Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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 シリアスです。バリバリのシリアスです。


狂戦士 vs 槍兵

 

 ソファーに座りながらお菓子をつまみ、雁夜と色々な話をする。ここ最近、桜にはそれが日課となっていた。

 雁夜の本業はルポライターなだけあって、話題の種が尽きなかった。今まで直接触れあってきた世界について、様々な話をしてくれた。

 時折、キッチンから出て来たお菓子のお兄さん…… もとい、バーサーカーが山盛りのお菓子の皿を運んで来る。三分の二程はバーサーカーの胃の中に消えてしまうのだが。

 それでも、元々の量が膨大なのと、一つ一つのお菓子が絶品なので、不満に感じたことなど一度もない。

 お菓子を手に取りながら、誰かと他愛のない談笑をするという小さな幸せ。この地獄のようだった家で、桜はそれを味わっていた。少なくとも桜にとっては、何度も何度も夢に見て、やがて色褪せてしまった幸せだった。

 しかし、夜が来ると独りになってしまう。雁夜とバーサーカーは「心配は要らない」と笑いかけて、夜の冬木へと消えて行ってしまう。

 漠然とだが、幼心に理解できた。命を懸けるような危険を、二人とも冒しているのだと。

 自分に出来ることは、ただ二人を待つだけ。眠りに墜ちるまで、二人が無事に帰ってくるのをずっと祈っていた。

 目を覚ますと、食欲を刺激するような甘い香りが漂ってくる。その香りを辿ってキッチンに行くと、雁夜とバーサーカーが一緒にお菓子を作っている。

 無事に帰ってきた二人の姿に安堵する。ずっとこの日常が続けばいいと、心の底から願った。

 

 ―――しかし、その小さな幸せも終わりを告げる。

 

 間桐邸の玄関ごと吹き飛ぶ。

 散らばった残骸は、まるで鋭い刃物で切り裂かれたように小間切れとなっていた。

 

「フン…… 随分と薄汚い場所だな」

 

 薄暗い邸の中へと足を進め、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは忌々しそうに呟く。

 その足元には、銀色に煌めく物体がケイネスに付き従うように流動していた。

 時計台きっての天才、ロードエルメロイ二世が造り上げた最高傑作の礼装『月霊髄液(ヴォー ルメン・ハイドラグラム)』である。

 魔力を充填した水銀であり、ケイネスの思いのままに操ることができる。命令によって自在に形態を変化させ、攻撃・防御・索敵を行える優れものである。単純な攻撃力ならば、今回の聖杯戦争に参加しているマスターの中でもトップレベルだ。

 

「姿を現せ、間桐の魔術師よ。今宵、このケイネス・エルメロイ・アーチボルトが直々に決闘を申し込む。いざ尋常に、立ち会うがよい」

 

 辺りを見渡すが、何かが動く気配はない。ケイネスの声が虚しく響き渡るだけである。

 変化の無さに苛立ちながらも、ケイネスは『月霊髄液』に索敵の命令を下す。

 『月霊髄液』から飛び出した幾つもの流滴が枝分かれして、床に、壁に、天井に張り付く。そして、邸の中を駆け抜けていった。

 

「……二人、か」

 

 高度な触覚を有している『月霊髄液』は、音や温度の変化を認識できる。逆に言えば、その二つでしか認識できないので、直接この目で確かめる必要がある。

 二つの反応の内、ここから一番近い方へと向かうケイネス。元の形態へと瞬時に戻った『月霊髄液』も、彼を追従して動き出す。

 反応があった場所は邸の二階だった。

 足音を響かせながら、一段ずつ階段を上がっていく。

 対象との距離が縮まっていく。緊張・恐怖など微塵も感じないが、多少の気は引き締める。

 そして、とうとう暗がりの中に人影を捉えた。

 

「――――ぁ……」

 

 今にも消えてしまいそうな、か細い声が聞こえたような気がした。

 そう。ケイネスが目にしたのは、地面にへたり込んでいる一人の少女だった。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 意識が朦朧とするまで酔いが回っていた鶴野であったが、魔術師の襲来でその酔いも一気に醒めてしまった。

 敵の魔術師との間にはどうしようもない程の力の差が広がっていた。逆立ちしようが、アレに勝つなど不可能だ。

 恐らく、聖杯戦争に参加しているマスターであろう。この絶望的な状況も、サーヴァントが居るのなら尚更だ。

 頭に浮かんだのは『逃げ』の一手だった。桜の存在など頭の中から抜け落ちていた。自分の安全を確保することだけしか考えられなかった。

 簡単には探知できないような、感覚をリンクした極小の蟲たちを邸へと放つ。

 出口までの道のりに敵はいない。

 できるだけ音を立てずに部屋の外へと出る。そして、息を殺して出口へと目指した。

 一先ず、逃げ切れる。そう安堵した次の瞬間、聞こえてしまった。

 

「―――たすけて」

 

 鶴野の動きが固まった。

 使い魔の蟲が拾ったその声は、これまで散々苦しめてきた少女『間桐桜』のものだった。

 視界をリンクしてみると、間桐桜と敵の魔術師の姿があった。

 

 ―――関係ない! はやく逃げろ!!

 

 そんな気持ちとは裏腹に、時が止まったかのように体が動かない。

 彼を引き留めているのは、間桐桜に対する罪悪感だった。

 桜にしてきたこれまでの仕打ちを思い返す。そして、その罪悪感で押し潰れそうになる。誰が好んで、年端もいかない少女を拷問するというのか。

 だからと言って、この状況で自分が何かできる訳もない。敵の魔術師とは格が違う。どう足掻いても勝てる筈がない。歯向かったところで、直ぐに殺されるのが関の山だ。

 逃げろ、逃げろと。動かないこの足に何度も何度も命じた。

 ふと、息子の顔が浮かんだ。

 海外に留学させて聖杯戦争から遠ざけた、たった一人の息子が。

 息子に会わせる顔があるのかと言われれば、それは少し違う。とうに、会わせるだけの顔は持ち合わせていない。

 それでも、だ。

 臓硯がいた昔とは違う。今の自分には選ぶ自由があるのだ。桜が助かる僅かな可能性に懸けるか、確実に自分だけが助かる道をとるか。

 

「………ッ!!」

 

 気付けば、走り出していた。

 出口ではなく、桜のもとへと。

 助けられるかどうか、ではない。やらなければいけない。たとえ、自分の命を僅かな可能性に懸けようとも。

 引き返せと喚く心を殺す。無我夢中で階段を駆け上がり、息を切らして走り続ける。

 そして、二つの人影を目にした。救うべき少女と、太刀打ちなんてしようのない敵を。

 思わず立ち止まる。今なら引き返せると、この期に及んで頭の中に声が響いた。

 

「うわああぁあぁぁあ!!!!」

 

 それを掻き消すように、鶴野は叫んだ。

 敵の魔術師が見下したような目を向ける。そして、礼装であろう巨大な水銀が動き出した。

 使役できる限界の量の翅刃虫を突撃させる。

 しかし、それを嘲笑うかのように、瞬く間に切り刻まれた。

 礼装ではない。ランサーの朱槍によってだ。

 これ以上にない最悪な状況。それでも、逃げることなく、鶴野は翅刃虫を差し向けた。

 

「手を出すな、ランサー。これは私の闘いだ」

「……分かりました」

 

 ランサーが霊体化して消えていく。

 水銀が幾多もの刃のように変形し、翅刃虫を次々と斬り殺していく。

 焼け石に水。最早、無駄な足掻きだった。

 

「逃げろ! 頼む、逃げてくれ!!」

 

 声の限りに叫ぶ。

 しかし、恐怖で固まってしまったのか、間桐桜は動かなかった。

 僅かな可能性を懸けて、せめて逃げる時間を稼ぐ為に闘ったというのに。

 

「――――ハハッ」

 

 嘲笑が込み上がる。こんな事なら、逃げ出した方がまだマシだった。

 後悔なのか、無力感なのか。よく分からないそんな気持ちに、心は押し潰された。

 翅刃虫の展開を止める。このまま殺されようが、どうでもよくなってしまった。

 一方、敵の魔術師は一切の表情を変えず、右腕を振り上げている。

 最後の瞬間は、確実に近づいていた。

 

「Scalp(斬)」

 

 右腕が降り下ろされた。

 次の瞬間、水銀の刃が迫った。この攻撃は、どう考えても致命傷に至るだろう。

 走馬灯、なのか。これまでの人生が鮮やかに甦った。

 思うに、下らない人生だった。

 望まぬままに当主の座に据えられて、臓硯の手駒と成り下がった、本当に下らない人生だった。

 間もなく、刃が心臓に突き刺さるだろう。しかし、自分でも驚く程、穏やかな気持ちで水銀の刃を受け入れた。

 

 ―――ザシュ………

 

 心臓に、銀の刃が突き刺さる。

 痛みはなかった。代わりに、不思議な脱力感に襲われた。銀の刃が引き抜かれる。そして、夥しい量の血が噴き出した。

 無意識に、間桐桜の姿を目で追った。

 きっと、自分のような碌でなしに向ける表情は、氷のように冷たいのだろう……。

 そう思っていた。

 

「いや、いや! いかないで……!」

 

 桜の頬には涙が伝っていた。

 地面へと倒れる。バシャリ……と、血飛沫が飛び散った。

 意識が闇へと落ちていく。

 目を開けているのか、閉じているのか。それさえも分からなくなっていた。

 痛みが遅れてやってくる。堪えきれず、叫びそうになる程の痛み。

 その痛みの中、ハッキリと感じていた。

 ほんの少し。ほんの少しだけ、報われた人生だったと。自分なんかの為に、彼女が泣いてくれたのだから。

 そして、間桐鶴野は深い眠りについた。

 

 

 

 

 第4次聖杯戦争にて、バーサーカー陣営『間桐鶴野』脱落。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 魔術師の亡骸を見詰めるケイネス。

 バーサーカーのマスターではない。キャスターの一件で、使い魔を通して目にした姿とはあまりにも駆け離れている。

 魔術の腕は、恐らく中の下。蟲の大群には驚いたものの、所詮はそれだけだけの魔術師だ。

 そんな男が、この自分に歯向かった。

 少し魔術にかじった者でも解る筈だ。どう足掻こうとも、勝てる訳がないと。ましてや、サーヴァントまで引き連れているのだ。勝てる可能性など、那由多に1つもありはしない。

 自らの命をドブに投げ捨てるのに等しい行為。ただ、そうするだけの価値がこの少女にあったということだ。

 分からなかった。そこまでして、何故この少女を助けようとしたのかを。

 

「ケイネス殿……」

 

 ランサーが実体化して現れる。

 

「御願いします。その男の決死の覚悟に免じて、どうか…… どうか、その娘を手にかけるのは、考え直して下さりませんか?」

 

 悲痛な表情で頼み込むランサー。

 大方、騎士道精神と言うやつなのだろう。この魔術師に情が移ったらしい。

 そんなランサーに辟易する。騎士道精神など、自分には死んでも理解できないだろう。

 しかし、ケイネスは―――

 

「何を早合点している。なにも、この小娘をどうにかする気など始めから無い」

「ケイネス殿っ……!!」

 

 ランサーは感激したように呟く。

 それに反して、ケイネスの機嫌はますますと悪くなっていった。

 これではまるで、自分の使い魔に気を遣ったようではないか。言葉の通り、始めからこの少女を殺すつもりなどなかったのだ。

 いや…… いつもの自分なら、この少女を殺そうとしただろうか?

 少し考えたが、所詮は無意味な事だと思考を止めた。これは単なる気紛れだ。考える価値など微塵もない。

 

(しかし、とんだ無駄足だな)

 

 バーサーカーのマスターはいない。ならばこの娘には、決闘の場所を伝えるメッセンジャーの役割を果たしてもらおう。幸い、逃げ出す素振りは全くない。

 暗示の魔術を掛ける為、頭に手を伸ばそうとしたその時―――

 

「久しぶりだな、ランサー」

 

 聞き慣れない声が響く。

 ズシリッ……と、邸の空気が重くなった。人ならざる鋭い殺気が充満する。

 振り返れば、板チョコの刃を肩に担いだバーサーカーがいた。

 その瞳に宿しているのは怒り。烈火の如き怒りの焔が燃え上がっていた。

 バーサーカーの殺意に反応し、ランサーは『破魔の紅薔薇』を構える。これ程の怒り、いつ襲い掛かって来てもおかしくない。

 

「マスターならいないぜ。俺を置いて先に行け、だとさ。ったく、他のサーヴァントに襲われたらどうすんだ」

 

 間違った判断とは思わないけどな…… と、バーサーカーは呟いた。

 ケイネスが殺害した魔術師に、バーサーカーは目を向ける。その表情は、嘗て無い程に哀しげな表情を浮かべていた。

 守れなかった責任を感じているのだろう。

 共に肩を並べて闘ったランサーにとっては、想像に難くなかった。

 誰かを守る為。子供たちを守る為にキャスターと闘っているバーサーカーの姿が、ランサーの目には一番輝いて写っていた。

 そして、今。一人の仲間を守れなかったその姿は、最も憐れに写っている。

 

「用があるのは俺だろ? さあ、今すぐ、その子から離れろ」

 

 板チョコの切っ先を向けられる。

 冷たく、険しく、蔑んだ目が突き刺さる。おそらく、この娘を人質に取られたと誤解しているのだろう。

 しかし、実際は違う。ケイネスは決して、そんな卑劣な行為などしない。

 主の名誉を守る為、ランサーは口を開いた。

 

「聞いてくれ、バーサーカー! 我が主は人質をとるような下卑た行為をする人ではない! 無論、この娘を傷付けるような心算もない!」

 

 ランサーの弁解に、バーサーカーは一瞬だけ表情を変える。

 暫くすると刃を下ろし、短く溜め息を吐いた。

 

「信じるぞ、ランサー」

 

 床に宝具を突き刺し、両手を広げる。

 

「心配かけたな。戻って来い、桜」

 

 バーサーカーは『桜』に語り掛ける。

 桜と呼ばれた少女は走り出す。そして、バーサーカーの胸へと飛び込んだ。

 啜り泣くような声が聞こえる。

 バーサーカーは何も言わずに、その少女の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 沢山の人を救い続けたこの手は、何人の命を取り零してしまったのだろう。目の前で誰かが死ぬ度に味わってきた苦渋は、ついに最期まで慣れることはなかった。

 分かっている。全ての人間を救うなど、同じ人間である以上は不可能だと。

 それでも考えてしまう。何処かに埋まっている最善の方法を採れば、救える人間も数多くいたのではないかと。

 今回もそうだ。もう少し、あと数分でも早ければ、マスターの兄を救えたかもしれない。

 

「さて、と……」

 

 大きく息を吐く。そして、思考を切り替える。

 少なくとも今は、桜の身を守るのが先決だ。直にここは戦場になる。一刻も早く、この邸から遠ざけないといけない。

 桜を抱えながら、地面に突き刺した宝具を片手で抜き取る。

 宝具をGEケーキへと変型させる。ランサーが身構えるが、銃口の先は“隣の壁”だ。

 一切の躊躇もせずに引き金を引く。

 銃身が揺れる。轟音が響いたかと思うと、見るも無惨に壁が消し飛んでいた。

 壁穴から飛び降りる方が一番手っ取り早いと判断した上での行動だ。この状況、階段を降りるなど悠長なことは言ってられない。

 壁穴から飛び降りる。

 地面に着地すると、高度二階分の衝撃が足に走った。しかし、バーサーカーにとってはその程度の衝撃など痛くも痒くもない。それこそ、段差から飛び降りたくらいの感覚だ。

 何事もなかったかのように平然と門まで歩き、そこで桜を下ろす。

 

「逃げろ、桜。ここから真っ直ぐ行けばマスターのいる筈だ」

 

 桜は首を横に降る。その表情は今にも泣き出しそうだった。

 出来るなら事なら一緒に逃げ出したい。

 それでも、バーサーカーが傍に居れるのはここまでだ。

 敵のサーヴァントは『最速』を誇るランサーなのだ。如何にバーサーカーの脚といえど、いずれはランサーに追い付かれてしまう。最悪の場合、そのまま追撃されるかもしれない。

 無論、ランサーが望んでそんな真似をする訳はないと理解している。しかし、令呪を使われるとなると話は別だ。どれだけ抗おうと、与えられた命令を強制的に実行されてしまう。

 心を鬼にして桜を突き飛ばす。

 桜の安全。ひいては、聖杯戦争に勝ち抜く為には仕方のないことだった。

 

「逃げろって言ってんだよ!!」

 

 バーサーカーの怒声が鳴り響く。

 怯えの色を見せながら、桜は振り返らずに走り去っていった。

 桜に申し訳なく思いながら、バーサーカーは溜め息をつく。

 謝るだけでは済みそうにもない。次に会うときは山盛りのお菓子を用意しておこう。

 その為には、先ずランサーを倒さなければいけない。ここで倒されれば、お菓子を渡す事はおろか、桜に謝る事すらできはしない。

 決意を固め、バーサーカーは振り返る。

 そこには、紅き魔槍『破魔の紅薔薇』を携えたランサーがいた。

 

「もういいのか?」

「ああ。待たせたな」

 

 周りを見渡すが、ランサーのマスターの姿はなかった。

 当たり前だ。英雄の戦いに割り込む魔術師などいる訳がない。大方、何処か遠い場所から様子を伺っているのだろう。

 宝具をGEチョコに変型させる。

 ピキリッ…… と、両者の間に張り詰めた空気が産まれた。

 

「戦う前に一つだけ訊きたい。マスターの兄…… あの魔術師はどんな最期だった?」

「……人として、男として誇るべき最期だった」

「……そうか。まあ、訊きたかったのはそれだけだ」

 

 ――――パァン!!!

 

 地面が弾け飛んだ。

 ランサーとの距離を数歩で詰める。

 振るわれたGEチョコが『破魔の紅薔薇』と鍔競り合う。火花を散らしながら互いの力が拮抗し合い、二人の立つ地面が陥没する。

 

「…………ッ!」

 

 バーサーカーが背後へ跳ぶ。

 宙でGEケーキへと変型させ、大まかな標準をつけながら銃弾を撒き散らす。

 しかし、既にランサーの姿はない。空を切った銃弾は地面を抉るのみだった。

 銃弾以上のスピードで動き回るランサー。しかし、バーサーカーの目はランサーの動きを完全に捉えていた。

 体を捻り、右後方に銃口を向ける。

 色鮮やかなマズルフラッシュが煌めいた。熱を帯びた銃弾がランサー目掛けて一直線に走って行く。

 しかし、その銃弾がランサーへ届くことはなかった。流麗な槍捌きで、全ての銃弾の軌道を逸らしたのだ。行き場を無くした銃弾はランサーの背後の地面へと食い込んだ。

 

「そう簡単には獲らせてくれない、か……」

 

 このまま戦い続ければ、ズルズルと長引いてしまうのは明らか。

 マスターである雁夜の魔力。そして、バーサーカーが“喰らった”魔力を無闇に消費するのは得策ではない。

 ベストは短期決戦。しかし、それには多大なリスクが伴ってしまう。

 

 ―――いや、それは違うか。

 

 心の中で否定する。

 そもそもの話、ランサーこと『ディルムッド・オディナ』はリスクを背負わずして勝てるような相手ではない。

 多少の無茶をしなければ、地面に倒れているのは自分かもしれないのだ。

 覚悟を決める。

 宝具を近接形態『GEチョコ』に変型させ、峰の部分をむしり取る。そして、それを宙高く放り投げた。

 ランサーは動かない。いや、動けない。

 迂闊に手を出し、初戦で『必滅の黄薔薇』を失ったのが堪えているのだろう。

 しかし、今に限っては好都合だった。

 上空に切っ先を向ける。そして、禍々しい顎を今か今かと開く化物が顕れた。宙高く投げられたGEチョコの欠片が、クルクルと回転しながら漆黒の口腔へ吸い込まれていく。

 ガチリッ……! と、顎が閉じられた。

 

「食い尽くせ、GEスイーツ」

 

 生涯共に駆け抜けた相棒の名を口にする。

 途端に、膨大な魔力がバーサーカーの躯に渦巻いた。深い眠りから目醒めたかのように、一つ一つの細胞に力が滾る。

 真名解放。多くの宝具は真名を詠唱する『真名解放』によりその能力を発揮し、伝説における力を再現する切り札のようなものだ。

 お菓子の宝具『GEスイーツ』は、分類されるとしたら常時解放型の宝具だ。詠唱を行わずとも、常に100%の性能を発揮する。

 そう。たった一つの例外を除いて。

 強制的な神機解放。桐永甘斗ただ一人に赦された業。一定時間内ではあるが、腕力・敏捷・耐久を一段階跳ね上げる荒業である。

 この世界では、オラクル細胞に酷似した物体『GEスイーツ』を喰らう事だけが唯一の手段なのだ。同時に、伝説(生前)を限りなく本物に再現する為に真名の解放も必要となる。

 

「やはりな。貴様がスイーツイーターか……!」

 

 納得したような口振りだ。

 それもそうか、と納得する。これまで散々ヒントを出してきたのだから。しかも、宝具の真名解放までしたのなら尚更だ。

 己の真名まで辿り着かれるのは必然。しかし、気にする必要は微塵もない。

 なぜなら―――

 

「その通り。そして、ここからがスイーツイーターの神髄だ」

 

 ここで、ランサーは倒されるのだから。

 瞬く間に距離を詰める。それも、これまでとは段違いの速さで。

 ランサーは驚きの色を浮かべる。

 それもその筈。この動き、少なくともランサーと同等かそれ以上の速度だ。

 ランサーの敏捷はA+という破格のランク。狂戦士は、その境地まで優に辿り着いたのだ。

 

「吹き飛べ!!!」

 

 GEチョコが横っ腹に振るわれた。ランサーは『破魔の紅薔薇』の柄で受け止める。

 そして、直ぐに違和感に気づいた。

 両腕が痺れる。重い、重すぎる。誰よりも、セイバーよりも重い斬撃。

 地面に踏ん張りきれず、ランサーはそのまま吹き飛ばされる。すかさず体勢を立て直そうとするが……

 

「ッ!!??」

 

 それよりも速く、バーサーカーが肉薄した。

 その瞬間、体に衝撃が走る。バーサーカーの右足が蹴り込まれたのだ。

 もう一度、ランサーは抗う術なく吹き飛ばされたしまった。

 地面に転がりながらも、辛うじて立ち上がる。

 桁違いのスピードとパワー。それでも『破魔の紅薔薇』を構える。

 劣勢ではあるが、なにも敗北が決まった訳ではない。諦めるにはまだ早すぎる。それに、途中で勝負を投げ出すなどもっての他。今、命を削って死闘を演じている狂戦士に失礼だ。

 その姿を見て何を思ったのか、バーサーカーは毅然とした表情でGEチョコを構えながらこう告げた。

 

「来いよ、ランサー。お前はここでぶっ潰す」

 

 

 





 ―――あれ? これ、鶴野を美化しすぎっつーか、蟲の性能半端なくね?

 そんな疑問は throw away!!
 鶴野さん退場です。まあ、正直言って生かす意味もあまり無いなと思いましたし。ケイネス先生にサクッと殺ってもらいました。
 そして、ここから物語は動き始めます。
 それはもう、前半の鈍亀展開とはうって変わって、おはよウサギの如くポポポポーンと進展する予定”だった“んですよ。
 駄菓子菓子、受験が終わるまで投稿っつーか執筆は自粛しようと思います。多分、来年の2月くらいまで。
 ほんと、申し訳ないです。
 合格を報告できるよう頑張ります。

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