スレイ「この前アイゼンからマオテラスの話を聞いたけど、なんだか信じられない事ばかりだったよね」
アリーシャ「スレイ。今思えばあれは本当の事だったのか?」
アリーシャ「正直その……幼子の印象しかなかったのだが……」
スレイ「俺もそう思った。もしかしたらだけど、アイゼンはライラに気を使ってあえて嘘をついたのかもしれない」
スレイ「もしくは自分で直接会って確かめろって事なんじゃないかな」
アリーシャ「そ、そうだな。きっとスレイの言うとおりだ。じゃないとマオテラス様のイメージが……」
ミクリオ「スレイ! アリーシャ!」
アリーシャ「ミクリオ様?」
スレイ「そんなに慌ててどうしたんだ?」
ミクリオ「この本を見てくれ。マーリンドの書庫で見つけたものだ」
スレイ「どれどれ……災禍の顕主の真実」
アリーシャ「災禍の顕主!?」
ミクリオ「どうやらアスガード統一期……千年ほど前の災禍の顕主について書かれている本みたいだ」
スレイ「こんな本が残っていたなんて……」
スレイ(あれ? でも千年前って事はアイゼンの話に出てきた災禍の顕主じゃ……)
アリーシャ「さっそく読んでみましょう……と言っても私は古代語はあまり得意ではないので……」
ミクリオ「大丈夫。この時代の古文書なら読んだ事があるよ。ほら、スレイ」
スレイ「う、うん」
スレイ「なになに……災禍の顕主。民衆達からそう名付けられた存在は、ミッドガンドに大きな災厄を振りまき、世界を混乱の炎に包み込んだ」
スレイ「そしてその結果、世界の在り方を大きく変えてしまった」
スレイ「これって……」
ミクリオ「うん。ライラが言っていたとおりだね。災禍の顕主は時に世界の在り方を大きく変えてしまう」
アリーシャ「千年前にもそんな災厄があったのですね」
スレイ「続きを読もう。だがそんな災禍の顕主には知られざる素顔が存在したことを多くのものは知らない。この本ではそれについて記述する」
アリーシャ「災禍の顕主の知られざる素顔……」
ミクリオ「知られざる素顔その一」
二人「ごくり……」
ミクリオ「わしの口の中にサレトーマを突っ込んだ」
スレイ「……サレトーマ?」
アリーシャ「なんですかそれは?」
ミクリオ「ちなみにサレトーマとはの、見た目はむらさき色の花に、赤茶色の茎や葉っぱというなんともシュミの悪い花じゃ。ラズベリーのようないいにおいがしおる。だが、その匂いにつられて口に入れたら最後、花汁が口の中で変質しておぞましい味になる」
スレイ「おぞましい味?」
ミクリオ「花弁はミントの数千倍のスパイシー液となり、葉や茎は超濃厚な牛タン味となる。二つの味が、したのうえで猛烈に絡み合い発砲し、むせ返るような刺激と苦みが全身を襲う!」
スレイ「ええっ!?」
アリーシャ「ひいっ!」
ミクリオ「あんの悪党はそいつをわしの口の中につっこみおったんじゃ。せっかくビエンフーに飲ませたというのに。わしのような魔女を苦しめるとは悪逆無双の災禍の顕主じゃ! ……らしい」
スレイ「驚いたけど……なんか人変わってない?」
アリーシャ「途中から素が出てしまっている感じがするな。そしてこの作者はビエンフーという人にそれを飲ませたのか……」
スレイ「続きを読もう。その二。坊の緊張をほぐそうとした心優しいわしをワニのいる水の中に突き落とした」
ミクリオ「ワニのいるところに!? それはひどいな……しかし坊とは誰だ?」
アリーシャ「というよりも、この作者は災禍の顕主に嫌われていたのでは?」
スレイ「うん。なんだかそんな感じがする。もしかしたらさっきのもこの作者が余計な事をしたからじゃないかな?」
ミクリオ「というかやってる事が知り合いへの嫌がらせレベルの気が……次に行こう。その三。沢山の人の前では緊張して何も言えなくなってしまう」
ミクリオ「あんのアホは漫才の本番中で何も言えなくなってしまったんじゃ。おかげでわしは大恥かいて出禁をくらったわい! なにが恥ずかしいんじゃへそ丸出しのお主の服のほうが恥ずかしいわい!」
アリーシャ「ミクリオ様。この本は本当に信用できるのでしょうか?」
スレイ「漫才……なんだか災禍の顕主のイメージが……」
ミクリオ「う、うん。古文書には常に真実が書かれているとは限らないから……もしかしていたずら好きな人がでたらめを書いたのかもしれない」
スレイ「いや、そうともいえないんじゃないか? いたずら好きな人が真実を書いたら――」
ミクリオ「災禍の顕主がへそ丸出しの恥ずかしい恰好で漫才すると思うかい?」
スレイ「……続きを読んでみよう! その四。検問を突破する際にハトマネをさせてやったわ! あやつは顔を真っ赤にして右手でくちばしを作り「ポッポ……」あー思い出すだけで笑いが止まらんのう! その後もさんざん弄ってやったわい!」
アリーシャ「スレイ。実はこの作者が災禍の顕主だったのではないか?」
ミクリオ「確かに、なんだか作者の方が悪人に思えてきたよ」
スレイ「そ、その五! ……えーと」
アリーシャ「どうしたスレイ?」
ミクリオ「いや、これはさすがに……」
アリーシャ「ミクリオ様まで、なんと書かれているのですか?」
ミクリオ「料理上手で家庭的でありいいお嫁さんになれるとよく言われる。もしくはうるさい小姑」
アリーシャ「……この本はやはりいたずらなのでは?」
ミクリオ「そうだね。その可能性が高そうだ」
スレイ「一瞬ヘルダルフがエプロンつけて料理してるところを想像しちゃった……」
アリーシャ「ひいっ!」
ミクリオ「こ、怖い想像はやめてくれ!」
ミクリオ(というよりこの災禍の顕主は女性だったのか……)
スレイ(女の人がへそ丸出しの恰好してるなんて……)
アリーシャ「どうしたんだスレイ? 顔が赤いぞ。あ、ミクリオ様も……」
スレイ「な、なんでもないよ!」
ミクリオ「も、もう読まなくてもいいんじゃないか?」
スレイ「ここまで読んだしせっかくだから……その六。実は猫アレルギー」
ミクリオ「ヘルダルフは獅子だぞ? 獅子は猫科じゃないか」
アリーシャ「いえ、千年前の話ですのでヘルダルフは関係ないかと……」
スレイ「次で最後みたいだし、その七。男の股間を見ると顔を真っ赤にして――」
アリーシャ「っ!」
アリーシャが顔を真っ赤にして勢いよく本を閉じる
スレイ「ア、アリーシャ?」
アリーシャ「これはいたずらだ。間違いない」
ミクリオ「う、うん。そうだね。きっとそうだ」
スレイ「この作者はきっといたずら好きだったんだよ」
アリーシャ「その通りだ。災禍の顕主がこの本に書かれているような存在だなんて考えにくい。きっと先人達も学術的な価値がないと判断したんだろう」
ミクリオ「そういえば特別大切に保管されていたって感じじゃなかったね。無造作に仕舞われていた」
アリーシャ「はい。これでこの本の話はおしまいです。私が書庫に戻しておきます」
アリーシャ「災禍の顕主の詳細はまたアイゼン様にでも聞いてみましょう」
ミクリオ「そうだね。どうせなら書庫に行ってみるかい? 興味深い本が沢山あったよ」
スレイ「うん、じゃあいこうか」
アリーシャ「はい、いきましょう」
三人で書庫に向けて歩き出す
スレイ(それにしても)
アリーシャ(もしも事実だとしたら)
ミクリオ(千年前の災禍の顕主は……)
三人(意外と乙女だったのか?)