Fate/Sweet Zero   作:フロンサワー

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 バーサーカーVSアーチャーの戦闘シーン…… 実は、スイーツイーターに載せてたFate/Sweet Zeroは抜粋だったんです。
 一度読んでしまっている方、誠に申し訳ございません。
 次で期待に応えられるよう頑張ります。


それをバーサーカーと呼ぶにはあまりにも

 間桐桜の人生は幼少ながらにして凄惨なものだった。間桐家の養子に出され、家族と離れ離れになったと思ったら、待っていたのは蟲漬けの毎日である。

 いつ頃からか、心にポッカリと穴が空いてしまった。きっとそれは、嬉しいとか、楽しいとか、怖いとか、寂しいとか、そういう感情だったのだろう。

 いつもと同じように、臓硯の影に怯えながら暮らす毎日が待っている筈だった(・・・・)。

 

「お兄さん…… 誰?」

 

 甘い匂いを辿ると、キッチンに見知らぬ人間が立っていた。家の中なのに黒いコートを羽織り、獣のような鋭い目つきをしている。

 こんな家で何をしているのだろうか?

 殺してくれるというなら、それはそれで構わない。彼女にとってはどうでもいいことだ。

 そう、その手に持つ巨大なホールケーキ以外は。

 淀んでいた瞳に僅かな光が灯る。バーサーカーが辿り着いたお菓子作りの境地は、喩え心に傷を負った少女でも、関心を引くのは容易かった。

 ―――食べたい。

 そんな感情を込めてケーキを見つめる。

 ケーキが浴びてる視線に気づいたのか、バーサーカーは馴れた包丁捌きで1/6にケーキを切り分ける。皿にケーキを乗せ、無言で差し出す。

 狂化したサーヴァントなら有り得ない行為。しかし、バーサーカーのスキル『パティシエ』の恩恵によるものだ。

 その身に染み付いたお菓子作りの技能と、お菓子の偉大さを尊敬する心は、喩え狂化されても失わない。まさしく、お菓子作りの最高峰に位置する者の鑑である。

 

「……」

「くれるの?」

 

 コクリと頷くバーサーカー。

 差し出された皿を受け取り、一緒に供えられたフォークを使い口に運ぶ。

 

「美味しい……!」

 

 口の中でまろやかに広がる甘味。時折、顔を覗かせるイチゴの甘酸っぱさ。思わず感嘆を漏らす美味しさだった。

 あまりの美味しいに、頬に一筋の涙が伝う。この家に来て、初めて幸せな時間を味わうことができた気がした。

 早速、二口目を味わおうとした時……

 

「っ!! 桜ちゃん!?」

「雁夜おじさん?」

 

 フォークを止めて振り返る。そこには、酷く狼狽した様子の雁夜がいた。

 左足を引き摺りながらも足早に近づいてくる。

 きっと、泣いてる姿を見て心配したのだろう。左袖で涙を拭い、無理矢理に笑顔を見せる。

 

「まさか…… バーサーカーが桜ちゃんに酷い事をしたのかい!?」

「ううん、お菓子をくれただけだよ」

「…………ああ、成る程」

 

 雁夜は何処か納得した様子を見せる。

 

「その顔…… どうしたの?」

「……うん、ちょっと魔術の修行でね。俺は桜ちゃん程強くはないからこうなっちゃったんだ」

「修行のことだけどね、お爺様が暫くは蟲蔵に入らなくていいって言ってくれたの。だから、雁夜おじさんも―――」

 

 ―――きっと、良くなるよ。

 そう続けようとした瞬間、雁夜にそっと抱きしめられていた。

 

「もう…… いいんだよ、桜ちゃん。蟲蔵に行く必要なんて、もうないんだ……!」

「でも、お爺様が……」

「臓硯ならもういない。だから、君は自由なんだ。約束する。俺が絶対に葵さんの元へ返してあげるからね……」

 

 腕の中で、桜が小さく啜り泣く声が聞こえた。

 雁夜は誓った。自分自身に誓った。

 本当は誰よりも辛い筈なのに、自分のような男を心配してくれる。こんな優しい子に、これ以上

辛い思いをさせる訳にはいかないと。

 どんなに惨めな最期を迎えたとしても、この子の為ならば本望だ。どれだけ手を汚そうと、この子を護りきらないといけない。

 

「じゃあ、俺は少し用事があるから」

「おじさん。あそこのケーキ、食べててもいい?」

「ああ、勿論だよ」

「!!??」

「行くぞ、バーサーカー」

「  」ブンブンブン!!!

 

 桜にとっては棚からぼた餅だ。しかし、バーサーカーからしてみれば堪ったものではない。首を横に振りながら必死に拒否する。

 しかし、雁夜の優先順位は断トツで桜だ。バーサーカーの要求を呑む筈もない。有無も言わせず(言えるはずもないが)霊体化され、あっさりと雁夜に連行されていった。

 霊体化する直前、理性が無いのに射抜かんばかりの怒りに溢れた目だったそうだ。

 

 

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 

 間桐邸の奥深く…… と言っても、蟲蔵ではない。蟲蔵ではないにしろ、積極的に踏み入れようとする場所でもないが。まさか、自ら進んで足を運ぶとは思わなかった。

 場合によっては、たった一人の家族を殺してしまうかもしれない。

 しかし、全ては桜の為だ。覚悟を決め、扉に手をかける。

 アルコールの臭いが鼻につく。部屋には酒瓶やら缶ビールやらが散乱していた。その中心では何かが踞(うずくま)っている。

 

「兄さん」

「……何の用だよ、雁夜」

 

 間桐家現当主、間桐鶴野。

 雁夜の実兄でもあるが、鶴野の視線はとても肉親に向けるものではない。

 鶴野は雁夜を恨んでいる。本来、魔術回路が優れていた雁夜が当主に据えられる筈だったのだ。しかし、魔術の道を拒んだ雁夜の出奔により、仕方なく間桐の当主に据えられたのだ。

 間桐の闇から上手く逃れた雁夜と、その闇を押し付けられた鶴野。思えば、その確執は当然だろう。

 

「臓硯が死んだ」

「……………………は? ど、どういう事だ!!」

「俺のバーサーカーが喰らったからだ。だから、桜ちゃんを苦しめる奴はもういない」

 

 臓硯が死んだ。

 重圧から解き放たれた安堵感からか、鶴野の顔が綻ぶ。しかし、雁夜の冷徹な目を見たとたん、その表情が氷のように固まった。

 

「兄さん以外はな」

「!!??」

 

 桜を蟲責めにしていたのは他でもない、鶴野だ。罪悪感が無い訳ではない。しかし、臓硯に逆らうだけの勇気はなかった。

 どちらにせよ、桜を苦しめた結果は同じだ。

 万が一逆らうようならば、サーヴァントで抹殺されるだろう。雁夜より魔術の鍛練を積んでるとはいえ、サーヴァントがいるとなると勝ち目はゼロだ。

 ―――こいつは微塵の躊躇もなく俺を殺せる。

 血の気が引き、目に見えるほど肌が青白くなる。対照的に、雁夜の表情は一切変わらない。

 

「このまま大人しく屋敷に引っ込んでるなら、俺からの干渉はしない。ただ、桜ちゃんを狙うようならその時は……」

「や、やめろ!! 俺は何もしないし、そんなつもりもない!!! だから、俺のことは放っといてくれ!!!」

「………そうか」

 

 一言呟き、鶴野の部屋を後にする。

 

(さあ、後は遠坂時臣だけだ。葵さんも、桜ちゃんも、凛ちゃんも、あいつを殺したら幸せにできる)

 

 正直、聖杯はどうでもいい。臓硯が死んだ今、桜を苦しめる者はいないのだから。願うのは遠坂時臣の殺害だけだ。

 ―――これで、桜ちゃんも幸せに………

 雁夜の脳裏によぎったのは、バーサーカーの手作りお菓子を美味しそうに頬張る桜の姿だった。聖杯戦争の間だけでも一緒にいれば、バーサーカーの助けがあれば、少しでも心の傷を癒せるかもしれない。

 バーサーカーを実体化させる魔力については問題ない。バーサーカーのスキルの一つ、『スイーツイーター』で魔力の補充をできる。本当に嬉しい誤算だ。

 そうと決まれば話は早い。はやる気持ちを抑えながら、桜が待つキッチンへ足を進めた。

 

 

 

 この四日間、桜は一度だけ年相応の純粋な笑顔を見せたと追記しておく。

 

 

 

 

★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 コンテナに囲まれる中、雁夜は一人フードを被りながら佇んでいた。当然ながら、周りには彼以外の人影はない。

 深夜、冬木市のコンテナターミナルの一角。人払いの結界が成され、そこは既に魔術師の領域と化していた。いや、魔術師というよりは、遥か昔の英雄豪傑の領域かもしれない。

 セイバー、ランサー、ライダー、そしてアーチャー。初戦と言うにも関わらず、四騎ものサーヴァントが参戦していた。

 事態は混迷を極めていた。しかし、雁夜にとっては早速巡ってきたチャンスでもある。

 街中に放った使い魔の情報で足を運んだが、様子見だけで戦闘に介入する気は更々無かった。

 しかし、時臣のサーヴァント『アーチャー』が参戦するとなれば話は別だ。今も尚、全ての存在を見下ろすように、ポールの上で佇んでいる。

 

「あの傲慢な態度…… 時臣のサーヴァントなだけはある。待ってろ。今、そのすかした顔を歪めてやる」

 

 喩え自分のような三流マスターでも、バーサーカーなら全力で闘える。全てのサーヴァントを喰らい尽くすまで、彼は止まらないだろう。

 無意識の内、バーサーカーの宝具の異常性を感じ取っていた。宝具自体のランクはA+だが、今回の聖杯戦争では強力だと言い難い。雁夜には知る由も無いが、六騎のサーヴァントの内、実に四騎のサーヴァントが同等かそれ以上の宝具を有している。

 しかし、バーサーカーの宝具はそんな単純なものじゃない。四つの形態変化を持ち、バーサーカーの短所をモロに補う『喰らった物の魔力を自身に還元する』という機能も持っている。

 ステータスが低めなのも気になるが、他のサーヴァントに劣っているとは微塵も思わない。

 ―――そろそろ、頃合いか?

 狂犬を解き放つべく、キーワードをポツリと呟く。

 

「―――喰らえ……!!」

 

 黒い魔力の奔流。まさに今、狂犬が解き放たれた。サーヴァント、マスター、その場にいる全ての者の視線が一点に集まる。

 黒い魔力が中心で渦巻き、やがて人へと型どられる。そして、とうとう現れた。

 闇に溶け込みそうな漆黒のコートを羽織り、精悍とした顔立ちは歴戦の戦士を思わせる。しかし、その眼からは光が消えており、とても正気を保っているようには見えない。

 つまり……

 

「バーサーカー…… だよな」

 

 ライダーのマスターである少年、ウェイバーが疑問の声をあげる。

 肌に纏わりつく殺気は本物だ。間違いなくバーサーカーそのものだろう。

 しかし、ステータスを透視してみたが、能力値が異常に低い。ステータスの平均はランクCといった所だろう。理性を無くしてパラメーターのを底上げしている筈なのだが、それを考えてもこれは低い。

 バーサーカーのマスターはとんだ貧乏クジを引いたものだ。相当な魔力を喰うにも関わらず、このステータスではどうしようもないだろう。

 

「ふむ……」

 

 しかし、ライダーは興味深そうに見据えていた。何か思う所でもあるのだろうか?

 

「おい、どうしたんだよ?」

「分からんか、坊主? あの佇まい…… かなりの場数を踏んでおる。凶化して理性を失ってるというのに、一分の隙も感じられん。なかなかどうして見所がある奴よのぉ」

 

 感心したように呟くライダー。ウェイバーから見たら、ただ棒立ちしてるようにしか見えない。同じ英霊にしか分からないものなのだろう。

 しかし、ウェイバーとしては堪ったものではない。今回の聖杯戦争ではアーチャーのように出鱈目な火力を持ったサーヴァントがいるのだ。これ以上厄介な敵ができるなど冗談じゃない。

 ここは兎に角、バーサーカーの出方を見るのが最善だろう。目を凝らして、じっとバーサーカーの動きを伺ってたのだが……

 

「フン、余興にもならん」

 

 アーチャーの燃えるような紅い双眸がバーサーカーに向けられた。本当に興味が失せてしまったのか、冷徹な声色で言い放つ。聞く者が底冷えする程の声色だ。

 確かにこの場において、バーサーカーには荷が重いだろう。アサシンを虫のように屠るアーチャーの圧倒的火力の前では、戦闘経験など意をなさない。その事自体、アーチャー自身がよく分かっている。

 

「塵は塵らしく、此処から疾く消え失せよ」

 

 アーチャーの背後から剣と槍のような宝具の切っ先が現れる。一つ一つに並々ならぬ神秘が内包されている。

 ほぼ同時にそれらが放たれ、真っ直ぐにバーサーカーへと襲い掛かった。次の瞬間、辺りに爆風が吹き荒れる。

 バーサーカーは脱落したと確信した。いかなるサーヴァントと謂えど、アサシンのような末路を辿るのは目に見えて………

 

「………なんだ、あれは?」

「……余の見誤りか?」

 

 ライダー達が困惑の表情を浮かべる。その口振りは、まるで信じられない物を見たかのようだ。

 一体何を見たのか尋ねようとした時……

 

「―――!!??」

 

 ――喰われる。

 全ての生き物の根源に刻まれた恐怖が甦った。人間が永らく忘れていた感情だろう。体中から嫌な汗が流れる。

 隣に視線を移すと、ライダーも顔をしかめていた。この感覚は自分だけではないらしい。しかし、流石は英霊。怯んだ様子を見せるサーヴァントは一人もいない。

 深く息を吐き自分を落ち着かせる。隣に自分のサーヴァントが居なければ、立っていることすら儘ならないかもしれない。

 

(一体なんで…… そうか!)

 

 ウェイバーは一つの可能性に思い当たる。

 そう、宝具だ。仮にバーサーカーのマスターが勝つ気でいるのなら、この局面で現界などさせない。少なくとも自分はそうだ。

 しかし、バーサーカーのマスターはこの戦場に現界させた。つまり、バーサーカーがステータス差をひっくり返す宝具を所持しているという事だ。それこそ、アーチャーに対抗し得る強力な宝具を……

 バーサーカーは黒煙の中に確実にいる。相手の得体の知れなさに、思わず固唾を飲む。

 

(どれだけ強力な宝具なんだ!?)

 

 そして、黒煙を切って現れたのは……

 

「「「…………………………………………は?」」」

 

 身の丈はある板チョコを肩に担いだ、バーサーカーだった。

 遠くで羽ばたいている鳥の鳴き声がやけに響く。違う意味の静けさが湾岸区のターミナルコンテナを支配していた。

 誰も動かない。いや、動けない。全員の目が点になっている。宝具の得体が知れない以上、ある意味迂闊に動けなかった。

 しかし、奇しくも原因であるバーサーカーだけは狂気に染まった目でアーチャーを睨み付ける。彼だけが妙に殺気に溢れていた。

 その板チョコが否応なしにメルヘンな空気へと塗り替えるが。

 その空気に堪えきれなくなったのか、ウェイバーがプルプルと震えている。空に向かって、魂の限り声を大にして叫んだ。

 

「な ん で 板 チ ョ コ だ よ !!!!!!!」

「まあまあ、落ち着け」

 

 ライダーが『やれやれ……』といった感じで真っ赤になったウェイバーを宥める。バーサーカーには理性がないので何を言っても無駄だろう。現に、ウェイバーの方を見向きもしない。

 しかし、これで黙っているのは無理な話だ。喩え無駄だとしても言わなければいけない。少なくとも、セイバーとランサーはウンウンと頷いてくれた。英霊といえども思いは一つなのだろう。

 

「いやだって…… 食べ物が宝具ってどういうことだよ!!?? あれで戦場を駆け抜けたってことだよな!? そんなもんシュール過ぎるわ!! そもそもアーチャーの宝具をあれで防げるわけ……」

 

 

 

「ハーッハッハッハッハッハ!!!」

 

 

 

 ウェイバー渾身のツッコミは、アーチャーの高々とした笑い声に遮られた。心底楽しそうな唯の笑い声の筈なのに、背筋が凍るような感覚を覚える。

 理由は単純、アーチャーの顔が狩人のそれに変わっていたからだ。あたかも、珍しい獲物を見つけたかのように……

 

「面白い! 面白いぞ、狂犬!! その怪(もののけ)でどこまで足掻けるか、この我に見せてみろ!!」

 

 アーチャーが両手を広げる。それを合図に、背後から数多の宝具が出現した。どれも規格外の魔力と神秘を内包している、掛け値のない超一級の宝具だ。

―――サーヴァントの切り札と呼べる宝具があんなにも。

 誰もが驚愕の表情を浮かべる中、バーサーカーはその黒いで双眸でアーチャーだけを睨み付けていた。

 

「ガアアァァアア!!!」

 

 バーサーカーの雄叫びが口火を切り、いよいよ宝具が放たれた。ビリビリと空気を震動させ、バーサーカー目掛けて飛んでいく。それも一つや二つじゃない。先程とは比べ物にならない圧倒的物量だ。

 それでも、ウェイバーは食い入るようにバーサーカーを見詰めていた。結構ボロクソ言ってたが、バーサーカーがこのまま倒されるとは思えない。一体、この状況をお菓子宝具でどう切り抜けるのだろうか?

 

(さあ、どうするんだ!?)

 

 一方、バーサーカーは慣れた手つきで宝具を弄っていた。次の瞬間、機械的な音が響いたかと思うとその手には―――板チョコではなく、巨大なケーキが握られていた。

 

「「「………………………………は?」」」

 

 耳をつんざく轟音が鳴り響く。

 しかし、アーチャーの宝具が引き起こした爆発音ではない。バーサーカーの宝具であるケーキからだ。

 ケーキから武骨な銃弾が放たれたのが原因だった。要は銃声音だ。

 アーチャーの宝具を遮るように、無数の銃弾が織り成す弾幕が形成される。その弾幕を掻い潜る事は叶わず、アーチャーの宝具は全て空中で爆発した。

 ケーキの先端に銃口のような物が覗いていた。しかも、硝煙が上がっている始末。ケーキから現代兵器の銃弾が放たれてると、認めざるを得なかった。

 

「いいぞ、狂犬! 足掻け足掻け!! この我を興じさせてみせよ!!」

「ガッハッハ!! 中々に面白い奴よのお! うーん、余の軍門に下らせたくなってきたぞ!!」

「「「…………………………………………」」」

 

 アーチャーとライダーは心底楽しそうだが、その他との温度差が半端なかった。正直、何が起きているのか理解できない。なんというかもう、開いた口が塞がらなかった。

 

(なんでケーキから銃弾が? 近代兵器っつーかお菓子だよな? ていうか、お菓子の必要性はあるのか?)

 

 頭の中で無数の疑問が次々と浮かび、消えることなく永遠にとどまり続ける。

 もう面倒になり、ウェイバーはバーサーカーの宝具について考えるのを止めた。

 

『ズドォン!!!』

 

 思考の放棄は許さないと言わんばかりに、鼓膜を震わせる一発の銃声が鳴り響いた。

 圧倒的な魔力を帯びた弾丸が虚空を切る。寸分の狂いもなく、アーチャーがいた(・・)ポールに着弾した。次の瞬間、ロケットランチャーがぶちこまれたかの如くポールが黒焦げ、あらぬ方向に折れ曲がった。

 そのポールを背に、アーチャーはカチャリと金色の鎧を鳴らしながら地面に着地した。

 

「天に仰ぎ見るべきこの我を同じ大地に立たせるか。余興としては愉しめたが、些か戯れが過ぎるのではないか?」

 

 普段の彼なら烈火の如く怒りを顕にするだろう。しかし、その表情は怒りというよりも、寧ろ嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 アーチャーの背後の空間がユラユラと揺れる。気がつけば、先程よりも倍近い宝具がバーサーカーに切っ先を向けていた。一斉射撃の前触れか、カタカタと宝具が振動する。

 誰もが大きく目を見開く中、バーサーカーだけは獰猛な視線を向けていた。

 いよいよ宝具が放たれる――― その瞬間。

 

「貴様ごときの諫言で、王たる我の余興を邪魔立てすると? 大きく出たな、時臣」

 

 心底忌々しそうに呟く。

 言葉の内容から察するに、宝具の露呈を恐れたアーチャーのマスターが令呪を使用したのだう。

 通常、サーヴァントのマスターには三画の令呪が分配される。一つ一つにはどんなサーヴァントでも絶対服従の命令を行使できる機能が備わっており、今のようにアーチャーを撤退させることもできる。

 

「クク…… 次に見える時も、我の興を飽きさせるなよ」

 

 宝具の開放を止め、バーサーカーを一瞥する。そのまま、音も無く霊体化してこの場を去ってしまった。

 

「フム。どうやらアレのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅な質ではなかったようだな」

「そんな事いってる場合か! どうすんだよ、あのバーサーカー!!」

「余としては、あの豪傑に勧誘を試みたいのだが……」

「いや、狂化してるから諦めろって!?」

 

 頭を抱えるウェイバー。

 セイバーとランサーの一騎討ちに乱入にた所か、あまつさえ真名を暴露した己のサーヴァント『イスカンダル』が原因だ。

 しかも、真名を暴露したのは「物は試しと言うではないか」という理由である。文句を垂れたが最後、ウェイバーの額に凸ピンが打ち込まれた。今でも地味にヒリヒリしている。

 兎も角、ライダーはハチャメチャな男なのだ。セイバーとランサーに手酷く拒否されたにも関わらず、まだ他のサーヴァントを軍門に下らせようとしている。

 

「ア"ァア"ア"ア"ァア"!!!」

 

 機械的な音が響き、ケーキ形態から板チョコ形態に変型する。

 ライダーに一目おかれていようが、餓えているバーサーカーには知ったこっちゃない。更なる獲物を求めて戦い続けるだけだ。

 大地を蹴りアスファルトが砕ける。板チョコを構えながら、狙いを定めたサーヴァントに肉薄する。

 

「セイバー、ライダー…… この戦い、手出しは無用だぞ!!」

 

 バーサーカーが狙いを定めたサーヴァントは、深紅の長槍と黄金の短槍を構えたランサーだった。

 深紅の長槍と茶色の板チョコが交わる。何故か金属と金属がぶつかり合う音が響いたが、誰一人として気にする者はいなかった。

 




いかがでしょうか? シリアスだと思ってくれたら幸いです。
ついでに、ランサーが襲われた理由は
『近くにいたから』。
この一言です。

感想、御待ちしております。
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