咲-Saki- episode of side S   作:Sirone

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今回は閑話みたいなものなので、全然読み飛ばしてもらってOKです。
後、次からはガチで麻雀シーンを書くので遅れるかも知れません。


第6話 県予選 ~序章~

 

 

――――なさい。

 

――きなさい。

 

 

「起きなさい、朔上君」

 

「んみゅ…………あれ、部長?」

 

 

部長に肩を叩かれて目を覚ました。

どうやら、駅のベンチで眠っていたらしい。

胸ポケットのスマホで時間を確認すると、ホーム画面には五時十分の文字が。無論、夕方ではなく朝の五時だ。

 

 

「ふぁ…………部長来るの早くないですか? まだ五時十分ですよ?」

 

「鏡見た方がいいわよ?」

 

「いやぁ…………ちょっと眠れなくって」

 

「あら意外ね。朔上君ってプレッシャーに強いタイプだと思ってたわ」

 

 

そりゃあ麻雀復帰して一週間とちょっとで大会出場だなんて、流石の俺でも緊張する。

日頃から睡眠不足気味なため試合に影響が出る事はないだろうが、ベンチで寝落ちするあたり疲れが溜まっているのかも知れない。

 

 

「ま、今日は余裕ですよ。と言うか、大将の俺まで回ってくるか微妙ですし」

 

「あれ? 大会のオーダーってまだ伝えてなかったと思うんだけど……伝えたかしら?」

 

「確か伝えられ…………ましたっけ?」

 

 

俺と部長が首を傾げていると。

 

 

「おはよう。二人とも」

 

「あ、染谷先輩。おはようございます」

 

「それにしてもこんな時間に来るとは、二人とも気合いが入っとるねぇ。それとも、緊張して寝れんかったん?」

 

「俺はそんな感じですね……」

 

 

そう言っている間にも俺を眠気が襲う。

今日はいつもと違って、授業中に眠る事は出来ない。そもそも授業がないのだから。

こんな事になるのなら、近場のドラッグストアで睡眠導入剤でも買っておけばよかった。いや、あれ高いからきついけどさ。

 

 

「どうしても眠けりゃあ、電車の中で軽く寝りゃぁええじゃろ。ゆうか、何分前に来たん?」

 

「えーっと……一時間くらい前かと」

 

「ホンマか!? 一時間前ってゆぅたらまだ四時じゃぞ?」

 

「俺の家ってここから近いんですよ……」

 

「それは知って…………何でもないわ。お、咲と和も来たみたいね」

 

 

今、それは知ってるわ。とか言おうとしてなかったか? 途中で言葉を切られると気になる人間としての性が首を擡げたが、これ以上聞いても無駄だろうし止めておこう。

 

原村は例のエトペンを脇に抱えている。

部長のもう慣れた? という問いにもまだだと返している。むしろ慣れたら慣れたで問題だと思うのは俺だけだろうか?

 

この数分後、残りの三人も到着。

何となく予想出来てはいたが、最後に到着したのは大星。本人曰く、髪を整えるのがどうのこうのらしい。なるほど、分からん。

 

ま、何はともあれ全員が集合した。

いよいよ、会場に向けて出発だ。

 

 

 

 

「うわぁ…………人多いなぁ…………」

 

 

須賀の呟きに同調しつつ、部長の後を歩く。

公式大会に出るのはこれが初めて。すこやん並の化け物がいるとは思えないが、それなりに苦戦する相手もいるだろう。

 

事前に調べて気になったのは、やはり龍門渕高校の天江衣か。

 

 

「すいません部長、ちょっと飲み物買ってきてもいいですか? 後で追いつきますんで」

 

「分かったわ。咲みたいに迷子にならないようにね?」

 

「多分大丈夫ですよ……それじゃあ」

 

 

飲み物を買いに行くのも嘘ではないが、それ以上に少し一人になりたかった。

 

一人で静かに座っていると集中力が増していくというのが俺の持論だ。麻雀に限らず、部活の大会などでもずっとそうしてきた。

 

人気のない場所でカルピス缶を額に当て、二度三度深呼吸をする。

 

思考のコンディションも悪くない。

ゾーンの兆候も見えている。

すこやんやプロ、一部の化け物以外には負けないであろう絶好調状態だ。

 

この状態が明日まで続くかどうか、それが問題なんだよなぁ…………。

一日寝れば流れも変わるだろうし、多分心境や調子も変わる。

 

今灯っている調子の火を絶やさずに明日を迎えられるかどうか、これが不安要素の一つ。

 

 

「後は…………ゾーンか」

 

 

最後にゾーンに入ったのは……最後にすこやんと打った時、つまり一から二年前か。

合宿中も、それ以外の部活中も一度も入れなかった。大星、宮永、部長の三人を同時に相手にしても、だ。

 

 

「……ま、やるだけやるしかないか」

 

 

分かりきっていた結論を出し、缶をゴミ箱に投げ入れる。

飲み物をもう一本買い、皆の元へ戻ろうとした俺は一言。

 

 

「…………どっちだっけ?」

 

 

うん。迷った。

 

幸いにも俺は大将。

試合が始まるまでそれなりに時間があるため、多少道に迷っていても問題ないだろう。

しかし、大丈夫と言った癖してこの始末。高校生で迷子になるなんて……屈辱だ。

 

こういう時は、適当に歩き回れば何とかなるって誰かが言っていた気がする。何か策があるでもないし、取り敢えずはそれに従おう。

 

 

「しっかし透華はどこをほっつき歩いてんだ?」

 

「原村和がどうとか言ってたよね……原村和はのどっちだ! って」

 

 

反対側から歩いてくる三人組、妙に見覚えがあると思ったら龍門渕高校の選手だな。

男女混合の部に出場するのはその内の一人だけだが、他の二人も女子の部に出場している強者。龍門渕高校の一角を担う猛者だ。

 

確か男女混合の部に出場するのは……井上純だったはず。

昨年通り先鋒だとしたら、宮永と当たるのか……何と言うか、南無。

 

心の中で合掌しつつ三人とすれ違った瞬間。

 

 

「おい、そこの! ちょっと待て!」

 

 

件の井上純に突如呼び止められた。

 

 

「えっと……俺?」

 

「お前以外に誰がいるってんだ……? その制服、清澄高校のだよな?」

 

「そ、そうだけど……それが?」

 

「じゃあ…………お前が原村和か!?」

 

「俺は男なんだが!?」

 

 

初対面に向かって何と失礼な。

しかもこの三人、俺が男だと申告した時露骨に驚いてたよな……制服だって男物だし、どう見ても男だろうが。

 

 

「純君、さっき透華が原村和は胸に無駄な脂肪が付いているって言ってたよ?」

 

「あ、そういえばそうだったな。じゃあ、こいつは一体何なんだ?」

 

 

冗談抜きで失礼だなこいつ。

もし俺と当たったなら、本気で狙い打ってボコボコにするところなのに。宮永に本気で潰すようにお願いしとこうか?

取り敢えずそれは置いといても、今はこの状況を打開せねば。早く皆の元へ戻りたい。

 

 

「えっと……一応、清澄の大将やってます」

 

「清澄の大将…………なるほど。じゃあ、俺達と当たった時はよろしくな」

 

「いきなり呼び止めてごめんね? それじゃあ」

 

 

 

――――嵐みたいな人達だったな。

 

特に、あの一番背が高い人。

いきなり人を呼び止めたかと思えば人を女扱い、極めつけにこいつは一体何なんだ? だ。

とてもじゃないが礼節がなっていない。

 

それに比べて、あのリボン付けた黒髪の人。

何故か手錠付きという変わったファッションを除けば、かなり常識人のようだった。

……いや、手錠付けてる時点でアレだわ。

 

天は二物を与えず、の意味を改めて理解した瞬間だった。ちっとも嬉しくない。

 

 

その後しばらく歩き回り、何とか皆と合流。

合流した時には既に次鋒戦が始まっており、緊張している様子の須賀が画面に映っていた。

清澄の点数は205000点。

他の学校は65000点ずつ。

もう勝ち確と言っても過言ではない点数だ。

 

須賀の相手は全員男子。

部長曰く、男女混合の部では次鋒、中堅、副将に男子を二人共置くのがセオリーらしい。

あれ? じゃあ俺が大将なのは……?

 

 

 

東一局

親 千曲東

ドラ表示牌 {1}

 

 

《七巡目》

 

 

須賀 手牌

{一二三四五六七九④赤⑤⑥22}

 

 

どうやら初っ端からいい手が入ったらしい。

ダマでもツモればハネ満。リーチすれば倍満も見える高打点の手だ。

しかし悲しきかな、この{八}待ちは下家が暗子で抱えている。さて、どうするかな?

 

すると須賀、下家である千曲東が放った{2}をポン。そして、{⑥}切り。

この鳴きには、部屋にいる観客からも非難の声がボソボソと聞こえてきた。そして、部長を挟んだ横に座っている原村からも。

 

 

「朔上君……また須賀君に変な打ち方を教えたんですか?」

 

「須賀が変な打ち方したら取り敢えず俺のせいにするの止めてもらえませんかねぇ……? あんな打ち方教えてないからね?」

 

 

まぁ、何となく予想はつくけどな。

 

ドラ{2}をポンして染め手を警戒させる。

ドラ暗子が確定している手だ。余程強い手が入っていなければオリるはず。

そうすると、皆取り敢えずは現物だろう。

案の定、他家は現物の連打。ベタオリ。

 

しかし現物が切れた途端、三人の顔から明らかな焦りが見て取れるようになる。

こうなった人間の思考パターンというのは案外単純で、逆手に取るのは容易い。要するに、須賀の和了はまず確定したって事。

 

臆した下家から出たのは、暗子で抱えている上に{七}も{九}も二枚ずつ河に見えている{八}。

当然、須賀が黙っているはずもない。

 

 

「チー!」

 

 

チーからの{赤⑤}切り。

こうして{七八九}を晒す事によって、相手に敢えて役を読ませる。この鳴きの形だと、役を付けるには三色か一通。もしくは手の内で役牌を暗子で持っているかってとこか。

 

ここまで読めないような奴がメンバーに選ばれるはずもなく、他家は全員それに気が付く。

なら、もう外れないだろう。

今までずっと危険牌だと思わせられた、染め手の待ちの大本命である{④}。

 

前巡に{赤⑤}が切られているのを考えても、先程言った三色や一通だとしても、{④}はまず安牌と化した。単騎待ちでない限り。

しかしそんな低い可能性、誰も考慮しない。

 

某ギャンブルアニメの班長も言っていたが、心はゴム毬だ。抑え込まれた分跳ね返る。

結局、振り込んだのは東福寺だった。

 

 

「ロン! 7700!」

 

 

須賀 和了形

{一二三四五六④} {④} {横八七九} {222}

一気通貫 ドラ3

30符4翻 7700点

 

清澄 205000→212700

東福寺 65000→57300

 

 

「うわぁ…………ひでぇ和了だな」

 

「本当ですよ……って、朔上君も似たようなものですからね? むしろあなたの方がひどいくらいです」

 

「それを言われると弱いな……でも、須賀の今の和了何気にすごくね? だって、{八}が暗子で抱えられてる事が分かってたって事だぜ?」

 

「何でそうなるんですか…………?」

 

 

デジタル打ちの原村には分からなかったか。

チラッと部長の方を見ると、全て分かってると言わんばかりのドヤ顔をしていた。何かその顔見てると無性に腹立ってくるな。

後、大星も笑顔でのグッドサインを止めろ。

 

結局、この試合は流れを掴んだ須賀の圧勝。

結果はこんな感じ。

 

 

清澄 215400点

東福寺 47300点

千曲東 73300点

今宮 64000点

 

 

「これ……俺まで回ってこないんじゃ?」

 

 

大星がその気になれば、この程度の点差は一瞬で飛ぶだろうし。その前に原村もいるし。

 

 

という俺の考えは杞憂に終わった。

どうやら大星は、ダブルリーチを使わないように部長から言われていたらしい。しばらく経った後、俺の番が回ってきた。

 

 

「じゃあ……行きますかね」

 

 

席を立って対局室に向かう際、特に応援の言葉を言われなかったのが少し悲しい。

……きっと、俺が勝つって信じてるからだよね? 応援するまでもないって事だよね?

そう信じてないと心折れそうだわ。

 

視界が滲みそうになる中、御機嫌な我が高校の副将である大星とすれ違った。

 

 

「お、さっくー頑張ってねー!」

 

「…………おぅ、任せろ。かつて死神と恐れられた俺に敗北はありえんよ」

 

 

ちなみにこの死神という名称は、過去に俺の打ち筋を見たすこやんから命名されたものだ。

曰く、ツモ和了をせずにロンで相手から点棒を刈り取る様を見て思い付いたとか。

 

「へぇ……じゃあスーパノヴァな淡ちゃんよりも活躍出来るって事だよねー?」

 

「流石に余裕だろ……お前明らかに手抜いてたんだからさ。ま、負ける事はないだろうから安心しろよ。んじゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃーい」

 

 

軽い大星とのやり取りで、わずかに残っていた緊張もどこかへ吹っ飛んでいった。

心の中で感謝する一方で、高校生にもなって自らを超新星などと名乗る人がいるとは……と驚愕しながら、俺は対局室の扉を開けた。

 

やはり大将は俺以外全員が女子。

多分観衆は俺の事、数合わせか何かだと思ってるんだろうなぁ……麻雀部に入る事になった経緯的に間違ってないから困る。

 

でも、実力はそうじゃないって教えてやるよ。

 

 

 

東一局

親 朔上知生

ドラ表示牌 {七}

 

 

《八巡目》

 

 

朔上 手牌

{一一二二三三五七七八八九九} {①}

 

 

「リーチ」

 

 

(親の先制リーチ……まだ二向聴だし、ここはオリるしかねぇか……)

 

 

朔上 捨て牌

{白發東②②④}

{5横五}

 

 

(これなら通る、よな…………?)

 

 

東福寺から放たれた{①}。

 

 

「その牌だ。ロン」

 

 

朔上 和了形

{一一二二三三七七八八九九①} {①}

裏ドラ表示牌 {②}

リーチ 一発 純全帯 二盃口 ドラ2

40符10翻 24000点

 

※中堅戦と副将戦の点数移動あり

 

清澄 255000→279000

東福寺 28200→4200

千曲東 40800

今宮 76000

 

 

(何だそのふざけた待ち!? リーチ宣言牌の{五}を残せば三倍満確定だったじゃねぇか! いや、三倍満だと飛ばされてたけどよ……)

 

 

 

東一局 一本場

親 朔上知生

ドラ表示牌 {發}

 

 

《四巡目》

 

 

東福寺 手牌

{②③④⑤⑧發發} {發} {横中中中} {白白横白}

 

 

(この点差……もう勝ちの目はない。この手が先鋒に入ってればウチに勝機はあったかも知れねぇが……くそっ)

 

 

もう東福寺は完全に勝ちを諦めている。

それでも大三元が完成しているあたり、こいつもそれなりに天に恵まれた存在なのだろう。

しかしそれでいて、致命的に勝負運がない。

 

何故なら。

 

 

「ロン」

 

 

朔上 和了形

{①①③④⑤⑥⑦⑧⑧⑧⑨⑨⑨} {⑧}

清一色

50符6翻 一本場 18300

 

清澄 279000→297300

東福寺 4200→マイナス14100

 

 

 

〖試合終了! まさに電光石火! あっという間に東福寺を飛ばした清澄高校、一回戦突破です!〗

 

「――――お疲れ様でした」

 

 

何だか打った気がしない。

そりゃあ俺だって、まさか東一局の一本場で終わるなんて思わなかったさ。東福寺が切る可能性がある牌が全部ロン牌なんて、そんなん考慮しとらんよ……。

 

スピーカーからは、プロによる解説が聞こえてくる。その声主は藤田靖子プロ。

確か……数年前に一回会ったな。

ま、向こうは忘れてるだろうけど。

 

対局室から出ると、そこには須賀が待っていた。

 

 

「朔上、お疲れ様」

 

「いや、俺は楽な麻雀だったからな。そっちこそお疲れ様。……って他の皆は?」

 

「先に食堂の席取ってくるってよ。早く行こうぜ? 俺腹減ったんだよ……」

 

 

言われてみれば、俺も少し小腹が空いた。

基本的に少食な俺でも、やはり朝昼連続で食事抜きというのは堪えるものだ。

一回戦突破の記念として、多少奮発しても罰は当たらないだろう。

 

 

「さて、皆はっと……お、いたいた」

 

 

須賀の指す先には、言う通り皆の姿が。

カレーライスやラーメンやチャーハン。様々な料理が目に付き、先程以上に腹が減る。

そんな楽園の中を進み、部長達が取ってくれた席に座ると、部長が缶ジュースをくれた。

 

 

「清澄高校麻雀部、一回戦突破を祝して乾杯!」

 

「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」

 

 

 

 

「はぁー……飯食うってこんな至福だっけ……」

 

 

もしすこやん達と関わりがなければ、間違いなく栄養失調を患っていたであろう生活を送っている事もあり、一口一口が身に染みる。

ぶっちゃけ合宿が終わってから今日までの六日間、脂質一度も摂ってないです。はい。

 

そうして、幸せに浸っていると。

 

 

「やぁ、一回戦突破おめでとう」

 

「あら? 藤田プロじゃない。解説のプロがこんなところで油売ってていいのかしら?」

 

「気にするな。それより……お前、何年か前に私と会った事がないか?」

 

 

藤田プロの視線はこちらに向いている。

どうやら、俺の事を覚えていたらしい。

 

 

「ありますよ。お久しぶりです、藤田さん」

 

「清澄のメンバーを見た時まさかとは思ったが……やっぱりお前だったか。小鍛治さんから弱くなったと聞いたいるが、どのくらいだ?」

 

「結構弱くなりましたよ? ゾーンにも入れませんし、支配も一回ずつしか出来ません」

 

「ほぅ……今なら勝てそうだな。どうだ? この大会が終わった後で打たないか?」

 

「ちょ、ちょっと待って? あなた達って知り合いだったの?」

 

 

藤田プロとの久しぶりの邂逅。

つい会話に花を咲かせていると、困惑気味の部長が話に割り入った。

 

 

「えぇ。と言っても、小学生時代に一回対局しただけですけどね。正直、忘れられてると思ってました」

 

「へぇ……そうだったのね」

 

「当時小学生の奴に東場で飛ばされたら嫌でも忘れられないさ。あれ以来、こいつは私の不倶戴天の敵だ」

 

「いつの間にかプロに永遠の敵扱いされてるってどういう事なんですかね……?」

 

「あ……プロで思い出した。お前、最近プロの間で話題になってるぞ」

 

「…………はぁ!?」

 

 

藤田プロから告げられた言葉に衝撃を受け過ぎて、つい大声を出してしまった。

しかし、俺がプロの間で話題に?

……可能性が一つしか思い付かない。

恐らくだが真実に辿り着いた俺を見て、藤田プロがケラケラと笑う。

 

 

「まぁあの人も悪気があったわけじゃないだろうからな。それに、インターハイで大暴れすればネットでも話題になるだろう。今の内に慣れておけ」

 

「……前向きに捉える事にします。一応、全国優勝目指してやってるんでね」

 

「お、言うじゃないか? だが、二回戦突破は確実だとしても、決勝はお前も苦戦するだろう。なんせ相手は――――」

 

「天江衣、ですよね?」

 

 

藤田プロの言葉を引き継いで言う。

一瞬驚いた藤田プロだが、すぐに表情をいつも通りに戻して頷いた。

 

 

「なんだ、知っていたのか。……そう、天江衣はとんでもなく強い。ゾーンなしのお前と五分五分ってところだろう」

 

「意外と勝てそうに聞こえるなぁ……」

 

「まぁ相手がお前だからな。正直、同卓する他の二人に同情するよ」

 

 

自分で言うのもアレだが、俺もその二人には同情の念を抱かずにはいられない。

去年龍門渕高校に負けた……風越だっけ? 悪いけどその大将には負ける気がしないし、他の大将なんて以ての外だ。

 

今年から出場した高校に強い大将がいれば、話は変わってくるけどな。

 

 

〖まもなく、二回戦先鋒戦が開始されます。出場選手は対局室に集合してください〗

 

 

気が付けばもうそんな時間か。

昼休憩も終わり、皆各々が観戦したい試合を映す観客室に向かっていた。

 

 

「じゃあ藤田プロ、俺はこれで。午後の解説頑張ってくださいね」

 

「そっちこそ、午後も頑張れよ」

 

 

ありがたい激励の言葉を背に、俺達は食堂を後にした。

 

 

 

「……決勝戦、楽しみだな。天江衣が勝つか、死神が本領発揮するか」

 

 

 

 

「ただいまー……って、誰もいな……いよな?」

 

 

二回戦をサクサクサクッと突破し、部長の奢りでラーメンを頂いて帰宅。

家主の帰りを告げながら玄関で靴を脱いでいると、ある異変に気が付いた。明らかに靴が一人分多いのだ。

 

 

「いや、まさかな……もう終電も終わってんだぞ……?」

 

 

定期的に泊まっていくような相手に、終電云々言っても無駄な気もするが。

ふぅ……と深呼吸をして、覚悟完了。

恐る恐るドアを開けると、そこには――。

 

 

「すこやん? …………寝てんのか」

 

「すぅ……うぅん…………」

 

 

そこには、俺の布団の横に布団を敷いて寝息を立てるすこやんの姿があった。

男の部屋に勝手に立ち入った上、そこで寝ているだなんて危機感が些か足りていない。俺が一人暮らしなら尚更だ。

 

しかしこうも心地よさそうに寝られると、こちらも眠くなってくる。

シャワーを軽く浴び、ジャージに身を包んだ俺は布団にダイブ。そのまま目を瞑り、深い夢の世界へ……と行きたかった。

 

 

「………………寝れねぇ」

 

 

すこやんの顔がすぐ近くにあるからか、寝息が妙に耳について眠れない。

無視しようと目を瞑ったところで、余計吐息が聞こえてくるだけだ。

五感の内の一つを停止させると残りの感覚が強化されると聞くが、この身をもってそれを体験する時が来るとは思わなかった。

 

俺の部屋で布団を離したところで、部屋の狭さ的に稼げる距離などたかが知れている。

この際諦めて廊下で寝ようか……? とも思わないでもないが、それをすると翌日体がバッキバキになる。ソースは俺。

 

いつもならともかく、明日が大会である今はそうするわけにも行かない。

 

 

「俺……明日大丈夫かな……?」

 

 

俺の呟きに返ってきたのは、相変わらず耳に届くすこやんの寝息だけだった。

 

 

 

 

結局、俺が眠りにつけたのはあれから二時間後だった。いつもならこんな事なかったのに。

そのため、今日は俺が一番最後に集合場所に到着した。これでもまだまだ睡眠時間は足りていないが。

 

これは流石に会場の仮眠室で少し寝る事になりそうだ。このまま麻雀なんて打っても、身が入らないのは目に見えているからな。

電車でも寝ておこうと決め、俺は電車に乗り込んだ。

 

 

――――決勝戦へ向けて。




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