Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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 お待たせしました。Fate/Sweet Zeroの始まりです。
 尚、生前のバーサーカーの活躍が気になる方は、『スイーツイーター ~お菓子の神機使い~』を御覧ください。


狂戦士の召喚

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者

――」

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 魔法陣が光輝く。無数の蟲が蠢く間桐邸の地下室『蟲蔵』で、間桐雁夜が『バーサーカー』を召喚した。

 突然だが、サーヴァントには七つのクラスに分けられる。その中でも、バーサーカーというのは非常に扱い難いサーヴァントだ。

 まず、消費する魔力が膨大なのだ。歴代のマスターが魔力切れで敗退した程である。しかも、『狂化』の属性が付与された影響で理性を失い、一部の能力が使用不能になるのだ。

 その反面、ステータスの強化が可能というメリットもあるが。

 この条件を踏まえた上で、間桐雁夜はバーサーカーのクラスを選択した。

 勿論それには理由がある。バーサーカーを召喚したマスター『間桐雁夜』は半端者の魔術師だからだ。聖杯戦争に間に合わせる為、魔術の鍛練を1年しか積んでいない。それも、己の身を犠牲にする無茶な魔術鍛練である。

 そこまでしても、召喚するサーヴァントのステータス低下は免れない。そこで、『狂化』によるステータス増幅で補う事にした。元々少ない魔力が更に削られるが、聖杯を勝ち取るにはその方法しか無かったのだ。

 しかし、その代償として、地獄のような苦しみが雁夜を襲った。

 雁夜は体内に『刻印蟲』と呼ばれる蟲を寄生させている。『刻印蟲』とは、宿主の血肉を喰らう代わりに、魔力を産み出すという特性を持った蟲である。

 そんな蟲を寄生させたままサーヴァントを召喚すればどうなるのか? 無論、体中は喰い荒らされ、立ち続ける事すら儘(まま)ならない状態に陥る。

 だが、雁夜にとってはそれすらも計画の内だった。喩えどれだけこの体を酷使しようと構わない。一人の少女を救う為、一人の男へと誓った復讐の為、全てを投げ出す覚悟だった。

 ―――しかし、

 

「バーサーカー…… なのか?」

 

 地べたに這いつくばりながら、己の召喚したサーヴァントを見上げる。闇に溶けてしまいそうな漆黒のコートを羽織り、東洋人特有の黒髪黒目で、二十代前半であろう青年が佇んでいた。

 本来、西洋圏の英霊しか召喚されない筈である。考えられるとしたら、西洋でも十分な知名度を持っている英霊なのだろう。

 

「カッカッカ…… 随分と脆弱なバーサーカーを召喚したの、雁夜」

 

 気味悪い笑みを浮かべた老人が現れる。この老人の名は間桐臓硯。名義上、雁夜の父親に当たるのだが、そう感じたことは一度たりともない。

 そう、化物だ。人間の肉体を捨て、蟲によって優に500年は生き永らえてるただの化物だ。

 そして、この化物は人の心など微塵も持ち合わせていない。バーサーカーを召喚させるよう指示したのは臓硯だ。『狂化』によるステータスの増幅が表向きの理由だが、大方、バーサーカーの魔力消費で苦しみ藻掻く姿を期待しているのだろう。

 臓硯の掌で踊っていると分かっていても、それに抗う訳にはいかなかった。事実、バーサーカーを召喚する以外、他のマスターと渡り合う術はない。

 しかし、バーサーカーのステータスは、お世辞にも高いと言えない。狂化によるステータス増幅が施されているにも関わらず、サーヴァントの平均値としては中の下といったところか。これでは、バーサーカーを選んだリスクと釣り合わない。

 元々、触媒無しの召喚だったのだ。どんな英霊が現れようと不思議ではない。

 触媒とは、生前の英霊と縁深い物品の事である。それさえ使用すれば、特定の英霊をサーヴァントとして召喚が可能だ。その触媒が無いのなら、聖杯によってマスターと相性の良いサーヴァントが召喚される。

 そう、どんな英霊が召喚されても文句は言えない。

 

「一応、狂化は成功しとるようじゃが…… この有り様でも、聖杯戦争に参戦する気かの?」

「当たり前だ……! 後に引ける訳ねえだろ……!! サーヴァントは召喚できた。後は、遠坂時臣を殺して聖杯を手に入れるだけだ……」

 

 普通のマスターなら完全に匙を投げるだろう。しかし、間桐雁夜の方も普通とは言い難かった。バーサーカーのステータスが低い程度では諦めなかった。

 間桐の魔術鍛練に一年間も堪えたのだ。この程度で折れるようなら思いなら、あの魔術鍛練は半年も堪えられなかっただろう。

 ステータスが低いのなら、もっと魔力を供給すればいい。更に体は磨り減らされるだろうが、とうの昔に覚悟は決まっている。

 しかし、今も尚、刻印蟲は雁夜の血肉を貪っている。正直、意識を繋ぎ止めるだけでも手一杯なのだ。

 ―――本当に、このサーヴァントで戦えるのか?

 一瞬だけそんな疑問が浮かんだが、体中に走る激痛で直ぐに打ち消された。

 

「ぐッ!! がはっ!!??」

 

 どんどん痛みが加速していく。即ち、刻印蟲が急ピッチで魔力を製造しているのだ。その影響か、どす黒い血が口から溢れ、身体は絶えず痙攣を続ける。

 考えられる要因はバーサーカーしかない。辛うじて目だけを動かし、バーサーカーへと視線を移す。

 

「「……………………は?」」

 

 雁夜と臓硯、二人の声が重なった。随分と間抜けた声をあげたが、二人は決して悪くない。

 ぼやける意識を奮い起たせてバーサーカーの左手を注視する。

 その手に掴まれていた物は、宝具だった。宝具とは、主に彼らが持つ生前に築き上げた伝説の象徴であり、伝説を形にした『物質化した奇跡』である。それほどにまで強力で、威厳のある物なのだが―――

 身の丈ほどあるであろう、銀紙を破って突きだした茶色に輝く板状のチョコレートが握られていた。その下には、やや小振りの苺付きのショートケーキと、鮮やかなピンク色が渦巻いたペロペロキャンディーが付属している。

 あれだけ痙攣していた体が一気に固まった。願わくは、見間違いが良かった。極限状態からくる幻覚の方がまだマシだった。

 しかし、現実は非情である。バーサーカーの宝具は、お菓子である!

 

(あ、聖杯戦争詰んだな)

 

 蟲蔵の過酷な鍛練ですら折れなかった雁夜の執念は、バーサーカーの可笑しな、お菓子な宝具で粉々に砕かれた。

 無理もないだろう。バーサーカーのステータスは只でさえ低いのに、宝具がお菓子ときたら誰だってそうなる。

 しかし、それは外見だけの判断だ。雁夜よりも遥かに格上の魔術師でもある臓硯は、バーサーカーの宝具の異常性に気づいていた。

 少なくとも、武器ではない。武器と言うよりも寧ろ、全てを喰らう為に産み出された生物…… といった所だろうか。

 どちらにせよ、普通の宝具とは並外れて強力な『何か』を感じ取っていた。

 

「クカカカカ!! 欠陥品の分際にしては、当たりのサーヴァントを引いたようじゃの!」

 

 その声は雁夜に届かなかった。未だにショックから立ち直っていないのか、虚ろな目でバーサーカーの宝具を見つめている。

 

(お菓子の宝具――― いや、使いようによっては意外と役に…… やっぱ無理だろ!!)

 

 脳内が絶望一色で染まっている中、警鐘が鳴り響いた。無理矢理にでも立ち上がり、此処から逃げ出したいという衝動に刈られる。

 ―――早く逃げろ、喰われるぞ……!!

 人間の根源に刻まれていた恐怖が、とうの昔に忘れ去られた恐怖が甦る。

 しかし、雁夜はその恐怖に堪えきった。理由は単純。何故ならその恐怖は今、全てが化物に、間桐臓硯に向けられているからである。

 

「此奴、儂を喰らう気か?」

 

 それで尚、臓硯は余裕を崩さなかった。

 数百年も生きているこの妖怪は、英霊であろうと殺しきるのは難しい。完全に殺すには、臓硯の魂が入った核の蟲を殺すしかない。

 しかも、相手はバーサーカーだ。魔力切れで実体が保てなくなるのが積の山だろう。通常のサーヴァントなら兎も角、理性のないバーサーカーは恐れるに足りない。

 逆に、宝具の全容を確認する良い機会だ。使役できる蟲を総動員させて、バーサーカーの襲撃に備える。

 

「ア"ア"ア"ァァァ!!!!」

 

 咆哮が響いた。それとほぼ同時だろうか。左手の宝具がメキメキと音を立てて変型した。いや、正体を現した。

 柄の両側から黒い顎(あぎと)が姿を現した。呻き声を上げながら口を大きく開く其れは、蟲の醜悪さなど霞んでしまう禍々しさだった。口の中から先程の板チョコが覗いているが。

 あのファンシーな外見は仮初めの姿と理解し、雁夜も思わず息を飲む。まあ、それは半分当たりで半分ハズレなのだが。

 そして、臓硯がバーサーカーを試そうとしていいる事も直ぐに理解できた。臓硯の為に魔力を削るのは癪だが、どのような宝具なのかは雁夜自身も確認したい。その結果、予想より斜め上…… いや、90度横にいったが。

 

『グルルルルル……』

 

 バーサーカーの宝具が低く呻き声を上げた。今か今かと口を大きく開くその仕草は、獲物を狙う怪物そのものだった。

 地面が弾ける音が響く。次の瞬間、バーサーカーの宝具が臓硯の肉体に喰らいついた。目で捉えられない程の肉薄。お菓子の宝具を持っていようと、サーヴァントである事実は変わらない。

 

 ガキ!! ゴリ!! グチャ……

 

 黒く醜悪な異形が、臓硯を型どっていた蟲を喰い千切る。上半身を丸々咀嚼された肉体は、そのまま地面へと吸い込まれた。

 生き残った蟲たちがピチピチとその場でのたうつ。しかし、その残骸すらバーサーカーの宝具は容赦なく貪り喰らう。

 世にも恐ろしい蹂躙劇の中、雁夜は一つの疑問を抱えていた。先程よりもそう、僅かに痛みが和らいでいる。つまり、魔力の消費が抑えられてる。

 ―――何が原因で?

 原因を探る雁夜の傍ら、バーサーカーの周囲には無数の蟲が羽ばたいていた。

 バーサーカーは満面の笑みを浮かべる。彼の食欲はあの程度で満たされないらしい。黒色の顎が引っ込み、板チョコの刀身が現れる。

 

「ヴァアアァァァ!!」

 

 再び響く咆哮。

 円上に振るわれた板チョコが一分の狂いもなく蟲たちを捉える。どういう原理なのか、鋭い刃物で切り刻まれたかのようにバラバラとなった。

 バーサーカーとは思えない見事な太刀筋。『狂ってるというより、本能が剥き出しになっている』。頑なに臓硯を喰らわんとする行動が、そう印象付けた。

 

「ただのお菓子じゃないんだよな……?」

 

 他の蟲へと襲い掛かるバーサーカーを、雁夜は微妙な顔で見つめていた。まるで、品定めをするかのように……

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 次々と蟲たちを喰らっていくバーサーカー。長時間戦闘を続けているにも関わらず、雁夜は魔力切れを起こさなかった。

 それどころか、消費される魔力も最小限に済んでいる。辛いことには変わりないが、堪えきれないという訳ではない。

 単なる予測でしかないが、バーサーカーの宝具は『喰らった物の魔力を自身に還元する』という性質に近いものを持っている。三流魔術師でもある雁夜にとっては嬉しい誤算だ。

 

「ア"ア"ア"ッ!!!」

 

 バーサーカーの袈裟斬りは最後に残った蟲を真っ二つに切り裂いた。漆黒の顎(あぎと)が顔を覗かせ、一つの肉片も残さず咀嚼する。

 未だにバーサーカーの眼には、飢えた獣のような澱みを宿している。あの程度の蟲では、バーサーカーの飢えを満たせないらしい。獲物を探るかの如く視線を宙に泳がせる。

 もしかしたら、バーサーカーは臓硯を殺したのかもしれない。

 しかし、その希望を打ち砕くかのように、邪悪にくぐもった声が蟲蔵に響いた。

 

『よもや、この程度で儂を殺した心算ではあるまいな?』

「な…… 生きてたのか!!?? 」

『何を驚いておる。バーサーカーの暴走など既に折り込み済みじゃ』

 

 悔しさのあまり歯を軋ませる。

 しかし、心の片隅ではこうなる事を分かっていたかもしれない。目的の為には結局、聖杯を手にいれるしかないと。

 ―――臓硯を殺すのは不可能なのか……!?

 殺したいほど憎い。それでも相手が悪すぎる。心の底から湧き出る憎悪と無念さに無理矢理蓋をする。

 冷静になってから気づいたが、刻印蟲によって肉体が著しく食い潰されてる。急いでバーサーカーを霊体化させようとするが……

 

 ガション!!

 

 何故か、機械のように無機質な音が響いた。視線を移すとそこには―――

 

「グオォオオォオアアア!!!」

「マジで何がしたいんだよお前は!!??」

 

 シ ョ ー ト ケ ー キ を 持 っ た バ ー サ ー カ ー が い た 。

 雁夜渾身のツッコミが響く。ちなみに、雁夜はまだ地面に倒れていたりする。ボロボロの体で叫ぶのは相当堪えるが、やはり叫ばずにはいられなかった。

 膨大な魔力を消費した感覚はない。黒い顎と同じく、板チョコと同一の宝具らしい。だが、問題はその形態だ。銃火器のように構えられたショートケーキの先端には銃口(?)がついており、フラフラと辺りを彷徨っている。

 板チョコはギリギリ剣だと納得できた。しかし、ケーキは流石に無理だ。常識的に考えれば、お菓子から銃弾なんて出る筈もない。魔術師やら英霊やらが集っているこの状況も、十分常識はずれだが。

 

 ドドドドドドドドドドドド!!!!!!

 

「「!!??」」

 

 しかし、その常識も覆された。雁夜の真上を無数の銃弾が通り過ぎる。

 耳をつんざく轟音、立ち込める硝煙の匂い、大気を震わせる圧倒的爆風。それらが否応なしに認めさせる。ケーキから銃弾が放たれていると……

 岩壁は穿れて崩れ落ち、土埃が立ち昇る。地獄のように生々しい風景なのに、雁夜にとっては幻想的にすら見えた。絶望だけが巣食っているこの暗闇に、一筋の光が差したように見えた。

 そう、近くの地面に被弾するまでは。

 

「ちょ……待っ!!」

 

 爆風の余波で吹き飛ばされる。体が宙を舞い、地面へと吸い込まれていく。受け身もとれずに、背中から叩きつけられた。

 しかし、バーサーカーは見向きもせずに銃弾を撃ち続ける。狂化してるだけあり、マスターを気絶させた事実など気にも留めない。

 ―――金輪際、戦闘中のバーサーカーに近寄るのは止めよう。

 遠退いていく意識の中、密かにそう決意した雁夜はゆっくりと瞼を閉じた。

 

(馬鹿な…… 何故、この儂がこんな……)

 

 そして、意識が途切れそうな人間がもう一人。

 蟲蔵の奥深く。一匹の蟲がどす黒い闇の中で蠢いていた。親指大であるこの蟲こそが、間桐臓硯の魂を封じた核の蟲である。

 対策なら施してあった。雁夜が令呪を使って反逆するものなら、寄生させた刻印蟲に命じて殺させる。これだけで十分な筈だった。

 しかし、蓋を開ければこの有り様である。蟲蔵は半壊し、大半の蟲は崩れた瓦礫の下敷きである。刻印蟲一匹を動かす余裕すらない。

 どこで選択を間違えたのか?

 思えば、バーサーカーの宝具がケーキ形態になる前に雁夜を殺しておけば良かったのだろう。しかし、ケーキから銃弾なんて誰が予想できるのだろうか? お菓子で殲滅されると誰が考え付くだろうか? 予想できた者がいるとしたら、そいつは病院へ駆け込んだ方がいい。

 

「グヴゥゥゥゥ………」

 

 低い唸り声が聞こえた。バーサーカーが直ぐ近くまで迫っている。此の場所を探り当てるのも時間の問題だが、この状況ではどうしようもない。

 爆発で壁が吹き飛ぶ。姿を現したのは、勿論バーサーカーだ。

 再び、機械のように無機質な音が響いた。ケーキの銃身が引っ込み、あの板チョコの刀身に変型した。

 板チョコを地面に引き摺りながら一歩一歩足を進める。そこには、絶対に逃がさないという意思が感じられた。

 

(ああ、これが……)

 

 バーサーカーがピタリと足を止める。

 そして、その小さな蟲には大き過ぎるほどの口が開かれた。抵抗すらできぬまま、ただ喰われる時を待つ。その時の臓硯の心を、一つの感情が支配していた。

 

(喰われるという、恐怖かの……)

 

 次の瞬間、黒い顎が無慈悲に閉じられた。

 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

 雁夜の目に飛び込んできた景色は、まるで世紀末かのように荒廃していた。穴だらけのビル群、瓦礫で埋もれた地面、淡い夕日でオレンジ色に染まった空。少なくとも、現代の世界にこんな場所はない。

 一際大きい建物の角から、人間の何倍はあろう図体を持つ虎の化物が現れる。我が物顔で街を闊歩し、その度に響く地響きが耳に障る。

 きっとこれは夢なのだろう。通りで現実味のない風景な訳だ。しかも、変な虎まで出てくる始末。我ながら本当に変な夢を見たものだ。

 

「ヴァジュラを捕捉、これより戦闘に移ります」

 

 初めて聴いた―――いや、何処かで聴いた声が響く。

 ビルの屋上を見ると、いた。お菓子のような武器を片手に、冷徹な目で『ヴァジュラ』と呼ばれた虎を見下ろす人物が。間違いなく、バーサーカーだ。

 バーサーカーが屋上から飛び降りる。普通の人間なら、地面に叩きつけられ肉塊となる筈だ。しかし、バーサーカーは難なく着地してみせた。板チョコをヴァジュラに突きつけ、ポツリと呟く。

 

「さて…… 殺るか」

 

 マスターとサーヴァントの間に契約・魔力供給のパスが通っていることで、互いの過去を夢で見ると聞いたことがある。つまりこれは、バーサーカーの過去なのではないか?

 だとしたら謎がまた一つ増えた。いったい何時の時代の、何処の英霊なのだろう。唯でさえ、宝具がお菓子の時点で謎だらけなのに。

 

「グゥオアアアアアアアアア!!!」

 

 咆哮が響いた。夢とは解っていても、その迫力に思わず怯む。

 しかし、バーサーカーは表情一つも変えはしない。逆にヴァジュラ目掛けて駆け出し、板チョコを振り上げ―――

 

「!!!」

 

 ―――る姿などではなく、黒く焦げ付いた天井が広がっていた。蟲蔵に放置されてたらしい。

 石のように重い体に鞭を打ち叩き起こす。脳裏を最後によぎった映像は、バーサーカーが銃弾を乱射している姿。その後はバーサーカーの銃撃に巻き込まれて覚えてないが。

 

「そうだ……! 臓硯…… いや、それよりもバーサーカーは!?」

 

 意識を集中させる。間もなく、バーサーカーは無事だと判断できた。

 バーサーカーは実体化してるが、極端に魔力を消費している訳ではない。つまり、あの宝具で臓硯だった蟲を喰らっているのだ。

 臓硯を殺した。つまりそれは、願いの半分が叶ったのと同義だ。心の中が色々な感情で満たされる。ただ、いつも抱えていた負の感情とは真逆である。

 臓硯を殺したという事実も、素直に信じることができた。あのバーサーカーだけは常識で測ってはいけない。今回のやり取りで嫌という程味あわされた。

 とりあえず、現状把握に努めるべきだ。パスを通じてバーサーカーの居場所を探るが………

 

「……………………ん?」

 

 何故か、蟲蔵ではなくキッチンの方向に反応がでた。

 嫌な予感がする。麻痺して動かなくなった左半身を引き摺り、足早にキッチンへと向かう。

 あのバーサーカーのことだ。本能の赴くままにキッチンの甘味を貪っているのだろう。宝具がお菓子なのだ。お菓子好きでない筈がない。通常、『狂化』が付属されたバーサーカーには考えられない行動だが、今回に限っては『常識が通用しない』のである。

 ほんのりと甘い匂いが鼻孔をくすぐった。いよいよ、雁夜の予想も真実味を帯びてきた。

 

「バーサーカー!!」

 

 勢いよく扉を開ける。するとそこには―――

 

「  」

 

 エプロン姿のバーサーカーがいた。いや、衝撃を受けたのはそこじゃない。それ以上に目を引く、巨大なウエディングケーキが聳(そび)え立っているのだ。周りにはゴミやらクリームやらが散乱している。

 間桐邸にあんなケーキがあるわけない。つまり、バーサーカーが調理したのだ。そう、バーサーカーなのに。

 バーサーカーでなくとも、過去に偉業を成し遂げた英霊がウエディングケーキを作るのも可笑しな話だが。そもそも、原材料は何処から取ってきたのだろう?

 これまた嫌な予感が駆け巡り、右目に手を当てる。外に偵察させていた蟲と感覚をリンクさせたのだ。近所のスーパーマーケットを中心に探らせる中、複数のパトカーと、謎の人だかりを視界に捉えた。

 気付かれないように近づき、会話を盗み聞きする。

 

『被害は?』

『はい。窓ガラスを割られ、店の品物の幾つかが盗まれました』

『それで、盗まれた品物というのは?』

『はい。卵に、牛乳に、苺と……』

 

 右目から手を離し、バーサーカーに視線を移す。皿とフォークを用意しており、心なしか満足そうな顔をしている気がした。

 ―――少し、休もう……

 一つタメ息を吐き、ゆっくりと扉を閉めた。

 




クラス:バーサーカー

真名:桐永甘斗(きりながあまと)

性別:男

慎重 体重:176cm 70kg

属性:狂化してるため無し

ステータス:筋力B、耐久C、敏捷C、魔力E、幸運E、宝具A+

特技:お菓子作り

好き:お菓子

苦手:辛いもの

天敵:お菓子




【宝具】

GEスイーツ

対神宝具

ランク:A+

レンジ:1~50

最大捕捉:100人

 神の名を冠する化物、『アラガミ』の血を吸い続けてきた桐永アマトの半身とも呼べるもの。その為に宝具扱いとなっている。
 板チョコの剣、ショートケーキの銃、キャンディーの盾を展開することができる。ついでに、一つの宝具扱いだったりする。
 更に、禍々しい化物の顎(あぎと)を持つプレデターフォルムがある。プレデターフォルムで捕食した物体の魔力はそのまま自分のものにできる。
 また、宝具の一部を咀嚼することにより体力と魔力の回復、自身の強化などが行える。




【保有スキル】

スイーツイーター ランク:B
 食料を摂取することによりサーヴァントは魔力を回復できるが、桐永甘斗は糖分を摂取した場合、通常より多く回復できる。ただし、定期的に糖分を摂取しなければパラメーターがワンランクダウンする。


パティシエ ランク:B
 狂化したこの身でも尚、お菓子の偉大さと作り方は忘れない。超絶品のお菓子を作製できる。因みに、この境地に辿り着ける者は歴史上ほんの一握りだったりする。
 お菓子をわけあう心構えも忘れない。


神性:C
 『荒神』の名を冠した化物の細胞を取り込んでるとはいえ、所詮は偽りの神。それほど高くはない。




【クラススキル】

狂化 ランク:C
 パラメーターをワンランクあげる。その代償としてゴッドイーター特有の捕食衝動が狂化され、戦闘中には捕食することしか考えられなくなる。





 臓硯の敗因は『油断』でした。まあ、宝具があんな外見じゃあ仕方がないっすかね。ついでに、ステータスも割と低めです。知名度補整が皆無なのでこの有り様です。『狂化』してるはずなのに……
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