

 

 

 

「おっそーい!」

 

 

扉を開けるや否や、大星の不満顔が三人の目に飛び込む。その後ろでは宮永、原村、染谷、片岡が先に卓を囲んでいた。

 

 

「悪ぃ! 朔上がずっと駄々捏ねて起きないもんだからさ……」

 

「おい、俺が寝てない原因を忘れるなよ? お前が点数計算さえ完璧だったらなぁ……」

 

「わ、悪かったって何度も言ってるだろ!」

 

「二人とも、言い争いはそこまでよ? あの卓もそろそろ終わりそうだし、皆の特訓メニューを発表するわ」

 

 

数分後、宮永が嶺上開花を和了。

宮永が一位、原村が二位で決着が付いた。

 

 

「さて、全員集合! この合宿の目的は、新一年生の実力の底上げよ。あなた達には、夏の大会で活躍出来るようになってもらう必要があるの。いい? ……まずは優希、はいこれ」

 

「なんだじぇ?」

 

「算数のドリル。これを毎日一冊やる事」

 

「えぇぇっ!? 何でだじょ!?」

 

「あんたは点数移動計算がダメすぎるからのぉ」

 

 

その一言で引き下がった片岡を見て頷くと、部長は朔上の方を見る。

が、その時の朔上はうつらうつらといて気が付かない。横に座っている大星が脇腹を突くが、どうにも睡魔には劣るようだ。

 

 

「朔上君、あなたは…………朔上君?」

 

「さっくー起きなよ! これじゃあ麻雀打てないじゃん!」

 

「…………ん? あ、すいません部長。で、何ですか?」

 

「まだ何も伝えてないわ。じゃあ伝えるわよ?今日はずっと、能力使用禁止。それと……」

 

(能力使用禁止? そんなの余裕じゃん)

 

「ロンでの上がりも禁止、この条件で打ってみてちょうだい」

 

「…………いやいや、無茶言わないでください」

 

 

朔上は基本、ロンで上がる事が多い。

つまり、部長の言うルールを呑めば朔上はいつもの打ち方を大幅に変更するしなければならず、雑魚相手ならまだしもこの面子相手にそれは無謀ないしは無茶というものだ。

 

 

「確かに無茶かもね。でも、あなたの牌譜を見ていて思うの。あなたがデジタルで打てるようになれば、今よりもっと強くなれる」

 

「いや、それは知人にも言われた事ありますけど……俺、数学苦手なんですよ。だから牌効率の計算とか出来なくて……」

 

「だから、今日はツモで上がる事だけを考えて打ちなさい? 幸いにも、清澄高校には強力なデジタル打ちがいるわ! 見て学んでみて?」

 

「はぁ……まぁやってみます」

 

 

その後、宮永、原村、大星に特訓の内容が告げられる。

宮永はパソコンでネット麻雀、原村はとにかく打つ、大星はリーチ禁止という事らしい。

 

二人が抜けて六人になってしまったため、二人が抜けて四人で卓を囲む。

最初は、須賀、原村、部長、染谷。

朔上は須賀の後ろに座り、徹夜で教えた打ち筋が出来ているかどうかを伺っていた。

 

 

 

東一局

ドラ表示牌 {南}

東 須賀

南 染谷

西 部長

北 原村

 

須賀 手牌

{二三四五八八④⑤⑨⑨東北白}

 

 

須賀の配牌は普通。他家に比べれば若干悪いだろうか。

しかし数巡後、須賀が動く。

 

「チー!」

 

原村の打{⑥}をチー。

そして次順、再び原村の打{六}をチー。

 

須賀 捨て牌

{北東白⑧南2}

{八}

 

(鳴いての三色、後は断幺九でしょうか……? なら、これは通るはずですね)

 

「リーチです!」 打{一}

 

「それ、ロン! 1500点!」

 

「……はい」

 

須賀 上がり形

{二三七八九⑨⑨ 一 横六四五 横⑥④⑤}

一気通貫

30符1翻 1500点

 

須賀 25000→26500

原村 25000→23500

 

 

『お前は基本的にツモ運が悪すぎる。だから取り敢えずは鳴け。安くてもいいから鳴いて手を作るんだ。後は出来る限り、他の役に見せかける鳴きをする』

 

(こんな感じか……! 今までの適当な鳴きよりもずっと使いやすい!)

 

 

上がりを取れた事がよほど嬉しいのか、朔上の方を見てガッツポーズをする須賀。

 

 

「あら、和が須賀君に振り込んだのって初めてじゃない? またリアルの情報に惑わされたのかしら?」

 

「ち、違います! ……今のは単純に須賀君の仕掛けに引っかかってしまったんです」

 

「確かに、今のはワシも三色だと思うとったわ。まさか隠し一通だとは……」

 

「……一度上がっただけでこの反応って、お前今までどんな成績だったんだよ?」

 

「九割近く焼き鳥」

 

「」

 

 

驚きのあまり絶句する朔上を横目に、卓の状況は進んでいく。

 

 

 

東一局 一本場

ドラ表示牌 {7}

 

 

七巡目

須賀 手牌

{三七九②③⑥⑧5889南南}

 

 

七巡目で未だ三向聴。

今までのツモが全て字牌という圧倒的不幸に見舞われ、手が一向に進まない。さらに。

 

(前巡の和……{赤五}を迷いなく手出しした……て事はテンパイが近いのか……?)

 

今の須賀は朔上から麻雀の基礎をだいたい教わっており、テンパイ察知能力も少しは身に付けていた。

そして、その読みはおおよそ当たっている。

 

 

原村 手牌

{一一七八②③④⑦⑧⑨789} {六 九}待ち

 

手変わりを待っているためリーチはしていないが、ダマテンでも{九}を振り込めば8000点が炸裂する手だ。

しかし、そんな状況への対処法も朔上は教えていた。

 

須賀は染谷 打{南}をポン。打{5}

次いで部長から放たれた{8}もポン。打{三}

傍から見る須賀の手牌の様子は、

 

 

{裏裏裏裏裏裏裏 8横88 南南横南}

 

 

であり、一見ドラ三の染め手に見える。

が、この時須賀は当然ノーテン。染め手はおろか張る事すら困難な状況だ。

しかし、そう思えるのは後ろから見ている朔上と大星、後は須賀のみ。対局者にとって、親のこの鳴きは危険なものでしかない。

 

 

(京太郎のあの仕掛け……染めとるのか? ここは一旦オリじゃな) 打{西}

 

(今までの須賀君ならともかく、今の須賀君は馬鹿に出来ないわね……一旦安牌の対子切って回ろうかしら) 打{三}

 

(須賀君のあの鳴き……もう筒子は切れませんね。取り敢えず今ツモったこれを) 打{七}

 

 

結局この局は誰も上がれず、原村の一人テンパイとなる。

 

原村 最終形

{七八九①②③④⑥⑦⑧⑨77}

 

 

「あー……ダメでした。ノーテンです」

 

須賀 26500→25500

染谷 25000→24000

部長 25000→24000

原村 23500→26500

 

 

『自分のツモがダメだと思ったら、その局は流せ。字牌やドラを鳴けば、染め手や高目とかに見せかけて牽制出来る。そうやって、他家の手を遅らせるんだ』

 

(朔上は基本的な事だって言ってたけど……何だがすげぇ強くなった気がする!)

 

 

この局、実は原村は少し強気に攻めれば上がる事が出来ていた。{①}を引いてきた時に{④}を切れれば、その三巡後に須賀から{九}が振り込まれていたのだ。

しかし、その時原村は{一}の対子落とし。

これは、紛れもなく須賀の鳴きを恐れた上での一種の逃げ。

 

誰かを遅らせた分だけ、須賀が進む。

朔上はその場の流れも考慮した打ち方を須賀に教えており、須賀もそれをおおよそ理解していた。そして次局、期が訪れる。

 

 

 

東二局 流れ二本場

親 染谷まこ

ドラ表示牌 {二}

 

須賀 配牌

{六七七②③③③⑤⑥5567}

 

 

『足止め決まれば猛連荘! なんて言葉もあるくらいだ。お前がうまく打てれば割とすぐ勝負手が来る。それはきっちり面前で仕上げろ。それで流れを掴むんだ』

 

(……これは結構いい配牌じゃないか? ちょっと狙ってみるか)

 

 

そして六巡後、あっさりとテンパイ。

 

「リーチ!」

 

須賀 テンパイ形

{五六七②③③③⑤⑥⑦567} {①②④}待ち

 

 

この巡目でのリーチにしてはかなりの高打点。しかも三面待ちと広い。

それに加えて、今の須賀は場の流れを掴んでいた。後ろで見ている朔上が関心するほどには。

 

つまり、これはある種の必然だった。

 

「……お、一発ツモ! 3200・6200!」

 

須賀 上がり形

{五六七②③③③⑤⑥⑦567 ④}

裏ドラ表示牌 {中}

リーチ、一発、ツモ、断幺九、平和、三色

20符7翻 3200・6200

 

須賀 25500→38100

染谷 24000→17800

部長 24000→20800

原村 26500→23300

 

 

「よっしゃ! これでまたトップ!」

 

「ハネ満一発ツモ……初めてにしてはうまく流れを掴んでんな……正直驚いた」

 

「そうねぇ…………あ、そうだった。和、今からペンギンを抱いて打ってちょうだい」

 

「エトペンを……抱いて?」

 

「なにそれちょー可愛い! 私もやるー!」

 

「淡はまた今度にね。で、和だけど、あなたは自宅でネット麻雀を打っている時が一番強い。なら、ペンギンを抱いて打てばいつも通りの力が発揮出来るんじゃと思ってね」

 

「……ただの思い付きじゃ?」

 

 

須賀の呟きに朔上が頷くも、部長が耳を貸す事はなく、原村がエトペンを抱いて麻雀を打つという謎の特訓が始まる。

 

しかし、その後の原村は圧倒的だった。

今までの微妙なミスが全てなくなり、テンパイ速度が異常なまでに速くなる。その上、他家の鳴きに惑わされないため、須賀の引っ掛けや足止めも通用しない。

 

東三局であっさりハネ満をツモ上がる。

 

須賀 38100→35100

染谷 17800→14800

部長 20800→14800

原村 23300→35300

 

そして、あっという間にオーラス。

 

 

 

東四局

親 原村和

ドラ表示牌 {3}

 

須賀 配牌

{一三五九②②⑥⑧137東北}

 

 

(オーラスの二位でこの配牌……須賀に逆転はちとキツイかな……?)

 

(…………………………)

 

 

須賀

ツモ{一} 打{五}

ツモ{一} 打{三}

ツモ{九} 打{3}

ツモ{九} 打{7}

 

 

(……いやいや待て待て。何だこのツモ? まるで俺みたいな…………)

 

(ちょっとさっくー、京太郎に何教えたの?)

 

(こいつ、直接脳内に……! ってそうじゃなくて! …………幺九牌を引くコツというか、その感覚は少し話した記憶があるけど……)

 

(そんな簡単に出来る事じゃないよねー)

 

(そうなんだよなぁ……須賀が『能力』持ちなら話は別だけど)

 

 

朔上と大星が脳内会議を開いているうちに、須賀がテンパイ。

 

須賀 手牌

{一一一九九九②②⑧11東東} ツモ{1}

 

 

({⑧}切りでテンパイ……でも)

 

原村 捨て牌

{東發三79横⑨}

 

 

(流石にあの捨て牌に{⑧}は切れない。リーチ宣言牌の裏スジだし……ここは{②}の対子落としがベターか? …………ってちょ!?)

 

「リーチ!」 打{⑧}

 

「ロン。18000です」

 

「「ですよねー!」」

 

須賀 35100→17100

原村 35300→53300

 

 

朔上と大星の声が重なると同時、原村の上がり止めで決着。

 

一位 原村和

二位 須賀京太郎

三位 染谷まこ

四位 竹井久

 

 

 

 

「――――なぁ、お前馬鹿なのか? あの捨て牌と視点移動を見てどうしたら{⑧}切れる? 裏スジじゃねぇか?」

 

「視点移動なんて見てるわけねぇだろ! それと裏スジって何だよ教わってねぇよ!」

 

「……あれ、言ってなかったっけ?」

 

「言ってねぇよぉ!」

 

 

対局後の反省会。

須賀の{⑧}切りに文句を言う朔上と、少し楽しそうな須賀。

 

 

「はぁ…………これはまだまだ練習の必要がありそうだな…………で、どうだった?」

 

「え? 何が?」

 

「何が? じゃねぇよ。最後は原村に負けたが、それでも二位だ。何かあるだろ、達成感とか喜びとかさ」

 

「そりゃああるぜ! 正直すげぇ嬉しかったし、達成感もあった! ……でも、ちょっと悔しいかな。あとちょっとで和に勝てなかった」

 

「いや、あれはお前じゃ勝てん。エトペンモードの原村は相当強かったからな……。つーか、それに比べてあの二人は……」

 

 

朔上がチラッと見た先には、ショックを受けて項垂れる部長と染谷、それを慰める原村と大星の姿が。

 

 

「あー……手加減してたとはいえ須賀君に負けたのはショックだわ……しかもラスで」

 

「ワシも正直ショックじゃな……これからぁ京太郎も侮れんのぉ……」

 

「ぶ、部長に染谷先輩も落ち込まないでください! 麻雀は偶発性の強いゲームですし、須賀君が勝つ事もありますよ!」

 

「でも、部長がラス引くのはアレですよねー?」

 

「」

 

「大星さん! あぁっ、もうっ!」

 

 

先程までの静謐さはどこへやら、声を荒らげる原村と、大星の止めの一撃を受けて静かに撃沈した部長。

朔上は部長の近くに寄り、裏声で囁く。

 

 

「落ち込む必要はありませんよ……頑張ってください」

 

「ひゃうっ!? ……い、今の誰!?」

 

「俺ですけど」

 

「さ、朔上君!? で、でも、今のはどう聞いても女子の声……」

 

「裏声使ったんですよ。以前家によく来る人に使った事がありましてね、その人が元気出たって言ってたんで。どうでしたか?」

 

「…………………………」

 

「何ですか、人の顔をジロジロと見て」

 

「……言われてみれば、朔上君の顔ってすごく女子みたいよね。色白いし、整ってるしで羨ましいわぁ……女装したら似合いそうね」

 

 

『女装』のワードで嫌な記憶がフラッシュバックした朔上はわずかに顔を歪める。

 

 

 

 

『でさーともきん? 覚悟は決まった?』

 

『決まるわけねぇだろ……何が悲しくて女装したまま外を出歩かなくちゃならんのだ?』

 

『でもこのままだとあの写真が流出されちゃうよ? 主にこーこちゃんの手によって』

 

『そうなんだよなぁ……っておい。『主に』って事はすこやんも協力する気か?』

 

『ふっふーん! もうすこやんはこっちの味方だよ! もう無駄な抵抗はよしな!』

 

『…………はぁ、分かったよ。ただし、条件がいくつかある。一つ目、俺の眼鏡着用を許可する事。二つ目、知り合いを見つけた際の逃亡を許可する事。三つ目、この件を二人の知り合いに話さない事。オーケー?』

 

『おっけー!』

 

『お、OK!』

 

 

 

 

「……頭痛が痛てぇ」

 

 

朔上自身日本語がおかしい事は承知しているが、それでも口から漏れてしまう。まだ正式な日程は決まっていないものの、二人の性格からしていつまでも先延ばしされるとも思えない。

 

朔上は近い未来に訪れるであろう地獄を思うだけで、海に身投げしたい気分だった。

 

 

「……ま、長野に海はないんだけどさ」

 

「朔上君? どうかした?」

 

「あ、いえ何でもないです。ちょっと一昨日の自分を殴りたくなっただけなんで」

 

「そ、じゃあ朔上君と淡は卓に入って。私とまこが抜けるから」

 

「え、部長抜けるんすか? 俺が抜けますって」

 

「いーのいーの。というか、その卓に入ったら今度こそ麻雀牌握れなくなりそうだわ」

 

「そ、そんな事があるんすか……?」

 

「あるだろ」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「……え?」

 

 

 

 

――――十数分後。

 

 

「勝てない……こんな縛りじゃ勝てない……」

 

「これで一回目だよ! 後九十九回!」

 

「…………大星、お前はいいよな。リーチ禁止なんてヌルゲーで。俺は能力禁止+ロン上がり禁止だぞ!? どうやって勝つんだよ!」

 

 

結果は、朔上の惨敗。

一位 大星淡

二位 原村和

三位 須賀京太郎

四位 朔上知生(焼き鳥)

 

 

「牌効率とか分かんねぇよ……ツモとか能力禁止じゃあ都市伝説だろ……」

 

 

デジタル打ち全否定な発言を漏らす朔上に見兼ねたのか、原村が口を開く。

 

 

「はぁ……朔上君、あなたならこの手牌から何を切りますか? もちろん能力は禁止で」

 

手牌

{①②③④④⑤⑧⑧⑨3456} ツモ{⑥}

 

「うーん……{3}切りだな」

 

「…………その心は?」

 

「{3 5}と落として{6}切りリーチ。こうすれば{4}が出やすくなるし、河に筒子が出ていかないから筒子を縛る事も出来る。正解か?」

 

「0点です」

 

「なん……だと……?」

 

「いいですか? ここは{①}切りが正解です。理由は、辺張待ちの{⑦}より索子が伸びる可能性の方が高いから。分かりましたか?」

 

「はぁ……まぁ一応」

 

「そうですか。では次の問題行きますよ」

 

「……え、まだやるのか?」

 

「当たり前です。では、この手牌では…………」

 

 

顔が青ざめていく朔上に次々と問題を出していく原村。

それを横目で見る部長と、彼女歩み寄る染谷の表情は柔らかく。

 

 

「あの二人、案外うまくやれそうじゃのう、部長?」

 

「えぇ。……あの二人、案外デジタルとオカルトで部内の名コンビになるかもね」

 

「流石にそりゃあないじゃろ。和と咲ならあるかも知れんが」

 

「ふふっ……どうなるかしら? 楽しみだわ」

 

「悪い顔じゃのお…………」

 

「そうかしら? …………あ、そういえば」

 

 

染谷の呆れ顔を見てくすくすと笑う部長は、突如何かを思い出したように手を叩いた。

そして、部員全員を集めて話し始める。

 

 

「実は、まだ男女混合の部のメンバーが決まってないのよねぇ……」

 

「男女混合の部は今年が初じゃからな。準備期間が長ぉ設定されとるんよ」

 

「はぁ……で、どうしてそれを今?」

 

 

須賀の問い返しに、部長はよからぬ事を思い付いたが如き表情でこう言い放った。

 

 

「たった今から、女子限定メンバー争奪戦を開始するわ!」

 

「何で女子だけ……? あ、そっか。男子は二人しかいないから確定なのか。じゃあ俺と須賀は見てるだけですね」

 

「朔上君は参加してもらうわよ?」

 

「えっ」

 

「能力もロン上がりも可能な朔上君から一度でもトップを取った人から勝ち抜け。どう? 面白そうでしょ?」

 

 

 

 

「…………えっ?」




閲覧ありがとうございました。

この話を書いてて、私は思いました。
他の学校を共学化するとしても、それが全員モブってのはつまらないんじゃないか? と。そこで馬鹿な私は、
「あ、だったら他の学校での話も書けばいいじゃん!」
と思い立ちました。

というわけで、朔上編が落ち着いたら他の学校についての話を書くかも知れません。ちなみに、そのキャラのオカルトはだいたい思い付いてます。長々と申し訳ありませんが、報告させていただきました。
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