Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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 一ヶ月を遅れて申し訳ないです。
 次の投稿も時間がかかると思いますが、出来るだけ頑張ってみたいと思います。


酒宴の最後に

 アサシンに包囲されたこの状況に、ウェイバーは酷く動揺していた。いや、ウェイバーだけでなく、マスターの面々も驚愕の表情を浮かべていた。

 アサシンは初戦で敗退した筈なのだ。それも、今目の前に居る男、アーチャーに消し飛ばされて。その一部始終を、マスターたちは使い魔を通して、確かに目にしていた。

 しかし、現実は違った。脱落したどころか、寧ろ数が増えていた。これで驚かない訳がない。

 サーヴァントを無視して一斉に襲いかかってきたら…… という最悪の想像に、ウェイバーの頬に一筋の汗が伝う。アサシンといえば「マスターの天敵」と称されている。未熟な魔術師のウェイバーが対処できる筈もない。

 しかし、彼の傍には―――

 

「怯えるでない、坊主。なに…… 酒宴に招く英雄豪傑がちょっとばかし増えただけであろう。おぅい! アサシン共よ!! この盃を手に取り、余と語り合おうという者はおらぬか!? この酒は貴様らの血と共にある!!」

 

 ライダーが酒を汲んだ柄杓を高々と掲げる。この期に及んでも、アサシンすら酒宴に誘うつもりらしい。いつもと変わらぬその姿が、ウェイバーにとっては頼もしく見えた。

 しかし、アサシンの返答は手厳しいものだった。

 何処からか投擲された短剣が、酒の入った柄杓の先を吹き飛ばした。地面に酒がぶち撒けられ、ライダーの右肩にも紅く染み渡る。

 小さな、然れど心底の侮蔑が籠った笑い声が辺りに響いた。

 アサシンの答えはNOだ。それは、火を見るよりも明らかだった。

 ライダーは俯いたまま、憮然と立ち上がる。

 

「聞き間違えたとは言わせんぞ。余は、この酒は貴様らの血と共にあると言った筈だ。どうやら、己の血肉を地べたにぶち撒けたいらしいな」

 

 一段と低い声色でアサシンへと告げる。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。その表情は明らかな怒りを顕にしている。普段、行動を共にしているウェイバーさえも初めて目にした。

 宴への招きを無下に断ったアサシンたちは、征服王の琴線に触れてしまったのだ。

 突風が放たれる。その先には、燃えたぎる血のように紅い外套を身に付けた、征服王の大きな背中があった。

 

「これが宴の最後のとりだ。セイバー、アーチャー! 貴様らに問おう! 王とは、孤高であるや否や!?」

「決まっている。王とは、孤高であるしかない……!」

「ハッ! 笑わせるな。この我と肩を並べる者など、後にも先にも唯一人しかおらん」

 

 その返答に対し、ライダーは首を横に振る。

 

「駄目だな。全くなっとらん。今から見せ付けるは、余が誇る真の王道だ。聢とその目に焼き付けておけ! ついでにバーサーカーもな」

「ついでっ!?」

 

 球状に放たれた光が次第に大きくなる。そして、周りに居る全ての者を飲み込んでしまった。

 ウェイバーは目を開ける。そこには、遮る物など一つもない、見渡す限り一面の砂漠と蒼穹の空が広がっていた。

 この光景の前では、前方に並ぶ90体弱ものアサシンが少なく見える。

 

「そんな…… これは、固有結界!?」

 

 ふと、砂漠の砂を踏みしめた音が響く。

 振り返ると、地平線の彼方から無数の兵士が行進していた。身の丈の倍はあろう長槍に、屈強な鎧を身に纏っている。

 未熟な兵士など誰一人としていない。武芸に疎いウェイバーでも、それだけは理解できた。

 

「久しいな、相棒」

 

 馬鹿でかい図体をした黒い毛並みの馬がライダーへと駆け付ける。

 その馬の名はブケファロス。その昔、ライダーにしか乗りこなせない暴れ馬である。

 ライダーは大きな手でそっとブケファロスを撫で、軽やかに跳んでその背に股がる。

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の

勇者たち。時空を越えて我が召喚に応じる永

遠の朋友たち。彼らの絆こそ我が至宝!! 我が王道!! イスカンダルたる余が誇る最強宝

具『王の軍勢(アイオニオンヘタイロイ)』なり!!」

 

 固有結界。己の内に存在する心情風景で世界を塗り潰す、魔術の極致とも言える技。

 其れ程にまで高度な魔術を、魔術師でもないライダーが展開できない。では、目の前に広がるこの世界は何なのだろうか?

 答えは簡単。何万もの軍勢が、この風景を心に焼き付けているからだ。一人一人の魔力がこの世界を創っているからだ。

 

「王とはッ!! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉! すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に! 王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の

志の総算たるが故に!」

『然り! 然り! 然り!』

 

 ライダーの臣下たちが唱和の声を返す。

 

「さあ、アサシン共よ。見ての通り、この戦場は我らが具象化した平野。生憎、地と数の利は此方にある!」

 

 狼狽えるアサシン。逃げ出すアサシン。勝利を諦め、立ち竦むアサシン。

 誰の目から見ても、勝負はもう決まっていた。

 ライダーは剣を掲げ、大きく息を吸い込んだ。

 

「蹂躙せよ!!!!」

 

 その言葉と共に、数万もの軍勢が波のようにアサシンへと攻め込む。

 その先頭を切るのはライダーである。

 ブケファロスの脚は最速を誇る。故に、敵陣へと一番に攻め込むのはライダーである。

 茫然と立ち尽くす女アサシンへと迫り、一刀のもとにその首を斬り捨てる。

 直後、無数の兵士が雪崩のようにアサシンへと迫った。ある者は槍を投擲し、ある者はその剣で切り払い、確実にアサシンを屠っていく。

 程なくして、アサシンの姿は無くなった。勝利を確信したライダーは、天高く剣を掲げた。

 

「うぉぉぉおおおぉおお!!!!!」

『うおおぉおおぉぉぉおおぉ!!!!!』

 

 ライダーの雄叫びを皮切りに、臣下たちも追従して叫び出す。天さえも衝くように思えた咆哮が、広々とした砂漠に何処までも響き渡った。

 

 

 

 

 第4次聖杯戦争にて、アサシン『ハサン・サッバーハ』脱落。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

「幕切れは興醒めだったな」

 

 ライダーは不満げに呟く。すると、固有結界が解除された。

 灼熱の太陽が煌めく砂漠とはうって変わり、蒼月が夜空に輝く純白の薔薇が咲き誇る庭園へと景色が戻った。

 ライダーの『王の軍勢』を目の当たりにしたマスターの面々は、規格外としか評せないその宝具に茫然としていた。

 しかし、世界に認められて英霊の地位まで押し上がった三人には気圧された様子など微塵もない。如何にイスカンダルの軍勢と謂えど、聖杯を勝ち取るという信念を揺るがすことはできなかったようだ。

 

「成る程な。この余興、やはり暇を潰す程度には楽しめそうだ」

 

 アーチャーの赤い双眸がセイバーへと向けられる。

 

「時に、騎士王とやら。人の身に余る王道を背負いこんだその葛藤と苦悩。慰みものとしては中々に上等だ。もしかすると貴様は、我が寵愛を受けるに値するかもしれんぞ」

 

 それだけ言い残すと、アーチャーは黄金の粒子と共に消えていった。

 

「さて……… お互い、言いたいことは言い切ったよな」

 

 そう言ってライダーも立ち上がる。その言葉は酒宴の幕切れを意味していた。

 背を向けて歩き出し、暫くすると立ち止まった。そして、腰に掛けてある一振りの剣をスラリと引き抜いた。

 

「セイバーよ。余は、貴様が言う王としての在り方を認めぬ。貴様が言うそれは、いわば呪いの類いだ。その痛ましい夢から覚めねば、いずれ英雄として最低限の誇りを失う羽目になるぞ」

「ッ!? 私は……!」

 

 セイバーの反論は雷撃の音に掻き消される。空間の裂け目から『神威の車輪』が呼び出された。

 三人は慌てて立ち上がり、ライダーの『神威の車輪』に乗り込もうとする。

 しかし、バーサーカーは突然立ち止まった。

 セイバーたちの方へ向かい合い、コートの中を右手で探る。何かを取り出したかと思うと、それを山なりに放った。

 片手でそれを掴み、改めて確認する。

 ピンク色のラベルに、極甘ジュースというロゴが書かれたペットボトルだった。ついでに、中身の液体も濃いピンク色だ。

 

「折角だ。受け取ってくれ」

「これは……?」

「俺が作ったジュースだ。やるよ」

 

 彼の作ったお菓子の前では、イギリスのどんな料理も劣ってしまう。一欠片のクッキーを口にしただけで、そんな感想が頭に浮かんだ。

 だからきっと、このジュースも至高の逸品であるのだろう。無意識の内に、セイバーの表情は幸せそうに綻んでいた。

 一方のバーサーカーは、訴えるかのように切実な表情でセイバーを見詰めていた。

 その目には深い深い影が宿っていた。己の無力さを呪った、弱い弱い人間の目だ。彼もまた、底辺から這い上がり、英霊まで昇り詰めた人間なのだろう。最初から強者であった人間がこんな目をする筈もない。

 尋常でないバーサーカーの様子に、セイバーも自然と気が引き締まる。

 

「あんたの王としての在り方、俺は好きだよ。だから、自分が間違っているなんて思わないでくれ。民の為に尽くす王が間違いだなんて、そんなの哀し過ぎるだろ?」

 

 バーサーカーの一言一言が胸に響く。その言葉はまるで、全ての弱者の思いを代弁してるようにさえ感じた。

 セイバーには知る由もないが、バーサーカーこと桐永甘斗は王でも貴族でもない。闘う力が在っただけの、紛れもない一介の民である。それ故に、その言葉には確かな重みがあったのだ。

 十分だった。それだけで、自分の王道は正しいのだと自信を持てた。

 

「………私は貴方を誤解していた。礼を言うぞ、バーサーカー」

 

 バーサーカーは踵を返し、ライダーの牛車へと向かう。地面を蹴り、御者台へと乗り込んだ。

 

「もういいかの?」

 

 手綱を握るライダーが問い掛けた。バーサーカーは一つ頷き、神妙な面持ちで告げた。

 

「ああ、待たせて悪かった。もう出してくれていいぞ、全速力で」

「「え?」」

 

 間の抜けた声をあげるマスターの二人。

 安全装置がない絶叫マシンの恐怖、再び。

 二人の脳内には、その言葉だけがグルグルと駆け回っていた。

 

「ほお、貴様も風を切る心地好さが分かってきたか! 是非もない。しっかりと掴まっていろ!」

 

 満面の笑みを浮かべるライダー。

 手綱を力強くしならせる。そして、二頭の雄牛が天高く前足を上げた。

 それに合わせ、御者台にいる三人も手頃な取手や縁に掴まる。その姿は、酷く哀愁が漂っているように感じた。

 

「ではのう、セイバー」

「「「ああぁあぁああぁぁ………!!!」」」

 

 雷鳴が響き、猛スピードでライダーの戦車が空中へと駆け抜けて行った。ひしゃげた絶叫が響き、遠ざかっていく。

 セイバーはそれを、哀しいそうな、それでいて誇らしげな心境で見送った。

 

「思い出しました。アーサー王は人の気持ちが分からないと言い残して、キャメロットを去った騎士が居たことを。確かに、私の王としての在り方は何処かで誤ったかもしれない。それでも、理想とした王道は間違っていないと、今日の酒宴では確信を持てました」

「セイバー……」

 

 アーサー王は人の気持ちが分からない。

 今思うに、それは円卓の騎士の総意だったのかもしれない。

 ならば、次こそは。

 彼らの気持ちを理解できるような王を、彼らの気持ちを汲み取れるような王を目指そうと、心に固く決めたセイバーであった。

 

「ところでアイリスフィール、これはどのようにして開けるのでしょうか?」

 

 目を輝かせながらアイリスフィールに尋ねるセイバー。どうやら、ペットボトルを開ける知識までは聖杯から貰っていないらしい。

 それに対し、アイリスフィールも首をひねる。

 

「うーん…… 先っぽを剣で斬るとか?」

「あ、成る程」

 

 手持ちのエクスカリバーでペットボトルの先っぽを切り落とす。

 そして、口をつけてペットボトルを傾けた。傾けてしまった。

 ピンク色の液体がセイバーの口へと侵入する。

 

「―――ッ!!!???」

 

 それは、ジュースと言うには甘すぎた。それは、飲料水というには殺傷性が有りすぎた。

 甘い。その感覚だけが、舌先を蹂躙する。舌先の神経を破壊している。いっそ、このまま吹き出してしまえば、どれだけ楽なのだろうか?

 しかし、彼女の騎士道精神はそれを許さない。敵の攻撃で膝を付くのならまだしも、ただのジュースで膝を付くなんてもっての他だ。

 セイバーは耐えた。地獄のような甘さを耐え続けた。

 これは兵器だ。最早、兵器と言っても差し支えがない。

 このような害悪を、アイリスフィールに近づける訳にはいかない。セイバーの騎士道精神は、再び彼女に苦難を課した。

 

 ―――飲み干せ。このジュースを、飲み干せ。

 

 無意識に近い状態で、セイバーはペットボトルを更に急に傾けた。

 ピンク色の液体がセイバーの胃の中へと消えて行く。その時間は十秒にも満たないだろう。しかし、不思議なことに、セイバーにとっては何十時間にも感じた。

 

「セイバー…… セイバー?」

 

 不意に、ペットボトルが乾いた音をたてて地面に落ちた。佇んだまま、セイバーはピクリとも動かなくなった。

 不審に思ったアイリスフィールが、何度もセイバーに呼び掛けるも、応答する気配はない。

 

「………嘘……! 立ったまま…… 気絶している……」

 

 白眼を剥いたまま気絶していた。その姿は、まごうことなき騎士の姿だった。いや、どちらかというと、我が生涯に一片の悔いも無い拳王の方かもしれない。

 紛うことなき騎士の姿に、アイリスフィールは感動した。同時に、最優のサーヴァント『セイバー』すら気絶させる悪魔のジュースに戦慄した。

 

「…………はっ! わ、私は何をして…… そうだ。確か、バーサーカーから貰ったあのジュースを……… あの、ジュースを?」

 

 正気を取り戻したセイバー。ジュースを飲んだ前後の記憶が無いらしい。しかし、徐々に記憶が甦っているようだ。

 途端に、この世の全てに絶望したかのような目で、ライダーの戦車が駆け抜けて行った方向にフラフラと歩き出す。

 そして、高々と剣を掲げて叫んだ。

 

「エクス―――」

「待ってセイバー!! バーサーカーはもういないわ!」

「止めないでください! 今なら、今なら生涯最高のエクスカリバーを………!! 騎士の名の元に、奴の腐った性根を叩き斬らなければ!!」

 

 必死に止めるアイリスフィール。

 それもその筈。倒すべき敵は空の彼方へと消えてしまったのだから。このまま撃てばただの無駄撃ち。魔力の消費し損である。

 しかし、セイバーは冷静ではなかった。顔を真っ赤にしながら光輝く聖剣を振り下ろそうとしている。

 

「おのれぇぇぇ! バァァァサァァァァカァァァァ!!!」

 

 アインツベルンの夜の森では、セイバーの叫び声が虚しく響き渡ったという。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 聖堂教会の地下室には聖杯戦争に脱落した言峰綺礼の姿があった。

 アサシンを差し向けたのは他でもない、遠坂時臣と言峰綺礼である。

 魔術の師である『遠坂時臣』の指示により、マスターである言峰綺礼が『マスターを無視してサーヴァントに強襲せよ』と、令呪で命令したのだ。

 ライダーことイスカンダルは、この聖杯戦争でアーチャーに対抗し得るサーヴァントだ。アサシンを捨て駒にしてまでも、ライダーが有する宝具の実態を掴む必要があった。

 結論としては、まさしく言葉通りの意味だった。ライダーの有する宝具『王の軍勢』は、あまりにも危険すぎる。

 しかし、固有結界を展開する規模の魔力を使わせたのは幸いだ。

 時臣の目からすれば、ウェイバーの魔術師としての実力は半人前も良い所らしい。たった一度でも『王の軍勢』を展開させたのは、思わぬ収穫だろう。

 

「…………」

 

 右手に二度宿った令呪を見つめながら、言峰綺礼は思考の海へと沈んだ。

 サーヴァントが倒されればそのマスターの令呪は聖杯へと返却される。しかし、御三家のマスターを優先的に、令呪が再分配される場合があるのだ。これが、マスターを殺す主な理由である。

 時臣の命令によりアサシンを使い潰した。そこに思うことは微塵もない。元来、聖杯に懸ける願望など無かったのだ。あるのは、自分という人間の本質を識りたいという願望だけだ。

 

 ―――痛みと嘆きを悦とすることに、なんの矛盾があるというのだ。

 

 ギルガメッシュの言葉が頭から離れない。否定しようにも、心の何処かで肯定してしてしまう自分がいる。

 事実、お菓子の食べ過ぎで死んだバーサーカーを哀れみはしたが、嘲いが止まらなかった。時臣が唖然としていたのを覚えている。

 極めつけは、ギルガメッシュの指摘によるものだった。無意識の内に、間桐雁夜の内情までもアサシンに探らせていたのだ。ギルガメッシュはこれを『無意味さの忘却。苦にならぬ徒労』と称していた。

 あと少し。あと少しで、答えを見出だせる。自分と同じ破綻した人間でありながら、答えに辿り着いた『衛宮切嗣』と邂逅さえすれば。

 それにはまず、舞台を造り上げる必要がある。誰にも邪魔をされない、二人きりの舞台を造り上げる必要が。

 それならば、先ずは―――

 

(……あの二人、だな)

 

 とある二人が、格好の駒として真っ先に思い浮かんだ。

 事と次第によっては自分の魂の形を教えてくれるかもしれないもう一人の男と、そのマスターである男が。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 冬木の街を『神威の車輪』が駆ける。

 大分慣れたのか、最初は絶叫していた三人も落ち着いた顔で夜の景色を眺めていた。

 辺り一面に輝く色とりどりの光を見て、中々の絶景だと素直に感心した。

 ふと、バーサーカーが顔を上げる。

 

「ライダー、ここでいいぞ」

「ム、そうか」

 

 段々と『神威の車輪』の高度が下がっていく。

 最終的にアスファルトへと着地し、二頭の牡牛の脚も止まった。

 バーサーカーと雁夜は御者台から降りる。

 なにも、間桐邸まで送ってもらうことはない。仮にも、今は聖杯戦争の真っ最中なのだ。本拠地を晒すような真似はできるだけ避けたい。

 

「バーサーカーよ。貴様の菓子、中々に絶品であったぞ」

 

 ライダーが手綱を引こうとする。

 その瞬間、バーサーカーが制止の声をかけた。

 

「餞別だ。受け取ってくれ」

 

 バーサーカーが懐から二つの何かを取り出して放り投げる。それらは、ライダーの大きな手にすっぽりと収まった。

 改めて確認すると、ピンク色のラベルが張っている悪魔の飲料水『極甘ジュース』だった。

 

「まあ、何と言うか…… 親交の証ってやつだ」

「成る程なあ。有り難く頂戴するぞ! ところで、バーサーカーよ。貴様、我が軍門に降る気はないかの?」

「聖杯を譲ってくれるんなら喜んで」

「それは出来ん相談だな」

「だろうな」

「では、また会うとしよう! スイーツイーターよ!!」

 

 ライダーが手綱を引いた。

 雷鳴を轟かせながらライダーたちは冬木の空へと消えていった。

 ポカンとした表情でそれを見送る雁夜とバーサーカー。それもその筈、ライダーが真名を呼んで去って行ったのだから。

 

「おい! 真名がバレてるぞ!!」

「やっちまった……。やっぱし、ヒントが有り過ぎたよな……」

 

 顔に手を当てて落ち込むバーサーカー。

 英霊の座には時間の概念がない。つまり、未来の英霊だろうが何だろうが、聖杯から知識を貰っているのである。

 

「それにお前、鬼畜激マズ下手物ジュースを渡すなんて何のつもりだ? そういや、セイバーにも渡していたな」

「気に入った奴には渡すようにしてんだよ。信者を増やすために。アーチャーにも渡そうと思ったけど、キレたらヤバいから無理だったが」

「あっそ……」

 

 心の中で、ライダーたちの冥福を祈る雁夜であった。

 

 

 

 




 極甘ジュースの被害者は増える一方……
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