咲-Saki- episode of side S   作:Sirone

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お久しぶりです。生きてました。
今回は、いつも以上に遅くなり申し訳ありません。
一応推敲はしましたが、牌の数が合っている自信がないので、もしおかしい点がありましたら報告お願い致します。


第8話 県予選 ~決着~

――――黒。

闇は月光に照らされども、黒は何色にも染まらない。自明の理だ。

なら、そんな黒を纏う少年は?

そんな問い、考えるまでもない。

 

 

 

 

二転三転。

最初は90000点差もあった天江衣と俺の点差も、今は34700点にまで縮まった。

後半戦も既に始まり、各々が手牌を取っていく音だけが対局室に響く。その顔は一様に強ばっていた。多分、俺を除いて。

 

どうにもゾーン中の俺は、狂気を含ませた微笑を浮かべているらしい。ソースはすこやん。

実際に鏡で見てみた事は無論ないので本当かどうかは分からないが、裏で打ってた時の相手の表情を読み取るに、間違いないのだろう。

じゃあつまり、今の俺は一人ニヤニヤしてる変人ってわけか。あ、割といつもの事だったわ。授業中に読書してる時とか。

 

理牌を終え、他家の視線が手牌に向く中、俺は目を瞑る。わざわざ自分の手牌と睨めっこしてまで、貴重な時間を削る事もあるまい。

ゾーンに入るのも随分と久しぶりなので、こうして集中力を高めていこうという魂胆だ。ただし、やり過ぎると頭痛等の症状に見舞われるので注意。半分が優しさで出来てるアレも勿論試した。効かなかった。

 

本題から外れるのもここまでにして、今は対局に集中しよう。

とは言っても、全ての牌を把握している俺に死角はない。どうやっても振り込まないし、相手を完封するのも容易いが、それじゃあ流石に華がないだろう。言い換えれば、つまらない。

 

だから本来このゾーンは、すこやんのように規格外な強さを誇る相手に使うべきであって、今回のように、互角な相手に使うモノでは決してない。

何故なら、決定的な差が出来てしまうから。

 

 

 

東一局、起親は天江衣。

この局も相変わらず天江衣の支配が働いているらしく、国士無双以外では聴牌不可能。

だからと言って国士無双を狙えば、和了する直前に天江衣が風越から和了するという、限りなく完璧に近い一向聴地獄。

少なくとも、天江衣以外に和了目はないように見える。

 

 

{一九①⑨19東南西北北中中}

 

 

これが俺の配牌。

ここからの展開は{發}を九巡目にツモ、十六巡目に和了だが、残念ながら天江衣の和了は十四巡目。

つーか風越の大将、いくらなんでも親リーチの一発目に放銃はないんじゃないですかね?

 

と、声を大にして言いたくなるが、多分それを言ったらトラッシュトーク扱い。下手したら一発アウトまである。

……まぁ、手がないわけじゃないが。

 

八巡目。

俺は手の内の{北}を、ツモってきた{3}と入れ替える。

九巡目。

予想通り{發}を引き込み、{中}切り。

 

 

{一九①⑨139東南西北發中}

 

 

 

〖おや? 清澄高校の朔上選手、国士無双聴牌をスルーしましたね。藤田プロ、これは一体どういう事でしょうか?〗

 

〖知るか〗

 

〖…………はい?〗

 

〖この局面で国士無双を聴牌に取らない理由なんて私には思いつかない。……だが、何の意味もないって事はないだろう〗

 

 

 

十三巡目。

ここが割とこの局の勝敗を別つ、大事な場面だったりする。

古人曰く、虎穴に入らずんば虎子を得る事は出来ないらしい。ピンチ、不条理の中に身を委ねてこそ、真の勝利は得られるのだ。

 

そういう意味合いで言えば、この天江衣の支配は踏み絵だ。まず、どのようにすべきかを見抜けるかどうかで仕分けられ、次にそれを実行に移せるかで仕分けられる。

ちなみにこれ、人間関係でも似たような事が言えるらしい。ソースは『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』だ。

 

まぁ、それはどうでもいいとして。

 

十三巡目、俺は今の今まで手の内で抑えていた{3}を{四}と入れ替える。

ツモってきた{四}自体に意味はないが、切った{3}とこのタイミングに意味がある。それは。

 

 

【「――――チー!」】

 

 

【{二三四六七八⑤⑤⑤⑥} {横345}】

 

 

鶴賀、断幺九のノミ手を聴牌。

この局のドラ表示は{⑨}なのでドラは乗っていないが、天江衣の支配を受けながら聴牌出来ただけでも儲け物だ。まぁ、俺が聴牌させたんですけどね!

 

勿論、何の得もないのに相手をただ聴牌させるはずがない。このチー一つで、場は大きく動いた。

 

 

【{一一二二三三五六六七七④北} {5}】

 

 

まずは天江衣。

苦渋を感じさせる表情でツモ切り。

 

 

【{五五五八③④⑤⑥⑥⑥22東} {八}】

 

 

続いて風越。

本来なら天江衣がツモり、聴牌するはずだった牌が風越に流れ、聴牌。

断幺九があるためダマでも和了が可能だが、点差を考慮するならば。

 

 

【「リーチだし!」】

 

 

やっぱりか。いや、別にどっちだろうが俺には関係ないんだけどね?

そして俺のツモには、本来風越が一発で天江衣に振り込むはずだった牌が来るので、必然。

 

 

{一四九①⑨19東南西北發中} 【{北}】

 

 

こうなる。

鳴き一つに笑う者は鳴かせ一つに泣くっていう言葉を誰かから聞いたが、まさに今の状況を的確に表現した言葉だと思う。

いや、笑ったのかは知らないけどさ。

 

どうせ国士無双なのはバレバレだろうし、リーチで気配を消そうとする必要もない。ここは安全にダマだ。

どっちでも同じ事だけどさ。

 

 

【{一一二二三三五六六七七④北} {五}】

 

 

更に一周回って十五巡目、天江衣が高目を引き入れる。

 

 

【「リーチ」】

 

 

{④}切りリーチ。

だがこの{北}待ちは当然純カラで、リーチした瞬間に天江衣の和了目は消える。しかも、次の天江衣のツモは。

 

 

「――――その{白}だ。ロン」

 

 

天江衣→朔上知生

{一九①⑨19東南西北北發中} {白}

 

清澄 137800→169800

龍門渕 169900→137900

 

 

所詮、この程度。

支配と言ったって、それは天江衣の思考に基づいて行われている。突破するのは容易い。

ぶっちゃけ俺からすれば、十秒以上も後出しでじゃんけんをしているようなモノだ。文句なくこちらが上を行く。

 

 

「――――悪いけど、こんな支配如きじゃあ俺は止められないよ。思考そのものに干渉するぐらいされなきゃね」

 

【「…………そんな奴いるのか?」】

 

「いるんだよ」

 

 

風越の呟きに、つい返す。

 

 

「思考に干渉したかと思えば、いきなり役満を和了するような化け物が、信じられなくても、確かに存在するんだよ」

 

 

……これ地上波で放送されてるんだっけ。

思いっきり個人(すこやん)を特定出来るかも知れない事口にしちゃったけど大丈夫かな? ま、まぁ大丈夫でしょ! きっと。多分。

俺のゾーンがアウトだと告げているのは一旦頭の中から永久に追い出した。

 

 

 

東二局、親は風越。

サイコロが回る無機質な音が木霊する。

前局の国士無双で既に逆転しているため、後はチャチャッと場を回せば、それで清澄の優勝は確定。そして、それが出来るだけの力量が、今の俺には多分ある。

 

それに、運も味方した。

 

 

「ロン。16000」

 

 

{一一二二三三①②③1239} {9}

 

 

「……それだ。18000」

 

 

{123456789西西西北} {北}

 

 

「ロン――――24300」

 

 

{一一九九東東南南西北北白白} {西}

 

 

龍門渕 137900→113600

風越 39500→23500

清澄 169400→228100

鶴賀 52800→34800

 

 

 

〖清澄高校朔上選手、圧倒的! 怒涛の四連続和了で、一気に龍門渕との間に100000点以上の点差を開けました! これは驚異的です!〗

 

〖……これは驚いたな。あの時以上だ〗

 

〖あの時……? 藤田プロ、彼をご存知で?〗

 

〖あぁ、ちょっとした理由でな〗

 

 

 

その後、天江衣が300・500をツモ和了し、俺の親は流れた。

親で思った以上に稼げなかった事は多少心残りだが、二位と100000点差も開ければ逆転される事はまずないだろう。まぁ余裕余裕。

 

 

 

東四局、親は鶴賀。

 

 

{一二三四五六七八九⑤⑧⑧1}

 

 

またまた配牌一向聴。

この場には天江衣の支配力が働いていると考えると、何故にこうも好配牌をプレゼントしてくれるのだろうか。

幺九牌がキー牌な時点で、俺にとっては聴牌確定のようなものだと言うのに。

 

 

「リーチ」

 

 

十巡目、ツモ切りリーチ。

次巡、風越から{1}が振り込まれ、裏が{1}にモロに乗り、12000の和了。

表の表示牌は{⑧}だから乗らずでも、裏表示はは{9}。雀頭の{1}にモロ乗りする。

 

 

【{七七八八九九③③⑦⑧⑨78} {1}】

 

 

……決まった、な。

平和一盃口三色と、それなりに高い手まで育てたみたいだけど、ここで終わり。このチャンスを逃した風越に、もう逆転手は入らない。

そんな事、予想するまでもなく分かる。

所謂、流れって奴だ。

 

そもそも、流れの正体とは何か。

思うに流れとは、実在しないが、確かに存在するもの。理解不能な域に棲む、流れを汲み取れる魔物でもなければ、それを見る事は出来ない。出来ないに決まってる。

それでも、存在する事だけは疑わない。

じゃあ、凡人の感じる流れとは。

何年か前から抱いていた疑問だが、つい最近それなりに納得出来る結論が出た。

 

ツキ≒その時の打ち手の心境

 

これが、俺の出した結論だ。

その時のツモを良ツモと捉えるか悪ツモと捉えるか、これはその時の打ち手の心を写す。

例えばの話だが。

 

 

{二三四③④⑤3566788}

 

 

この形に{七}をツモってきたとする。

俺の唱える流れ理論では、この{七}を手に加えるか否かが流れを別つって事だ。あくまで大まかに説明すればだが。

負けが続いて焦りが生まれると、思考回路が壊れるのか、柔軟な思考が出来なくなり、現在の手から見える役に固執するようになる。

そんな状況で、逆転など出来るはずもない。

 

風越は一考の末、一つの牌を手に取る。

俺は勝利を確信し、手牌を倒…………え?

 

 

風越から切り出された牌は{③}。

 

ゾーンは砕け散り、もう牌は見えない。

 

 

――――やはり、まだ完璧じゃないか。

最も熟練したであろう時期と比較して、道理で馴染みが悪いわけだ。こんな二者択一をあっさり外すだなんて、流石にちょっと傷つく。

 

 

(点差に胡座をかいてのうのうとしている君達に、眼にものを見せてあげよう!)

 

{七七八八九九③⑦⑧⑨178} {1}

 

 

幺九牌支配も間に合わなかった、か。

 

 

「――――リーチせずにはいられないな」

 

 

やがて、牌の音が対局室の空気を震わせ。

 

 

「リーチ一発ツモ平和、純全帯三色一盃口……ドラ3! 32000!」

 

 

風越の和了が、高らかに宣言された。

 

 

「そろそろ混ぜろよ!」

 

 

龍門渕 113600→106700

風越 23500→55200

清澄 227700→219600

鶴賀 34800→18500

 

 

 

南入して、親は天江衣。

 

この後半戦、必ずどこかしらでゾーンが破られる事は分かっていたが、まさかここまで早いとは思いもしなかった。更に言うと、破るのは天江衣だと思っていたが、まさかの風越。

やはり、麻雀とは常々想像もしないことが起きるらしい。まぁ、そうでなきゃつまんないけどさ。

 

 

{三四五①②③④⑤⑥⑦⑨⑨6}

 

 

相も変わらず配牌一向聴。

ゾーンを既に破られている俺には、この一向聴地獄を突破する奇策が思いつかない。見えていないのだから当たり前だ。

しかし当然の事ながら、今天江衣に向かって「止めてください」だなんて言えるはずもなく。仮に言える空気だったとしても、天江衣が「分かりました」と頷くだなんてありえない。

 

結局、天江衣の土俵の上で戦う他に道はないのだ。

 

 

「リーチ!」

 

「ならば衣も――――リーチ」

 

「通らばリーチだし!」

 

 

五巡目、あっという間に三軒リーチ。

鶴賀も風越も、もう一向聴地獄を突破したのだろうか? それとも……そもそも一向聴地獄に入っていなかったのか? 一向聴地獄を場の支配と考えれば、点差を縮めるために、天江衣が俺以外への支配を弱めた可能性もありうる。

……まどろっこしい事してくれたもんだ。

 

 

{二三四①②③④⑤⑥⑦⑨⑨6} {2}

 

 

……このピンチ、もしゾーンが続いていれば簡単に切り抜けられたんだろうな。でも、ないものねだりをしたって仕方ない。

ここは……俺の麻雀で。

 

 

鶴賀 捨て牌

{發六49横三}

 

天江衣 捨て牌

{東北78横五}

 

風越

{白中一四横9}

 

 

この順目、絶対安牌なんてありゃしない。

ならここは…………これだな。

 

 

 

〖おっと? 清澄高校朔上選手、いきなり{①}を切って一通を放棄。オリるにしても、随分と危険なところから切りましたね……?〗

 

〖だが、結果的には振り込みを回避してるな〗

 

 

 

鶴賀 手牌

{二二三四赤五六七八34888}

 

天江衣 手牌

{四五七八九1223345赤5}

 

風越 手牌

{一二三五六七七八九66東東}

 

 

 

この局面を突破するには、支配源である天江衣の思考をトレースする他に道はない。

点差がかなりある以上、ここで和了しておかなければ優勝は絶望的。ラス親である鶴賀が連荘で俺を削りまくる、なんて奇跡が起こらない限りは揺るがない。

 

という事は、俺の手牌には当たり牌が大量に含まれていると見ていいだろう。この手牌も、天江衣の支配下なのだから。

この時点で、余剰牌である{2}と{6}はダメ。

残るは萬子と筒子だが、どちらが俺が切りやすいかどうかを考えれば、危険なのは萬子。

つまり、筒子は通る。多分!

 

どっかの神域が言ってたな。

「不合理に身を委ねてこそギャンブル」って。

あの漫画大好きなんだよなぁ……俺。

だからってわけじゃないけど、俺も背いてみようじゃないか。所謂、当然ってヤツから。

 

 

{一二三四五六八八22456}

 

 

「――――聴牌」

 

 

龍門渕 106700→105700

風越 55200→54200

鶴賀 18500→17500

 

 

結局、他家三人は和了れないまま流局。

三人が手を開くと、やはり五巡目の時点で俺の手の内にあった萬子と索子に救いはなし。聴牌まで漕ぎ着けるには、俺がやったように筒子を落としていく他なかったってわけか。

道中で一度でも心が揺らげば即アウト。

えぐいやり方だなぁ……本当に。

 

しかしここを耐えれば、多分。

 

 

{四六八八九九赤⑤⑤⑦⑦11發} {六}

 

 

六巡目、あっさり聴牌。

七対子の待ち選択で、少し俺の手は止まる。

 

 

天江衣 捨て牌

{九七七③⑥八}

{三}

 

 

「…………リーチ」

 

 

結局選択したのは、{四}待ち。

天江衣の手は索子の染め手が濃厚なため、普通なら{發}は切れないが、残りの{發}三枚は鶴賀が手の内暗子なのが分かっているため安牌。

まぁ、理由はそれだけじゃないんだけどね?

 

 

{四112233444555} {7}

 

 

(聴牌……ドラが{4}故にダマの出和了でも倍満確定……しかし、清澄との点差を縮めるためにはそれでは不足!)

 

「リーチ!」

 

「――――――やっぱり持ってたか。それだ」

 

 

{四六六八八九九赤⑤⑤⑦⑦11} {四}

 

 

染め手と言えど、もしもに備えて両面待ち可能な牌の連なりは抱えておこうとするのが人情。なら、最後に手出しされた{三}の隣を天江衣が持っている可能性は高い。

それが{二}か{四}かだなんて、そんな事は知ったこっちゃない。でも、この二者択一を潜り抜け続ける事こそ、勝利への道となる。

 

 

「お、裏が乗って満貫。8000だ」

 

 

龍門渕 105700→97700

清澄 219600→230600

 

 

 

南二局 親 風越

ドラ表示牌 {8}

 

 

(清澄の大将……先程までの鬼形が如き様相が雲散霧消したかと思えば、今度は別の何か……しかも、心做しか今回の方が……)

 

 

{一一二四五六七八12399} {三}

 

 

(これで高目聴牌……これを清澄に直撃させればまだ勝機はなきにしもあらず。しかし……)

 

 

朔上 捨て牌

{東發五三⑦⑨}

{八八横4}

 

 

(清澄のリーチ……12000程度か? いや、それ以前に、今まで清澄がリーチした時は一巡以内にほぼ振り込まれていた。今回衣を狙っているとするならば…………)

 

 

「…………リーチ」

 

 

長考の後、天江が切ったのは{二}。

 

 

「――――また出たか。ロン」

 

 

朔上は心底面白そうな顔をしながら、片手でパタパタと牌を倒していく。

本来はマナー違反である蛍返しだが、この場でそれを咎める者などいるはずもない。

 

 

{二①②③④赤⑤⑥⑦⑧⑨5赤55} {二}

 

 

「12000」

 

 

清澄 230600→242600

龍門渕 97700→85700

 

 

格が違う。

天江にそう思わせるには、この単騎待ちは充分すぎた。

明らかに自分が切る牌を見切り、狙い撃ちしている朔上に、いや、それを〝成功させる〟朔上に恐怖すら感じる天江。

 

 

「………………さて」

 

 

俯き気味なため目が見えない朔上の声一つでビクッと震える天江。それほど、今の朔上は圧倒的な威圧感を放っていた。

一介の雀士なら誰もが知っているであろう彼女にすら勝るとも劣らない、そんな絶対的強者のみが持つ雰囲気。それを朔上は、ゾーンを失ったからこそ手に入れていた。

 

その日本最強の彼女は以前、とある番組でこんな言葉を口にしている。

 

 

麻雀は、打たされている者よりも打つ者の方が間違いなく強い。

 

 

ゾーンは、言ってしまえば前者。

見えている山や牌列に沿って、打たされているに過ぎない。

それに比べて、今の朔上は後者。

自らの読みを信じて打ち、時に運にすら頼る打ち回し。通常、これがゾーンに勝つ事などありえないが、ここはインターハイ。

 

三年生がインターハイで化けるように、朔上もまた覚醒しつつあった。

 

 

「…………俺の親、だな」

 

 

その独り言は誰に向けられたわけでもなく、静かに卓上を流れた。

 

 

 

南三局 親 朔上知生

ドラ表示牌 {發}

 

 

 

〖(あいつ……私と打った時と比べてかなり強くなってるじゃないか。小鍛治さんが〝さくえくんはゾーンがない方が強い〟って言ってたけど、まさか本当に……?)〗

 

 

{一二四③④赤⑤⑥⑦⑧1237} {⑨}

 

 

朔上の手、配牌一向聴。

天江の支配下に置かれている以上、この手は死に体である。しかし、そんな事を歯牙にもかけず、朔上は手を進めていく。

八巡目、朔上聴牌。

 

 

{一二四③④赤⑤⑥⑦⑧⑨123} {⑨}

 

 

ここから朔上、迷う事なく{二}切り。

続いて{四 1 2 3 一}と落とし、その穴を埋めるように筒子が流れ込んでくる。

十三巡目、再び聴牌し直した朔上。

 

 

「………………」

 

 

{①②③④④赤⑤赤⑤⑥⑥⑦⑧⑨⑨}

 

 

{③ ⑥ ⑨}の三面張。

最初の聴牌形から、誰がこの清一を予想出来ただろうか。少なくとも、朔上に確信は微塵もなかった。それに関しては間違いない。

あくまで賭け。

いや、この圧倒的点差では、ただ戯れていただけと言うべきか。他家は突っ張らねば逆転不可能な現状で、さらに相手を叩き潰すべく。

 

次巡、鶴賀から{⑥}が放たれる。

 

 

{一九①19東南西北發發發中}

 

 

手の内が全て幺九牌なため、朔上には手が筒抜け。

国士無双聴牌。

そりゃあ{⑥}も切るよな……と思いつつ、見逃し。天江のツモを待つ。

 

 

{四五六七八③③⑥⑦⑧⑨23} {4}

 

 

(清澄の手、24000程の聴牌か……口惜しいが、現状での衣の逆転は絶望的。まさに、剣ヶ峰に立たされたが如き…………だが、衣は退かぬ! ここで恐れては、清澄の思う壷だ!)

 

 

「リーチ!」

 

 

天江{⑨}切りリーチ。

同巡に鶴賀が和了牌を捨てているため、朔上は当然和了る事が出来ない。見送る。

風越、ここは現物の{⑥}落とし。

そして、朔上のツモ。

 

 

天江 捨て牌

{發中⑤966}

{四2八東南①}

{横⑨}

 

 

「…………じゃ、リーチで」

 

 

朔上、追っかけ{五}ツモ切りリーチ。

このリーチは言うまでもなく、リーチをして無防備な天江を狙い撃ったもの。故に、ここで天江が{⑨}を掴むのは必然だった。

リーチは天才を凡夫に変える、至極名言だ。

しかも今回は、前巡に{⑨}が通っている。

この一事実だけで、天江の思考は十二分に掻き乱され、朔上の意図が読めなくなるのだ。

 

……まぁ元々、高校生に朔上の意図を読み切れる者などいるはずもないのだが。

 

 

「一発。36000だ」

 

 

{①②③④④⑤⑤⑥⑥⑦⑧⑨⑨} {⑨}

 

 

清澄 242600→278600

龍門渕 85700→49700

 

 

 

南三局 一本場

親 朔上知生

ドラ表示牌 {三}

 

 

「ロン」

 

 

開始早々、鶴賀の大将こと加治木の声。

振り込んだのは、朔上。

 

 

{一九①⑨19東南西北白發中} {發}

 

 

「32300だ」

 

 

親の第一打、国士無双炸裂。

無表情のまま点棒を差し渡した朔上は、自らの手牌に視線を落とす。

そして牌を崩し、笑った。

 

 

{三四五②②③③④⑤⑧發發中}

 

 

覆水盆に返らず。

既に崩された手牌の中身を、他家の三人が知る事はない。それが心地よくて、快感で。

だから、笑った。

自分が立つ世界に、他家の誰も立ち入れない事を改めて理解したから。

 

でもきっと、朔上は。

明日になれば、その考えを改めるだろう。

きっと、彼女のお陰で。

 

 

清澄 278600→246300

鶴賀 17500→49800

 

 

 

長かった大将戦も、とうとうオーラス。

しかし、最早大勢は決した。

一位は驚異的な点数を保持する清澄。

 

 

朔上 手牌

{①①⑧⑧⑨119東東發發中}

 

 

続いて、風越。

 

 

池田 手牌

{三三五赤五六七②③③⑧248}

 

 

三位に鶴賀。

 

 

加治木 手牌

{一二四六八④⑤⑥⑦⑦3赤56} {八}

 

 

四位に、僅差で龍門渕。

 

 

天江 手牌

{一二五八九九③⑤⑥⑥777}

 

 

泣こうが喚こうが、これが最後になるかも知れぬ配牌。皆が皆、手牌に目を落として思考を張り巡らせていた。

ただこの局、風越と龍門渕は和了する事が出来ない。そうした瞬間、負けが確定する。

そういう意味では、若干鶴賀が有利。

 

十巡目、池田が聴牌。

 

 

{三三三五赤五五③③③⑦白白白}

 

 

そして、和了れないまま十六巡目。

耐えきった、と誰もがそう思った。

 

 

「……逃げ切ったと思うのは少し早計だな、天江衣。お前は、必ず最後に振り込むんだから」

 

「ッ!? …………な、何が言いたい?」

 

「もう分かるさ。…………カン」

 

「カン」

 

「カン」

 

「カン」

 

 

そして最後の嶺上牌{發}をツモ切り。

 

 

{裏} {裏①①裏} {裏⑨⑨裏} {裏11裏} {裏99裏}

 

 

朔上、四暗刻四槓子聴牌。

今まで使わないでいた幺九牌支配が、最後の最後で猛威を振るう。

他家全員が冷や汗を垂らす中、一人涼しげに微笑む朔上は。

 

 

「この魔法の裸単騎……躱せるかな?」

 

 

魔法の裸単騎。

某神域が、とある裏の代打ちとの対局で披露して見せた魔法。相手の心を掌握し、最後の最後で地獄に叩き落とした技術でもある。

それを、現代に再現しようと言うのだ。

 

もう滅茶苦茶。傍から見れば、気が狂ったんじゃないかと思うレベルには、朔上の言っている事は理解不能だ。

しかし、朔上を前にしている三人には、とてもとても今の言葉が出鱈目とは思えない。理由はもう言うまでもないが。

 

 

{一二三四六八八④赤⑤⑥赤566} {五}

 

 

加治木、なんとかラスヅモで聴牌。

偶然にも、聴牌形に取った際に溢れる{6}が朔上の現物。迷いなく{6}切り。

そして、暗槓が四回入っているため、十七巡目の南家。即ち、この天江のツモが海底。

 

ここで天江が現物を引けば、流局。

か細い希望へと道を繋ぐ。

 

しかし、ここで危険牌を引けば。

朔上の、魔法の裸単騎が炸裂しうる。

 

審判の時、その結末は。

 

 

{南}

 

 

判決は、死神の勝利。

 

この死体蹴りにも等しい所業、実は朔上も焦っているが故に行われている。

ラス親が自分であれば、朔上は恐らくこの魔法の裸単騎をしようなどとは思わなかった。しかし、ラス親は鶴賀。

 

まだ朔上の中では、勝負は終わっていない。

それは、天江も同じ。

 

天江 手牌

{四五六七八③④⑥⑥⑥777} {南}

 

 

この中に、当たり牌がある。

そこら辺の雑魚雀士が相手なら「何を馬鹿な事を」と一蹴出来ただろうが、相手は朔上。

十中八九、確証を持った言葉だろう。

そう判断した天江は、ただただ集中する。

 

 

朔上 捨て牌

{364九九二}

{中東東發發東}

{②⑧⑧發}

 

 

加治木 捨て牌

{北南⑦南83}

{北西⑦4⑤⑤}

{發二2北6}

 

 

池田 捨て牌

{⑧246四中}

{北西七②5東}

{赤⑤中3西}

 

 

天江 捨て牌

{白中九九一西}

{87八4⑧一}

{一二中5}

 

 

今まで、感覚頼りで打ってきた天江。

恐らく初めて、彼女は麻雀を打った。

 

天江は、振り込まない事だけを考えれば問題ない。実際、天江の思考はそれ一点に向いていた。

しかし悲しきかな、この考えるという行為自体が既に墓穴。まんまと術中に嵌っている。

 

 

――――三分が経っても、天江は動かない。

時間をかければかけるほど、敗北に近づいている事に気が付かないまま。

やがて、一つの結論が出たらしく、天江は自信なさげに牌を掴む。

 

いくら考えても、百パーセントの安全牌なんてありはしない。

だから、天江は考えた。

八十パーセントより九十パーセント、九十パーセントより九十五パーセントを目指して。

 

 

「………………」

 

 

対して朔上はと言うと、目を瞑り、最後の一牌に手をかけていた。

そして、天江が牌を切る音と同時に、目を開けないまま牌を倒す。

 

天江が指を離す。

切られたのは――――――{四}。

 

 

 

 

――――――――ロン

 

 

 

 

天江の瞳から涙が零れ落ち、それが試合終了を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい並んで並んでー、写真撮るわよー」

 

 

試合も終わり、何故か部長の提案で行われる事になった記念撮影。

俺は別にいいと言ったのだが、他の全員の意見に揉み消された。やっぱり多数派の暴力って恐ろしい。もう少し、少数派の意見を尊重してくれたっていいと思うんですけど?

……まぁ、そこまで時間がかかるわけでもないし、別にいいけどさ。

 

 

「つーか部長、俺が撮りますって。なんでカメラ貸してください」

 

「なーに言ってんのよ。メンバー全員が写んなきゃ意味ないでしょ? ほら、ほら!」

 

 

往生際悪く、なんとか回避を試みるも、部長に軽く押し戻されてしまった。

俺、何故か昔から写真写りが異常に悪いんだよなぁ……ぼやけるわ、見切れるわ、瞬きしてるわ……いや、最後は完全に俺のせいだな。

 

 

「じゃ、行くわよー。はい、チーズ!」

 

 

パシャリ、と音が響く。

今のちゃんと撮れてたかな……顔が引き攣ったりしてないかしら。以前すこやんのウインクを見てしまったのもあって、不安で仕方ない。

メンバーは挙って部長の持つカメラを覗き込み、破顔一笑していた。

 

俺もチラッとカメラを覗き込み、やはり笑ってしまった。

 

割とよく見る笑顔を浮かべる宮永と須賀。

 

ぎこちない笑顔を見せる原村。

 

何故か飴を二つ持ち、妙竹林なポーズを取る大星。

 

そして、俺。

 

まぁ、なんだ、悪くないんじゃないの? 思ったよりかは写りいいし。

何より、これが自分だという事に驚いた。

だって、結構マシな笑顔だったんだから。

 

…………勝ったんだ、よな。

今更ながらに実感が湧き、僅かに膝が笑う。

裏では決して感じる事のなかった心の高揚、そして、楽しいという気持ち。その二つが、この先――――インターハイにもきっとある。

 

なら、目指してみようか。

《頂点》ってやつを。

 

 

 

 

ところでこの写真。

どう見ても男子が須賀しか見当たらないんですけど、俺はやっぱり写らなかったのん?




閲覧ありがとうございました。
次回は、魔法の裸単騎の答え合わせと、いくつかの短編になる予定です。
そしてそれが終わったら、個人戦は後回しにして他の学校編に移行します。何故かと言うと、単純に私の意欲の問題です。
朔上君の話は、ここから阿知賀編が終わるまでストップ……というわけではなく、多分適当に短編書きます。はい。
てなわけで、適当な私ですがお付き合い頂けると嬉しいです。

追記 何度もミスが見つかり、もう滅茶苦茶再編集してます。申し訳ありません。
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