クリスマスですねえ。今年も由良さんのボイスの破壊力がすごい
どうぞよろしくお願いいたします
秋が、静かに終って。もうすぐ新しい年が始まる、そんな、冬の一日。
洋上を進んでいると、ふとした拍子に風が吹いて、髪を、制服を揺らします。厚着をして、艤装を着けていても、その寒さは身を震わせます。由良は思わず、両腕で体を抱えました。
「寒いですね」
由良の後ろからも、少し震えた声がします。制服の上からコートを羽織る、沖波ちゃんです。今日は、由良と一緒に、定時哨戒任務についてくれていました。
秋祭りの後。富浦基地に新しく配属になったのは、沖波ちゃんの他に、五月雨ちゃんと神風ちゃん。今の哨戒任務は、この中から二人ペアで、行ってます。
「もうちょっとだよ。暖かいココアも待ってるから、ね?」
「はいっ」
沖波ちゃんの返事に、由良の頬が緩みます。
ココアは、哨戒が終わった由良たちに、いつも提督さんが用意してくれます。冷える、冬の季節。海から帰って来た時は、特にその寒さがわかるから。ぽかぽかと温かく、甘いココアが、何よりもありがたいです。
次第に、富浦基地の姿が見えてきます。朝、由良たちが降り立った埠頭。そこに、こちらを見つめる、人影が。
背格好だけで、誰だかわかります。
提督さん・・・待ってて、くれたんだ。寒いのに、由良たちのこと、迎えに来てくれたんだ。
嬉しいなあ。どうしようもなく、表情が緩んじゃうくらい。
由良たちを見つけたのか、提督さんが大きく手を振ります。それに、思わず由良も、振り返してしまって。「提督さん」、大声で呼びそうになって、気づいて。気恥ずかしくて、ゆっくり手を下ろします。
子どもっぽいって、思われちゃった、かな。
ぐるぐると、色んな思考が回ります。でも、それもほんの少しの間だけ。
提督さんの顔が見えるようになると、胸の高鳴りを、どうしても抑えることができません。早く、会いたい。早く、声をかけたい。早く、手を取りたい。そんな、わがままな思いが、膨らんでいくばかり。
「ただいま、提督さん」
その一言が、たまらなく幸せだから。
「お帰りなさい、由良さん」
笑った提督さんは、由良の手を取って、埠頭に上がるのを助けてくれます。まるで・・・そう、おとぎ話の中の、王子様みたいに。
「司令官と由良さんって、何だか王子様とお姫様みたいですね」
由良の頭の中を読んだみたいに、沖波ちゃんが言いました。たちまち意識してしまった由良の頬が、霜焼けのように熱くなります。それを誤魔化すように、手袋をした手で、頬を隠しました。
「沖波、憧れちゃいます」
眼鏡の奥で、純粋な瞳が、こちらを見ています。は、恥ずかしい・・・。
照れたような笑顔を浮かべて、提督さんは沖波ちゃんが上がってくるのも手伝います。
艤装を置きに行く、工廠までの道。由良たちをエスコートする、隣の提督さん。その姿をいつもより強く意識してしまって。
寒いのに熱くて、長いようで短い、その道のりでした。
お昼。食堂では、昼食の用意と並行して、クリスマス会の準備も進んでいました。三人の駆逐艦娘が、あれやこれやとしている声が、執務室まで聞こえてきます。
今夜は、楽しい夜になりそう。
隣の提督さんを窺います。提督さんの机には、まだ書類が残っていて。後少し、かかりそうです。
「提督さん。終わった書類、整理しておきますね」
「あ、はい。お願いします」
「済」の箱に入れられた、書類の束。それを抱えて、ファイリングするものと、横須賀へ送付するものに分ける。その作業を終えても、提督さんはまだ書類と向き合っています。
カリカリ。ペンが紙の上を走る音。几帳面な、提督さんの字。白い蛍光灯の光が映す横顔。
無意識のうちに、ジッと彼を見つめていて。それに気づいて、誤魔化すように。由良は、窓から外を見ます。
雲のかかった空。哨戒中はあまり気にならなかったけど、天気はそれほど良くありません。雲が低くて、辺りは少し薄暗い。今にも雨が降りだしそうです。
「由良さん?」
提督さんが、由良を呼ぶ声。いけない。由良ったら、執務中なのに、ボーっとして。
書類を終えたらしい提督さんは、最後の数枚を整えて、ファイリングします。それから、由良と同じように、窓の外を眺めました。
「天気、よくないですね。夕方あたりから、雨か雪になるそうですけど」
「雪・・・」
言われて思い出すのは、昨冬の一日。朝起きて、カーテンを開いた時。眩しいぐらいの、銀色の光。駆逐艦の娘たちは、おおはしゃぎしてたっけ。
「どうせなら、雪がいいですね。ホワイトクリスマス、ってことで」
あ、でも雪かき大変かな?苦笑しながら訊いてくる提督さん。
由良は・・・。
「由良は、雪がいい、かな」
「雪、好きですか?」
雪は・・・多分、好きだけど。きっと、そうじゃない。
「由良も、ホワイトクリスマスがいいな、って。それに・・・提督さんと、雪が見られたら」
うまく・・・説明できないけど。
「きっと、嬉しいから」
どう嬉しいのか、なかなかいい言葉が見つからなくて。由良の気持ち・・・提督さんに、ちゃんと伝わったかな。
チラリと窺った、提督さんの表情。提督さんは、いつものように柔らかく、優しく微笑んでいました。
「お願いしましょうか。今日はきっと、叶いますよ」
その声が。言葉が。由良の大好きな、提督さん。
その時、執務室の扉が、小気味良くノックされました。青い髪を揺らして、五月雨ちゃんが入ってきます。
「お待たせしました!お昼ご飯、できましたよ!」
それに気づいたのは、工廠内の備品整理をしていた時でした。
ここ数日、午後の執務を終えた後は、年末に向けて基地内の各所を整理しています。でも、クリスマスパーティーがある今日は、少人数でもすぐに終わる範囲でやっています。
工廠にいるのは、由良と提督さんだけ。蛍光灯が照らす備品倉庫内からは、夜を迎えた外の様子が見えました。
ひらり。その、夜の中に、白い光が見えた気がしました。
あれは・・・もしかして。
ひらり。ひらり。由良が見ている前で、白い光は少しずつ数を増やしていきます。窓越しのその光景は、まるで妖精が舞っているみたいで。不思議なその姿を、吸い寄せられるように、見つめます。
箱に入った装備を床に置いて、外へ出ます。
「わあ・・・」
空を覆うほどに、舞い降りる白い結晶たち。はらり、はらりと、ただ静かに、基地に積もっていく。
「雪、本当に降りましたね」
夜空を見上げた由良の隣に、提督さんが並んで。二人で一緒に、雪を降らせる空と、うっすら浮かび上がる富浦の景色を見つめています。
それはまるで、雲から千切れてきた子どもたちみたいに。
それはもしかしたら、空からやってきた星の欠片で。
春に見た、桜の花びらとよく似てる。
ホワイトクリスマスに見惚れていた由良たちを、不意に吹いた風が撫でました。雪が降るだけあって、冷たい風。カーディガンだけだと、ちょっと寒いかな。
・・・でも。
ぴた。由良の左手に、暖かいものが触れて。やがて、由良の手を包み込むように。
大きな、提督さんの手。優しい、提督さんの手。
「今夜も、冷えそうですね」
提督さんが笑います。つられて、由良も頬が緩んじゃう。
寒い季節。雪の降る夜。それなのに、暖かい手が、とっても幸せ。
「提督さんの手、暖かい」
「よく言われます」
笑い合った由良たちは、しばらくそのまま、富浦基地を包み込む静謐を見つめ続けます。
降る雪の勢いは、少しずつ増していきます。もしかしたら、明日の朝は一面銀世界、そんな風になるかもしれません。
そうしたら・・・基地の皆で、雪かき、ですね。それから、少しぐらい、雪遊びができるかも。雪合戦とか、雪だるまとか。今から、とっても楽しみです。
「・・・そろそろ、戻りましょうか。パーティーの準備も、終わってると思いますし」
「そう、ですね」
夜が更けるのは、とっても早い。ほんの少し前に、陽が暮れた、そう思っていたのに。
気づけば、辺りを覆う、艶やかな黒。昼間には感じられた潮の香りも、夜に吸い込まれてしまったみたいに。打ち寄せる波の音だけが、しんしんと舞い散る雪の後ろに、聞こえていました。
提督さんの手が離れます。備品倉庫の電気を消すために、もう一度建物の中に戻る提督さん。
温もりが離れた、由良の左手。さっきまで、提督さんと繋いでいたその手を、開いたり、閉じたり。
さっきまで、提督さんと、手を繋いでいたんだ、って。嬉しくて、恥ずかしい気持ちと・・・離れてしまった、少しの名残惜しさ。
・・・由良は、少し寂しがり屋に、なっちゃったかな。
倉庫の電気が消えます。真っ暗になったおかげで、幻想的な雪の様子が、よりはっきりと見えてきました。
「お待たせしました。行きましょう、由良さん」
戻ってきた提督さんが、由良に声をかけます。光がないと、その表情がよく見えなくて。光がないって・・・やっぱり少し、寂しい、ですね。
だから、きっと。由良は、代わりが欲しかった。提督さんが、そこにいる、そう思えるものが欲しかった。
「・・・ねえ、提督さん」
「はい?」
「あの・・・手、繋いで行きませんか?」
口にしたのは、ほとんど無意識で。気づいて、一気に熱が頬に集まります。
そんな、由良の手を。さっきと同じように、提督さんの手が、包んでくれて。
「いいですね。寒い時は、誰かとこうしてた方が、暖かいですし。・・・それに、由良さんと手を繋ぐの、僕は好きですから」
夜を伝う、声から。肌が触れる、手のひらから。
提督さんの温度と、由良の温度と。二つを持ち寄った、由良たちの間に。
はらり。ひらり。しんしんと二人を包む、純白の夜。
歩いていく、由良と提督さん。
こじんまりとした富浦基地の中でも、工廠と庁舎の間は、短いようで長くて。・・・でもやっぱり、短くて。
基地の中、そこだけぽつんと光が灯る庁舎。その前で、ふと、提督さんの足が止まりました。
「提督さん?」
由良の声に、提督さんが振り向いて。空いていた由良の右手。その手も、しっかりと握られます。
「由良さん」
お互いの顔がよく見える、すぐ間近で。由良と提督さんが、向き合って、見つめ合う。
「こんなに嬉しい雪の日は、初めてです。由良さんと一緒に過ごせて・・・上手く言えないけど、とっても暖かいんです」
朧気な雪の光の中。
照れたように笑う提督さんが。
うっすらと赤いその頬が、かけがえのない宝物。
提督さん。
由良の、提督さん。
優しくて、ほんわか暖かくて、いつも真っ直ぐな笑顔で、隣にいられるのが何よりも嬉しくて、
由良の大好きな、提督さん。
「提督さん。由良も・・・」
もしも。サンタさんが、誰かに幸せや暖かさをくれる人で。
「こんなに綺麗な雪を、一緒に見てるのが、提督さんで嬉しい」
もしも。この世界に、本当にサンタさんがいるなら。
「由良の手を、心を暖めてくれるのが、提督さんで嬉しい」
由良にとって、サンタさんは、提督さんのこと、だから。
「提督、由良さん!もう準備できてるわよ!」
食堂から駆けてきたらしい神風ちゃんが、由良たちの袖を引っ張っていきます。廊下の先、辿り着いた食堂には、クリスマスカラーの装飾が施されています。小さいながら、ツリーも用意されていました。
机の上には、妖精さんも手伝って準備したという、料理の数々。その妖精さんたちも、すでに準備万端です。
窓の外の雪は、少しずつ積もり始めています。
なおも降り続ける、聖夜の雪。その景色に、由良たちが映り込んでいます。
思わず、頬が緩んでしまって。きっと今夜は、そういう夜だから。
クラッカーが鳴って。飛び散る紙テープと、皆の笑顔、楽しげな声。
「「「メリークリスマス!」」」
―――由良は今、とっても幸せだよ。
由良さんのクリスマスグラ可愛いなあ(幻視)
由良さんはマフラー巻いてあげたくなりますね
来年も、由良提督さんたちが幸せな一年であることを願います
それでは、どうぞよいお年を
メリークリスマス